「架空(イマジナリー)」と彼女が笑った。「もっといい言い方があるんじゃないの?」 "Imaginary," she laughed, "not the best to way to put it!"(『逆光』下巻21頁) * * * さて、『逆光』のドイツ語圏の書評を読んでいたらいくつかおもしろいものがあったので、気ままに紹介してみることにする。 『逆光』のドイツ語訳は2008年5月出版だが、この書評はその5ヵ月後にliteraturkritik.deというオンライン書評サイトに掲載されたもの。原文はこちら。『逆光』のテクストの特殊性を論じたもので、他の書評ではこの点に触れているものがなかったので、なるほどと思わされた。 ポイントは、タイトルが示すように、『逆光』のテクストの構造は数学でいう”複素数”になぞらえうる、ということ。かつて大数学者ガウスが「すべての方程式はa+biという形の解を