牧野/福谷編『現代カント研究2 批判的形而上学とはなにか』、晃洋書房、1997、228-272頁. カントにおいて「嘘」が問題になるのは、1797年に書かれた『人間愛から嘘をつく権利 と呼ばれるものについて』(Ueber ein vermeintes Recht aus Menschenliebe zu luegen 以下、嘘論文と略記) において、彼が出したある結論のためである。すなわちそこで彼は、自分の家に隠れている友人を人殺しから助けるためにつく嘘さえ、認められないとしている からである。この一見するとあまりにも不合理な結論は、しばしばカント倫理学の無力さを示すものと考えられてきたが、著者はこの結論を、カントの実 質的(すなわち、行為にかかわる)倫理学の枠組みに配慮しながら解釈していく。 最初に検討されるのは、以下におけるような『人倫の形而上学の基礎づけ』における義務の区分と嘘の関係