視界がまだぼやけている。眼前に作業台があり、何者かが薬を煎じているところだった。彼の着る黒いコートが私に安らぎを与えてくれる。 黒はあらゆる恐怖から私を守ってくれる。 「起きたか。気分はどうだ?」 「生き返るような気分だ。フッ……フッ……」 視界がはっきりしてきた。作業台の綺麗な手見つつ、華奢な腕をたどっていくと、やがてドクターレウカドの得意気な顔が視界に入った。 「ところで、明日は何の日か知っているか?」 「ひな祭り、か?」 「そうだ。ひな祭りだ」 「ああ。それがどうした?」 私は眠い目を擦ろうとしたが、ペストマスクに阻まれた。 その様子を見て、一瞬ドクターレウカドがニヤけた気がする。 「カルマポリスから西に125キロの地点にあるエルドランという国を知っているか?前もって送った手紙を読んでいるなら知っていると思うが……」 「『豊穣の国エルドラン』。表では観光に力をいれ種族平等をモットーと