中学生のとき、店などで目にした店員さんの名札を全て記録するという趣味を持っていた。 たまに母に連れられて乗るタクシーの運転手さんの名前、レジを打ってくれるお姉さんの名前、今回のお掃除はわたくしが担当致しましたカードの名前、全てをガラケーのメモ機能に打ち込み続け、スクロールバーは赤ちゃんの小指の爪より短くなった。 達成感を覚えることなく、わたしは淡々と名前を打ち込み続ける。 ある日、00年代の窮屈な容量では収まりきらないほどのコレクションを見た友人は「キモい」と一言つぶやき、わたしは遺伝子配列のように無数に続く見知らぬ名前の連なりをひっそりと削除した。 友人はわたしを監視人のように思ったのかもしれない。 確かにいま思えば狂気の沙汰である。 だが、10年の時を経てわたしはわたしを弁護したい。 わたしはあらゆるものを保存したかったのだ。 * 時間が流れていく、それに伴って何か価値あるものが消えて