別れてから、彼女のことを忘れたつもりでいた。 少なくとも、頭では「もう過去のことだ」と割り切っていたし、毎日の生活に追われていると彼女のことを思い出す余裕もなかった。 けれど、ふとした瞬間に、あの笑顔や声が心の中に浮かび上がってくるのをどうしようもなく感じることがあった。 ある日、部屋の片隅で見つけたのは、彼女がうちに泊まりに来ていたときに忘れていったシャツだった。 薄いブルーのシャツは、彼女が気に入っていたもので、何度も見た覚えがある。 付き合っていたころは、彼女がこのシャツを着て、俺に向かって笑っていた姿が脳裏に焼き付いている。 「捨てるべきか…」と一瞬考えたものの、そのシャツに手を伸ばした瞬間、なぜかどうしても捨てられなかった。 むしろ、それを抱きしめてしまう自分がいた。 そして、気がつくと、そのシャツを手に取ってじっと見つめ、ふとした好奇心から袖に腕を通していた。 「…こんなこと、