→紀伊國屋書店で購入(BOOK 1) →紀伊國屋書店で購入(BOOK 2) 「やっぱりストーンズのおかげ」 絶品の出だしである。渋滞した首都高のタクシーの車内。ラジオからはクラシックの曲が聞こえてくる。誰もが知っているようなポピュラーな曲ではない。でも、シートに身を沈めた女性主人公には、それがヤナーチェクの『シンフォニエッタ』だとわかる。 もちろん、これだけなら、単にキザで鼻につく設定だ。ビートルズの曲が鳴ったり、風の歌が吹いたり、何となくうら悲しくて、孤独で、音楽オタク的で、ハードボイルドで、でも、主人公は頑張ってるぞ、格好いいぞ、みたいな村上春樹の世界はこれまでにも見られたし、とりたてて賞賛するには及ばない。 絶品なのは、〈静けさ〉の作り方のことである。主人公の乗ったタクシーはトヨタのクラウン・ロイヤルサルーン。高級車である。シートの座り心地もいいし、何より遮音性が高い。しかも道路は渋