サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
大谷翔平
maplecat-eve.hatenablog.com
『The Neon Demon』 『ネオン・デーモン』を撮るにあたって、カメラマンのナターシャ・ブライエ(あの美しいホセ・ルイス・ゲリン『シルビアのいる街で』を手がけた名カメラマンだ)はジェームズ・タレルの光を参考にしたという。『ネオン・デーモン』における光の図形は、ジェームズ・タレルを経由して、その変形する図形=美の形をオプ・アートの「めまい」の作用にまで源泉を辿る。デザイナーのロベルトによって「唯一の美」と定義された少女ジェシー(エル・ファニング)は、意識/無意識のギリギリの狭間でコントロールされていた己の美を、未知の体験によってコントロールの効かない領域にまで「変形」させてしまう。オプ・アートにおける「めまい」のようにジェシーの体に入り込んでくる様々な光の模様。モデルたちの顔が明滅するあの美しくも不気味なパーティーシーンにおいて、鏡の国に迷い込んだアリスのようなジェシーの体に、閃光の
オールスターキャストによるトム・フォードの新作『ノクターナル・アニマルズ』は、恐怖を美の次元に引き上げた上で宙吊りにするノワール映画の傑作だ。『シングルマン』のコリン・ファースがトレードマークであるメガネをかけている間、どこかフェリーニ映画のマルチェロ・マストロヤンニの幻影を身に纏っていたように、また、大きな壁一面の『サイコ』の広告が恐怖の空を召喚していたように、おそらく相当な映画好きであることは疑いようのないトム・フォード(ヒッチコックへの偏愛を公言している)は、『シングルマン』がそうであったように、ヒッチコックが美の次元まで高めた恐怖のコントロールを、現代の、そして彼自身の恐怖の問題へと置き換えている。 『A Single Man』(2009) 『Nocturnal Animals』(2016) 『ノクターナル・アニマルズ』(夜行性動物)が、まず何より素晴らしいのは、そのフェティッシュ
新年あけましておめでとうございます。さて、2016年ベスト。2016年は20本選ぶの楽勝だなと余裕こいていたら、むしろ削るのに苦労しました。ここ数年で一番映画を見れなかった一年でしたが、それでもとても充実したラインナップだったと思います。初めて正確には映画作品としては撮られていない作品をリストに入れました。しかしこれが映画でないなら、いままで自分が体験してきたものは映画ではなかった、と言えるような作品です。2016年は、個人的にはプライベートで酷い年にしてしまって、早く終わんないかなーくらいに思っていた一年だったのですが(笑)、それはそれ。2017年は失った分を取り戻すところから始めようと思います。という決意も新たにさせてくれる、以下、刺激的な映画たち。 1.『ノクトラマ/夜行少年たち』(ベルトラン・ボネロ) Nocturama/Bertrand Bonello 2.『クリーピー』(黒沢清
2016年はこの一枚こそ今年を代表する一枚!といえる圧倒的な一枚があったというより、全体的にどれも恐ろしく刺激的でハイレベルなポップミュージックに溢れていたと思う。いろんな方が言っていますが、いまポップミュージックはめちゃくちゃ面白いです。しかもその面白さは年々いろんなところに拡大・波及していると思う。特にブラックミュージック!年間ベスト級の作品ばかりでした。1位は誰も選ばなそうだけど、個人の体験としてとても大事にしていた音楽なのでこの一択でした。この記事を書く準備の時間がまったく足りてないのだけど、来年に持ち越すとテンション落ちて絶対書かなくなると思うので(笑)、記録として残しておきます。 以下、私の50枚。 1.Oh Wonder『Oh Wonder』 Oh Wonder アーティスト: Oh Wonder出版社/メーカー: Republic発売日: 2015/09/04メディア: C
新年あけましておめでとうございます。さて、毎年恒例年間ベストシネマ。2015年は個人的に素敵な出会いと悲しい別れのあった年でした。人生というものは良くも悪くもホントに上手く出来ているのだなあ、と身を持って感じた一年でした。女性ファッション誌の『Soup.』さんから原稿の依頼があったのは嬉しかったですね。というのも、個人的にはとても新鮮で、すごく勉強になったし、面白かったからです。自分が成長できる人に出会えたり、成長できる仕事に出会えたら、それは本当に幸せなことだ。 前置きが長くなりましたが、2015年はそれこそ出会いと別れの「さよならを身に纏う」素晴らしい作品の宝庫でした。中でもフランス映画の健闘が光ったね。ミア・ハンセン=ラブ、メラニー・ロラン、アルノー・デプレシャンの新作の女性たちは、とりわけ瞳に焼き付いている。以下、心の20本。 1.『EDEN エデン』(ミア・ハンセン=ラブ) Ed
1.Kendrick Lamar『To Pimp a Butterfly』 To Pimp a Butterfly アーティスト: Kendrick Lamar出版社/メーカー: Aftermath発売日: 2015/03/24メディア: CDこの商品を含むブログ (10件) を見る2015年の一番星は何といってもこのアルバム。ブラックミュージックの歴史を27歳の若者が全て背負った上で、リプレゼンしてしまった。10年に1枚クラスの金字塔。 2.Blur『The Magic Whip』 The Magic Whip アーティスト: Blur出版社/メーカー: Parlophone (Wea)発売日: 2015/04/28メディア: CDこの商品を含むブログ (5件) を見る2015年のブラーとして提示できることを、大人になった才能で料理してみせた感動の大傑作。「New World Tower
『グッバイ・ファーストラブ』のラストで文字通り"少女3部作"に「さよなら」を告げたミア・ハンセン=ラヴの新作『エデン』は、「フレンチタッチの栄枯盛衰」という、より大きな物語を題材にしながら、その語り口をよりパーソナルに紡ぐことに成功した傑作だ。『エデン』は、単に映画作家がクラブカルチャーを題材にしてみせたという映画ではない。ミア・ハンセン=ラヴの視点は常にフロアで起こることへ向けられている。無名時代のダフト・パンクの2人が「ダ・ファンク」を流したときの、彗星のごとく現れた新しい才能への驚き、鮮やかなモードチェンジの瞬間(悔しいけどクソかっこいい」という台詞)への熱狂に胸が熱くなる。『エデン』において、カメラはフロアの熱狂と共にある。憂鬱を幸福に変える音楽の強烈なリズム。憂鬱と幸福を高速で行き来してしまう感情の多彩なグラデーション。まず何より、クラブやライブハウスでフロアに向かうときの、あの
年が明けてからこの記事を読むという方には、新年明けましておめでとうございます。一年の終わりの日にこの記事を開いたという方には、よい新年が迎えられますようにと、一年の始まりと終わりのご挨拶。恒例の年間ベストシネマ。私的なことですが、今年は年の初めから、イースト・プレス様から塩田明彦氏の『映画術』の献本とブログでのレビューをさせていただいたり、自主制作映画『沈黙の世界で猫が泣く』をLOAD SHOWさんでオンライン発表させていただいたり、『ユリイカ』のウェス・アンダーソン特集に論考を寄稿させていただいたり、吉祥寺バウスシアター再生計画HPに文章を書かせていただいたり、ありがたいことがいくつもあった年でした。何らかの形でそれらに触れて頂いた方、言葉を頂けた方全員に改めて感謝させてください。バック・トゥ・ブログ!は毎年初めに思うことですが、なかなか出来ませんね。とはいえ、いつでもここがホームです。
1.Warpaint『Warpaint』 Warpaint アーティスト: Warpaint出版社/メーカー: Hostess Entertainment発売日: 2014/01/28メディア: CDこの商品を含むブログ (5件) を見るベスト・オブ・ベストは迷うことなくウォーペイントの新譜。待ちに待っていた今一番好きなバンド。1曲目のイントロが鳴った瞬間、凍りつくような緊張が走り、"リムショットの魔術"(ローレン・メイベリーの素晴らしい批評より)は鋭利な洗練を極めていく。ウォーペイントの音楽と同時代に生きる幸せ。彼女たちの奏でる音楽をぶっちぎりに愛してます! 2.Life Without Buildings『Any other city』 Any Other City アーティスト: Life Without Buildings出版社/メーカー: D.C. Baltimore発売日: 2
ベル&セバスチャンのスチュワート・マードック初監督作品『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』は、ポップミュージックが一人の女の子の人生を救えるかどうか、という賭け、強い動機に支えられた映画だ。しかし、『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』を真に特別な映画にしているのは、ポップミュージックと一人の女の子の関係を、エミリー・ブラウニングという魅力的な女の子の内側から能動的に描いているところにある。ここにあるのはポップミュージックが何かをしてくれるという単純な救済の物語ではない。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』では、エミリー・ブラウニングの内側から溢れ出る言葉や歌声、運動が、結果として偉大なポップミュージックを形作っていく。スチュワート・マードックが描くのは、ポップミュージックが出来上がっていくプロセスなのだ。ポップミュージックが出来上がるまで、偉大なポップレコードが出来上がるまでの、いわば永遠のエピローグがエミ
「ユリイカ」6月号”ウェス・アンダーソン特集”に「ディス・イズ・アワー・ランド!」と題した論考を掲載させていただきました(計8ページ)。『ムーンライズ・キングダム』のサム少年の叫びからウェス・アンダーソンの「マスタープラン」を紐解いていく作業を試みてみました。ウェス・アンダーソンに関する纏まったものが出版されるのは日本で初めてのことだと思います。近い未来に洋書「ザ・ウェス・アンダーソン・コレクション」が邦訳されるといいんだけどね。あれは決定的な書物です(家宝、家宝)。 追記*ユリイカの文章で触れたMTVムービーアワードのためにウェス・アンダーソンが作ったCM「ザ・マックス・フィッシャー・プレイヤーズ・プレゼンツ」(1999年)は以下の作品です。 『グランド・ブダペスト・ホテル』は一寸の迷いなくウェス・アンダーソンの最高傑作と断言できる作品です。ずっと胸が張り裂けそうな思いでスクリーンを見つ
ミア・ワシコウスカの初監督作品、短編『ロング、クリア・ヴュー』がすごくいい!ティム・バートン、ガス・ヴァン・サント、ジム・ジャームッシュの撮影の方法を直に経験してきた”若いながらも歴史あり”なミア・ワシコウスカが、とても見晴らしのいいクリアな視点で撮りあげた珠玉の短編だ。脚本の構成、及び、撮影の構成を、主題以外のことには目もくれずに周到に突き詰め、且つ、主題と戯れる「若さ」にさえ成功している。視点を少しズラすだけで物の見え方はまるで変わるよ、といういたってシンプルな発想の元、実験映画で試行するような枠組みを何の気取りもなく成し遂げている。よく考えられた末に至ったシンプルさというべきか、映画自体は物凄く真っ直ぐなんだ。ファーストショットとラストショットのややアクロバティックな撮影による少年の反射。この反射をこちら側に差異として認識させるために脚本と撮影の構成が組まれている。たとえば自分の手を
LOAD SHOWで拙作『沈黙の世界で猫が泣く』を配信公開させていただきました。入選は叶わなかったのですが、まあ、自分の作品というのは駄目な子でもかわいいものです(笑)。かなりの時間が経ってるから、そう言えるのかもしれません。編集しながら、う〜んう〜んって何度も繰り返してきたし、駄目なところとか自分が一番よく知ってるから(笑)。この度は上映の機会を与えていただきありがとうございました。何年か前にneoneo座で1回しか上映してないしね。恥ずかしくて、見てください、とは言えないんだけど、嬉しいです。とっても。 LOAD SHOW公式サイト → http://loadshow.jp/ これ撮影自体は10年前にしていたんです。あのときの自分の経験値とか、あれからの経験値(映画体験のみならず人生においてのね)、あの頃大好きだったもの、あれから大好きになったもの・・・。個人的にいろいろ感慨に耽ってし
映画作家への白紙委任状シリーズ。今回はビクトル・エリセのセレクションを紹介します。『ミツバチのささやき』30周年記念(2003年)の写真を見て、過ぎ去った年月に胸が熱くなりました。アナやイザベルが過ごしてきた年月。年を重ねることって素敵だなと思える写真だった。久し振りに見直したい。さて、ビクトル・エリセが選んだ以下のリストは、かなり攻めのセレクションです。とても面白い。 【パリ、2007年】 ・『糧なき土地』(ルイス・ブニュエル/1933) ・『ブラック・ハウス』(フォルーグ・ファッロフザード/1962) ・『秩序』(ジャン=ダニエル・ポレ/1973) ・『希望 テルエルの山々』(アンドレ・マルロー/1939) ・『アナタハン』(ジョセフ・フォン・スタンバーグ/1953) ・『乳房よ永遠なれ』(田中絹代/1955) ・『春の劇』(マノエル・ド・オリヴェイラ/1963) ・『大きな鳥と小さな
映画作家への白紙委任状はちょくちょく纏めていきたいと思います。なにより検索しなくて済む!という手っ取り早い自分用のメモになりますからね。今回はレオス・カラックスと盟友クレール・ドゥニのセレクションを紹介します。 【レオス・カラックスへの白紙委任状】 【2004年、パリ】 ・『群衆』(キング・ヴィダー/1928) ・『父帰らず』(ジャン・グレミヨン/1930) ・『苦闘』(D・W・グリフィス/1931) ・『生活の設計』(エルンスト・ルビッチ/1933) ・『今日限りの命』(ハワード・ホークス/1933) ・『青い青い海』(ボリス・バルネット/1935) ・『暗黒街の弾痕』(フリッツ・ラング/1937) ・『浮雲』(成瀬巳喜男/1955) ・『紙の花』(グル・ダッド/1959) ・『ゲアトルード』(カール・テオドア・ドライヤー/1964) ・『アメリカの兵士』(ライナー・ヴェルナー・ファスビ
海外各誌のベスト10リストはどうしても似通ってしまってるリストなので少なめに。ここでは映画作家が選んだ2013年の映画ベストリストを纏めてみようかと思います。ペドロ・アルモドバルとかこういうリストを発表するのも珍しく、また、纏めたくなるだけの興味深い映画作家(個人的にはリサンドロ・アロンソ!)がリストを発表していたので。メディアではなく個人のリストで眺めていくとなかなか多様性が出てくるもんだなと思った。まあ、リストだけってのは常に味気ないものだと思ってるけどね。ただこの中の作品で、たぶん2年後とか5年後に初めて知る作品もあるんじゃないかと。そういうことが起こればまた楽しい。 【クエンティン・タランティーノ】 1.『Big Bad Wolves』(Aharon Keshales, Navot Papushado) (以下は2013年の途中経過として選んだ10本) 1.『Afternoon D
年が明けてからこの記事を読むという方には、新年明けましておめでとうございます。一年の終わりの日にこの記事を開いたという方には、よい新年が迎えられますようにと、一年の始まりと終わりのご挨拶。さて、恒例の年間ベスト。例年20本に纏めるようにしていたのだけど、今年は25本。最後の5本を「その他」にすることができなかったというのが理由。個人的なことだけど、2013年は長く愛着を持っていた仕事が不安定になってしまい、最終的に仕事を辞めざるを得ない状況になり、間違いなくこのブログを始めてから一番映画館に足を運べなかった年だった。そんな状況の中で優れた映画に触れたときただ思うのは、一本の作品はそれ単体では決して人生にはならない、という当たり前のことだった。映画はスクリーンに映し出される知らない誰かの時間と共に生きる装置でもある。いかにその時間を共に生きることができたか。だから一年の終わりにこうやって振り
1.Janelle Monae 『The Electric Lady』 Janelle Monae - The Electric Lady アーティスト: Janelle Monaeメディア: CDこの商品を含むブログ (2件) を見る今年の一枚を選ぶとしたらこのアルバムだった。聴き込めば聴き込むほど味わいが増していくアルバム。ロン・ハワードの撮ったJay-Zのドキュメンタリー映画にもジャネール・モネイは出てくるんだけど、パフォーマンスが完全に別次元だった!ステップを踏むその足さえキラキラと星屑が舞ってしまうようなパフォーマンス。心底震えたね。エレクトリック・レイディ、恐るべし!個人的には彼女と同じ感覚を持っているアーティストはアウトキャストのアンドレだと思う。ポリー・マグーなジャケットも素晴らしい! 2.Speedy Ortiz 『Major Arcana』Major Arcana アー
100年前に壊れたはずのオルゴールが突如メロディーを奏で始めたかのような、恐怖と驚きと、何より望みが託された映画。レオス・カラックスの待望の新作は、彼の作品がいつもそうであったように、再度、映画と対峙する「動機」を冒頭の画面に示す。リュミエール兄弟以前にエティエンヌ=ジュール・マレーによって発明された写真銃で撮影された、少年のダイナミックな運動。ここで人間の身体、運動というカラックスのキャリアを貫くテーマと同じくらい重要なのは、この100年以上前に記録された少年の運動が「行って、戻る=中断される」運動であったことであり、ここには『汚れた血』におけるドニ・ラヴァンの、多幸感の絶頂から同じく中断されてしまった、あの疾走を重ね合わせることの意義、以上のものがある。なぜならこれは、この100年以上前に撮られた少年の映像を、まだ20代半ばのカラックスがまったく意図せずに、あのとき繰り返していた、とい
ウェス・アンダーソンの新作は、何かを正そうとしたり、何かを変えようと主張する作品ではなく、登場人物のパーソナルな歴史が抱えてしまった悲しみを、それぞれが受け入れること、尊重すること、さらに調和させることへ向けて、映画設計の美学的な重きが置かれている。この世界における悲しみとは、そのまま「人生」という言葉と置き換えられるが、ウェス・アンダーソンの壮大なヴィジョンは、「人生」という言葉に内包される「国境」という言葉さえ見据えているようだ。『ムーンライズ・キングダム』において、頻繁に地図と行く先が示され、さらにアクションの美学的な側面において、戦争映画のユーモラスな書き換え(具体的には行進。テントという小道具。の絶妙すぎるズラし方)が行われているのは偶然ではないだろう。旅を続けることによって新たな地図を書き加えていくこと。地図にない地図を誰かと新たに作り出していくことこそが、”ぼくらが旅に出る理
『ホーリー・モーターズ』先行上映+レオス・カラックス登壇@ユーロスペースに行ってきました。朝7時半から並んだのもよい思い出です。大変なことになりましたが、テンションあがったね。『ポンヌフの恋人』のときは二晩前から並ぶ人がいた、というエピソードを聞いて敵わんわー、と思った次第。 さて、この日のレオス・カラックス×岡田利規×佐々木敦の対談は、ツイッターでも問題に感じた点を表明してしまったように、まったくうまくいきませんでした。あらかじめ断っておきますが、この記事自体は、うまくいかなかった対談を曝してやりたいといった悪意は微細もありません。また、1時間に渡った対談の完全版などそもそも書けるわけがないので、カラックスの言葉を中心に拾うことにしたことを了承した上で読んでいただけると助かります。なのでこれを読んでもあの場の空気は分からないはずです。間違っても佐々木氏や岡田氏の話に耳を傾けていなかったわ
この対談はキアロスタミがユペールとの出会いを語るところから始まります。キアロスタミはイランの若い映画作家2人を連れてカンヌで『レースを編む女』(クロード・ゴレッタ)を見たんだとか。映画を見た後、何も話せなくなったそうです。「イザベルの顔が深く胸に刻まれ、頭から離れなかった」と語っています。数年後モスクワの映画祭でユペールを見かけたキアロスタミはペルシャ語で挨拶をします。このときはユペールが状況を理解できず、二人は擦れ違うことになります。さらに数年後ユペールの出演作のポスターの前を通りかかったキアロスタミは、そこでやっと『レースを編む女』の女優の名前を覚えます。さらに数年後、リュミエール兄弟についての短編(オムニバス『リュミエールと仲間たち』)を撮ったキアロスタミはユペールにオフの声の担当をしてくれないかと話を持ちかけます。ユペールは自宅のベッドで寝転びながら電話でキアロスタミと録音したこの
年が明けてからこの記事を読む方に、新年明けましてオメデトウゴザイマス。まだ大晦日だよ、という方には、よい新年が迎えられますように。と一年の終わりと始まりのご挨拶。さて恒例の年間ベスト。2012年は新作公開作品と特集上映が質・量共に、近年になく充実していた年で、この眩暈のするような贅沢なスピードに、本当に残念なことなのだけど、ついていくことができなかった。だって本当に凄かったよ。めくるめく一年だったね。特集上映どころか一般公開作でさえ、間に合わなかった作品は数知れない。それでもここに20本のリストを書くのは容易にすぎる作業だった。個人的に2012年という年は、主張することと、それが伝わることはまったくの別物なのでないだろうか、ということを考える機会の多い一年だった。伝わるということは、思考の余白を生むということ、つまるところ、関係性によってのみ結ばれる能動的な感情の話だから。能動的な感情とは
東京国際映画祭にてハーモニー・コリンの新作。水着ギャルたちが狭い廊下で謎の集団逆立ちを披露する、ジャック・リヴェットがヘタレになったかのようなシーンから、いや、もっと以前に、ギャルが手で銃の真似事をしながら独特の擬音を発するシーンから、この作品は面白い。ひたすらに面白い。『ガンモ』から『トラッシュ・ハンパーズ』に至る、ハーモニー・コリンにしか作れない/作らない、いつもの下世話なハーモニー・コリン印満載の作品でありながら、また、水着ギャルたちの強盗のシーンを車窓からW窓枠越しに走りながら撮る、という刺激的すぎる映画の意匠をところどころに展開させながら、しかし『スプリング・ブレイカーズ』には、ハーモニー・コリンの用意したトラックの上でフリースタイルをかますようなスリルに満ちた役者たちの運動がいつにも増して開放的に刻まれている。総銀歯のジェームズ・フランコ(あんなイケメンなのに・笑)が、”『スカ
「嵐が来る」「(世界の)秩序を取り戻す」と、まるで黒沢清の映画のような台詞さえ連発される『ダークナイト ライジング』の、”ボーン・イン・ヘル”の引力を悲劇的に昇華させた、漆黒の鉄の重み(ファーストカット以前に導かれる、このメタリックな重みの快楽!)に、ずしん、とやられてしまった。前作で文字通り夜の闇に消えたバットマン=ブルース・ウェインは、執事アルフレッドがウェインを心配する台詞のように、「街が再び荒れるのを待っているかのよう」であり、それは悪役ベインが自身を「(世界の)必要悪だ」と言い放つ台詞ときっちり符合するだろう。また、冒頭のアクションシーンにおいてベインの放つ台詞、「誰か?は重要ではない。重用なのは計画だ」の通り、『ダークナイト ライジング』で繰り返し問われるのは「ゴッサム(世界)の清算」というマスタープランのことであり、この点において、これまでのノーランの映画に特有だった人物造形
新鋭ジェフ・ニコルズの『テイク・シェルター』は、不安神経症的な対象を極めて冷徹に捉えるカメラの、その距離と手法によって、それぞれ手法が違うながらも2011年に偶発的に発表された『アナザー・プラネット』(マイク・ケイヒル)や『メランコリア』(ラース・フォン・トリアー)といった「世界の終わり」を描いた新作と、決定的な違いを生み出している。前作『ショットガン・ストーリーズ』において、それ自体が過剰な暴力に思えるほど広大なアメリカの土地を背景に、しかし最後まで銃の音を響かせなかった(あんなにいい音がしそうなロケ地なのに!)ジェフ・ニコルズの野心、というより、肝の据わり方、は相当なものだ。ギミックは展開されど、基調となるカメラの居直り方に注目したい。このカメラにはごまかしがない。さて、個人的に面白いと思ったのは、『テイク・シェルター』では紙幣の交換が、フリーマーケットを初めとして、ちょうど3回ほど出
新年明けましてオメデトウゴザイマス。さて恒例の年間ベスト。今年はいろんな個人的な事情から例年より映画館と離れざるを得なかった年だった。ただ同時にこれまで以上に一本一本の作品の熱量と腰を据えて相対できた年でもあった。映画に関して、というより生活全般に関して、今年もっとも考えていたことの一つは、「動機」のことだった。『メカス=ゲリン 往復書簡』の中での印象的な言葉、「彼女の視線。この視線こそ我々が映画をつくる動機だ」(ホセ・ルイス・ゲリン)。『人生はビギナーズ』は思わずフライングで入れてしまったが、2011年のトップ5リストの内4作品には、あるショットに共通点がある。このショットが作品のつくられた「動機」と親密に結びついていることが、激しく胸を突いたのだ。『ラブ・アゲイン』に倣って言うならば、ソウルメイト・シネマたち。 1.『ソーシャル・ネットワーク』(デヴィッド・フィンチャー) 2.『トスカ
現在来日中のペドロ・コスタの特別授業ということで、昨年行われた第1回講義の感動を反芻しながら、いざ造形大へ。前回と違うのは一年前には知らなかった方を含む4人で造形大に向かえたこと。ささいなことだけど、いつの間にか自分を取り巻く関係性というものも、ちょっとずつ変わってきているのかな?ということを講義後に感じた。ペドロ・コスタが繰り返し言うように、すべては関係性の中にある。関係性の中ですべての思考や変化は生まれる。諏訪監督が講義の最後に残した言葉の言外/言内には、おそらく日本に住む誰もが避けられない記憶をさえ含んでいるだろう。私にとっても今年はいつもより大変な年だった。このタイミングで、いま一度、ペドロの言葉と向き合うこと、その言葉と関係性を築くことの喜びに感謝したい。個人的に今回の講義では思わず涙ぐんでしまうシーンもあった。では、講義レポ。一字一句まで正確な言葉の採録というわけではないと断っ
『猿の惑星:創世記』の不意打ち感がハンパないのは、ルパート・ワイアットが、サム・ライミやトニー・スコット以降の次世代の映画作家である、という新鮮なオドロキによるものだけでなく、この映画作家の題材に対するケリのつけ方にひどく感銘を受けたことに多くを拠っている。エンドクレジットは人間より猿が先にくる、という計らい以上に、ルパート・ワイアットはこの作品で猿にCG処理を駆使することに対する「人間様」の傲慢にきっちりとケリをつけている。しかもアクションは直線的に結末へ向かうのではなく、世界の塵を磁石のようにフィルムに寄せ集めながらグイグイと強度を増して破局と再生(つまり革命だ)に向かって進んでいく。そこにはこのシリーズに対するリスペクトもあるだろう。猿の擬人化と人の擬猿化。なるほど、CGの猿があたりを軽快に跳ねていくアクションは、確実に『スパイダーマン』以降のものだし(当初予定されていたトビー・マグ
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『maplecat-eve’s blog』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く