必ず目覚めることが人生の課題になっている。起きる、風呂に入る、換気扇の下に立つ、スーツに着替える、髪型を整える。前髪を、気にする。鏡に映る前髪は、これは演じているようでもある。カメラ、アクション、前髪は眼球の前で演じているようでもある。監督は覚めた目で見ている。 通勤の電車に乗る、スーツ姿の人々が椅子に座っている。時々大きなバックパックを股の間に置いた旅人が混ざっている。旅人の肌は浅黒く焼け、Tシャツはくたびれている。獣の柄の皮を纏った肉食獣が混ざっている。麝香のにおいをさせた肉食獣はより強い革で武装し、周囲を睥睨している。読書中のおばあちゃんが混ざっている。文庫本は陽に焼けていて手触りが良さそうに見える。学生が混ざっている。スマートフォンがぴかぴか光る。妖精が混ざっている。妖精はくすくす笑っており、軌道を擦る車輪の震動と妖精の笑い声だけが車内にひびいている。みんなどこかへ行こうとしている