もし、選挙が数学的な意味で完全なる秘密選挙――被選挙人が匿名でかつ、公示期間中は投票者が密室に隔離されるような選挙――ならば、ゲーム理論の活躍する余地はありません。しかし、実際の選挙では、投票前の世論調査があり、かつまた、出口調査の結果を知ることによって、他の有権者の行動を予測することができます。こういう条件下では、現行の選挙方式における最適戦略が存在する可能性があります。 例1 (特定の利益団体) 4人の候補者(A,B,C,D)に対して、2人の当選者が出るような選挙を考えます。 候補者Dはカルト宗教の教祖で、実質有権者(有権者*投票率。以下は投票率を100%と考える)の80%から嫌われていますが、残りの20%からは絶対的な支持を受けています。候補者Aは優れた人物で、有権者の55%が彼に投票します。候補者Cは知名度がないので、彼に投票しそうな人は5%ほどです。以上の条件で、まともに選挙を行