ベンヤミンのよく知られた言葉のなかに、つぎような一文がある。 夜のなかを歩みとおすときに助けになるのは橋でも翼でもなく、友の足音だ。 この言葉に、先日まったく思いがけない場所で出会った。ある新聞のコラムである。 一読して、とても場違いに感じられた。というのも、当該コラムは、安倍内閣による集団的自衛権容認の閣議決定を強く擁護するという、威勢のいい内容だったからだ。 当該コラムにおいては、ベンヤミンの「夜」や「友の足音」という言葉に、きわめて特異な解釈が施されていた。おおよそ、つぎようなぐあいである。 「夜」とは、夜盗のようなさまざまな敵が跋扈し、いつ襲われるかわからないような秩序不安のことである。そして、そのようなときにいつでも「夜」のなかを駆けつけてくれる「友の足音」こそが「助け」になるのだと説く。つまり、この「友」とは同盟国のことであり、「足音」とは、やや古風な比喩表現をすれば「軍靴の響