詩は世界と世界にあるすべてのものを明示すべきなのである。わたしたちにものを与えるためでなく、わたしたちからそれを奪うために。 -ジャン=ポール・サルトル「マラルメ(1842−1898)」 1.夢の時代、生活の時代 自らの遅れてきた第一歌集で、あつかましくも「短歌はふたたびの夢の時代に入った。」と宣言してみせたのは平岡直子だったが、じっさいのところ、〈夢〉と向かい合って短歌を書くことのできる書き手は、ごく限られている。 そして現在、その〈夢〉とは逆に、〈生活〉は現代短歌の必須アイテムだといっていい。テン年代の短歌を語るキーワードをいくつか選ぶなら、多くの人がそのひとつとして〈生活〉をあげることになるだろう。 もちろん、短歌自体が〈生活〉と密接な関係をもつジャンルであることは言うまでもない。自分の短歌を読ませるための強いカードとして、つねに〈生活〉は重宝されてきた。しかし、この10年の短歌、と