その暗い地下室に入っていくと、部屋いっぱいに瓦礫が積み重なっていた。半ば瓦礫に埋もれるように、大きな球形の物体がある。よく見ると巨大な眼球だ。瞳に映った何かが蠢いている。それは幾種類もの核爆発のキノコ雲であった。暗い通路をたどって次の部屋に行くと、廃墟のような場所にタテ、ヨコ、ナナメにLED灯が赤く点っている。「国の交戦権は」「これを認めない」「陸海空軍その他の戦力は」「これを保持しない」……断片化された憲法九条の条文である。その場所は横浜市開港記念会館の地下。私は横浜トリエンナーレ美術展に来たのだ。作家は柳幸典である。 折からの台風。朝から各会場を回ってきた私の靴は水浸しだ。「この天候では投票率も上がらないだろうな」。その日は10月22日。「大義なき自己都合解散」による衆議院議員選挙の投票日だった。まさにそういう日に出遭うにふさわしい作品であったと言うべきか。 開票の結果は周知のとおり、