ニューヨークに来て2週間が経っていたが、この街は奇妙で驚異的で孤独に思えた。夏の空気はむしむしと暑かった。午後遅い時間だった。人でごった返す歩道、破裂した風船サイズのホールターとショーツを着てユニオン・スクエアのまわりに立つ女の子たち、サルサが鳴り響く電器店、パパイヤ・キングとそのウィンドーに積み重ねられたマンゴーとバナナ、そうしたすべてが14丁目の通りを熱帯地方の都市の街路のように、カリブ海か南米のどこかのように思わせた(…) 時代は1970年代中頃、西部ネバダ州リノからやって来た20代前半のリノ(というニックネームで呼ばれる)は、ニューヨークの街をこのように表現する。風景、音、におい、空気感を鮮やかに浮かび上がらせると同時に、米国東海岸からカリブ海、南米への飛躍が不思議なスパイスとなり、読者を小説の世界へ誘い込む。 レイチェル・クシュナー『火炎放射(The Flamethrowers)