一介のタブロイド記者が世界的に有名な微生物学者をつかまえて、あなたがたはまちがっているといっているわけだ。この手の勘違いを研究した論文がある* 。アメリカのふたりの心理学者によるもので、タイトルが奮っている。「無能で無自覚-自己の無能を認識できないことが過大な自己評価を生む」。論文によると無能な人間は二重苦を背負っている。無能なばかりか、自分の無能さをきちんと分析する能力もない。正しい判断を下す技能の基礎となるのは、正しい判断を識別するのに必要な技能と同じだからである。 11章でも見たように、大多数の人が自分は何につけ平均以上だと思っている。リーダーシップでも協調性でも自己表現能力でもそうだ。しかも能力に劣る人ほど正確に自己評価ができないことがこれまでの研究で明らかになっている。読解力のない人ほど自分はしっかり読めていると考え、運転の下手な人ほど自分は素早く反応できると思い、成績の悪い生徒