三重県出身で,江戸時代末期から明治にかけて活躍した松浦武四郎は,蝦夷地(北海道)を調査するなかでアイヌの人々と出会い,多くのことを学びました。今回は,松浦武四郎記念館学芸員の山本命さんによる寄稿から,文化の違いを正しく理解し,異なる文化,価値観を受け入れていこうとする武四郎の姿勢に学ぶとともに,彼の足跡を通してアイヌの人々の文化やくらしについて考えてみたいと思います。 はじめに 江戸時代の終わりごろ,アイヌ民族の生命と文化を守るために力を尽くした男がいた。 三重県松阪市出身の探検家・松浦武四郎である。 松浦武四郎の生涯を大きく分けてみると,17歳から26歳までは日本全国をめぐる旅,28歳から41歳までは合計6度に及ぶ蝦夷地(北海道)の探査,51歳で迎えた明治維新においては政府開拓使で蝦夷地にかわる道名,国名(現在の支庁名に相当),郡名とその境界の撰定に関わり,晩年68歳からは大台ケ原の探査