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■ 「平衡電位になっても細胞内Kイオン濃度は減らない」って話 以前のブログ記事「静止膜電位はどうやってできるの?」で書いたように、(たとえば)Kイオンが平衡電位に達するためにKチャネルを流れるイオンの量は非常に小さいので、細胞内のKイオン濃度には影響しない。デルコミンの「ニューロンの生物学」p.91に実際に計算してあるのを見つけたので引き写しておく。 直径 の細胞があるとして、細胞内のKイオン濃度は , 細胞外は となっている。このとき 細胞内のKイオンの総数 = 細胞体積( ) * Kのモル数( ) * アボガドロ数( 個 いっぽうで細胞膜の静電容量 なので、細胞内電位がKの平衡電位である に帯電させるために必要な電気量は あたりで となる。 この細胞の表面積は なので、必要な電気量は となる。 これをKイオンの個数に変換するためにはファラデー定数とアボガドロ数をつかって 膜を移動するK
■ スライド「感覚運動随伴性、予測符号化、そして自由エネルギー原理」作成しました 京都大学人環セミナー(20171218)および東京大学大学院工学系研究科 國吉研オムニバス講義(20171226; 脳型情報処理機械論)で行ったトークで使ったスライドを(多少編集した上で)アップロードしました。タイトルは「感覚運動随伴性、予測符号化、そして自由エネルギー原理 (Sensory-Motor Contingency, Predictive Coding and Free Energy Principle)」です。 これまでに作成した「よくわかるフリストンの自由エネルギー原理」や「アクティブビジョンと フリストン自由エネルギー原理」をアップデートした最新版というか総集編となります。 最後のセクションでは、前回のブログ記事で書いた「「意識の介入理論」に向けて」について書いているのだけど、ここについては
■ 「よくわかるフリストンの自由エネルギー原理」作成しました スライド「よくわかるフリストンの自由エネルギー原理」を作成してslideshareにアップロードしました。 このスライドは栢森情報科学振興財団 第17回 Kフォーラム2017での発表をもとにして作成しました。そのときのスライドの構成は「1) 盲視についての吉田の研究の紹介 2) 自由エネルギー原理についての直感的な説明 3) 自由エネルギー原理を意識の理論にするためには」という3パートからなっていて、今回のスライドは2)の部分に該当します。3)についてもそのうち発表したい。 このスライドは以前作成したスライド「アクティブビジョンと フリストン自由エネルギー原理」の更新版と捉えていただけるとよいかと思います。以前のスライドについてはブログ記事(「セミナー「アクティブビジョンと フリストン自由エネルギー原理」スライドをアップロードし
■ EMアルゴリズムの勉強メモ 自由エネルギー原理を理解するためには機械学習での「変分ベイズ」を理解する必要があって、さらにその手前の段階に「EMアルゴリズム」がある。EMアルゴリズムにおいてもKL divergenceを最小化して下界Lを最大化する過程が出てくる(PRMLの9.4章の図9.11-14)。 この図と式を字面を追っていくことはできるけど、シンプルなモデルでじっさいにグラフを書いて理解できるようにしたい。いちばん簡単な例はなんだろうか? Nature BiotechnologyのPrimerの記事で混合二項分布を使ったいい感じにわかりやすいものを見つけた:Do, C. B., & Batzoglou, S. (2008). What is the expectation maximization algorithm? Nature Biotechnology, 26(8), 8
■ 細胞外電極はなにを見ているか2017年5月版 もう10年近く前のことになるけど、以前ブログのエントリで「細胞外電極はなにを見ているか」それから「細胞外電極はなにを見ているか リニューアル版」というのを書いた。このときのコメント欄を見てもらうと分かるのだけど、私の理解が正しくなくて「volume current source density」と表示しないといけないところを「電流」と書いているために混乱しているところがあった。 それからあとOKさんから指摘をいただいたけど、PDFファイルのp.9の注釈10 「ある小領域に流入出する電流 $I$ が電場 $E$ を引き起こす。これはどんな環境でも成り立つ。$\sigma\nabla E = -I$ 」ここは完全に間違っている。 これらを直したいのだけど、部分的に直すのではなんともなりそうにないので、別の文書を作成して、基本からひととおり説明を
■ セミナー「アクティブビジョンと フリストン自由エネルギー原理」スライドをアップロードしました 2017年1月11日に北大文学部の田口茂さんのところで講演を行いました。タイトルは「アクティブビジョンとフリストン自由エネルギー原理」です。田口さんのラボでの告知記事。 Karl Fristonが提唱している「自由エネルギー原理(free-energy principle = FEP)」について、北大文学部の聴衆を対象にして、物理学や機械学習の知識の前提を抜きにして説明を行ったものです。FEPの意識研究への応用に向けて、Karl FristonのFEPとAlva Noeのエナクション説の近接性について強調したものとなっております。実際のスライドからいくらか手直ししており、発表時よりもより正確に、ちょっと詳しくなっております。 そういうわけで、このスライドの想定読者は、神経科学や意識研究に興味が
■ 総説「視覚サリエンスは脳のどこで、どのように計算されるか?」を出版しました 昨年書いていた総説論文が英国王立協会フィロソフィカル・トランザクションズ誌でオンラインアクセス可能になりました。オープンアクセスですので購読していなくても読むことができます。 Review article: "How is visual salience computed in the brain? Insights from behaviour, neurobiology and modelling." Richard Veale, Ziad M. Hafed, Masatoshi Yoshida Phil. Trans. R. Soc. B 2017 372 20160113; DOI: 10.1098/rstb.2016.0113. Published 2 January 2017 HTML: http:
■ 研究メモ: 中井久夫の統合失調症論、スパイキングニューロンネットワークのシミュレーターなど(20160710まで) 以前も書いたことがあるけれども、意識研究の側面からは統合失調症の前駆期の主観的経験に興味がある。それは「気づきの亢進」と言われるものだけど、なかなか系統だった記述を見つけることが出来なかった。 中井久夫の本を読むべきだということはわかっていたけど「統合失調症をたどる」という本に書いてあることを読んで、まさにこれだと思った。この本も当事者研究的というか二人称的アプローチをとっていると言える。たとえば p.124「超覚醒感と圧倒的な抑留された睡眠切迫感とでもいうべきものの共存」 p.125「思考はどんどん伸びていって分岐に分岐を重ねる。考えが花火のように枝分かれする。いままでわからなかったことが次々にわかる感じがするが、口に出しては言えない。」 p.128「あらゆる可能性が一
■ 静止膜電位はどうやってできるの? 神谷さんのツイートで言及されていた神経細胞の膜電位の話についてだけど、 高校生物の静止膜電位について質問です。静止膜電位は、外側が+で内側が-になる…と習ったのですが、それはなぜでしょうか? プラスイオンが外側に多く、内側に少ないからか?と思ったのですが、専門書を見ると、むしろ内側のほうにプラスイオンが多いです。(Yahoo知恵袋より) これはかなり根本的な間違いをしている。神経細胞膜の内側も外側も(マクロには)+イオンと-イオンは釣り合っていて、電気的に中性になっている。+イオンと-イオンとが分極しているのは神経細胞膜の近傍だけであって、分極したイオンが膜を挟んで引き寄せ合って分布することで神経細胞膜はコンデンサーとして働く(図1)。 巨視的に見て+イオンと-イオンが釣り合っていないなんて事態はよっぽどのことがないとおこらないということは化学を知って
鈴木貴之さんの「ぼくらが原子の集まりなら、なぜ痛みや悲しみを感じるのだろう」を読んでた。いま「ミニマムな表象主義」(6章)まで来たところ。 この「ミニマムな表象主義」、すごく合点がいった。ここでの表象主義は行動に利用されるかどうかによって決まるような「消費理論」的な表象であって、外的な刺激をそっくり写しとるような「再現表象」ではない。 つまり鈴木さんの説では表象主義のうちの「意識経験は(思考や痛みも含めて)すべて知覚経験である」(クオリアの志向説)を温存したうえで、再現表象ではなくてどう行動に活かされるかという意味での表象(消費理論的な表象)に作り変えていて、標準的な表象主義とは違うものなのだな。 これはようするに表象主義側からsensorimotor contingency (SMC)的な方向に向かったという言い方ができるかもしれない。SMCな人たちがシンプルなロボット(サブサンプション
■ 脳と非線形力学系について勉強してますって話 Mark ChurchlandのNature 2012が出て、リーチング運動時の運動皮質ニューロンの集団での発火のダイナミクスが、非定常的なものではなくて周期的なものとして捉えることができる(がゆえに力学系的解析が応用可能になる)というのを読んですごくこの辺りに興味をもつようになった。 Vreeswijk and SompolinskyのScience 1996 (PDF)での「興奮性ニューロンと抑制性ニューロンがバランスしたネットワークでカオスが発生する」という論文では、かなり単純なニューロンモデルが扱われていた。 それに対して、ここ最近ではRenart et alのScience 2010やTan et alのNature 2014にあるようにEIバランスによるasynchronous stateがげっ歯類のin vivoでの仕事で報告さ
■ 「状態空間モデル入門」講義に出てきた 明日総研大の大学院講義で「状態空間モデル入門」小山慎介(統計科学専攻)というのがあるので勉強してくる。島崎さんのPLoS Comput Biolとか理解できるようになることを期待して。 予習中。「神経科学と統計科学の対話3」State Space Methods in Neuronal Data Analysis (Z Chen) パート1及びスライド。動画はパート2およびパート3まであり。 「状態空間モデル入門」講義参加してきた。あいにく出席者が少なくて残念なかんじだったが、おかげでバンバン質問してマンツーマン的に教わることができた。講義としてはまず確率的因果推論とマルコフ過程の概論から。 確率的因果推論っていうけど、以前ブログで「ラットの因果推論」について採り上げたときに、原因の確率を手計算していたけど、あれがまさに確率的因果推論であって、PR
■ 大泉匡史さん「意識の統合情報理論」セミナーまとめ(5/5) 前回のつづき。(全5回分の記事をつなげてPDF化しました。まとめて読むときはこちらを使うことをお勧めします:IIT20161115.pdf) 4-4. 機能と現象の関連 IIT3.0論文のFig.22の話。図5に示したネットワークは機能としては、ABが応答する外的入力(left segment)のときにはO1という出力を出し、BCが応答する外的入力(right segment)のときにはO2という出力を出すという左右の弁別をするsensorimotor processingをするネットワークと言える。神経科学者の眼からはDは左segmentのfeature detectorに見えるだろうし、FはO1という行動のコマンドニューロンに見えるだろう。 しかし、IITの立場からは、そのφやconstellationはそれらの入出力、機
■ 統計的因果推論 統計的因果推論ノート:「正しいセカイの切り取り方」 これ楽しみ。「ラットの因果推論」読んだときにこのへんは参照した:相関と因果について考える:統計的因果推論、その(不)可能性の中心および確率と因果を革命的に架橋する:Judea Pearlのdo演算子 その文脈でさっきのfMRI is not an inherently correlational methodを見るならば、ここで書かれている「二つの観察変数の間の相関をみるのは相関的方法であり、片方の変数を操作して(独立変数)、もう片方の変数を観察(従属変数)することによって見つかった相関は実験操作が因果的に引き起こしたものであると言える」という言明は正しい。 でも統計的因果推論の立場からは、実際には[グループA: 操作あり(実データ)-操作なし(反実仮想)] [グループB: 操作あり(反実仮想)-操作なし(実データ)]
■ うーむなぜだか「意図」intentionの定義について調べたくなってきたぞ? なぜだろうふしぎ。 神経生理学では「運動の意図」という文脈でintentionについて調べられてきた。たとえばRichard A. Andersenらはposterior parietal cortexのニューロンの性質として「運動の意図」を反映していると主張してきた。Annual Review of Neuroscience 2002ではintentionを定義して、「実際に運動を行う前に、どこに向けてどういう動きをするか計画する段階」のことを指している。これは実際の運動ではさらにどういう動きを、どの筋肉を使って動かすかといった過程が続くため、それらと区別した表現になっているというわけだ。 以前のブログで、Jeffrey D. Schallのレビューでchoice(行動選択)とdecision(意思決定)と
■ 「クオリア派」とか 2012/10/31 クオリアについて考えるのは愚かなことであると嘲笑的に書いてあるのを見るとかっとなるが、それでも誤解すべきでないのはそういう主張が「赤い色を経験するということ」自体を否定しているわけではなくて「そのような経験が機能的なものと独立していると考える二元論」を批判しているということ。 つまり、神秘を紛れ込ませる非科学的なやり方に対して否定的なのだ。それを前提とするのはおかしいという意味で私も同意する。 いっぽうでいわゆる「クオリア派」の人たちは意識経験を説明する代わりになにかべつのものに置き換えてしまうやり方に対して否定的なのだ。だからその二つの地雷を踏まないようなやり方はどこにあるかってことを考える。 意識研究がなんで重要なのかというと、それは脳の活動が体と環境との相互作用でやっていることを完全に解読するということは、意識経験の内容を説明できるように
■ 脳科学辞典「気づき」の項目書いた 脳科学辞典の「気づき」の項目を書いた。査読されるまえの原稿をブログ用の記事として活用してみる。 [気づき] 英:awareness 類語・同義語:意識、consciousness 要旨 気づき」は英語のawarenssの訳として用いられ、外界の感覚刺激の存在や変化などに気づくこと、あるいは気づいている状態のことを指す。心の哲学では「気づき」とは「言葉による報告を含む、行動の意図的なコントロールのために、ある情報に直接的にアクセスできる状態」のことであると議論されている。気づきの脳内メカニズムを解明するために、さまざまな現象(閾下知覚や変化盲や両眼視野闘争など)が用いられており、ある対象への気づきの有無に対応した神経活動がさまざまな脳領域から見つかっている。 気づきとは 認知神経科学の文脈での「気づき」は英語のawarenssの訳として用いられ、外界の感
お勧めエントリ 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126 DKL色空間についてまとめ 20090113 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科
■ 脳科学辞典「サリエンシー」の項目書いた 脳科学辞典の「サリエンシー」の項目を書いた。著作権に関しては「各用語解説の著作権はそれぞれの執筆者に帰属します。執筆者は編集委員会へ無償で非独占的に使用する権利を与えています」となっている。そういうわけで、査読されるまえの原稿をブログ用の記事として活用してみる。 英:saliency 類語・同義語:顕著性。サリエンス(salience)。 サリエンシーとは もし夜空に月が光っていれば月にすぐに目が向くだろう。これは月が目立つ(salient)からだ。このように感覚刺激がボトムアップ性注意を誘引する特性を「サリエンシー」と呼ぶ。 夜の月がsalientであるのは周りの空と比べて明るいからであって、昼の月はsalientではない。つまり、サリエンシーは刺激の時間的または空間的配置によって決定づけられるものであって、その刺激自体の特性ではない。明るいス
■ 駒場講義レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 東大駒場の池上さんに誘われて、6月20日に教養学部広域科学科の学部講義で90分*2喋ってきました。(教養学部広域科学科、生命・認知科学科「システム科学特別講義II」) これはいろんな人が毎週喋るオムニバス講義というもので、こんなリスト: 5月9日 藤井 直敬 社会的脳機能を考える 5月16日 茂木 健一郎 システム認知脳科学 5月30日 國吉 康夫 身体性に基づく認知の創発と発達 6月6日 多賀 厳太郎 発達脳科学 6月13日 三輪 敬之 コミュニカビリティと共創表現 6月20日 吉田 正俊 意識と注意の脳内メカニズム ちょっと私が出てって大丈夫だろうかとビビりつつ、受講生の数は25人くらいということで聞いていたのでまあ気楽に、と行ってみた。そしたら、満員になって40人くらい(<-数えてやがる)となっていて、「意識研究」へ
■ 生理研研究会 予習シリーズ:ラットの因果推論と連合学習理論(1) 生理研研究会「認知神経科学の先端 推論の脳内メカニズム」参加登録受付中です。 若手運営手伝い(旅費援助付き)のほうは締め切りを過ぎましたので受け付けを終了しました。合計でちょうど10名となりましたので、抽選は行わず、申し込みいただいた方全員採用となりました。お申し込みありがとうございました。 さて、生理研研究会 予習シリーズ、前回の続きです。講演者の澤 幸祐さんの仕事の紹介を兼ねながら、動物で「因果推論」の証拠を得るためにはどのような手続きが必要か、連合学習理論とはどういうものか、といったことをまとめておきたいと思います。 (9/8追記:第一回から最終回までつなげたPDFを作りました。ご利用ください:pdf (11MB)) 今回メインで読むのは澤さんがUCLAに居られた時の仕事のうちのひとつで、「ラットが因果推論をする」
■ サルの盲視は生活環境でも使える --- Current Biologyに論文掲載されました! 私が生理学研究所の認知行動発達研究部門で進めていた盲視のサルの研究の成果がCurrent Biologyのオンライン版に出版されました! Yoshida et.al., "Residual Attention Guidance in Blindsight Monkeys Watching Complex Natural Scenes" Current Biology vol.22 (2012) DOI 10.1016/j.cub.2012.05.046 わかりやすさ重視での説明はプレスリリースを見てもらうとして、このブログではこのブログらしく書くことにしよう。こんなかんじになる: [ムービークリップ] 盲視のマカクザルにムービークリップを見せて、好きに見てもらっている間の眼の動きを計測する。
■ 盲視の感覚は視覚ではない。強いて言えば「盲視感覚」 盲視で起こる「なにかある感じ」とはなんなのかということがわかった気がする。ということで忘れぬうちにメモった。 つまりそれは左右逆転メガネで獲得した新しい感覚のようなもので、盲視では通常の視覚経験のその代わりに新たな感覚経験によって置き換えられたのだ。これを「盲視感覚」と呼びたい。「視覚」「聴覚」などと区別する意味で。 機能的に操作したのでは意味がない。感覚の空間的構造で考えるならばそれは上下左右のトポグラフィカルな構造を持っているという意味で視覚に近いと言えるが、それが指し示すもの(テクスチュア、色などの意識のcontent)を外界に投影した形で経験できないという意味では聴覚もほうがまだ近い。 共感覚は元の2つの感覚を指し示すことが出来るし、四次元色(SML+1)があったとしてそれは色だろう。もし視覚、聴覚、触覚といった感覚を機能を元
■ 二つの視覚システム説についていくつか。 Goodale and Milerによる、DF氏の症例報告というのがあるんだけど、両側のLOが損傷したDF氏はvisual form agnosia (視覚形態失認)なので、形とか線分の角度とかそういうのがまったく分からない。だから、perception task (スリットの角度同定)はできない。それにも関わらず、visuomotor task (スリットへのカードの投函)ができてしまう。これを元にして、Goodale and Milerは背側視覚経路がvision for action、腹側視覚経路がvision for perceptionである、という「二つの視覚システム説」を提唱したのだった。(このへんについてはこのブログの「腹側視覚路と背側視覚路」のスレッドで繰り返し取り上げてきた。) しかし、もっとあとに出版された、Goodale
■ 「脳の生物学的理論」からの話の展開 20111227のtwitterでの池上さんと藤井さんとのやりとり。 pooneil 因果的関係は物理的に見れば非常に細かいステップの連鎖なので、その連鎖の部分をはしょって、2つの変数間の関係を取り扱うのが相関。だから相関とはあいだにブラックボックスを置いたままで現象を扱おうとする簡便法であり、表象-プロセスの関係で言えば、表象だけでなんとかしようとする方法。 pooneil そう考えると「脳の生物学的理論」、つまり、計算論の層や認知科学的概念を入れずに「どこどこのニューロンが活動してそれによってある領域のニューロンが活動して、その結果行動が起こった」みたいに説明しようとする考えは、物理的な因果を追うことを志向していて、そんなナイーブなものでもない。 alltbl @pooneil おー、それってナイーブではないと思いますよ。その物理的因果の連鎖は難
■ ヒトの脳にはニューロンがどのくらいあるか ヒトの脳にニューロンがどのくらいあるかちゃんと測った論文がAzevedo et.al. 2009で、860億個だそうな。体積の80%を占める大脳皮質に19%のニューロンがあって、体積の10%を占める小脳に80%のニューロンがある。なにげに小脳すごい。この事実は小脳の重要さを強調するために引用されたりする。たとえばRoger LemonのLife without a cerebellum。 小脳の説明をするのに、大脳はCPUで、小脳はGPUで並列計算するのに向くアーキテクチュアになっていて、わざわざM1から長い線維伸ばして計算させてまた戻すとかコスト払っているので、大脳皮質の構造では出来ないようなことをやってんだろう、とか説明をしたりする。ほんとうのところはわからない。小脳に聞いてください。 Azevedo et.al. 2009でのもう一つのポ
■ 「お話としての説明」と「科学としての説明」という対比 Per BakのPNAS1995 Complexity, contingency, and criticalityの初めのほうを読んでた。History vs Scienceという対比があってなるほどと思った。 History(=進化とかそういった一回性の現象)にはnarrative accountつまり物語的なイベントの連鎖としての説明が行われる。ここでは砂山モデルで戯画的に説明されているが、砂山のシミュレーションで大きな雪崩が起きるとき、それはnarrative accountでは、「いくつかの悪い偶然が重なって予想外に大きい雪崩が起きた」といった説明がされる。 しかし物理学的説明からすれば「それはSOCであって、そのような大きな雪崩はpower lawからすればなにか特別なところがあるわけではない」ということになる。(因果的な
■ フィードバックとフィードフォワードにおける時間 (池上さんとのやりとりを含む) ついったでいろいろ書いていたら、池上高志さんとのやりとりになって、考えていたことがまたもや確率論的世界と動力学系的世界の相克なのではないかなんてことに思い至った。池上さんの許可を得て、転載します。池上さんのツイートはalltblから始まるもの(リンク先はツイートのparmalink)。 つぎのJCで何を採りあげようか。いま考えているのはNature Neuroscience 2011の"Decoding the activity of neuronal populations in macaque primary visual cortex."で、Population codingによるprobabilistic codeというやつをちゃんと読んでおきたい。 話の流れ的には、Zemel et.al. Neu
Alva NoeのAction in perceptionについてちょぼちょぼ書いてきましたが(これまでエントリは「Alva Noeの知覚理論」へ)、訳本「知覚のなかの行為」が出ましたので読んでます。けっきょく訳本読む方が早いのよねー。 Alva Noeのsensorimotor contingency (-> dependency)は「環境への働きかけによってどのように環境が変化するかという「知識」が知覚をconstituteする」みたいな言い方なのだけれども、この「知識が知覚を構成する」って言い方が行動そのものが構成要因ではないとするための妥協の産物であって、超奥歯に物が挟まった感があるわけですが、「知識」とやらにそんなことができるだろうかと言いたくなるわけですが、「知識」を記憶、そして内部モデルとしてとらえればそんなに悪くない。 もう一度繰り返すけれども、知識=semantic me
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