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scifi.hatenablog.com
スーツを仕立てたのは初めてで。 僕は今22歳で、お店は姉が紹介してくれた。社会人になるならオーダーするっしょ!なんつってノセられたのだ。 4つ上の姉が言うには、僕の入る会社は「お硬い風土」だからスーツは素材で勝負なのよ!なんていって。紹介してくれたお店はとても高そうだった。 "来週の土曜、10時にここに行くように!(^^)" 僕はなんだか妙に緊張して サイズを測るのに邪魔にならないような服を着ないと、とか、 スーツに合う髪型にしないと、とか、 彼女を連れて行っていいものだろうか、とか、 いろんなことを考えて(結局ついてきた) 9:30にはお店の前についてしまってやっぱ凍えそうに寒い。 彼女が寒くて死にそう!というから近くにあったカフェに飛び込むと、今どき珍しい木の感じでとても暖かいカフェだった。高級なお店のそばにはステキなカフェ。これはどんな地域でも変わらないんですね。 土曜日は始まったば
「ねえ、今年もね、流行語大賞の時期になったよ」 「そっか。もうそんな時期なんだ。どんなのがあるの?」 「今年はねえ、私これ好きだな。くじらみたいに、だって」 「何それ。どんなとき使うの?」 「わからないよ。今私が適当に考えたから。流行語なんだから好きなときに好きなよ」 「うに使えばいいんだよ」 「それじゃまだ流行してないじゃん」 「私だけの流行語ってこと」 「それは流行って言わないんじゃない?」 「あなたも使えばいいの。それで二人分はやったことになるから」 「なるほどくじらみたいに納得した」 「くじらみたいにものわかりがいいじゃない」 僕とマリは二人でこんなメッセージを交わしていたけど、少しずつ二人の間の距離は広がっていった。といっても仲が悪くなっていったわけではなくて、本当に、二人の間の距離が離れていったのだ。 僕が人類初の土星有人探査でたったひとりのパイロットに選ばれたのはいくつもの不
私の一番古い記憶は、まだ小学校に上がる前の運動会。私はお母さんの作った豪勢なお弁当がおいしすぎて踊り狂っていた。おかずはひとつひとつ丁寧に作りこまれた宝石みたいで、幼児の舌にとってもそれは感動だった。 私はそのときしげしげと、かきたまあんにくるまれた車海老をかじって、こうつぶやいたらしい。 「紫たまねぎ?」 そのとき、お母さんは私の肩を掴んで嬉しそうに尋ねた。 「みいちゃん、わかるの?他にどんな味がする?」 「う〜ん、わかんないけど…いろんな味…お魚とか、きのこ、あ!あれ!前に食べたふわふわのお芋!」 そしたらお母さんは嬉しそうに私を抱き上げて振り回しながらこう言った。 「あなた!この子よ!この子だったの!この子が完成させるわきっと!」 私は訳が分からず抱き上げられたまま振り回されていたがしっかりと車海老を手で掴んで離さなかったらしい。それどころか、あなたしっぽまでエビを食べちゃってたの。
タケシの持つたった一つの欠点は致命的だった。 彼のスイングは素人の私が見ても惚れ惚れするし、腕力は同世代より頭ひとつ飛びぬけてる。彼がバットを振ると木から葉っぱが散って鳥の群れが逃げ出したから、私は目をつむってスカートを抑えて風が鳴り止むのを待たなきゃいけなかった。あ、すごい。竜巻起きてる。 でも、 彼はここぞというときはかわいそうなほどに緊張して本来の力の9割引大セールをやらかすんだ。主婦のみなさんもびっくりの安売りしてどうすんのタケシ。 公式試合でバッターボックスに向かうタケシはかわいそうなほどびくびくしてて、保健室へ運びたくなった。バットはかろうじて小指にひっかかってて、足は少し内股で、小走りでバッターボックスへ歩いて行った。何かに追われているのかもしれない。 そういえばこの前NHKで見た生まれたての小鹿がこんな感じだったな、と思い出したから、きっと球場全体が生まれたてのタケシを見て
3年付き合った年下の彼女にうんこのようにフラれたのが15時間前のことである。 必死で食い下がる僕を見る目は道端にあるうんこを見る目と大差なく、自分が本当にうんこではないかと怪しくなったから10分に1回くらいは自分がうんこでないかどうか確かめた。 うん、大丈夫。うんこじゃない。 結果として彼女の気持ちは揺るがざること山の如し。 さらに次の彼氏候補がいるようで、新しい恋へ旅立つこと風の如し。 まだお店が混み合う前に話が終わってしまったものだから、たった一人残された僕はとりあえずメニューの端から端までのお酒を一つずつ頼むことにしたところまで覚えている。その後は覚えていない。 さて、古今東西、古代エジプトから平成の日本まで失恋の痛手に効く薬は二つしかない。 「時間」と「新しい恋」である。 その他のものはすべからくただの麻酔でしかないが、当事者がこのことを理解しているケースは多くない。 時間はコント
えー、最近ではやれ扇風機だァ、クーラーだァ、おてんと様の下は暑くってかなわねェのに、ひとたびおうちんなか入りましたらばァ秋をすッとばして冬が来たかッてェくらい冷えております。 しかしまァ昔の家には電気なんて上等なものはありゃしませんな。そんなときにうちんなかァ閉めきった日にゃ一日と待たずゆでだこができちゃう。ゆでだこならまだいいが、窓でも扉でもぜェんぶ開け放つとこんだまた、虫がそこらじゅうから寄ってきていけねェ。体中蚊に刺されてかゆいったらありゃしない。 それでもここより暑い国へ行きますと病気にかかっちゃうってんだから、かゆいだけならまだマシってもんです。 ですから昔の人は偉いもんでして、蚊帳ってェのをどこの家でも吊り下げているんですな。蚊帳の支度ができてねェとなると、夏なんてものはァ迎えられやしなかったわけで… へェ、今日はひとつ、そんなお話で… ・・・ 「おォい、おまえ、蚊帳はどこにし
できた。 シミュレーションの再開を操作すると上空から小さい水の粒がたくさん、数え切れ無いほどたくさんの水の粒が大地に降り注いだ。ちょっとやり過ぎたかもしれない。 細かい水の粒は大地に落ちて合流し、次第に大きさを増した。もう水の粒ではない。一ヶ所に集まった大量の水はこの星に生きる生き物を潤し、代謝を潤滑に促進し、生きるために不可欠な場所となるだろう。 この水の粒はなんと呼ばれるんだろう。願わくば美しくて呼びやすい、優しい名前になるといいのだけれど。 「所長、うまくいきました。でも一つだけ心配なことがあって」 「なんだね?」 所長がこっちを向いた。いつもの通り、厳しいけれどもどこか優しい目。それでも昔は今よりもっと優しい目をしていたように思う。 「上空から水の粒が降ってくるという仕組みはすごくいいと思うんです。これならいたるところに新鮮な水を十分に行き渡らせることができます。さすがです。ただ、
"はじめまして。突然こんな手紙を渡してしまってごめんなさい。私は都内の高校に通う二年生で、---と言います。チアリーディング部で部長をしています。 いつもあなたと同じ東成線に乗っていたんですが、あのときのこと、覚えていますか?朝からすごく暑い日差しの6月のこと。私はその日とても具合が悪くなってしまってその場にうずくまってしまいました。そのときに声をかけてくれて、ベンチまで連れて行ってくれて、冷たい水を買って飲ませてくれました。 そのとき私はぼーっとしてしまってお礼も言えずに本当にごめんなさい。駅の医務室に連れて行ってもらったまま、きちんとお話しもできませんでした。きっと遅刻してしまったんじゃないかと思うととても申し訳ない気持ちになります。。 それからというもの声をかけるチャンスを探していたのですが、毎日すごい満員電車のせいでこんなに時間が経ってしまいました(スミマセン。。。)そこでこんな風
雨の日に図書館なんていくもんじゃない。と35度目の後悔をしながら階段を上った。 休日に何の予定もない日は、といってもたいてい無いのだけれど、図書館へ行く。家の近くにある図書館は2フロアしかなくて、子供の読み聞かせに一番大きな部屋が使われているような図書館だ。それも悪くはないのだが、長い時間が空いた日に僕が行くのは国会図書館だ。 国会図書館にはこれまで世に出た書物が全て、文字通り全て所蔵されている。本に書かれているコードは一冊一冊固有のものだから、その番号がきちんと埋まるよう国会図書館には莫大なスペースが取られてあるのだ。 僕の好きな動物法医学研究書のスペースにもたくさんの本が収められているのだが、いかんせん動物法医学研究に関心のある人は少ないからか一つ下のフロアの隅の方に追いやられる。 『馬とユニコーンの安楽死』『古代トルコの獣医書簡』『どうして不死鳥は死なないのか』といった本はとてもおも
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