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Adaptive Markets 適応的市場仮説: 危機の時代の金融常識 作者:ロー,アンドリュー・W.発売日: 2020/05/29メディア: 単行本 本書は金融学者で自身クオンツファンドに関わる経験もしているアンドリュー・ローによる効率的市場仮説についての本である.本書の中に進化心理学的な議論もあるというので読んでみた一冊.原題は「Adaptive Markets: Financial Evolution at the Speed of Thought」.邦書としては珍しくアルファベットそのままの題がついている. 効率的市場仮説というのは株式市場などの金融市場の性質についての仮説であり,基本的に市場で決まる価格が合理的であるということを主張する.効率的市場仮説には強いバージョンと弱いバージョンがあり,強いバージョンは「どのような市場価格も合理的だ」と主張し,弱いバージョンは「市場価格は
Survival of the Friendliest: Understanding Our Origins and Rediscovering Our Common Humanity (English Edition) 作者:Hare, Brian,Woods, VanessaRandom HouseAmazon 本書は進化人類学者で比較認知学者でもあるブライアン・ヘアとやはり比較認知学者でジャーナリストであるヴァネッサ・ウッズの夫妻による協調性の進化に関する本.中心となるテーマは「自己家畜化によるヒトの協調性進化」になる. 導入章の冒頭ではアメリカの公民権運動時代の(人種混合)強制バス通学時代の逸話が語られている.強制バス通学による人種ミックスクラスが始まった当初,白人児童はマイノリティ児童を侵入者と見做し,クラスは過剰に競争的でとげとげしい雰囲気だった.そこでジグソーメソッドを導入し
peatix.com 進化政治学に関するオンライントークイベントがあるというので参加してきた.先日「進化政治学と国際政治理論」を出版した政治学者の伊藤隆太が聞き手に回って,(ここでは進化政治学の日本における先駆者という位置づけで)長谷川眞理子と対談するという内容.聴衆はこれから進化的視点を取り入れようと考えている政治学,社会学の研究者が想定されており,そういう視点からの質問を伊藤が行い長谷川が答えるという形式になっている. これは伊藤の本.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/2020/04/20/113326 進化政治学と国際政治理論 人間の心と戦争をめぐる新たな分析アプローチ 作者:伊藤 隆太発売日: 2020/02/22メディア: 単行本 趣旨説明 冒頭で伊藤から趣旨説明がある. 進化政治学は英米で始まり,日本には遅れてようやく入って
文化進化の数理 作者:田村 光平発売日: 2020/04/09メディア: 単行本(ソフトカバー) 本書は文化進化の第一線の研究者田村公平による文化進化リサーチの手法,およびそれを用いたリサーチ例の解説書になる.文化進化についての概説書にはメスーディの「文化進化論」やヘンリックの「文化がヒトを進化させた」があるが,本書は数理的モデル構築手法に焦点を当てているところが特徴になる. 第1章 文化進化とは何か 最初の導入では文化進化研究をめぐる様々な基礎が整理されている. 文化進化研究の様々な数理的手法は進化生物学の手法の応用によるものが多い.それは情報の複製という観点から共通性があるからだ. 本書の学問的スタンスは「文化の研究は人間理解にとり重要だが,それは難しい」,「そのために理解にちょうど良いレベルの抽象化を行う」というものになる. 文化には様々な定義がある.本書では文化形質を「連続的あるい
統計学を哲学する 作者:大塚 淳発売日: 2020/10/26メディア: 単行本(ソフトカバー) 本書は応用統計学にも造詣の深い科学哲学者大塚淳による統計学の哲学の入門書になる.序章では本書について「データサイエンティストのための哲学入門,かつ哲学者のためのデータサイエンス入門」だとある. これまで読んだ統計学の哲学についてはソーバーの「科学と哲学」がなかなか面白かった.本書ではソーバー本では扱っていなかった因果推論や深層学習についても論じられていて,そのあたりも勉強したいと思って手に取った一冊になる. 序章 統計学を哲学する? 序章では本書のねらいと構成が書かれている.ねらいとしては,上記の入門書というだけでなく,「統計は確固とした数理理論であり,そこに哲学的思弁が入り込む余地はない」とか「統計は単なるツールであり,深遠な哲学とは無縁だ」とかいう誤解を解きたいということが挙げられている.
The Kindness of Strangers: How a Selfish Ape Invented a New Moral Code (English Edition) 作者:McCullough, Michael E.発売日: 2020/07/21メディア: Kindle版 本書はヒトの見知らぬ他人への利他性がどのように説明されるのかを扱った本だ.著者は実験心理学者でヒトの社会性をリサーチしてきたマイケル・マッカローになる.本書は前半では進化生物学的な議論を総括し,後半ではどのように歴史的にモラルサークルが広がってきたかを扱い,合わせてヒトの見知らぬ他人への利他性を説明しようとするものだ. ヒトがしばしば見知らぬ他人に対しても利他的に振る舞うことは,単純に考えると適応度的にはマイナスになりそうで進化的には1つのパズルになる.これについてはハミルトンの包括適応度的な説明,直接互恵,
無限の始まり : ひとはなぜ限りない可能性をもつのか 作者:デイヴィッド・ドイッチュ発売日: 2013/10/29メディア: 単行本 本書は量子計算・量子コンピュータの概念を世界に提示したことで知られる物理学者デイヴィッド・ドイチュによるヒトの文化を含めた世界の成り立ちを語る独創的な本だ.ピンカーが「21世紀の啓蒙」において引用していることもあって気になっており,しばらく電子化されるのを待っていたのだがどうもなりそうもなく,物理本で手にした一冊になる.「無限の始まり」という題名は良い説明をキーとするヒトの科学的文化的活動は一度始まってしまえば無限に広がる可能性があることを示している.原題は「The Beginning of Infinity」. 第1章 説明のリーチ まず科学理論とはどういうものかが解説される.それは何かから導き出されるものではなく,観察から大胆に推量されるものだ.ではどの
7月の上旬にアメリカ言語学会(LSA)に対して「ピンカーの言動はLSAの代表にふさわしくなく,LSAの目的からいって受け入れられないものであり,『アカデミックフェロー』や『メディアエキスパート』の地位からの除名を求める」という請願が行われるという騒動が勃発している. このブログではピンカーの著書や講義について紹介してきており,またこのような「キャンセル・カルチャー」について,アメリカのアカデミアの雰囲気についてのルキアノフとハイトの本やミラーの徳シグナリングの本の書評も載せてきたこともあり,私も無関心ではいられない.簡単に紹介しておこう. 請願 docs.google.com 7月1日付で600名弱の署名付き公開書簡がLSA宛てに出されている. これは言語学者のメンバーによる公開書簡であり,スティーヴン・ピンカーをLSAの『アカデミックフェロー』や『メディアエキスパート』の地位からの除名を
harvard.hosted.panopto.com 合理性講義,一旦応用編に入っていたが,第13回はヒトの非合理性が社会的動機,特に部族主義的動機からも来ているという記述モデル的なピンカーによる講義が1回挟まる形になっている.第14回は応用編に戻り,双曲割引問題を扱う. 第13回「社会的,政治的バイアス」 いよいよCOVID19によるパンデミックの影響が出始め,講義参加者が大きく減り,教室では社会的ディスタンスをとるように教示がある.その中でピンカーの講義が始まる. これまでヒトの意思決定のいくつかの非合理性を見てきた.コストや計算リソースの限界,それを解決するためのヒューリスティックス,フレーム,用語,会話文脈の影響などだ.今回はまた別の非合理性のソースを考えよう,それは社会性の影響だ メルシエはヒトの合理性は議論で相手を説得するための適応だと論じた.では何故そもそも他人を説得しようと
ピンカーの講義,第5回はベイズ推論,第6回は統計的意思決定(その中でネイマン-ピアソン型の統計検定を取り上げている)を扱う. 第5回 「ベイズ推論(Bayesian reasoning)」 harvard.hosted.panopto.com ベイズ推論とは何か,なぜ難しいのか,なぜ重要か,どうすればヒトは良いベイズ推論ができるのかをあつかう. 講義前の音楽はクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「Green River」(この音楽とベイズの関連は難しい.クリーデンス Creedence が,ベイズ流の主観的確率を表す「確信度: degree of credence 」の credence に似た綴りだということか) 最初はベイズの定理の通常の形とオッズ比を使った形を説明.例題には稀な病気の診断問題(ベースレートが低い病気についての偽陽性率があるテストでの陽性結果の解釈)という(この
スティーヴン・ピンカーの合理性講義.イントロダクションが終わって第3回からは合理性の記述モデルになる. 第3回「論理と論理的思考」 harvard.hosted.panopto.com ここから6回にわたって合理性の規範的な記述が扱われる.今回は「演繹的推論」.講義開始前の音楽はアレサ・フランクリンの「Think」 合理性の規範的なモデルには3つあり,演繹的推論,帰納的推論,実践的推論になる. 演繹的推論の例は3段論法だ,「ソクラテスは人間だ.すべての人間はいつか死ぬ.だからソクラテスはいつか死ぬ.」これは一般から特殊へ,確実,真偽の2値という特徴がある. 帰納的推論は「ソクラテスとプラトンとアリストテレスは人間だ.ソクラテスはいつか死ぬ.プラトンもいつか死ぬ.アリストテレスもいつか死ぬ.だから人間は皆いつか死ぬだろう」というものだ.特殊から一般へ,確率的,信頼度が連続的という特徴がある.
harvard.hosted.panopto.com スティーヴン・ピンカーが2019年の冬から2020年の春にかけてハーバードの学生相手に行った「合理性」についての講義が公開されている.ハーバードでの呼び方は「GENED 1066: Rationality」ということで,GENEDはおそらく一般教養ということだと思われ,ハーバード入学直後の学生向けなのかもしれない.当初は講義室で行われていたが,当然ながら途中からリモート講義ということになった.また著名人のゲストレクチャラーがたくさん登場することも特徴だ. 私は4月の下旬に気づいてそれから順番に講義を視聴して,感想や要約をツイッターに投稿(@shorebird2000)してきたが,せっかくなので一部内容を追加し,感想を付け加えてブログにまとめておこうと思う 第1回「イントロダクション」 第1回目はまだ新型コロナによるロックダウン前なので,
生命の〈系統樹〉はからみあう: ゲノムに刻まれたまったく新しい進化史 作者:クォメン,デイヴィッド発売日: 2020/02/29メディア: 単行本 本書は「ドードーの歌」で有名なサイエンスライター,デイヴィッド・クォメンによる分子系統,3ドメイン(アーキアの発見),遺伝子水平伝播をテーマにした科学史と科学者列伝を扱うノンフィクションになる.様々な関係者へのインタビューを元にした組み立てが巧くはまり,魅力的な物語に仕上がっている.原題は「The Tangled Tree: A Radical New History of Life」 冒頭はダーウィンがBノートに走り書きした系統樹から始まる.そこからアリストテレスまでさかのぼる生命の階梯図,オージエの「植物の樹」,リンネの分類体系,ラマルク,ヒッチコックの「系統樹」,ダーウィンの「種の起源」の唯一のイラストと順番に解説しながら進化系統樹をまず
ダイナソー・ブルース: 恐竜絶滅の謎と科学者たちの戦い 作者:尾上 哲治発売日: 2020/02/21メディア: 単行本 恐竜がなぜ絶滅したのかというのは1970年代までは全くの謎とされ,様々な説が提唱されてカオスのようだった.そこに1980年彗星のように現れたのがノーベル物理学賞受賞者のルイス・アルヴァレズと地質学者であるその息子ウォルター・アルヴァレズが提唱した小惑星衝突説だった.メディアが大きく取り上げ,(漸進的進化を否定したい)スティーヴン・ジェイ・グールドが熱狂的に支持したこともあり,衝突説は巷に一気に広がった.私も最初にこの話を「日経サイエンス(当時は「サイエンス」という雑誌名だった)」で知り,直後に出版されたブルーバックス「恐竜はなぜ絶滅したか:進化史のミステリーに挑む」を読んで,この衝撃的な展開に熱中した.しかし古生物学界は一気にこれを受け入れたわけではなく,衝突否定論,漸
Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition) 作者:Miller, GeoffreyCambrian MoonAmazon 本書は「The Mating Mind(邦題:恋人選びの心)」「Spent(邦題:消費資本主義!)」「Mate」などの著書を出し,性淘汰がヒトの本性に大きくかかわっているという主張で有名な進化心理学者ジェフリー・ミラーによるVirtue Signaling(徳シグナリング)をテーマとした自らの論文や寄稿記事を集めた自撰論文集になる.「Virtue Signalling」というのは割と最近アメリカのSNSや政治周りで使われるようになった用語で,「自分がいかに道徳的に優れているかの(時に空虚あるいは偽善的な)ディスプレイ」を指す.ミラーはこれについて性淘汰,社会
進化政治学と国際政治理論 人間の心と戦争をめぐる新たな分析アプローチ 作者:伊藤 隆太発売日: 2020/02/22メディア: 単行本 本書は若手政治学者伊藤隆太による進化政治学の概説とそれを応用したいくつかのケースステディを収めた本になる.進化政治学というのは私の理解では政治学の基礎理論として進化心理学を用いたものということになる.概説部分では進化政治学の正当性を主張するために科学哲学的な議論が縦横無尽に繰り広げられており,政治学の本としてはかなり異質な作りになっている. 序章では全体の見取り図が示されている. ヒトの心についてブランクスレートイデオロギーに立つと,政治学は(後天的要素である)教育,社会的地位,経済力のみを扱うべきであり,アクターは信念を合理的に更新し(ネオリアリズム),社会的相互作用を通じてのみ文化・規範を学習する(社会的構築主義)と考えるべきことになる. しかし199
人類の祖先はヨーロッパで進化した 作者:デイヴィッド・R・ビガン発売日: 2017/09/08メディア: Kindle版 題名だけから見るとサピエンスアフリカ起源説への異説本のような印象だが,そうではない.本書は中新世の類人猿の専門家であるデイヴィッド・ビガンによる(チンパンジーとヒトとの共通祖先より前の段階についての)類人猿の進化仮説を扱った本になる.本書の中心となる主張は「中新世の1700万年前からヨーロッパで繁栄していた類人猿が寒冷化・乾燥化を受けて1000万年前頃にアフリカに移動したものがアフリカ類人猿(ゴリラ,チンパンジー,ボノボ,ヒト)の祖先であり,そこから人類も生まれた」というものであり,「アフリカ類人猿は中新世からずっとアフリカで進化したもので,ヨーロッパの中新世の類人猿はアフリカから移動し子孫を残さずに絶滅した側枝である」という通説と対立している.本書は丁寧に類人猿化石を
自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊 上 作者:ダロン アセモグル,ジェイムズ A ロビンソン発売日: 2020/01/23メディア: Kindle版自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊 下 作者:ダロン アセモグル,ジェイムズ A ロビンソン発売日: 2020/01/23メディア: Kindle版 本書は「国家はなぜ衰退するのか」で大国の興亡と制度の問題を論じたダロン・アセモグルとジェイムズ・ロビンソンによるそのテーマの考察をさらに深めた本になる.アセモグルとロビンソンは前著において,持続的経済成長が可能かどうかは政治・経済制度が包括的か収奪的かで決まるとした.しかし包括的制度がどのようにもたらされるかについては,収奪的制度下では創造的破壊が抑えられる傾向があるので収奪→包括の移行は難しいこと,しかしそれは不可能ではなく歴史的に何度か生じており,移行には多元的権力の成立が重要であ
進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語 (ブルーバックス) 作者:千葉聡発売日: 2020/02/13メディア: Kindle版 本書は「歌うカタツムリ」で極上の進化生物学物語を届けてくれた千葉聡による講談社ブルーバックスの一冊.書名からは適応進化についての概説書のように見えるが,そうではなく,千葉が出合った様々な研究者(その多くは千葉と同じく島嶼生物や貝類を専門とする)の研究物語を語っていくものだ. 第1章はガラパゴスを訪れた千葉によるホテルのテラスの描写から始まる.千葉はグラント夫妻のフィンチの本をそこで読んでいるのだ.そして話はグラント夫妻の研究,ダーウィンの航海と考察そしてフィンチの伝説*1を語り,(グラント夫妻の本に自分の論文が引用されているのを発見し)進化の研究には誰でも参加できるといって本書の幕を上げている. 第2章から第4章の前半まで巻き貝の巻き方向のテーマが採り上げら
人が自分をだます理由:自己欺瞞の進化心理学 作者:ロビン・ハンソン,ケヴィン・シムラー原書房Amazon 本書は「ヒトは行動の動機について意識的に気づいていないことがある」ことをテーマにした本になる.著者はこのテーマについて深く興味を抱いた2人で,1人はコンピュータ科学と科学哲学を学んだ後にベンチャー企業でエンジニアをしていたケヴィン・シムラー,もう1人は社会科学者かつ経済学者(修士は物理学と科学哲学)であるロビン・ハンソンであり,いかにも知的好奇心と才能にあふれた2人組だ.邦題の副題は「自己欺瞞の進化心理学」となっているが,著者たちが本職の進化心理学者であるわけではない.しかし関連文献をしっかり読み込んだ上で書かれていて内容は深い. 原題は「The Elephant in the Brain: Hidden Motives in Everyday Life」.「部屋の中のゾウ」というのは
美の進化ー性選択は人間と動物をどう変えたか 作者:リチャード・O・プラム出版社/メーカー: 白揚社発売日: 2020/02/14メディア: 単行本 以前私が書評した鳥類学者リチャード・プラムによる性淘汰本「The Evolution of Beauty: How Darwin's Forgotten Theory of Mate Choice Shapes the Animal World - and Us」が邦訳され「美の進化:性選択は人間と動物をどう変えたか」という邦題で出版されるようだ. 本書は選り好み型性淘汰について基本的にザハヴィ,グラフェンのハンディキャップではなくフィッシャーのランナウェイのメカニズムで捉えるべきだと主張し,様々な鳥類の性淘汰形質を解説し,さらにヒトの進化についてもその視点でいろいろななぞが解明できると主張する本になる. この理論的な主張については「ランナウェ
文化がヒトを進化させた 作者:ジョセフ・ヘンリック,今西康子出版社/メーカー: 白揚社発売日: 2019/11/01メディア: Kindle版 本書は文化進化リサーチの第一人者の1人ジョセフ・ヘンリックによる一般向けの文化進化解説本だ.ヘンリックは元々航空宇宙工学のエンジニアだったが,人類進化に関する興味からロバート・ボイドのもとで文化進化のリサーチャーに転身したという経歴を持つ.本書は社会科学と生物科学の知見を総合して人類進化と文化進化を調べてきたヘンリックによる20年間の知見をまとめた本ということになる.原題は「The Secret of Our Success: How Culture Is Driving Human Evolution, Domesticating Our Species, and Making Us Smarter」 第1章 不可解な霊長類 まず生物としてのヒト
恐竜の世界史 作者:スティーブ・ブルサッテ出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2019/08/09メディア: 単行本 本書は恐竜学者スティーヴ・ブルサッテによる恐竜本.縦軸には恐竜の歴史が描かれ,それに関連した著者自身の発掘やリサーチが横軸に散りばめらるというちょっと面白い構成になっている.原題は「The Rise and Fall of the Dinosaurs: A New History of a Lost World」.興亡史とあるように恐竜の興隆から絶滅までを扱っている. プロローグでは著者が中国でチェンユエンロン・スンイ(Zhenyuanlong suni ) の化石に最初に対面したときのドキュメンタリーから始まる.なかなか読者をぐっとつかむいい工夫だ. 第1章 恐竜,興る 第1章は恐竜の起源物語.最初はペルム紀の大絶滅(252百万年前)から始まる.著者のポーランドの地層
思考と意味の取扱いガイド 作者: レイ・ジャッケンドフ,大堀壽夫,貝森有祐,山泉実出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2019/06/20メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログを見る 本書はレイ・ジャッケンドフによるこれまでに形作ってきた思考や意味についての考え方をまとめた本になる.ジャッケンドフはもともとチョムスキーのもとで生成文法を学び,その後認知的視点から言語,思考,意味について考察を深めてきた.その考察は膨大なものになるが,本書ではエビデンスの詳細には踏み込まずに,ジャッケンドフのアイデアの筋道を語る形になっている, 第1部 言語,言葉,意味 冒頭で「言語と思考の関係はどうなっているのか」という問題が提起される.そしてジャッケンドフはこの問題を取り扱うにあたって「日常的視点」と「認知的視点」を峻別し,本書はどこまでも認知的視点から問題を考察していくという方針を示す
Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition) 作者:Miller, GeoffreyCambrian MoonAmazon 本書は「The Mating Mind(邦訳:恋人選びの心)」「Spent(邦訳:消費資本主義!)」「Mate」などで有名な進化心理学者ジェフリー・ミラーによるエッセイ集.Virtue Signalingに関する様々な自身のコラムや論文が年代別にまとめられているものだ. 「Virtue Signalling」というのは割と最近アメリカのSNSや政治周りで使われるようになった用語で,「自分がいかに道徳的に優れているかの(時に空虚あるいは偽善的な)ディスプレイ」を指す.フェイスブックにいかに自分が環境に気をつけているか書き込むことや,アイスバケツチャレンジのよう
恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎 作者:ダレン・ナイシュ,ポール・バレット発売日: 2019/02/26メディア: 単行本 本書は2016年に出版された恐竜本「Dinosaurs: How They Lived and Evolved」の邦訳.著者も監訳者のばりばりの恐竜研究者で,「教科書」と名打つのにふさわしい本だ.これまでの恐竜の教科書的な本としては原著2012年邦訳2015年の「恐竜学入門」があったが,本書は2012年以降の研究の進展が反映されていて,より最新の知見*1に触れることができる.また「恐竜学入門」はやや系統樹と分岐学にこだわった内容だったが,本書はよりバランスが取れた総説本といっていいだろう. 第1章 歴史,起源,そして恐竜の世界 第1章では恐竜研究の歴史と恐竜の起源が扱われる.ここではまず恐竜とは何かが扱われ,その中で鳥類は恐竜そのものであり,恐竜はなお1万種
犬からみた人類史 作者: 大石高典,近藤祉秋,池田光穂出版社/メーカー: 勉誠出版発売日: 2019/05/25メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 本書は犬という視点から人類史を見るというテーマで様々な分野の研究者から寄せられた論考を集めたアンソロジーだ.3部構成で第1部は「犬革命」と称して犬の誕生から先史時代まで,第2部は「犬と人との社会史」で前近代から近代まで,第3部は「犬と人の未来学」で現代から未来までを扱う.犬から見たという視点が面白いし,普段読まないような分野の文章も読むことができていろいろ楽しい本だ. 第1部 犬革命 イヌの特徴である吠えるという行動がどうして進化したのか,狩猟採集民の遊動型狩猟におけるイヌの役割,縄文人のイヌの使い方,イヌの性格と遺伝子,イヌとヒトの視線のやりとり,犬の比較神話学という論考が並ぶ. 最初の「イヌはなぜ吠えるか」(第1章)という論考は面
7月27日に早稲田大学で「文化を科学する」という講演会があったので参加してきた.早稲田のキャンパスも最近は近代的な校舎が立ち並んでなかなかモダンだ.主催が早稲田大学産業経営研究所ということで経済学・経営学系のフォーラムということになる.司会者がスーツにネクタイだったりして生物学周りの集まりとは随分違う雰囲気だ.冒頭の主催者側の挨拶のあとイントロダクションが始まる. イントロダクション 佐々木宏夫 私自身は経済学者だが,現在様々な分野の研究者と一緒にミクロネシアの社会・制度のリサーチをしている.今日は進化の視点で社会を理解するということでたくさんの講演者をお呼びして,勉強させていただきたいと思っている. ミクロネシアのプロジェクトを紹介したい.なぜミクロネシアかというと,このプロジェクトの前にケニアでの民族多様性にかかる経済実験プロジェクトがあって少し面白い結果が出かけていたのだが政治情勢か
誰もが嘘をついている?ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性? 作者: セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ出版社/メーカー: 光文社発売日: 2018/04/27メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る 本書はGoogleのデータサイエンティスト*1であったセス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツによる,ビッグデータと統計分析から何か見えてくるかを,その分析の勘所や豊富な実例と共に解説してくれる本になる.最近の技術やデータセットによりこれまでわからなかったことが急速に可視化される最先端の興奮をたっぷり味わえる面白い本に仕上がっている. 最初にスティーヴン・ピンカーが本書の中身をよく示す素晴らしい序文を書いている.ヒトの思考を調べるのは難しい.そもそも思考は複層的で複雑に絡み合った対象であり,モノローグを解析するには数量化するほかないが,それではその複雑さが失われる.またヒトは
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