その店では、頼んだメニューと違うものがでてきた。 そもそもはその店はメニューなんてなかった。座れば、何かが出て来るのだ。 「今日のあなたにおすすめ」という感じで、その人の雰囲気にあったものがでる。ただし、実際のところは「今日の買いすぎた食材で作れるメニュー」という事が多かった。他の客がカレーと肉じゃがを食べているのを見ると「あ、今日はじゃがいもを大量入荷したんだな」と推測がついた。 他の人がオーダーしたメニューということも多かった。みんなの分を一緒に作れば早いからだ。だから、隣の席で「オムライス」と頼むのを聞いたら、「あ、今日はオムライスになりそうだ」なんてことを想像する。とはいえ、その前の客が「チャーハン」と頼んでいたら、そのオムライスさえもチャーハンになるので、結局のところ、何がでてくるのか想像もできなかった。 そのため常連客はメニューなんて見なかった。意味がないからだ。 ただはじめて