夜のバスに乗る(9)修学旅行のスナップ写真のように 植松慎人 小湊さんと渡辺先生と犬井さんと僕を乗せた路線バスは、湘南の海が見渡せる駐車場に停まっている。江ノ島が右手にあることが、道路の街灯でぼんやりとわかる。目の前に広がっている海は、夜の暗い空間の中で、ただうねっていて深さばかりで広さがわからない。 僕たちはバスを降りて、薄暗い中を歩く。防波堤の上を注意深く歩く。僕たちのゆっくりとした歩幅に合わすかのように、少しずつ少しずつ真っ暗だった夜が、朝へと歩いていく。黒く深かった海が、青黒く広がりを持つ海へと変化していく。 小湊さんが防波堤の上に腰を下ろす。それを合図にするかのように、渡辺先生も犬井さんも、そして僕も腰を下ろした。まだ春までは時間がある。そう思う と、今こそ修学旅行にふさわしい季節のように思えてくるのだった。みんながどんな気持ちでいまこの防波堤の上に座っているのかはわからない。