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本書は『脱学校の社会』などで有名な思想家イヴァン・イリイチ(Ivan Illich, 1926-2002)の、前期思想の総括ともいうべき位置にある著作である。翻訳にして200ページあまりの小著ながら、理論的に簡潔に整備され、イリイチ思想の総論の役割を果たす重要な論考と言える。 (追記)この記事の掲載後、イヴァン・イリイチは2002年12月3日に死去した(76歳)。 現代社会が直面している危機の実体とは何か。イリイチはまずそのように問題提起し、技術の発展と拡大における「二つの分水嶺」という考え方を、医療を例にとって説明する。 第一の分水嶺 現代における医療や公衆衛生に関わる技術の進歩は、人々の健康と衛生に対して、次のような多くの改善をもたらした。 水の浄化 幼児死亡率の低下 ねずみの駆除によるペストの無力化 サルヴァルサンによるトレポネーマ療法 梅毒予防 インシュリン自己服用による糖尿病への
19世紀後半、フランスの作家エミール・ゾラ(Émile Zola, 1840-1902)は、急速に発展する生理学と実証主義の影響を受けて、自然主義(naturalisme)と称する文学潮流を確立した。人間の性格が環境と遺伝によって決定されるとする立場からゾラは当時のフランス社会に対する緻密な観察と資料収集を続け、これに基づいて、社会的・生物学的環境の力によって盲目的に動かされてゆく人々の姿を、その作品の中に描き出していった。このような作品の典型であり、ゾラの代表作ともなった小説が、「ルーゴン・マッカール双書(Les Rougon-Macquart)」全20巻である。
エロティックな筆致で社会と学問を風刺した異色の小説。 Denis Diderot "Les Bijoux indiscrets", 1748 ディドロ『お喋りな寶石』(新庄嘉章訳、大雅洞、1951年) 【1】 私がつねづね読みたいと思っていた、ドニ・ディドロの小説。 ディドロは『ラモーの甥』などで有名な18世紀フランスの啓蒙思想家だが、最近、私はディドロの名を思いがけないところで眼にした。それも、文学や哲学の本ではなく、よりによって経済書の中でである。 ディドロをめぐる前置き ディドロはあるとき、緋色のガウンを贈り物としてもらっていたく喜んだという。しかし、やがてガウンの見事さに較べて自分の書斎が貧相なのが気になり、ガウンに合わせて家具も次々と買い替えてしまった。そして気づいてみると、書斎は最新の家具に囲まれてかえって居心地悪くなってしまっていた……。これはディドロの『私の古いガウンを手放
書簡体で展開される恋愛心理小説の傑作。 Pierre Choderlos de Laclos "Les Liaisons dangereuses", 1782 二宮フサほか訳『世界の文学3 ラファイエット夫人 ラクロ』(中央公論社、1964年)所収(伊吹武彦訳) あらすじ 第一編 第1信-第50信 【1】 メルトイユ公爵夫人は、かつての愛人ジェルクール伯爵への恨みから、その婚約者セシル・ヴォランジュ(15)を堕落させようと画策し、色男ヴァルモン子爵の助力を求める。しかしヴァルモンは伯母ローズモンド夫人のもとに滞在し、その若き友人であるツールヴェル法院長夫人(22)を誘惑しようと策をめぐらしているところであった。だが、ツールヴェル法院長夫人に対して彼を中傷しているのがセシルの母であるヴォランジュ夫人であることを知ったヴァルモンは、ヴォランジュ夫人への復讐を決意し、メルトイユ公爵夫人との間に共
「女の神話」の欺瞞を暴き女性の解放を訴える古典的評論。 Simone de Beauvoir "Le Deuxième Sexe", 1949 ボーヴォワール『決定版 第二の性(I・II(上・下))』(『第二の性』を原文で読み直す会訳、新潮文庫、2001年) 【1】 戦後フランスの実存主義を担った代表的論者のひとりボーヴォワールによる、女性論の古典。 私が利用した訳書は、1997年に刊行された新訳を文庫化したものである。まず、この訳書について高く評価しておきたい。注や用語解説が充実しているのももちろんだが、何よりも訳文がいいのである。非常によく練られた平明な文章なので、論じている内容が高度なのにもかかわらず、スムーズに読み進めることができる。実際の翻訳は十名の訳者による分担作業のようであるが、訳文に不統一を感じることはまったくなかった。「決定版」の名に恥じない名訳である。 また、内容に関し
恋愛感情の歴史的変遷と現代における特質を分析した、社会学の重要作品。 Anthony Giddens "The Transformation of Intimacy", 1992 アンソニー・ギデンズ『親密性の変容』(松尾精文・松川昭子訳、而立書房、1995年) 論旨要約 【1】 19世紀以降、産児制限の容認や家族規模の縮小によって、セクシュアリティは妊娠・出産といった女性の義務から独立・分化してきた。それは結婚を経済的必要性に基づくものでなくし、代わりにロマンティック・ラブの概念に結びつけていくことになった。 ロマンティック・ラブの概念は、男女の結びつきの基礎を、物質的な要因よりも感情的なもののほうへ重点移動させていったため、男性による公的領域の独占を基礎として成立している社会に対する破壊的な力を潜在的に有しながらも、それが性的熱中の抑制や婚姻、母性の概念などと結びついている限りにおいて
【講読ノート新シリーズ】 千一夜物語 『千一夜物語』は9世紀の半ば、サラセン帝国の最盛期にその原形が作られたアラビア文学史上稀有の説話集である。18世紀にアントワーヌ・ガランのフランス語訳によってヨーロッパに初めて紹介されたこの物語は、フランスの人々にイスラム世界の再発見を促し、その後も多くの作家たちに影響を与え続けてきた。 (マルドリュス版・佐藤正彰訳に準拠)
潜在能力アプローチによって社会的不平等の評価と解決に挑む刺激的考察。 Amartya Sen "Inequality Reexamined", 1992 アマルティア・セン『不平等の再検討』(池本幸生・野上裕生・佐藤仁訳、岩波書店、1999年) 紹介 【1】 本書は、1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センが、正義(公正)をめぐるその考察を一般読者向けに簡単に要約したものである。翻訳にしてわずか200ページあまりの論考であるが、その着眼の鋭さと視野の広さは、本書の記述の易しさのために、かえって読者に強い印象を与える。ときとして意外なほど明快な断定がなされている箇所もあるが、原注などを丁寧に読み込んでいくと、その断定の背後にもセンの膨大な実証的研究が横たわっていることを窺うことができ、読者は深く納得させられるのである。 センが本書で扱っているのは、1970年代にロールズによっ
政変の相次いだ19世紀の後、フランス第三共和政はようやく安定軌道に乗ったかに見えた。しかし高度資本主義・帝国主義の時代を迎え、国内的には社会経済的な矛盾、国際的には植民地獲得をめぐる列強諸国間の争いが強まり、フランスもまた深刻な政治的・経済的対立状況の中に置かれることとなる。高まる緊張はやがて世界大戦(Guerre mondiale)をもたらし、ヨーロッパ諸国に癒しがたい傷跡を残した。ヨーロッパを震撼させた二度の大戦のなかで、作家たちもまた社会の混乱、人間性の危機の問題に直面させられる。20世紀の作家たちにとっては、世界の不条理に対してどのような態度をとるのかが、避けることのできない基本的な課題となったのである。 戦後、第四共和政(IVe République, 1946)、第五共和政(Ve République, 1958)、五月革命(Révolution de Mai, 1968)と続
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