2.口語文法の文語文 田舎で生まれ育ったものだから、狂言や歌舞伎を見たのは大学に入って上京してからである。初めて見て驚いたのは、それがわかるということだ。耳なじみのないことばや言い回しはあるが、基本的にほとんど理解できる。平安朝の文学の朗読を聞いたら、そうはいかない。今のわれわれのことばとかなりちがうので。室町以後の口語はわれわれの口語とだいたいがところ同じなのだ。 古文は平安時代の口語であり、それで文章も書かれているから「言文一致」であった。そののち口語は語彙も文法も変わっていったが、書くときだけは平安時代の文法にしたがっていた。文語と口語の乖離がおきたのである。 江戸時代以来、小説の中でも会話文は「言文一致」、話すとおりの口語であって、地の文が文語体で書かれていた。地の文を口語体にしようとするのが「言文一致」主義者の苦闘だった。どうして地の文を「話すように書く」ことができなかったのか。