───人の顔はひとつではない。 学生と聴講生。橙田飛鳥とうだあすかはふたつの顔を持っていた。それは、大した問題ではない。言い換えれば、女子大生と追っかけなのだから。高三の夏、オープンキャンパスで飛鳥が恋した彼は、理論物理学の研究者であった───ワタシは行く、彼の元へ! 飛鳥は名門T大を受験してサクラチル。それでも飛鳥はくじけない。桜は散れども恋は咲かせる。 K大への進学を決めつつ、同時に飛鳥はT大の聴講生の資格も手に入れた。ピカピカの聴講生証に飛鳥は誓う。先生の講義のすべて───ワタシはそれを受け切ってみせるのだと……。初講義にときめく飛鳥……にしても、異様に多い女子の数。それもそのはず、科学雑誌に論文が掲載されてから、彼に注目が集まったのだ。その人気に火を点けたのは論文よりもビジュアルだった。彼の名は、桜木真人さくらぎまこと。そう、我らが放課後クラブの桜木である。28歳になった桜木は、研