「どうして出版したいんですか」 初対面の編集者から単刀直入に訊かれた。どうして? 一瞬、戸惑ってしまう。 作家ベッシー・ヘッド作品の日本語訳を出版したい。熱い思いを胸に多くの出版社に持ちかけたが、そのように根本的な問いを投げる編集者はいなかった。でも、不意を突いたその言葉は、わたしにもっとも大切なことを気づかせてくれた。自分は純粋に、敬愛する作家の圧倒的な素晴らしさに感動してほしかったのだということを。 南アフリカ/ボツワナの作家ベッシー・ヘッド ベッシー・ヘッドは南アフリカ出身の作家である。1937年、ピーターマリッツブルグの精神病院で生を受けた。母親は白人で父親は不明だ。生まれて間もなく白人夫婦に養子に出されるも、肌の色が濃いと突き返されてしまう。時代は人種隔離政策アパルトヘイト下の南アフリカ。カラード(*1)の夫妻に引き取られ、この夫妻を実の両親と信じて育つも、13歳でダーバン郊外の