今年、ちょっとした衝撃を受けたことと言えば、山王書房・関口良雄さんの『昔日の客』の復刊だ。古本屋の書いた本として、ずっと読みたいと思ってはいたものの、機会がなかった。うちは父親のころからいわゆる「本の本」はなるべく集めるようにしているのだが、それでもなかなか三茶書房版『昔日の客』は入荷してこない本だった。自分が古本屋になってまもなく二十年になるが、この本を売ったことがあるのは一度だけである。それも、買ってきて未整理のまま置いておいたところ、常連のお客さんが見つけて欲しいというので、読むこともないままに手放してしまったのだった。そのような本が、夏葉社さんから復刊するという。少し浮かれた気分で発売を待ち、ある日、古書往来座で購入した。鮮やかな緑色の布装は、元版とはまた違った、愛着あるたたずまいだった。その日の夜から、少しずつ読み始めた。 自分は長いこと存在だけ知って読めない状態が続いていたせい