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体力トレーニング
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告白 作者: 湊かなえ出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2008/08/05メディア: 単行本購入: 25人 クリック: 692回この商品を含むブログ (755件) を見る 年度末、中学校のそのクラスでは担任の女性教師が離任の挨拶をしていた。勤務先のその学校で愛娘がプールで溺死するという悲劇に見舞われた彼女は、生徒たちにある《告白》を始める……。 連作短編形式を採用しているが事実上の長編で、悪意や独善、相互無理解が数珠繋ぎに負の連鎖反応を起こしており、実にスリリングである。そして各編においては、他人(肉親含む)の理解など土台不可能であること、自覚の有無にかかわらず人間は誰しも自分のフィルターを通したマイワールドでしか生きられないこと、一たび歯車が狂ったら人生は簡単に破滅することを、作者は恐ろしく淡々と描き出す。押し付けがましくなっていないのは素晴らしいが、それ以前に地の文が徹底的に冷静な
限りなき夏 (未来の文学) 作者: クリストファープリースト,Christopher Priest,古沢嘉通出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 2008/05/01メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 40回この商品を含むブログ (53件) を見る ジーン・ウルフに代表されるように、娯楽小説と評価され得るジャンル内でも、作品内でわざと全てを語らず、何らかの要素を読み手の解釈または想像に委ねる作家が存在する。作品には曖昧模糊とした余白が出て来るわけだが、筆致がふくよかな場合、その余白からえもいわれぬエモーションが立ち上がることがある。プリーストの諸作はその最たるもので、作品の勘所では絶妙な感傷をまとう。しかも読みやすいのが素晴らしい。 この『限りなき夏』は8編の短編を収録している。いずれもプリーストの本領が発揮されており、実に楽しく、同時に実に味わい深い。愛をテーマにした作品が多い
憎悪と憤怒でその内面を形成している浮浪者ガーリックは、ある日、ゴミ箱から拾ったハンバーガーを口にした。だがそれに使用されていた馬肉には、宇宙の彼方から飛来して来た超生命体・メドゥーサが含まれていた。メドゥーサは、種族で集合意識を保有していない人類という種に驚愕し、ガーリックの脳に語りかけ使役し、人類に共同意識を形成させ、然る後人類という種を乗っ取ろうとする……。 以上の《本筋》が割合としては半分を占め、合間に、他の地球人類数組のエピソードが様々に挟まれる。この《エピソードの並列》は、人類の意識は個々人でてんでバラバラであるという当たり前の事実をしっかり示す役割を担っており、集合意識の顕現以降彼らの言動が明瞭に変化しているという点で、ストーリーの転換点を明瞭に打ち出している。もちろん、本書でスタージョンが描く集合意識の何たるかを個別具体的に表現する手段にもなっている。 ここで注目したいのは、
http://d.hatena.ne.jp/m_tamasaka/20080104/1199387682 http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20080111/1200025863 太古の昔より、「作家のやる気を殺ぐレビューはやめろ」と「レビューは作家じゃなくて読者のためにやるものです」という意見は対立してきたんですが、個人的には断然後者を支持します。 理由は以下のとおり。 レビューを読むのはまず読者。 誉めるだけでは参考にならない可能性もある。 的外れと感じたら、誰でもレビューを批判して構わないし、実際いくらでもできる。 たとえ批判レビューで作家が一人潰れても、他に作家はいくらでも……。(←ヲイ) しかし、当該レビューの質が低かった場合はもちろん、読者の嗜好(例:オススメだけを知りたいのであって、批判意見は聞きたくない)によっても、レビューが読者の参考にならな
ゴールデンスランバー 作者: 伊坂幸太郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2007/11/29メディア: ハードカバー購入: 12人 クリック: 551回この商品を含むブログ (766件) を見る 国民的人気を誇る若き宰相・金田は、仙台で凱旋パレードの最中、暗殺されてしまう。その容疑者として浮上したのは青柳雅春。2年前、暴漢に襲われていたアイドルを助けてワイドショーのネタになった宅配便ドライバーであった。当時の彼は見るからに好青年であったのだが……。そして青柳雅春の必死の逃走劇が始まる。 伊坂幸太郎の集大成にして最高傑作の登場である。 まず指を折るべきは伏線回収である。本書は作品内の事件の全てが解き明かされるタイプの作品ではないが、代わりに、細かいエピソードが後半どんどん回収されていき、首相暗殺犯と目された男の逃走劇を綺麗にまとめるのである。それが後ろに繋がるような伏線として使われるとは
幻詩狩り (創元SF文庫) 作者: 川又千秋出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2007/05メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 6回この商品を含むブログ (46件) を見る 1948年のパリで、シュルレアリスムの詩人アンドレ・ブルトンが詩人の卵フー・メイに出会う。フーが持ち込んだ詩のは、読む者を異界に導くほどの、この世の物とは思われぬ圧倒的な力に満ちていた。更にフーは時間を主題とした詩を書いたと言う……。数十年後、昭和末期の日本で彼の詩は猛威を振るうことに。 視点人物は多数用意されるものの、詩に触れたことによって個々人が破滅すること自体は悉く間接的に描かれる。最終の視点人物の顛末がその《破滅》の実態なのかも知れないが、ここでは触れないでおこう。いずれにせよ、作者は視点人物に寄り添って物語を組み立てておらず、必然的に彼ら個々人の悲喜劇にもほとんど興味がない。作者はあくまで神の視点
[rakuten:book:12080686:detail]asin:4152088311 21世紀中葉、世界では内戦による虐殺が相次いでいた。アメリカ情報軍に所属するクラヴィスは内戦首謀者の暗殺を数多く手がけていたが、事態の背後には常にジョン・ポールなるアメリカ人の影が見え隠れするのだった。 ディテールにこだわった近未来軍事小説かと思わせておいて、中盤で確固たるSFに転化する。中核となるアイデアはよく考えるとかなりバカバカしいが、作品世界が実にしっかり組み立てられているので微塵もそういった印象を受けない。テーマ性が極めて高いのも特徴で、9.11後の世界に対する深刻なメッセージを内包している。主人公の過去の因縁(事故に遭った母親の延命治療中止を決断)と戦闘行為の内面的な絡め方も非常にうまい。硬質な文体もむしろ感興を高めている。『Self-Reference ENGINE』ともども、日本SF
復讐はお好き? (文春文庫) 作者: カールハイアセン,Carl Hiaasen,田村義進出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2007/06/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 20回この商品を含むブログ (38件) を見る 結婚記念旅行で乗り込んだ船上から、夫のチャズによって夜の海に突き落とされたジョーイ。ジョーイは金持ちだったが、遺産はチャズに相続されないし、その旨の遺言書があるのはチャズも知っている。ではなぜ私が殺されるの?──などと思って海を漂ううち、彼女は元捜査官だったミックという男に助けられる。ジョーイは、世間には自分が死んだと思わせたまま、兄コーベットや親友、そしてミックの助けを借りて、チャズの動機を調べ、そして意地悪な復讐を果たそうとする。 ジョーイによる復讐を、愉快な大騒動として鮮やかに描き出す。キャラクター造形が相変らず振るっており、端役の隅々に至るまで一々
押川春浪回想譚 (ふしぎ文学館) 作者: 横田順彌出版社/メーカー: 出版芸術社発売日: 2007/05/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 11回この商品を含むブログ (13件) を見る 押川春浪(1876〜1914)が語る、奇妙な体験の数々……。 怪奇幻想のコアに、膨大な資料に基づいたふくよかな肉付けを施し、非常に落ち着いた質感を実現させている。奇想は読者の度肝を抜くような形では提示されず、よく考えてみればとんでもなく奇怪な事象の数々も、どことなくのどかな風情すら感じさせる。登場人物の当事者意識や切迫感も、少なくとも読者に対しては生臭くは伝わって来ない。しかし、鷹揚な筆*1で、ディテールを綿密に物語に織り込んでいるので、明治〜大正の時代の空気を見事に立ち上げている。また、寄り道的なエピソードもしばしば用いられ、これらを通じて登場人物の心情や人柄がよく表現されている。 血湧き
ブラバン 作者: 津原泰水出版社/メーカー: バジリコ発売日: 2006/09/20メディア: 単行本 クリック: 29回この商品を含むブログ (119件) を見る 現在は赤字続きの呑み屋を営んでいる他片等(たひらひとし・40歳)は、高校時代、吹奏楽部でコントラバスを弾いていた。そして今、同級生の一人が結婚することになった。彼らは、当時の部員で有志を募り、その式においてブラスバンドを復活させようとする。必然的に、他片の想いはあの頃へ飛ぶ……。 80年度入部生が40歳を迎えた《現在》と、高校生活における吹奏楽部での活動という《過去》により構成される作品。《現在》と《過去》ではっきりパートが分かれているわけではない。同じ章の中でも時間は軽やかに飛び去り、あるいは跳ね戻る。ただし決して読みにくくないのは、物語の基本線が《現在》と《過去》でぶれていないからである。より正確に言うと、これは、《過去》
セバスチャン・ナイトの真実の生涯 (講談社文芸文庫) 作者: ウラジミール・ナボコフ,富士川義之出版社/メーカー: 講談社発売日: 1999/07/09メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 32回この商品を含むブログ (41件) を見る わずか数冊の作品を発表して亡くなった小説家、セバスチャン・ナイト。彼の腹違いの弟Vは、兄の伝記を書くため、足跡を辿り始める。『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』は、その伝記であるとの体裁をとる。 素晴らしい。ただただその一言に尽きる。セバスチャンの像が徐々に立ち上がる様も圧巻だが、それ以上に、弟の兄に対するリスペクトが話が進むにつれ迫真性を備えてくるのが印象的。そして《真実》とやらは解明されない。セバスチャンの人生に関する様々な事柄、そしてそれらに対する弟Vの、兄セバスチャンの人格把握に基づきつつも、結局は各論的な想念。繰り返されるセバスチャンの小説*
二階堂黎人の諸作品を再評価*1したくなってきた。これ自体に理由は特にない。ただ、『容疑者Xの献身』論争における事実上の敗北が、その後の作家としての評価に悪影響を与えたのは確かであり、ここ10年ほどは、それは気の毒だと感じるようになっていた。また、私も中年となり、人生経験も浅いながら積み増しはしたため、恐らく以前の作品を再読すれば違った感想も抱けよう。告白しておくが、二階堂黎人の初期作品は私にとって紛れもなく、青春を彩った小説群の中に含まれている。恩義や親しみはあるのだ。加えて、ある程度のまとめ読みと再評価は、作家・作品に加えて読書そのものの解像度を上げる効果があり、作家を変えつつ定期的に行うべきである。2023年後半、私にとってのそれが二階堂黎人だったということである。 ただし、当方もそれなりに多忙であるため、読書ペースはゆっくりになります。1年後に二階堂蘭子シリーズを完走できていたらご喝
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