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アメリカ大統領選
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いい人だと思われたいとき、あいまいな返答をする 取引先との接待で「あなたはこれこれの政治問題についてどうお考えですか」なんて聞かれてしまったら、あなたはどうするでしょうか。はっきり自分の意見を言いますか? それとも「私自身は賛成ですが、反対派の意見を言う人の気持ちもわからないではないです」というふうに、穏当な意見を返しておきますか? 他人にいい印象を与えようとするとき、悪い印象を残そうとするときよりもあいまいな答えをしがちであることを示したのは、ローザンヌ大学のピロード氏らです※1。実験に参加した大学生は、アンケート用紙を渡され「回答を読んだ教員にいい印象を与えるように」あるいは「悪い印象を与えるように」回答するようにと指示されました。その上で、遺伝子組み換え作物のことを考えたときに思いつく形容詞を最大10個、また、遺伝子組み換え作物について考えたときに生じる感情について最大10個を書き出
4月17日に話題になった「臨時情報」とは何か 4月中旬、「南海トラフ地震臨時情報(以下、「臨時情報」)」※1が話題になった。「臨時情報」は2019年5月から本運用が開始された新しい仕組みで、南海トラフ地震の可能性が通常より高まったと考えられる場合に気象庁が発表する。4月17日は南海トラフ地震の震源域付近の豊後水道でM6.6の地震が発生し、「あわや『臨時情報』が発表されるところだった」と注目された。一方で「臨時情報」そのものの認知度不足と、実用の難しさも改めて浮き彫りになった。そもそも「臨時情報」という言葉自体、この時に初めて聞いたという方が多いのではないだろうか。4月の騒動は「不確実な地震予測」をどう理解し、防災に活かすべきかという、我々が先送りにしている喫緊の課題ににわかに脚光を浴びせる一件でもあった。 確実な地震予測は難しいものの……。過去のパターンを防災へ活かすには 従来、東海地震に
斜に構えている人は頭がいい? 人間の本性は善だと思いますか? それとも、悪だと思いますか? 突然なにを言い出したのだと思われたかもしれません。世の中には、人間の本性は善であると考える人もいれば、人間の本性は悪であり、一見善良そうに見える行動でも、その究極の動機は自分のため、つまり利己心であって、人間というのは利己心を満たすためならばなんだってするんだよ、と考える人もいます。今回お話ししたいのは、人間の本性が善なのか悪なのかということそのものではなく、むしろこの「ある人が、人間の本性を善だと思っているか、悪だと思っているか」についてです。 人間の行動の動機づけは利己心であって心からの善意なんてものはないのだ! と考える傾向のことを、英語では Cynical と表現します。シニカルさというと、「皮肉」や「冷笑」と関連づけられがちですが、今回に限っては、「性悪説的な人間観」に近いものと考えていた
ラオスでは通じない、日本の常識 ある朝、こんな連絡が届いた。「水牛がおぼれて死んだので欠席します」。まったく頭に入ってこない。どうやらペットロスで悲しい、といったニュアンスではなさそうだ。 ラオスで始まった私たちJICA草の根技術協力事業「ラオス農村部住民の食糧事情向上を目指した昆虫養殖技術開発事業」のプロジェクトは3年目を迎えており、連絡のあった夫妻は今日の午前中、食用ゾウムシ養殖農家のメンバーとして、技術トレーニングを受ける約束だった。しかしどちらも来られないとのこと。 まず何が起こったのか、イメージができない。ウシっぽいけど牛じゃない、よく泥浴びをしている家畜が、溺れて死ぬ?そんなことがあるのか。そして溺れて死んだとして、それが彼らの欠席の理由になることも、ピンとこない。ふわっと頭に浮かぶフレーズ。「サボりではないか?」 たしかにラオスにはよくあることだ。期待通りに動いてくれないラオ
巧妙な仮説があった、野村克也監督のID野球 まずは野球の話題。Thinking Baseball 「考える野球」をブレイザー監督から受け継いだプロ野球の名監督故野村克也はID野球を提唱した。Import Data、データ重視野球、チーム編成や選手のプレイ上の判断は、経験や勘に頼るのでなく「客観的データを取り込んで科学的に進める」べきだ、と考えた。「勘ピュータ」と揶揄された直感や勘に頼る、野村の生涯のライヴァルである長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督の野球と好対照をなす、とされる。野球のデータにも種々あるが、実際の試合の記録であるスコアブックのデータならば、どのように生かすのか。例を示そう。 1)初球から強振する傾向のある外国人打者に、投手はボール球から入れと指示する。 2)内角に死球すれすれのボールで打者に意識づけをすると、外角低めの変化球で打ち取りやすい。 3)打球方向に偏りのある打者には、それ
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アドバイスは「した」側に効く お子さんに勉強をさせたい。わかります。ではどうすればいいでしょうか? 勉強すれば、いい成績を取れば、お小遣いをあげる、ゲームを買ってあげる……というような約束をするご家庭もあるでしょう。あるいは、勉強をうまく進める方法について、自分の経験をふまえて、お子さんにアドバイスをする親御さんもいらっしゃるでしょう。さて、ところでそのアドバイス、誰に「効く」でしょうか。 いえいえ、素直な子ほどアドバイスがよく「効く」というような話ではありません。そうではなく、アドバイスは、アドバイスをされたお子さんではなく、アドバイスをした親御さんにこそ、よく「効く」ようなのです。 アドバイスがアドバイスを「した」側によく効くようだ、という研究は、2019年に発表されています※1。研究対象者は、アメリカの高校に通う生徒たち約2,000人でした。このうち半分の生徒は、3学期の初めに、後輩
愚者は経験から学ばない 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言われます。初代ドイツ帝国宰相のビスマルクの言葉ですが、後半については、より詳細には、「自分の誤りを最初から避けるために、私は他人の経験から学ぶ方が好きだ」と言ったとされています。つまり、愚者は自分の失敗から学ぶが、賢者は他人の失敗から学ぶ、というように解釈できるかもしれません。 さて、ところでそれは、本当でしょうか? ビスマルク宰相は、愚者は経験から、つまり自分の失敗から学ぶと述べました。しかし、実は愚者は――より正確にいうと、人間の多くは――自分の失敗からは学ばないのではないか、という研究結果を、2019年にシカゴ大学のエスクレイス=ウィンクラー氏らが報告しています※1。 正解したという情報からは学べるけれども、不正解だったという情報からは学べない 研究者らは、参加者に二択問題を解かせました。参加者は2つのグループに分けられま
対面で誰かに話をするとき、読んでいない記事の内容を共有するか? 情報化社会という言葉が使われ出してから随分経ちました。今では、インターネットで情報を検索したり、その情報を他人とSNSを通じて共有したりすることが普通になりましたね。 さて、あなたのその「情報」、本当にあなたは「知って」いますか? なにを言っているんだと思われたかもしれません。しかし考えてみてください。あなたは、タイトルだけ読んだオンライン記事を他人に共有したことはないでしょうか? そのとき、あなたはそのオンライン記事の内容をきちんと「知って」いたと言えるでしょうか。 実は、とある研究によると、Twitter上で共有された記事リンクのうち、なんと半分以上が一度もクリックされておらず、当然読まれてもいないというのです※1。 これはある意味ではDX化による罠とも言えます。もし、対面で誰かに記事を共有するとしたら、タイトルだけ読んだ
ワクチンの効き方には個人差がある どんなに優れたワクチンでも、100%効くわけではありません。ついファイザーかモデルナか、というような比較をしがちですが、実は、ワクチンの効き方はワクチンを受ける方、つまり個人の状態によっても変わるということが知られています。 たしかに体質によって効きは違いそうだな、と思われましたか? 体質以外にも、喫煙者かどうかや、普段のアルコール量、ワクチン接種前後の睡眠の状態など、つまり身体の状態もワクチンの効きに影響します。さらには、ワクチン接種前後のストレスの量や、元々ポジティブな人かどうかなどの心の状態も、ワクチンの効果に影響するらしいことがわかっています。この記事では、主にこの心の状態の影響についてご紹介していきたいと思います。 2021年、オハイオ州立大学のマディソン氏とその共同研究者たちは、多くの文献を検証し、さまざまなワクチンの効果に心理的要因が影響する
chatGPTの登場により、私たちは改めてAIとは何か、意識とは、言語とは、思考とはどのようなものなのかを考えさせられることになった。この疑問が難題となるのは、LLMが「よくわからないもの」であるからでもある。機械学習の研究者である田口善弘氏は、LLMを生物学的に捉えられないかと考えた――。
合理性の罠 合理的な選択が、必ずしも人から評価される選択とは限らない、と言われたら、どう思われますか? ではまず、合理的な選択とはなにかについてお話しさせてください。早速ですが、次のような場面を想像してみましょう。 あなたは、ある大型プロジェクトの担当者です。プロジェクトにはすでに10億円の費用がかかっており、あと1億円あれば完了できそうな見通しです。しかし、専門家による試算によると、プロジェクトが完了しても赤字になる見通しだということがわかりました。あなたはあと1億円を出しますか?それとも、すでに10億円出したプロジェクトを断念しますか? 有名な問題なので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。この問題への経済学的に合理的な回答は、「1億円出さないで、プロジェクトを断念する」です。ええっ?どういうこと?と思われた方は、次のような場面と比べると、わかりやすくなるかもしれません。 あなたは
無意味な単語も「良い意味の単語だ」と思い込む 今回は、繰り返しのパワーについてお話ししていこうと思います。繰り返されたものに対して、私たちは「なんか好き」という気持ちを抱きます。自分はそんなに単純じゃないよ、と思われるかもしれません。さらには、繰り返し聞いた嘘に対しては、だんだん本当らしいと思ってしまうようにもなります。いやいや、これも当てはまらない、と思われたでしょうか? そして最後に、人は、繰り返しSNSで見たフェイクニュースなら、たとえフェイクだとわかっていても、他人にシェアしてしまうというのです。もう全く自分には当てはまらない!……でしょうか。さて、それぞれ見ていきましょう。 心理学では、何度も繰り返し出会う人、何度も繰り返し見た単語、何度も繰り返し聞いた音楽のことを、人は好きになってしまうことが知られています。皆さんも経験があるのではないでしょうか? 最初に聴いた時はそれほどでも
理想的な労働環境を整備してきたスタジオジブリ 宮崎駿が所属するスタジオジブリは、アニメーターにとってのユートピアであるかのように描かれることがある。スタジオジブリは1985年に設立された。1989年からスタッフを社員化・常勤化するとともに、動画研修生の制度を開始し、定期的な新人の採用に取り組み始めた。このときの状況については、プロデューサーの鈴木敏夫が具体的に語っている。それまでのアニメーション製作の体制では、通常より多額の予算を獲得していても、300人以上のスタッフを雇うとなると、アニメーター一人あたりの給与は月収10万円くらいになってしまった。しかも、一つの作品の製作が終わると解雇されるため、アニメーターの経済状態はきわめて不安定である。 宮崎は、それでは、人材確保ができなくなると見通していた。そこで、スタジオジブリは、スタッフを全員社員化し、給料を一人20万円の保証をすることになった
資本主義社会が拡大すれば、感覚が鈍化すると考えたマルクス 「君が食べたり飲んだりを少なくすればするほど、そして、本を買ったり劇場や舞踏会や居酒屋に行くのを控えれば控えるほど、また考え、愛し、理論化し、歌い、描き、詩作するのを抑えれば抑えるほど、それだけ君の節約度は高まり、虫にも埃にも侵されない君の宝が、君の資本が、大きくなる。」 これは、カール・マルクスによる『経済学・哲学草稿』(1844年)からの一節である。マルクスといえば言わずと知れた『資本論』等の共著者で、資本主義システムの構造の解明に努めた。そのマルクスにとって、人々(特に労働者)の身体、感覚や感性のあり方は、資本主義社会を分析するにあたり重要な要素の一つであった。マルクスによれば、19世紀半ば以降、資本主義社会が拡大していく中で、人々は資本を増やすために、感性を満たす、または磨くこと—例えば外食や読書、観劇など—をしなくなる。マ
国立音楽大学卒業後、複数の大学で音声学と心理学を学ぶ。音が人間の心身に与える影響を認知心理学、聴覚心理学の分野から研究。音声の分析は3万例以上におよぶ。また音楽・音声ジャーナリストとして音の現場を取材し、音楽誌や教材等への執筆多数。NHKラジオで講座を担当したほか、講演で音と声の素晴らしさを伝え続けている。一般社団法人 声・脳・教育研究所 代表理事。著書に『8割の人は自分の声が嫌い 心に届く声、伝わる声』(角川新書)、『人生を変える「声」の力』(NHK出版)、『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)などがある。 ウェブサイト:https://www.yamazakihiroko.com/ Twitter@yamazakihiroko
2022年7月8日、元首相が殺害されるという衝撃的な出来事があった。世界を震撼させたこの事件の背景には、犯人が新宗教によって家庭を崩壊させられた点が指摘されている。犯人によって名前を上げられている「統一教会」とはどのような組織なのか。また、かつて日本で大規模な事件を引き起こした新宗教との類似点はあるのか。前回に引き続き、宗教学者の島薗進氏が解説する。
ロシア連邦がウクライナに軍事侵攻した年として記憶されるであろう2022年は、ソヴィエト社会主義共和国連邦が誕生して100年という節目の年でもあった。ソヴィエト連邦ができた1920年代は第一次世界大戦後のモダニズムの時代で、世界の多くの国で都市文化・大衆文化が発展していく。アメリカではこの時代を「ジャズ・エイジ」と呼ぶことはよく知られているし、日本でも1923年に起きた関東大震災からの復興をきっかけに、現在にいたる多くの都市大衆文化の原型ができた。 江戸の町人はなぜ「革命」を起こせなかったのか ところでここで思うのは、1920年代に「大衆」として見いだされる以前、普通の人々はどのように位置付けられていたのかということだ。都市大衆の時代である1920年代に、男性だけに限られてはいたし、悪名高い治安維持法と抱き合わせでもあったが、日本ではようやく普通選挙が実現する。 もちろん政治参加への道は選挙
1982年生まれ。2016年大阪府立大学大学院人間社会学研究科人間科学専攻博士号取得。『性暴力と修復的司法: 対話の先にあるもの』(成文堂 2017年)で西尾学術奨励賞(ジェンダー法学会)受賞。『〈被害者の情念〉から〈被害者の表現〉へ―水俣病「一株運動」(1970年)における被害者・加害者対話を検討する』(『現代生命哲学研究』2018年)で社会倫理研究奨励賞(南山大学社会倫理研究所)受賞。近著は『当事者は嘘をつく』(筑摩書房 2022年)。
インターネットの普及は人と人との関係を確実に変えてきた。今や、ネットがなかった時代に比べ、赤の他人を傷つけ、また傷つけられる機会は格段に増えている。ではそれによって心に傷を負ってしまったとき、あるいは負わせてしまったときの対処方法は充分に示されているだろうか。もしかしたら「修復的正義」がそのようなときに適した処方箋になりうるかもしれない。「修復的正義」の研究者である小松原織香氏が紹介する。
未来のための再読ノート 2019年に逝去した作家の橋本治は共著も含めると200を超える著書を残した。だがその多くは現在、絶版あるいは入手困難である。没後、一部に復刊・再刊の動きもあるとはいえ、その膨大な著作の全体像を見渡すことは、書店に並ぶ本からだけでは不可能だ。本連載はそうした橋本の旧著を再読し、その思想をあらためて描き出そうとするものである。 橋本は生前、古今東西の多くの古典(『古事記』や『源氏物語』から『ハムレット』まで)に対して現代語訳や大胆な翻案を行ったが、橋本自身の著作もいまや「古典」と呼ばれるべき風格を供えている。再読、三読に絶えうるというだけでなく、読み返すたびに今日的な意味を投げかけてくれるのだ。 私自身が橋本治の読者になったのは十代の終わり、1980年代初めのことだ。だから、かつてリアルタイムで読んだ本のなかには、充分に理解が及ばなかったものもある。これから再読する本の
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