最近、土屋政雄の翻訳について話す機会があった。『日の名残り』の「プロローグ」の 原文と訳文をあらかじめ読んでもらい、その楽しみ方を話していった。以下はそのときに話した内容、話すつもりで十分には伝えられなかった点をまとめたもの である。 翻訳を職業にしている以上、当然といえば当然のことですが、すぐれた翻訳家が訳した本をよく読んでいます。何かのヒントが得られないかと考えて、原文と 訳文を見比べていくことも少なくありません。そうやって読んだ翻訳書は数百冊あります。そのなかで、これは名訳だと思えるものはそう多くないのですが、今 回紹介する土屋政雄訳の『日の名残り』は、文句なしの名訳、たぶん、ベスト5に入る名訳だと考えています。 土屋訳の「プロローグ」を読んで、これが翻訳なのかと驚いた人が少なくないのではないでしょうか。翻訳というより、土屋政雄が日本語で書いた小説なので はないかと。そういう感想をも