橋本治という「小説家」について語るのはむずかしい。現代を遠く離れた時代を舞台にした『窯変源氏物語』『双調平家物語』という二つの大河作品を完成させた後、近年に文芸誌に相次いで掲載された『巡礼』『橋』『リア家の人々』などの作品にみられる橋本治と、『桃尻娘』シリーズをはじめとする、1980年までの「現代小説」の橋本治とが、多くの人の中でうまく重ならないからだ。 「小説家」としての橋本治の不思議は、「近代文学」を明確に否定しつつも、頑としてポストモダニズムには流れない、という一点にある。ここでいうポストモダニズムとは、具体的には『群像』から1970年代後半~80年代はじめにかけてデビューした、村上龍、村上春樹、高橋源一郎の三人にみられる傾向を指す。ここに92年に46歳の若さで没した中上健次を加えれば、1980年代前半における戦後生まれの重要な「現代小説」の男性作家を網羅できたことになる。 彼らとほ