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大野万紀 今年のSFセミナーはいつもと同様、5月4日・5日に東京・御茶ノ水の全電通労働会館ホールで開催された。夜の合宿もいつもと同じ、本郷の鳳明館森川別館だ。昨年は1コマ目の企画に間に合わなかったのだけど、今回は早起きしたおかげで、朝一番の企画に間に合った。これって、本当に久しぶり(2006年の浅倉久志さん企画以来)だ。先日まで怪しげな空模様だったのだが、きょうは初夏らしいとてもいい天気。風があって少し涼しいくらい。 ロビーにはすでに大勢の人が集まっている。ディーラーズも開かれている。受付を済ませ、知人に挨拶し、会場へ。 なお、以下のレポートはメモをもとに記憶をたどって書いていますが、記憶違いや不正確な点もあるかと思います。不適切なところがあればお知らせ下さい。すみやかに訂正したいと思います。 新進作家パネル 石川宗生、草野原々 聞き手:鈴木力 最初の企画は、2016年に「吉田同名」で創元
先月はなんといっても『この世の片隅に』ショックで大変だったので、まずはその話から。 片淵監督に大量の資料写真を貸しだしたのはもう5年くらい前だったが、ようやく映画が完成したというので、どういう使われ方をしているのか確認がてら、公開初日に地元のおんぼろ映画館に『この世界の片隅に』を見に行った。 ・・・・・・・・・全く予想していなかった強烈な衝撃に襲われて、エンド・ロールの後ろで流れていた物語やクラウドファンディング出資者名ロールの下に映されていたアニメが目に入らないまま見終えてしまった。この衝撃の意味がわからず、ネットで検索すると絶賛の嵐であることはわかったが、そこに並ぶ言葉ではこの衝撃に釣り合わないのであった。とりあえず1週間後に2回目を見て、エンド・ロールと出資者名ロールで流されていたおまけアニメを確認してきたのだけれど、最初の衝撃を説明できる言葉には相変わらずたどり着くことが出来なかっ
みだれめも 第215回 水鏡子 少し古い話になってしまったが、『このライトノベルがすごい!2015』は例年にも増して読み応えがあった。 10周年到達ということで、レイアウトの刷新を始め、いつもより頑張ったのだろう。ずっと関わってきた執筆者一同にも思うところがあった気もする。そんななかでも、なにより得難かったのは、「ネット発小説特集」だった。いわゆる「なろう系小説」について、はじめて俯瞰的眺望をいただけたのである。 ライトノベルという業界は、新勢力の勃興が激しい。同工異曲がまたたくうちにあふれかえり、そこに工夫を凝らした作品が続々現れ、テンプレート化してジャンルの共有財産となっていく。そのこと自体はどこの小説ジャンルでもほぼ共通した傾向(※1)だが、ここに他メデイアで成長した文化が、その文化圏の客層を引き連れたり引き連れなかったりしながら新規参入を繰り返し、ジャンルの旧来読者のマイナー意識変
持続するヴィジョン 鋼鉄のエコロジー ――ジョン・ヴァーリイの世界―― 大野万紀 早川書房「SFマガジン」94年9月号掲載 1994年9月1日発行 「あと五年以内にペニスは時代遅れになります」 ヴァーリイの最新長編『スチール・ビーチ』は、こんなショッキングな(そしてちょっと下品な)書き出しで始まる。もっとも、ヴァーリイの作品を読み慣れている人なら、なんだいつものヴァーリイ節だと、かえって安心するかも知れない。 この言葉は、男性でも女性でもない第三の性への転換を売り込もうとする、未来の営業マンのセールストークなのだ。 ヴァーリイの世界はこのような意表をつくアイデアにあふれている。いや、アイデア自体は決して目新しいものではない。性転換、クローン、人工知能といった、SFではごくありふれたアイデアが、ヴァーリイの世界では新たな光を当てられ、そこから、現在の我々にとってはきわめて異様な、もう一つの日
第5回 菊池誠 他の用事と重なって欠席してしまったSF大会。こういうのは一度行かないと、そのままずるずると行かなくなってしまうかもしれない。まあ、それは前々回の夕張を欠席したときからわかっていたことではある。 それはさておき、そのSF大会に合わせて刊行された「SFファンジンNo.58」が届いた。オリジナルの「SFファンジン」は僕がSFファンダムにはいるよりもずっと前に出されたものだけど、復刊第一号からは僕も参加させてもらっている。といっても、今回は「空想科学小説コンテスト」の審査員に名前を連ねているだけなんだけどね。ファンジンなのにコンテスト、しかもこれ、一席は夢枕獏賞、二席は巽孝之賞として、いずれも賞金と副賞まで出るというもの。本誌もイスカーチェリとBAMUと科学魔界の合同誌というすごいファンジン(もちろん、体裁も中身も)なので、未読のかたはぜひ入手を。 さて、その「SFファンジンNo.
第4回 菊池誠 二ヶ月続けて原稿を落としちゃったし、今月も既に締め切り遅れてて、すみませんすみません。 というわけで、『いちから聞きたい放射線のほんとう』(菊池誠、小峰公子、おかざき真里)が発売されて、二ヶ月半。おかげさまで好評をいただいているようでうれしいかぎり。生まれて初めて朝日新聞やダ・ヴィンチにも書評が出たし、毎日新聞やテレビユー福島などのインタビューも受けたし、あ、『SFマガジン』も700号でカラーで紹介してくれたしね。東京電力福島第一原子力発電所の事故から丸三年経って、こういうやさしい放射線の本が今さら需用あるかなという不安と三年経った今だから落ち着いて基本的な本を読む余裕もできるんじゃないかという気持ちと両方あったのだけど、需用はあったみたい。放射線の知識のうちで今知っておきたいことだけをこれだけやさしく書いた本はないと思うので、ぜひ手に取ってみてください。やさしく書けたのは
第3回 菊池誠 亡くなった佐久間正英さんのことをちょっとだけ書く。親しかったとか、深い付き合いがあったとかいうわけではなくて、実際、お目にかかったのは二度だけで、ネット以外で言葉を交わした時間はたぶん10分かそのくらいだと思う。 佐久間さんのことはもちろん四人囃子の「ゴールデン・ピクニックス」から知っていて、もっと言うならアルバムが出る前、雑誌にそのレコーディングの様子が掲載された時から知っている。「ゴールデン・ピクニックス」はその前の「一触即発」がブリティッシュ・ロックぽかったのとはうって変わって、ヨーロッパ大陸側のプログレのようなカラッとした空気を醸し出すアルバムだった。その中の「カーニバルがやってくるぞ」は佐久間さんが四人囃子の前にやっていたミスタッチの曲ではなかったかと思う。四人囃子には本当にすごく影響を受けた。再結成後の四人囃子を三度見たと思う。 とはいっても、正直、佐久間さんの
開会式は、今の広島の風景の上に、SF映画やアニメに出てくる乗り物が普通に登場する短いCG映像の上映で、なかなか良くできていた。その後なぜか遊園地の怪人ショーみたいな演出があったりしたが、まあご愛敬。オープニングの後はまたディーラーズへ。水鏡子がいて、都築さんのところで水玉蛍之丞さんの「堺さんぽポストカード」なんてものを買ってしまう。 午前は「サイバーパンクの部屋」へ行く。菊池誠さんと瀧川仁子さんが司会していた。小谷真理さんらはみんな不在(他のイベントに行っていて到着が遅れたらしい)。 おもにPCの画面をプロジェクターで映してだらだらと話をしていた。サイバーパンクっぽいCMやら映画の予告篇を上映してこれは当たり、外れといっている。水樹奈々のPVは古いサイバーパンクのイメージ、カナダのサッポロビールのCMはサイバーパンクっぽいとか。マックスバリューのCMはサイバーパンクというよりトロンで、マツ
石原藤夫 『宇宙船オロモルフ号の冒険』 解説 大野万紀 ハヤカワ文庫JA 1984年8月20日発行 (株)早川書房 ISBN4-15-030191-3 C0193 ハードSFというジャンルは、非常に明確なようでいて、その実定義の難しいジャンルである。 例えば『SFエンサイクロぺディア』のピーター・ニコルズは、この用語に具体的な適用例がかなり異なる二つの用法があると述べている。その第一は「いわゆるSFの黄金時代に書かれたジャンルSFのテーマと、多くの場合そのスタイルを、反復しているような種類のSFをいう(浅倉久志訳)」。またその第二は「いわゆる〝ハード″サイエンスを扱っているSFをいう」。わが国でハードSFといえば、通常この第二の意味で使われることが多い(少なくともファンの間では)が、しかしこれはとても定義といえるものではない。 もう少し踏み込んだものとしては、本書の作者である石原藤夫さんの
みだれめも 第213回 水鏡子 ハヤカワSF文庫の研究 水鏡子作成、EXCEL形式のデータです。 Microsoft Skydriveにアップしてあるので、クリックするとブラウザ上で開くことができます。 〇はじめに 『都市』が20年近く絶版になっていることに気づいてハヤカワ文庫目録で動向を調べようと思い立ったのが今年の頭。本の雑誌三月号四月号で報告したあと、みだれめもで軽く整理してみるつもりだったのだが、ネットで渡辺兄弟(じゃなくて英樹ソロか)のあいかわらず病気なデータをみつけたことで欲が出てきた。けっこう大がかりなものが作れそう。 まず、謝辞とデータ元の紹介を。 「SF文庫データベース」渡辺英樹 http://www.asahi-net.or.jp/~yu4h-wtnb/database/database00.htm 「ハヤカワ文庫SF総覧Ⅰ」 kicchan.s19.xrea.com/
バリントン・J・ベイリー/冬川亘訳 『カエアンの聖衣』 解説 大野万紀 ハヤカワ文庫SF 昭和58年4月30日発行 (株)早川書房 THE GARMENTS OF CAEAN by Barrington J. Bayley (1976) この本はすごい。あなたがSFファンならぜひ読んでほしい。SFファンじゃなくても、SFというジャンルの特異性に興味をもっている人なら、やはり読んでほしい。SF本来のおもしろさというのは、こういうムチャクチャなアイデアのごった煮の中にこそ見つかるものなのです。 のっけからすごいすごいとわめいてしまったが、実をいえば、こういうSFはそれ以外にうまく表現し難いところがある。傑作とかいうのとは少し違う。いわゆる文学的評価にSFが必ずしもなじまないなと思うのはこんな時だ。かといって冒険やアクション主体のエンターテインメントともいいきれない(そういう側面もあるのだが)。
京都SFフェスティバル2010レポート 大野万紀 今年の京フェスは10月9日と10日。いつもの京都教育文化センターで本会、さわや旅館で合宿のパターンで開催された。 9日の土曜日は朝から雨。こんな雨の京フェスというのは記憶にない。京都教育文化センターへ着いたのは開始1時間ほど前。1コマ目は自分と、大森さん、小浜さんのが出席する「J・P・ホーガン追悼」。去年は「ベイリー追悼」だった。追悼企画ばかり出ているような気がする。 今回も適当に作ったパワーポイントをGoogle Documentに置いてあります。左の画像をクリックすれば、別ウィンドウで開くはず。 パワーポイントをプレゼンテーションパックにして持っていったのだが、この操作が慣れずに戸惑ってしまった。会場で見にくかった人、ごめんなさい。 パワポを表示しながら、まずは大森さんがホーガンが亡くなったときの状況を話す。DAICON以来ホーガンの友
『過ぎ去りし日々の光』(クラーク&バクスター)書評 大野万紀 早川書房「SFマガジン」01年2月号掲載 2001年2月1日発行 たった一つのアイデアから発展させたガジェットが、ここまで大きく感動を呼ぶ物語を作り出すことができる――本書は、そんなSFの優れた見本である。 現場を目撃する。この目で見る。もしあの時の、あの場の光景を実際に見ることができたら……。どこであれ、望むままに現在や過去の光景を見ることのできる装置。ボブ・ショウのスロー・ガラスより遙かに自由度が高く、クラークとバクスターがハードSF的なアイデアをたっぷりと注ぎ込んで作り上げたその装置〈ワームカム〉は、ひとことでいって、神の視線そのものである。この誰でも一度くらいは想像したことがあるだろうガジェットを用いて、クラークとバクスターは、ボブ・ショウがいくぶんセンチメンタルに描いたアイデアを、これでもかというくらいに徹底的に追及し
グレゴリイ・ベンフォード/冬川亘訳 『輝く永遠への航海』 解説 大野万紀 ハヤカワ文庫SF 平成9年6月30日発行 (株)早川書房 SAILING BRIGHT ETERNITY by Gregory Benford (1995) ISBN4-15-011194-4 C0197(上) ISBN4-15-011195-2 C0197(下) 本書『輝く永遠への航海』はグレゴリイ・ベンフォードの一九九五年の長編 Sailing Bright Eternity の全訳である。九五年にハヤカワ文庫SFで出版された『荒れ狂う深淵』Furious Gulf (1994)の直接の続編にあたるので、前作を未読の方はまずそちらを先に読むことをおすすめする。実際のところ、前作と本書とは二冊あわせてはじめて一つの長編として完成する作品となっているのだ。さらにいえば、本書は『大いなる天上の河』Great Sky R
岡本家記録(Web版)(読書日記)もご参照ください。9月は『日本SF・幼年期の終り』、『株式会社ハピネス計画』、『悪魔の薔薇』、『海神記(上下)』、『James Tiptree, Jr.: The Double Life of Alice B. Sheldon』などを収録。一部blog化もされております(あまり意味ないけど)。 ということで、ここでは上記に書かれていない記録を書くことになります。本編は読書日記なので、それ以外の雑記関係をこちらにまわしてみることにしました。 to 9月の記事と思っている間にもう10月ですね。先月も同じことを…。 京都SFフェスティバルが終わって、これで1年が暮れました――と言うにはまだ3ヶ月早いのですが、25年の習慣もあるので。 さて、今月は京フェス復習編です。当日(本会企画その3)のプログラム『ティプトリー再考』に使用したパワーポイントを再録して、当日のお
みだれめも 特別編 ー水鏡子の書庫公開ー (1/2) この正月に、アメリカ留学から帰国していた堺三保さんと青心社の小笠原さんが、水鏡子さんの自宅を訪問してご自慢の書庫を見学してきました。 そこで堺さんが撮影した写真の公開を、本人より許諾していただきましたので、ここにお披露目します。SFファンであること以外はごく普通の(とはいえないかも知れないが)一般人である人の書庫としては、とにかくすごいの一言で、あまりコメントもできませんが、これぞSF道のなれの果て、いや極め道といえるでしょう。(大野万紀)
アーサー・C・クラーク/山高昭訳 『楽園の泉』 解説 大野万紀 ハヤカワ文庫SF 昭和62年8月31日発行 (株)早川書房 THE FOUNTAINS OF PARADISE by Arthur C. Clarke (1979) ISBN4-15-010731-9 C0197 クラーク自身のことばによれば、本書がクラークの、最後のSF長篇である。そして、『宇宙のランデヴー』以降の最高傑作であると断言していいと思う。 巨大な人工物の驚異が、素朴だが強力な(そしてクラークの特色として、上品な)魅力をのびのびと発揮している。 少年の輝く瞳が見つめる上空の凧。ほとんど見えないくらい高く小さな四辺形、そこから自分の手元へとのびるか細い糸、だが、確かな、力強い張力を感じる。この糸をずっとずっと長くしていけば、いつか星の世界まで届くかもしれない……。 もちろん、凧の糸をいくら長くしたところで星の世界へ届
表紙の科学 第2シリーズの1 今回のお題 よく目にするラングトンのλとは、結局なんなのか(ver.1.0) 前回はクラス4セルオートマトンの絵を書いただけで、なんの説明もしなかったのだった。だって、あれって単なる裏表紙の埋草だったんだもん。スペースも小さかったし。今回から、いきなりスペースの制約もなくなっちゃったし、カラーの絵も使えるようになったんで、心機一転、第2シリーズをはじめることにする。その1回目は、前回あまりにも手抜きだったことを反省して、続きだ。似たような記事をよそにも書いたことがあるけど、今回はλの話を中心にする。これなら、ありものでいけるから、1時間以内で書いちゃうぞ。 複雑系・人工生命のの啓蒙書を読んでいると、必ずといっていいほど書かれているのが、クリストファー・ラングトンという兄ちゃんがハンググライダーで事故った話。ハンググライダーはもういいよ、って言いたくなりません?
京都SFフェスティバル2007レポート 大野万紀 今年の京フェスは25周年とか(1982年が第一回のはず)。水鏡子/鳥居定夫は皆勤賞だそうな。大森望はこの前病欠したので、残念。ぼくも(あんまり覚えていないが)何回か抜けたような気がする。 今年はまた10月開催で、10月6日と7日、本会が先で、後合宿の形式。本会の会場は京都教育文化センターだが、会場はいつもより少し狭いように感じた。10月初めの京都はまだ寒くない。糺ノ森では狸たちが忘年会の心配もせず、楽しく暮らしていることだろう。 11時から菊池誠による円城塔へのインタビュー。著者による30ページに及ぶ解説パワーポイントが作られていて、それを見ながらのインタビューというか、突っ込みにボケで返す、鋭いような緩いようなセッションが繰り広げられた。ペンネームは金子邦彦「カオスの紡ぐ夢の中で (小学館文庫) 」の中に出てくる小説「進物史観」の登場プロ
60年代ニュー・ウェーヴ 大野万紀 週刊朝日百科「世界の文学48 SFと変流文学」(朝日新聞社)掲載 2000年6月18日発行 SFがジャンルとして成長し、ほぼ今あるような姿を整えたのは第二次大戦前後から一九五〇年代にかけてである。わが国のSF専門誌であるSFマガジンが九七年に実施したオールタイム・ベスト投票において、海外SFのベスト一〇位に上がった作品のうち、『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン)『火星年代記』(レイ・ブラッドベリ)『虎よ、虎よ!』(アルフレッド・ベスター)『幼年期の終り』(アーサー・C・クラーク)《銀河帝国興亡史》(アイザック・アシモフ)『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キイス――ただし五〇年代に書かれたのは中編版)と、実に六編が五〇年代のSFだった。このように、現在まで読み継がれている名作SFの多くは半世紀近く前に書かれたものであり、今でもSFファンに強い印象
ハードSF 大野万紀 早川書房編集部編「SFハンドブック」掲載 1990年7月15日発行 早川書房 ハヤカワ文庫SF ISBN4-15-010875-7 C0195 SFは、本来「サイエンス・フィクション」の略だった。日本でも、昔は「空想科学小説」という用語が使われていた。この意味で、SFと科学とは切っても切れない関係にあったはずである。それがいつか、SFの意味する範囲が広がって、科学とほとんど無関係なファンタジイや冒険小説のたぐいもSFと呼ばれるようになり、本来の、より科学性の高いSFを「ハードSF]と呼ぶようになった。このように、「ハードSF」という用語は、拡大していくSFの領域に対する、SFファンの「本当のSFとはこんなものではなかったはずだ」という嘆きから生まれた、SFというジャンルの中での求心性をもった言葉であり(いや、昔はもっと簡単だった。SFをおおまかに「S派」と「F派」にわ
ポスト・ニューウェーブのアメリカSF 大野万紀 別冊宝島79「世紀末キッズのためのSFワンダーランド」掲載 1988年8月25日発行 JICC出版局 ニューウェーブの時代 今、SFを語るキーワードは〈サイバーパンク〉。この言葉は幸いなことに、SF村の外でもある程度通用するらしい。いやー、それどころか、SF村の外と内でも、極端な認識の違いはないようで(電脳にサイバーとルビを打ち、そのココロは要するに『ブレードランナー』ね)、実にめでたいことであります。 昔はこうはいかなかった。ホント。 昔、といっても大昔じゃない、二十年ほど前のこと。六〇年代終わりから七〇年代前半の、世の中が造反有理していたころ、それに対応するかのように、SF界でも〈ニューウェーブ〉と呼ばれる運動が起こった。SFにも変革を! というわけで、SFは外宇宙より内宇宙(イナースペース)を目指すべきだ、などというスローガンがあった。
神林長平 『グッドラック 戦闘妖精・雪風』 解説 大野万紀 ハヤカワ文庫 2001年12月15日発行 (株)早川書房 ISBN4-15-030683-4 C0193 我は、我である 本書は1984年に出版された『戦闘妖精・雪風』の続編であり、92年から99年にかけて〈SFマガジン〉に掲載され、加筆訂正されて99年にハードカバーで発表された『グッドラック 戦闘妖精・雪風』の文庫版である。作者、神林長平の、まさにライフワークというにふさわしい作品である。 これは異星の敵と戦う戦闘機とパイロットの物語だ。ほとんどそれだけのために特化されたような舞台設定があり、社会や人間のドラマはその背景にすぎない。戦争という極限状況の中での、クールなメカと運命を共にする主人公の、フェティッシュなともいえる共生関係が描かれる。しかし、ここで描かれるのは普通の意味での戦争ではない(本書ではそれを〈生存競争〉と呼んで
成熟と多様化の10年 70年代SFの諸相 大野万紀 早川書房「SFマガジン」00年10月号掲載 2000年10月1日発行 一九七〇年代を語るキーワードには、けっこう暗く、後ろ向きなものが多い。しらけ、挫折、内向、ミーイズム、モラトリアム、逃避的で自己中心的なライフスタイル、おまけに石油ショックだ公害問題だとくる。当時を生きてきたぼくらからすれば、何でそこまでいわれるの、というくらいのものだが、まあ客観的にはそういう時代の雰囲気があったと認めざるを得ない。六〇年代後半からの、変革を求める全世界的な盛り上がりが、なにやら期待はずれなまま腰砕けとなり、ベトナム戦争が終わってみれば今度はそのベトナムと中国が戦争したりして、理想と思っていた社会のあり方も色あせ、かといって現実世界の難問はこつこつと地道に取り組むには荷が重すぎる、人類は月までいったのに、その道は後へと続かなかった。しらけ鳥は南の空へ飛
2022/07/03 更新 大野万紀 文書館 ここは、大野万紀が以前に書いて商業誌等に発表した解説やエッセイ、SFスキャナーなどの原稿を収録していきます。といっても、あまり新しいものは入れていませんし、ファイルが残っているものだけなので、古いものもありません。大体1985年ごろからの内容になるでしょう。また、版権の問題があるので、翻訳については収録しません。 ファイルが残っているとはいえ、いろいろと形式が変わっているし、校正前の内容なので、右から左へと収録するわけにもいきません。そこで、暇を見ては少しずつHTML化して、増やしていこうと思います。 何しろ昔の原稿なので、その後の時間の流れによって色々と変わってきた部分も多いのですが、最低限のチェック以外、手を入れないで発表当時のままに収録しています。リストなどで、すでに翻訳のあるものが未訳になっていたりするのですが、これも当時のままとします
ロバート・L・フォワード/山高昭訳 『竜の卵』 解説 大野万紀 ハヤカワ文庫SF 昭和57年6月30日発行 (株)早川書房 Dragon's Egg by Robert L. Forward (1980) ハードSFの世界に一人の超新星{スーパー・ノヴァ}が現われた。その名はロバート・フォワード。本書『竜の卵』は一九八〇年に発表された彼の処女長篇であり、中性子星上の知的生命という魅力的な仮説を、科学的かつイマジネーション豊かに展開した傑作SFである。 * 今から三十年ほど前、ハル・クレメントは『重力の使命』で、地球の三倍から七百倍という大重力をもつ惑星メスクリンを舞台に、その自然条件に適応した非人間型知的生物の活躍を描いて、多くの読者に感銘を与えた。 クレメントが書いたのは、徹底的に異星人の立場から見た異星の環境だった。もちろん本当の異星人が人間と同じような思考をするはずがないという考え方
2001年改稿版・未完成ヴァージョン(ver.2.0) 水鏡子 (註 原版作成97年2月、THATTA掲載2000年何月だっけ? *2000年6月号です――編者) SFを読むためにまず評論集やガイドブックを買う人間がそんなにいるとは思えない。ふつう傾向の似かよった本を探そうとして、いちばんたよりにする手掛かりは、本のあとがき、解説の類だろう。そのときいちばん参考にするのはもちろんなかでとりあげられている本の書名や作家の名前であるけれど、もうひとつ注意を払う値打ちのあるのはその雑文をだれが書いているかということだ。解説を書く人間の守備領域は比較的決まっていて、作品の傾向にあわせて編集者が解説を発注していくからだ。 そうした解説者の守備領域に関する知識がかならずしも読者サイドに継承されてきていない気がする。そこで今回の初心者向けSFの小特集の補完として、主な文庫解説者の傾向と対策を時系列的(年
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/伊藤典夫・浅倉久志訳 『愛はさだめ、さだめは死』 解説 大野万紀 ハヤカワ文庫SF 昭和62年8月31日発行 (株)早川書房 WARM WORLDS AND OTHERWISE by James Tiptree,Jr. (1975) ISBN4-15-010730-0 C0197 センス・オブ・ワンダーランドのアリス (――と、このタイトルは誰かがどこかで使ってたような気がするけど、ま、いいか)。 彼女の名前はアリス。高名な探検家の父と作家である母に連れられて、十歳になるまでに世の中のありとあらゆる現実を見てしまった銀色の髪の美少女。幼いころから世界中を巡って、飛行機や銃によって荒される以前のアフリカ、月の山と呼ばれるルベンゾリを眺め、カルカッタの町では飢えた人々の間を歩き、まだ平和だったベトナムの森を小馬に乗って駆けた彼女。五歳のころ、彼女を女神のよう
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