Ⅰ.はじめに 画家であり同時に彫刻家であったA・ジャコメッティ( Alberto Giacometti, 1901−66 )の制作プロセスは,極めて独特のものであり,それは一言で言えば,形成と破壊の連続的な交替で成り立っていると言える。彼は常に,「視ること」と「創ること」の反復のプロセスそのものに力点を置き,作品の物質的な完成を度外視したのである。こうした彼の創造プロセスは,一見異色で奇異なものに映るかもしれないが,創造行為の本来の意義と目的を考えると,それはまさに必然的で正当なものと判断されるのである。芸術における作品創造のプロセスをもう一度見直し,その取り得べき本来の方向性とその展開の可能性について,ジャコメッティのアプローチを手がかりとして考察することが,本稿の目的である。その際,まず創造過程自体のもつ美術的意義の理論的証明が不可避であることは言うまでもない。本稿ではこの理論構築が,