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衆院選
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新聞やテレビの記者たちは、そもそもどんなリスク観や価値観に従って取材し、記事を書いているのか。確かに興味深いテーマだが、実はこのテーマに関して、しっかりと調べた学術的な研究調査はないように思う。今回は、私の体験に基づく論考だが、理系の科学者とは相当に異なるリスク観に基づいて、記事を世に送っていることだけは確かである。 記者たちのリスク観を知るのにちょうどよい素材がある。子宮頸がんなどを予防するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンをめぐる報道だ。HPVワクチンは2013年4月から無料で受けられる国の定期接種になったものの、ワクチンの接種後に「全身の痛み」などの諸症状を訴えた女子たちが現れたため、わずか2カ月後に国は「積極的な接種の推奨を中止する」との判断をくだした。これをきっかけに接種率は約8割から1%以下に激減した。 なぜ、こうも激減したのか。新聞やテレビがワクチン接種の危険性を煽った
震災から13年経ち、福島の復興は進んだ。無論、全てが元に戻ることなど有り得ず課題も山積するが、事故直後の被災地を目の当たりにした身にすれば、あの頃に感じた絶望からは程遠い未来の姿だった。復興に関わった全ての尽力に、改めて心からの感謝と敬意を表する。 その一方、地元では今でも「風評・偏見差別」が強く問題視されている。行政は対策の主軸を「正確な情報発信」にしてきたが、効果は不透明だ。現に、昨年海洋放出が本格化したALPS処理水を未だ「汚染水」と呼び続ける勢力は少なくない。これまでの「風評対策」は有効だったのか。 2022年、独立系シンクタンクアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)事故調報告書は、行政の対策を「風評被害の概念が曖昧」「有効性への視点が不足」「(正確な情報発信方針は)真っ当な態度のように見えるが、実際には風評と正面から向き合うこと、差別や偏見を持ちその解消を阻害しようとする
事前の予想通り、としか言いようがない。 東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水(以下処理水)についての話題は、実際に放出が本格化すると急激にしぼんでいった。 8月に行われた1回目の放出開始直後こそ中国による日本産海産物前面輸入禁止措置も取りざたされたが一時的で、10月に行われた2回目の放出では、ほとんど話題にさえされなかった。「汚染水の海洋放出反対」と繰り返し訴えてきた一部活動家や政党なども、すでに全く別の「反対」運動に移行した。この傾向はGoogle Trendsを見ても明らかだ。 当然ながら、放出後の海域モニタリング注2)でも全く問題は見られていない。そもそも『処理水を流しても有意な「汚染」など起こさない』ことなど、最初から判り切っていたことだ。 さらに、懸念されていた風評被害も起こらなかった。むしろ処理水放出直後からは沢山の応援の声が寄せられ、福島県内自治体へのふるさと納税は急
前回までの記事『風評対策の機能不全、発信を弱体化するレトリック』前後編で指摘したように、日本の各専門家らは「風評加害」に対する公的なコミットメントが弱すぎた。 そればかりか、貴重な情報発信や伝達をむしろ弱体化させ、問題の温存・長期化を助長した可能性さえ示唆されている。 科学に背を向けた専門家 しかし、事態はそれだけに留まらない。専門家や学識者の一部には正確な情報発信や伝達を露骨に妨害したり、科学的に明らかな誤りを平然と発信・擁護する動きまでも相次いだ。 今年の4月6日、夏から本格化予定のALPS処理水(以下処理水)の海洋放出に対し《世界平和アピール七人委員会》が大石芳野、小沼通二 池内了、池辺晋一郎、髙村薫、島薗進、酒井啓子諸氏という権威ある学識者たちの連名で『汚染水の海洋放出を強行してはならない』との声明(日本語版と英語版)を発信した注1)。 世界平和アピール七人委員会とは1955年に平
前回:風評対策の機能不全、発信を弱体化するレトリック(前編) 誰が科学と社会の橋渡しを担うのか さらに、科学と社会の橋渡しをするべき科学コミュニケーションの専門家も、処理水風評問題に消極的であったと言わざるを得ない。先月、サイエンスコミュニケーターとして知られる東京大学の内田麻理香特任准教授に『東電原発事故関連の「風評加害」に対峙して問題解決してくれる専門家として、誰をどのように頼れば良いのか』『科学コミュニケーションの専門家達が何をしているのか、正直あまり見えない』とSNS上で問いかけた注1)ところ、『以前、処理水について書いたものがこちらになります』と同氏の記事注2)を紹介された。 記事では処理水に関する復興庁の情報発信を『人びとが科学を受容しなかったり、科学について不信を抱いたりするのは、人びとの科学的知識の欠如が原因だから、人びとの科学的知識を増やせば問題は解消するはずだという想定
東電原発事故に伴う風評問題が拡大・長期化した背景には、「事実に反した流言蜚語を広める」「明らかになっている知見を無視する」「すでに終わった議論を蒸し返す」「不適切な因果関係をほのめかす印象操作や不安の煽動」などを繰り返すことで、正確な情報の伝達妨害と誤解や偏見の既成事実化をはかった「風評加害」の存在がある。 前回では、ALPS処理水(以下処理水)が泥沼の社会問題化した要因にこれら「風評加害」があったこと、それら風評加害が続いた3つの理由と従来の「風評対策」が充分に功を奏しなかった原因、社会が「風評加害」を抑制どころか事実上のインセンティブを与え続けてきた現状について述べた。 風評が拡大・温存され続ける負の連鎖を断ち切るものは何か。誰が役割を担うべきか。 災害などの非常時に広まる流言に関する先行研究、たとえば米国人社会学者タモツ・シブタニ著“流言と社会”では、流言を防ぐ役割が「マスメディアや
今春から、東京電力福島第一原子力発電所では汚染水を無害化処理したALPS処理水(以下処理水)の海洋放出が本格化する。これは廃炉と復興を進める上で避けられない工程にもかかわらず、風評への懸念を理由に先延ばしされてきた。 処理水放出が本格化しても、海洋汚染など起こり得ない リスクをもたらす放射性物質は多核種除去設備(advanced liquid processing system、ALPS)によって充分に低減され、トリチウムも海洋放出時には国の定めた安全基準の40分の1(WHO飲料水基準の約7分の1)未満まで希釈する注1,2)。世界では福島の処理水と比べ文字通り桁違いのトリチウムが海洋あるいは大気中に放出され続けてきたが注3)、その影響が科学的根拠と共に示された例も無い。海洋放出の安全性と妥当性は、IAEA査察からも裏付けされている注4)。 海洋放出には反対の声も根深いが、その理由は(特に地
ウクライナの戦争に端を発した欧州発のエネルギー危機が起きている。 ドイツをはじめ欧州諸国は、液化天然ガスや石炭など、これまで忌み嫌っていたエネルギーの調達に躍起になっている。また石炭火力発電所を可能な限り稼働させる手配をしている。欧州が世界中で買い漁っているせいで、世界のエネルギー価格は暴騰している。 この煽りを最も受けて、貧しい国、特に化石燃料資源を持たない開発途上国は、いま悲惨な状態になっている。 スリランカの経済が破綻し大規模デモがおきて政権が転覆したのは、数々の失政が重なった結果であるが、とどめの一撃となったのは燃料費の高騰でガソリンが輸入できなくなったことだった。 いまの開発途上国でのエネルギー危機は、単にウクライナの戦争のせいではない。近年になって、欧米の圧力によって化石燃料事業への投資が停滞していたことが積み重なって、今日の破滅的な状態を招いているのだ。 インド人の研究者であ
事業に「ただ飯」がないのは常識だ。事業で儲けようとするならば、それなりのリスクを取った投資が必要になる。リスクが高い事業ほど収益率は高い筈だ。リスクが低い儲かる事業には新規参入者が現れ、収益率はリスクに見合ったレベルまで低下する。この常識に当てはまらない大きな投資を伴わずリスクもそれほど大きくないが、収益が期待できると考えられていた事業がある。発電設備を保有しない企業による電力小売り事業だ。 もっとも今年になり卸価格上昇によるリスクが露見したので、これから事業を諦める企業も出てくるだろう。やはり儲けるためにはリスクを取る必要があるのだが、そうは考えていなかった新規参入事業者も多くいたようだ。電力の自由化を巡る動きからは市場とは何か考える材料もいくつか見つかる。 新電力と呼ばれる新規参入の小売事業者の大半は、「電力」という呼び方をするのが問題と思われるほど発電設備を保有していない。多くは、電
動画配信サービスのNetflix(ネットフリックス)で配信されているドラマ「新聞記者」が話題になっている。そのモデルとなっているのは、菅義偉・官房長官(当時)に食い下がった記者として知られる東京新聞社会部の望月衣塑子記者だ。これを機に新聞記者のリスク観や価値観(意図)と組織(新聞社)の関係、論理を、私自身の経験(1974年~2018年までの毎日新聞記者)から考えてみたい。 記事は記者1人で作るものではない そもそも記者はどこまで自由なのだろうか。一般には「記者は取材さえすれば、何でも書ける」というイメージをお持ちかもしれないが、そんなことは全くない。結論から言うと、記事は媒体組織(新聞社やテレビ、雑誌など)から出てくるものであって、一記者から出てくるものではないということだ。 具体的な例を挙げよう。かつて、市民から嫌われている遺伝子組み換え作物に関して、「農薬使用量が削減され、米国やスペイ
3.11以来、処分方針が定まらず棚上げされてきたいわゆる「処理水」(東京電力福島第一原子力発電所で発生した汚染水を多核種除去設備等で処理し敷地内のタンクに貯められてきた水)の取り扱いについては、政府が2021年4月13日に海洋放出の方針を決定し新たなフェーズに移行した。 政府が福島県内外の漁業関係者等への説明・協議を続ける一方、東京電力は国の基準の40分の1未満に希釈した処理水を沖合約1キロの海中に放出すべく、海底トンネルをつくって配管を通す工事の準備を進めている。海洋放出は2023年春ごろの開始が目標とされており、海水希釈は100倍以上を予定しているため、敷地内部に大量の海水をくみ上げるためのポンプの設置工事なども進む。 この行政的・実務的プロセスが積み重ねられていく中、看過されている問題がある。いわゆる「風評」の問題だ。 これまで処理水放出については反対の立場を述べる者の中には、処理水
核融合炉からも放射性廃棄物は出る。しかし、発電所の敷地内で管理することで放射能は短い時間で減衰し、廃棄物を減らすことができる。 ウランなどの核分裂反応では、核分裂でできる元素そのものに、高レベルや長寿命の放射性元素が含まれる。これは核分裂反応の宿命である。 これに対して核融合では、反応で直接発生するのはヘリウムと中性子のみである。この中性子は、できるだけリチウムに吸収させて燃料である三重水素を増殖するのに使う。だがこのとき、中性子がリチウムに吸収される前に周辺の材料に吸収されると、放射性元素になることがある。すなわち、「周辺の材料が何か」によって、発生する放射性元素の種類も、その量も変わる。それゆえ、核融合による放射性廃棄物を減らすため、工夫を凝らすことになる。 前回の記事「核融合を実現する材料のメドはもう立っている」で紹介した核融合用の材料である低放射化フェライト鋼は、放射性廃棄物を減ら
菅首相の「2050年に温室効果ガス0」宣言や参議院本会議における「気候非常事態宣言」などでCO2温暖化説が話題になっていますが、この説はMITの優れた気象学者だったR. Newellが1979年に発表した4頁の短い論文によって否定され終わっていた筈でした。 ところが、R. Cess, S. Schneider, W. Kellogg, V. Ramanathan, F. Luther, R. Watts, A. CraneらCO2温暖化論者たちはこの論文を激しく非難し、R. Newellは研究資金を得られない状況に追い込まれました。 コンピュータモデルを用いるIPCCのCO2温暖化説は、1958年にまだ貧しかった日本を脱出して渡米したプリンストン大学の真鍋淑郎氏(以下真鍋)が創始しました。真鍋は基本論文(1964/67)の1次元モデルとスパコン「地球シミュレータ」で走る気候モデルの原型であ
代替指標を用いた多くの研究や古文書によって、気候は太陽活動に支配されていることが明らかになっています。本稿では日本の気候に関する知見を紹介します。 縄文~江戸時代の気温推移 日本の縄文時代は完新世最温暖期にあたり、気温は現在より2°Cほど高く温暖で湿潤な気候でした。縄文人が好んで食べた貝類の殻を捨てた貝塚が内陸部で見つかっていることから、海面は今より3-5メートルも高く、縄文海進と呼ばれるように海岸線は内陸部に大きく食い込んでいました。また縄文人は「トウカイハマギギ」という熱帯魚の一種を食料にしていたことが、岡山県の彦崎貝塚や佐賀県の東名貝塚から骨が大量に発見されたことで明らかになりました。現在は寒冷な東北地方にある三内丸山遺跡で高度な縄文文化が長期間維持されたのも、当時の気候が今よりうんと温暖だったことが根本的な要因です。 図表1に示すように、縄文時代に続く弥生時代は気温が低下し飛鳥時代
再エネ拡大は必至 菅首相は4月22日に米バイデン大統領が主催した気候変動サミットに合わせて、2030年の温室効果ガス削減目標を13年比で46%削減し、さらに50%削減の高みを目指すと宣言した。従来の26%削減目標から一気に20%も上積みしたことになる。13年の排出量が14.1億トンなので46%削減でも7.6億トンを目指すことになり、直近の19年度排出実績12.1億トンから11年間で4.5億トンも削減しないといけない計算となる。これを実現するためには省エネの最大限の実施と自動車の電動化に加え、電力の脱炭素化が必須となるが、大規模脱炭素電源である停止中の原発の中で、審査終了・審査中を合わせて18基の原発が、20年以降にすべて稼働しても注1)、CO2削減に貢献するのは約7000万トン前後注2)である。そこで期待されているのが再エネの導入拡大であり、中でも計画から建設までの足が短く、FIT制度等に
3月10日付けの江守正多氏の「組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心」を大変興味深く読んだ。特に本サイトで紹介されたGWPF(Global Warming Policy Foundation)の記事、「熱帯の空:気候危機論への反証」について具体的な反論を展開されているのは非常に勉強になった。 同時に「温暖化懐疑論・否定論」という用語については注意を要すると感じた。ウィキペディアで「地球温暖化に関する懐疑論注1) 」を検索してみると「地球温暖化や気候変動は人為的なものではない、地球は温暖化していない等という学説や意見」と概括的な説明があるが、中身を見ると「温暖化の科学的知見に関する議論・疑問」、「温暖化の原因に関する懐疑論」、「炭素循環に関する議論」、「予測内容への批判」、「温暖化の影響に関する議論」、「IPCCに対する批判」、「温暖化対策に対する批判」。「メディアへの批判」、「政治的陰謀・圧
国際環境経済研究所は、「経済と環境の両立」をめざし、ウェブを通じて情報を発信する場として機能しています。設置の目的にあるように、地球温暖化対策への羅針盤となることも目的とし、温暖化問題に関する多様な意見も発信しています。 その観点から、英国のシンクタンクGWPF(地球温暖化政策財団)の温暖化問題への視点をホームページ上で紹介していましたが、国立環境研究所・地球環境研究センター江守副センター長から、GWPFのレポートは一面的な見方が多いとのご指摘を戴き、具体的な内容に関する寄稿を戴きました。 当研究所の掲載は、主席研究員を中心とした論考が多いのですが、いつもの論考とは異なる視点の論考もお読み戴ければ大変幸甚です。 英語圏における組織的な温暖化懐疑論・否定論 人間活動を原因とする地球温暖化、気候変動をめぐっては、その科学や政策を妨害するための組織的な懐疑論・否定論のプロパガンダ活動が、英語圏を
2020年7月1日にレジ袋が有料化されて間もなく一年が経とうとしています。昨今、レジ袋をはじめプラスチックストロー、ペットボトルなどプラスチック製品の削減が叫ばれていますが、その主たる目的は「海洋プラスチック問題」とされています。たとえば、プラスチック資源循環戦略(令和元年5月)の「1.はじめに―背景・ねらい―」には以下の記述があります。 本戦略の展開を通じて、国内でプラスチックを巡る資源・環境両面の課題を解決するとともに、日本モデルとして我が国の技術・イノベーション、環境インフラを世界全体に広げ、地球規模の資源・廃棄物制約と海洋プラスチック問題解決に貢献し、資源循環関連産業の発展を通じた経済成長・雇用創出など、新たな成長の源泉としていきます。 また、プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン(令和元年12月)の「1.プラスチック製買物袋有料化制度の背景・概要」にはこう書かれています。 プ
(「月刊ビジネスアイ エネコ」2019年6月号からの転載) 経済が破綻しているベネズエラは、世界最大の石油埋蔵国である。 ハイパーインフレの進行で物価上昇率は年率200万%を超え、国外に脱出した難民も200万人を超えている。1990年代終わりに日量300万バレル超えていた産油量も、今年3月には同100万バレルを割り込んだ。 大産油国にもかかわらず、どうしてこんな事態になったのか。いや、むしろ大産油国だったからこそ、経済破綻に直面してしまったのだろう。その背景と「石油の富」というものを考えてみたい。 ベネズエラの歴史 ベネズエラは1811年、スペインとの独立戦争を経て独立した。1958年に民主制を確立し、それ以降、選挙で大統領を選出している。2大政党による政権交代が行われ、かつては米国ともおおむね協調的な関係を維持してきた。 1960年のOPEC(石油輸出国機構)創設では、当時のアルフォンソ
(「サンケイビジネスアイ」からの転載:2020年12月13日付) 記事を読むと、この新聞は東京電力などの大手電力会社を嫌いだと分かることがある。嫌いな理由の一つは、福島第1原発の事故だろう。事故を引き起こしたのは、安全対策を怠った東電、との報道が事故後は多くみられた。 中には、「電力会社は地域独占の下、コストを保証された総括原価主義により無駄な金を使ってきた」と言いながら、「コスト削減のため福島第1原発での安全対策を怠った」と矛盾する報道もあった。コストを保証されているのであれば、安全対策費を節約する必要はなかったはずだ。 将来の供給力を確保 最近、大手電力会社が悪者にされているのは、将来の供給力を確保する「容量市場」と東北電力・女川原発の再稼働だろう。一般の読者にはなじみがない容量市場の基本を解説せずに、「大手電力会社の収入を増やし、消費者の負担を増やすのが容量市場」と説明するのは、いく
(「月刊ビジネスアイ エネコ」2019年3月号からの転載) 東日本大震災に見舞われた福島の復興のシンボルとして注目されている「福島復興浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」(2011~18年度、図)。最終年度を迎えるにあたり、3基のうち2基の実証期間を1年延長するとともに、1基を撤去する方針が打ち出されました。 洋上風力発電には、風車などの発電設備を支える基礎部分を海底に固定する「着床式」と、海に浮かべる「浮体式」があります。浮体式は世界でもまだ実例が少ないものの、日本の場合、周辺海域の水深が深く、海底の地形も複雑なことから、浮体式も有望視されています。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の調査によると、日本近海で洋上風力が導入可能な面積は、浮体式が着床式の約5倍あるそうです。 同実証研究事業は、国から委託を受けた「福島洋上風力コンソーシアム」(東大と丸紅など企業9社)が実施し
「風力発電のコストは下がり続けている」という意見をよく聞く。しかし英国の「会計報告を調査した結果、実際にはコストは上昇した」、とする報告を紹介する。 本稿は、英国の再生可能エネルギー財団(Renewable Energy Foundation、ジョン・コンスタブル所長)が2020年11月に発表した2つの大部にわたる報告書について、同財団の協力を得て筆者が作成した邦文による紹介である。報告の詳細については以下を参照頂きたい: 風力発電の経済学: レトリックと現実 (英語) 論文の著者はエディンバラ大学スクール・オブ・エコノミクスのゴードン・ヒューズ教授である。2001年まで世界銀行のエネルギー・環境政策の上級顧問を務め、世界銀行の環境ガイドラインを担当していた。また環境政策の策定・実施に関して英国政府の顧問を務めた。専門は経済データの統計分析である。 英国と欧州では、政策決定者と投資家が、低
前回:再エネで脱炭素化は幻想である 第1部 自然変動再エネは安いのか?(その1)(その2) エネルギー革命は到来するか? 第一部では、太陽光、風力といった変動性の自然エネルギーで社会のエネルギー需要の多くを満たそうとした場合に直面する課題と困難さについて、OECD/NEAの報告書をベースに紹介してきた。第二部では、そうした既存の自然エネルギー技術によって社会全体のエネルギー技術革命を起こすことが、大きなチャレンジであることを別な観点から指摘している論考について紹介したい。筆者は元レーガン大統領の元科学技術アドバイザーで、現在マンハッタン研究所の上級研究員、ノースウェスタン大学工学部の製造科学イノベーション研究所行動所長を務め、2016年には米国エネルギー学会の“Energy Writer of the Year”を受賞しているMark P. Mills氏である。以下、同氏が19年3月に発表
新型コロナウイルスの緊急事態宣言が7都府県に発令されてから、およそ3週間が経ちました。様々な自粛要請がなされる中、宣言の解除予定である5月を心待ちにされている方もいらっしゃると思います。しかし、解除は可能なのでしょうか。また、もし宣言が解除されたとして、私たちはパンデミック前の生活に戻れるのでしょうか。 時間稼ぎという戦略 もし、今後主要都市での新規感染患者数が減れば、緊急事態宣言は5月に解除される可能性もあります。しかし、それは、私たちが新型コロナウイルスにかかりにくくなったことを意味しません。 前稿でも述べた通り、ある個人が免疫力を獲得した、ということを証明できる検査は、今のところ存在しません。もちろん現行の検査でも「人口の〇〇%が既に感染しているから、感染リスクは下がるだろう」という試算はできますが、それは、私たちが「ウイルスに暴露されても大丈夫」になるわけではない、ということは忘れ
前回:新型コロナウイルスの科学(2) “We have a simple message to all countries – test, test, test. Test every suspected cases” (我々が全ての国に送るシンプルなメッセージ‐検査、検査、検査。疑わしき症例は検査) 3月16日、世界保健機関が世界へ向けこのような発信をしました注1)。この発言により、検査件数の少ない日本の現状に焦りを覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。 たしかに今日本で検査が充足しているとは言えず、検査を拡充しよう、という声ももっともです。しかし、その焦燥感の中、私たちが決して忘れてはいけないことがあります。それは 「検査は精度が命」 ということです。 病院の台所 「〇〇さん、血糖が高いから薬替えますね」 「A型の輸血用意して!」 「腫瘍マーカーが下がってきました。治療が効いてま
前回:新型コロナウイルスの科学(1) 今、新型コロナウイルスの検査、といえば、Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応:PCR)検査を思い浮かべる方が多いでしょう。この検査につき、日本では検査件数が少なすぎるのではないか、という指摘がしばしばなされます。しかし、「PCR検査が足りていない」という意見は主に次の3つの異なる主張に基づくものであることに注意が必要です。 1つ目は、他国と比べ日本だけ検査件数が少ないことを懸念する国際保健的な意見。検査件数の少ない日本で発症患者数が少ない。これでは海外に信用されないのでは、という意見です。 2つ目の意見は、「無症候の患者がたくさんいて周りに広めているのなら、症状があろうがなかろうが全例検査すべきだ」という疫学・数理学的な理屈から生じる意見です。 3つ目の意見は、「熱が続いていて希望しているのに検査をしてもらえないのは
今般世界中に甚大な影響を与え続けている新型コロナウイルスによるパンデミック災害。専門家の方は日々新しい情報を発信し、政府機関は対策を強化しています。しかし情報の目まぐるしい更新の中、専門外の方々は今の対策にあまり納得を得られていないのではないでしょうか。 私が特に心配するのは、他分野でのハザード対応に詳しい方々の反応です。今回のパンデミック対策は、例えば放射線防護とはその方法がかなり異なります。原子力発電所事故後の福島県では、大規模な被ばく線量測定がいち早く行われました。この測定が住民の方々に安心を与えたことも知られています。一方で今回のアウトブレイクでは、検査を受けるために厳しい条件が設けられています。これは政府のダブルスタンダードなのではないか。そのような不信を覚える人もいるかもしれません。 新型コロナのパンデミックを収束させるためには、今取られている対策の意味を社会全体が理解し、協力
(英 Global Warming Policy Foundation(2019/06/19)より転載 原題:「SAVE THE OCEANS Stop recycling plastic」) 海洋プラスチックゴミ危機が宣言され、世界中のマスメディアがこぞって一面でこれを報道してきた。欧州連合 (EU) など各種アクターは、海洋ゴミに宣戦布告した。年間で 1,000 億トンものプラスチックゴミが海洋に捨てられ、野生生命に被害を与えている。国際廃棄物協会(ISWA)――この分野で最も能力の高い専門家組織――は海洋ゴミ危機の起源を次のようにまとめている。 『低所得経済から中高所得経済における陸地起源の海洋ゴミの75%は、塵芥と未収集廃棄物に由来しており、陸地起源の海洋ゴミの残り25%は廃棄物管理システム内から漏出するプラスチックである。』 言い換えると、ISWA 報告によれば漏出の 25%はエ
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