サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
ノーベル賞
courrier.jp
中国で日本人男児が刺殺された悲劇を受け、一部の中国人が政府に目をつけられることを覚悟で、事件の背景にあるとされる「反日教育」を批判しはじめた。「日本人を憎め」と教えられてきた彼らはいま何を思うのか。彼らの動揺や怒りに、米紙「ニューヨーク・タイムズ」の中国籍の記者が迫った。 男の子は「反日感情」の犠牲者 2024年9月18日、中国で登校中の日本人男児(10)が刃物で刺された。その日付は、ほぼ1世紀前に日本による中国侵略が始まった1931年9月18日と同じだった。 男児は翌朝に死亡した。警察は現場で44歳の中国人男性を逮捕し、その男は犯行を認めたという。 日本の指導者たちは中国側に説明を要求した。中国政府は、この殺害を「個別の事件」と呼び、日本に対して冷静になるとともに「政治問題化」するのをやめるよう求めた。 一部の中国人は、男児は中国で高まる「反日感情」の犠牲になったとみている。それは中国政
離婚、整形、16歳年下の彼女 ジュニオール・カルヴァーリョの人生にほころびが生じたのは2022年春のことだった。29年間連れ添った妻から離婚を切り出されたのだ。 ワンベッドルームの質素なアパートに引っ越し、子供たちと会う機会も減った。食べすぎ、飲みすぎ、テレビの見すぎの生活を送った。 52歳にしてすでに老いを感じていた。孤独死は避けたかったが、こんな自分を誰が求めるだろうか。喪失感と不安を抱え、毎日何時間もビーチを歩いた。 歩くうちに体重が減りだした。ジムに通いはじめ、パーソナルトレーナーを見つけた。サプリメントとテストステロンを摂取した。鍛えて強くなり、筋肉もついたが、目標には近づけなかった。 彼が目指していたのは、ブラジルの太陽の下で、シックスパックの腹筋を輝かせながら颯爽(さっそう)とビーチを歩く、ありえないほど魅力的な男たちの容姿だった。 ネットで検索すると答えが見つかった。超高精
Text by Claire Fu and Daisuke Wakabayashi Photographs by Gilles Sabrié 出生率の低下が止まらない中国では、子供向けのビジネスが立ちいかなくなっている。そこで、彼らが目をつけたのがシニア向け事業だ。幼稚園は老人ホームへと形態を変え、スクールでは子供にダンスを教える代わりに、高齢者にモデルウォークを教え、インフルエンサーになる方法を伝授する。米「ニューヨーク・タイムズ」紙が、中国で盛り上がる「シルバーエコノミー」の最前線に迫る。 リー・ドンメイ(36)は10年以上、中国の出生率低下という現実に耐えながら、幼稚園や幼い子供向けスクールの系列を運営してきた。ついにその結果を引き受けねばならなくなったのは、2020年のことだった。 子供の数が減るということは、彼女の学校に入学する赤ちゃんや幼児の人数も必ず減るということだ。新型コロ
シリコンバレーのグル 「いまからおよそ一四〇億年前、いわゆる『ビッグバン』によって、物質、エネルギー、時間、空間が誕生した」 イスラエル人歴史家ユヴァル・ノア・ハラリの著書『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(2011年)はこのように始まる。そしてこの一文によって、21世紀のアカデミアにおいて最も目覚ましいキャリアのひとつが始まった。 『サピエンス全史』はさまざまな言語に訳され、全世界で2500万部を売り上げている。その後もハラリは数冊の著書を出版し、さらに数百万部を売り上げた。現在ハラリは15人ほどの職員を雇い、仕事のマネジメントや自身のアイデアを発展させるのを手伝ってもらっている。 アシスタントの雇用はハラリにとって不可欠だった。滅多にオンライン上に登場しない著名人として、ハラリはダライ・ラマの次に有名だろう。 彼はスマホを使わない(「時間と集中力をとっておきたいんです」とのこと
印刷機の歴史的意義 AIにつながる先例として、可動式印刷機を挙げる人は多い。彼らいわく、この発明はヨーロッパに書物を氾濫させ、それが科学革命へとつながった。 ハラリはこの物語を怪しいと見ている。印刷が科学のために用いられることを保証するものは何もなかった、と彼は述べる。1543年にコペルニクスが発表した『天体の回転について』は、初版わずか500部を売り切ることもできなかった。それは「オールタイム・ワーストセラー」だったと、作家アーサー・ケストラーが冗談にしたくらいだ。 逆に売れた本といえば、ハインリヒ・クラーマーの『魔女に与える鉄槌』(1486)が挙げられる。これは魔物と番い、人間の男のペニスに呪いをかけるという性に貪欲な女たちが、悪魔的な陰謀を企てていると喧伝した書物である。 歴史家テイマー・ハージグは、この本を「前近代において印刷されたもののうち、おそらく最も女性嫌悪的なテクスト」と表
真の報道がない世界 情報時代の経済は油断ならないものだ。そこでは、安く消費できるが、利益の少ないコンテンツが生み出される。 たとえば、ターゲティング広告付き無料コンテンツがジャーナリズムに与えた影響を考えてみよう。2005年時点と比較して、米国ではすでに全体の約3分の1の新聞、3分の2以上の新聞関連職が失われ、新聞関連の被雇用者のおよそ7%がニューヨーク・タイムズという単一の企業に勤めている。 21世紀の米国──情報革命の頂点にして中心──において、我々は「ニュースの砂漠」、すなわち報道が実質的に消滅する場所について語らなければならない。 AIはこの状況を悪化させる危険がある。優れたチャットボットがありさえすれば、各プラットフォームは外部コンテンツへのリンクを必要としなくなる。チャットボットが同じコンテンツを合成できるからだ。 グーグル検索はユーザーを外部サイトに送り出すことになるが、チャ
アップルではやり尽くした アップルを離れてからの5年間、ジョナサン・アイブは何をしていたのか──彼が所有する土地にそのヒントが眠っている。 数億ドルもの資産を持つアイブは、サンフランシスコのジャクソン・スクエアにある複数の不動産を、4年かけて手に入れた。 最初の物件を購入したのは、新型コロナのパンデミックが始まったばかりの頃だった。当時、IT業界の大物はこぞってサンフランシスコを脱出していた。だがアイブには、1990年代に移住してきたこの土地を去るという選択肢はなかった。 「サンフランシスコは、たくさんの優秀な人材を惹きつけてきた土地です。ところがパンデミックで社会が停滞したとたん、多くの人が離れていきました。しかし私は、この街に恩義を感じていました」 白い長袖のパーカーとチノパン、クラークスのワラビーシューズといういで立ちで取材に応じるアイブは、このエリアにクリエイティブな人々を集めたい
ジョナサン・アイブ(57)がアップルのCDO(最高デザイン責任者)を退いて、まもなく5年が経つ。 現在アイブは、米サンフランシスコに拠点を構える。アイブが所有する建物群はハンノキの木々に囲まれている。 私たちはそのうちのひとつで、ジャクソン・スクエアにある築115年の2階建ての建物にいた。1840~50年のゴールドラッシュの時期に発展したジャクソン・スクエアは、チャイナタウンと金融街の間に位置している。 「最初にこの物件を買って、それから気づいたんです。ここは広いし、街の中心部にあるじゃないかとね」と、仏高級眼鏡ブランドであるメゾン・ボネの老眼鏡をかけたアイブは言う。 そこはもともと駐車場だった。がらんとした土地を目の当たりにすると、そこにないものが見えるとアイブは言う。たとえば庭、そしてアイブが愛するロンドンのリバー・カフェのように、人が集まって交流できる場所──アイブは次々と近隣の物件
俳句を詠む際に使われる「季語」。その季節を表す言葉であるはずだが、気候変動の影響を受けてズレが出てきているという。スペイン紙記者が、この環境の変化が俳句の世界にもたらす影響を考えた。 地球温暖化によって引き起こされた気候サイクルの乱れが、日本の伝統的な詩形である「俳句」に影響を与えはじめている。俳句は、ときの流れや自然のリズムに着想を得て、儚い世界を創り出す詩である。世界で最も短い詩形の一つとして知られ、典型的な形式は、5音、7音、5音で構成された3つの句からなり、「季語」と呼ばれる季節を表す言葉を含むことが求められる。 その役割は、描写される場面の季節感を伝えることにある。国際俳句協会理事で、日本大学で英文学を教える木村聡雄はこう説明する。 「この規則の起源は、私たちの日常生活にあります。誰かと会うと、私たちはたいてい天気について話します。『暑いですね』や『雨はやむでしょうか』といったよ
2028年までに完了予定 ロシアと中国が共同で月面に原子力発電所を建設するプロジェクトが進行しており、インドメディア「ミント」は、インドもこのプロジェクトに参加する可能性があると報じている。 月面では夜が14日ものあいだ続くため、太陽光発電などに頼らず電力を継続的に供給できる原子力発電への期待は大きい。 将来的に月面居住地を建設した際に電力を確保することがこのプロジェクトの目的だ。最初のミッションは2026年に予定されており、2028年までに完了する予定だという。 同プロジェクトを主導するロシアの国営原子力エネルギー企業ロサトムは、この月面原発は小規模な地域を賄うほどの電力(最大0.5メガワット)を供給する計画を発表している。 ロサトムのプロジェクト責任者アレクセイ・リハチェフは、月面原子力発電所の構築に関して、「中国やインドのパートナーもこのプロジェクトに強い関心を持っている。国際宇宙プ
魚を締めるための日本固有の技術「活け締め」。この技法を用いれば、魚を長時間苦しませることなく、鮮度もより良く保つことができる。海を超えて輸出されたこの日本の技がいま、フランスの美食家たちを魅了している。 午前10時30分、静岡県焼津市──小さな店の前で、競りから戻ってくるライトバンの到着を十数人がいまかいまかと待っている。がっしりした身体つきの男が顔を輝かせて車から降りてくると、喜びの声が一斉に上がった。 その男の名前は、前田尚毅(まえだ・なおき)。彼は、市長などといった地元の名士というわけではなく、魚屋「サスエ前田魚店」の5代目で、迎えに出ていた小さな一団はわざわざ車を4時間走らせて京都からやって来た料理人たちだ。彼らはここで、「どうやったら海産物の良さを最大限に引き出すことができるのか」を会得しようというのである。 「前田さんの技術は、唯一無二のものなんです」と地元のシェフ、井上靖彦が
人工知能(AI)は、喧伝されているほどの期待には応えられないとMIT経済学教授のダロン・アセモグルは主張する。だから、AIに闇雲に投資するのはリスキーだと──。AIをめぐる物語は今後どう展開していくのか。アセモグルが3通りの筋書きを提示する。 人工知能には何の反感も持っていない──ダロン・アセモグルは、真っ先にそのことをはっきりさせようとした。AIのポテンシャルを理解するアセモグルは、インタビューに入ってから数秒でこう断言した。 「私はAI悲観論者ではありません」 では、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の有名なアセモグル教授を、この先高まる経済・金融の危機を見据える予言者然とさせているものは何なのか。 それは、AI技術をめぐる執拗な誇大宣伝があり、その煽りをうけて投資ブームが生まれ、テック株式市場が激しく上昇していることにある。 AIはたしかに有望かもしれないが、誇大宣伝どおりになる
『断固たる日本──企業を復活させるリーダーたち』(未邦訳)の著者である早稲田大学の池上重輔教授、そして米ウォートン・スクールのハービル・シン教授とマイケル・ユジーム教授は、日本の大企業のCEOや幹部たち100人以上にインタビューを実施し、成功の秘訣を尋ねた。 めざましい成長を遂げたビジネスリーダーたちのエピソードから浮かび上がる「持続可能な会社を創るリーダーシップ」とは? 長期の目標に短期の目標を組み合わせる 『断固たる日本──企業を復活させるリーダーたち』(未邦訳)のなかで、池上たちは次のように書いている。 「私たちが出会った強い意志を持つ日本のリーダーたちは、欧米に比べてより長期的な計画に集中しつつも、短期の目標設定を組み合わせていることがわかった。 同時に彼らは、投資家だけでなく顧客たちを重視している。一方で米国企業は、投資家によって支配されている。日本のリーダーたちは、リスクを恐れ
過重労働で失われた命 英紙「ガーディアン」によると、経済ブームに沸くインドで、ある若い女性の「過労死」事件が波紋を呼んでいる。 7月20日、大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)で勤務していた公認会計士のアンナ・セバスチャン・ペライユ(26)が、入社から約4ヵ月後に亡くなった。英通信「ロイター」は、その死因を急な心肺停止であったと報じている。 それに対し、彼女の母親はEYインドの会長、ラジブ・メマニに手紙を送り、娘の死は「圧倒的な仕事のプレッシャー」のせいだと非難した。この手紙は9月にソーシャルメディア上で拡散されて大きな議論を引き起こし、同社は政府の調査を受けている。 手紙には次のように書かれていた。 「彼女は息つく暇もなく、週末さえ夜遅くまで働いていました」 「絶え間ない要求と非現実的な期待に応えなければならないというプレッシャーは持続可能なものではありません。そうして多くの
日本でも「親ガチャ」という言葉が話題になったが、経済が停滞する中国でも、親から既得権益を受け継ぐ富裕層への反感が高まっているという。中国で格差が急激に拡大する社会背景を英誌「エコノミスト」が取材した。 高まるエリート層への反感 中国ではSNS上で、「タバコ企業の3代」という言葉が広く使われるようになった。この言葉は、「国有タバコ企業の管理職といった優良な仕事を代々受け継ぐ特権エリート層」を指す。 85万人以上のフォロワーを持つあるブロガーは、ミーム化したこの言葉を引き合いに出して次のような投稿をした。 「世襲制のせいで、限られた人しか支配階級の恩恵にあずかることができない。彼らがそれ以外の階層の機会を奪っているため、底辺にいる人たちはそこからはい上がることもできない」 この投稿に、数百人が賛同した。 ある人は「支配階級は固定化されつつある」とコメントし、またある人は「エリートの子供は出世す
「友達」と呼べる人はいるのに、関係が希薄で孤独を感じてしまう──そんな人もいるかもしれない。米誌「アトランティック」によれば、そうした孤独を感じている人が米国に大勢いるという。 もっと深い仲になりたい 公衆衛生総監や何十人もの研究者によれば、米国人は「孤独のエピデミック」に悩まされているという。そう聞くと、誕生日パーティーに呼ぶ相手もいない、友達のいない世捨て人ばかりの国家を思い浮かべるかもしれない。 だが2つの新しい調査によれば、米国の孤独はもっと複雑だ。平均的な米国人は、ソファでひとりでTikTokを見る前に「集まろうよ!」と数人に連絡し、そのまま寝落ちしているらしい。つまり、米国人には友達がいる。ただし本当に会うことはない。 7月に発表された研究のために、コロラド州立大学のナタリー・ペニントン教授と論文の共著者たちは、米国の成人約6000人を対象に、友人関係に関する調査をおこなった。
毎日、目の痛みに苦しむ もう20年以上、農薬散布の飛行機の音がリデス・ゴメスの日々の生活のリズムを作っている。コスタリカの、カリブ海に面したリモン州の都市マティーナ。明け方と夕方には、その上空に大量の飛行機が飛ぶ。バナナ農園に、粘着性のある農薬を噴霧するのである。 ゴメスの質素な木造住宅を囲む、どこまでも続く緑のバナナ農園は、グルーポ・アコーンの傘下、リモフルーツ社の所有物である。この会社は、コスタリカのバナナとパイナップル輸出産業の主力に数えられる。 ゴメスは3人の子供を育てるシングルマザーであり、コスタリカ国立大学の地域毒性物質研究所(IRET)の研究に協力した、451人の女性のひとりだ。バナナに用いられる殺虫剤への暴露に関するこの研究は、足かけ14年にもわたり、甲状腺や妊婦の胎児生育への影響を明らかにしてきた。
かつて強大な権力を握っていた日本の官僚は、いまや憧れの職業ではなくなった。その過酷な労働環境から「ブラック霞が関」とも呼ばれ、若く優秀な人材がスタートアップ企業へ流出していると、英誌「エコノミスト」が報じる。 日本の官僚は「冬の時代」を迎えている 「おれたちは国家に雇われている。大臣に雇われているわけじゃないんだ」 小説『官僚たちの夏』の主人公、風越信吾は誇り高くそう言う。通商産業省(現・経済産業省)の官僚である風越は、階級がわずかに高いだけの政治家である大臣に対し、挨拶のために立ち上がることを拒んだ。 1975年に出版されたこの小説は、戦後の高度経済成長期、名門大学の卒業生がこぞって一流官庁の仕事を求めた時代に、日本の官僚がいかに権力を持っていたかを物語っている。当時の高級官僚は、エリート銀行員に匹敵するステータスと権力を有し、日本の国家機構を動かしていた。 しかし、このようにかつて強大
【今回のお悩み】 「最近、夫婦間の会話が少ない気がします。どうしたら会話を増やすことができますか?」 最近、夫婦で話すことがあまりなくなった。家ではテレビを見ていたり、外出先でも沈黙が続いたり。時間を惜しむように夢中で話していた時代はどこへやら。どうしたら、そんな状況を好転させることができるのでしょうか。哲学者の岸見一郎先生に聞いてみました。 本当のところは、会話が少ないのは今に始まったことではなく、前からそうだったのかもしれません。結婚当初からずっと会話が少ない夫婦もいると思います。ですが夫婦間の会話が少ない気がするのは、以前多かった時と比べて、今は少ないと感じているということです。 以前は今よりも会話が多かったとすれば、まず、付き合い始めた頃とは違って、長く一緒にいると、いちいち細かなことまで説明しなくても話は通じ、相手が次に何をするかもわかるようになるからです。 会話が少ないことは快
父は些細なことで突然怒りを爆発させ、怒鳴り散らかす。子供のころから怒鳴り声に浴びながら育ってきた筆者だが、そんな父の怒りの奥で横たわる痛みに気づき──。 この記事は、愛をテーマにした米紙「ニューヨーク・タイムズ」の人気コラム「モダン・ラブ」の全訳です。読者が寄稿した物語を、毎週日曜日に独占翻訳でお届けしています。 名前のない傷 僕は“怒れる世界”に生まれた。子供の僕が最初に学んだことは、家の至る所にある目には見えない引き金の存在を理解して、それに触れないようにすることだった。 母は、しょっちゅう父に対して怒っていた。兄は両親の離婚と、6年間一人っ子だったあとに生まれた僕の存在に動揺すると同時に、しょっちゅう僕に対して怒っていた。そしてベトナム帰還兵の父は、絶えず、僕たちの誰かに怒鳴り散らしていた。 絶叫とわめき声の形で訪れる父の怒りは、ほんの些細なことで誘発された。それは、兄が夕食のときに
受刑者が受刑者を介護 刑務所に行けば、その国が犯罪者をどう扱っているのかがわかる。世界には、音楽スタジオやトレーニングジムまで備えた人道的な刑務所もあれば、衛生管理が行き届かず、劣悪な環境に囚人たちが詰め込まれている刑務所もある。 英紙「オブザーバー」は、日本最大の刑務所である府中刑務所を訪ねた。ガラス張りの「市役所に間違えられるような」玄関と、FC東京を応援する垂れ幕のかかった受付エリアを通って独居房のエリアに行くと、そこには「穏やかで、整然とした雰囲気」が漂っていた。シミひとつないミントグリーンの壁の独居房には、きれいにたたまれた寝具や山積みの本が置かれている。 府中刑務所には1700人ほどの受刑者がいる。そのうち370人は外国人で、彼らは英語と中国語のラジオの視聴を許可されている。近年、刑務所全体の受刑者数が減少しているため、外国人受刑者の割合はわずかに上昇している。だが、それ以上に
円の下落を受けて、旅行するのに「安い国」となってしまった日本には、大量の観光客が押し寄せている。そのせいで、日本人が重視する公共の場でのマナーが脅かされていると、スペイン紙が報じている。 公共の場における極端なまでの礼儀正しさとマナーの良さが、日本のオーバーツーリズムの“被害者”となっている。日本の通貨が下落するにつれ、文化よりも買い物に関心がある観光客のあいだで、日本の評判が高まっているのだ。 「最近は、文化に関する予備知識は皆無で、行き当たりばったりにやってくるお客が増えています」とエンリケ・メディナは嘆く。マドリード出身の写真家の彼は、観光ガイドとして、とくにスペインとラテンアメリカからのグループを連れて日本を巡っている。 「少し前までは、外国人観光客はいつも『予習ができた』状態で日本にきていました」と彼は続け、4月に満開の桜を見るために訪れた観光客らを例に挙げる。桜の開花は毎年お待
英紙記者がランチをしながら著名人にインタビューをする連載「あの人と昼食を」。現代金融経済学の第一人者であるユージン・ファーマは、株価にはすべての情報が正確に反映されるとする「効率的市場仮説」を提唱してノーベル経済学賞を受賞した。ファーマはこれまでバブルは存在しないと主張してきたが、AIブームで歴史的な水準に沸く株式相場についてファーマはやはりそれでも、「株価は適正」と言うのか。 世界でもっとも影響力のある経済学者の視点 金融経済学者ユージン・ファーマとのランチが、株式市場で大もうけすることと同じくらい困難だということは承知していた。初めてインタビューを申し入れたのは2021年で、新型コロナウイルス感染症によるロックダウンが継続中で断念した。 それならばとビデオ通話を提案すると、断固拒否された。ファーマから、「ものを食べながら話をする人をズーム画面で目にすることは我慢がなりません」というメー
超富裕層の子供たちは、どんな生活をして、どんな大人になっていくのか。社会の不平等について研究する、ドイツとデンマークの大学の社会学者が、世界トップクラスに学費が高いスイスの高校の生徒たちを調査した。 学費世界トップの学校に通う子供たち 超富裕層の子供たちというのは、テレビドラマの格好のテーマだ。しかし、彼らの生活や考え方、野心などが本当はどんなものかは知られていない。そこで、年間の学費が12万スイスフラン(約2000万円)という世界で最も学費が高い高校の生徒たちから話を聞いた。インタビューは在学中と、その5年後に実施した。 富裕層の子弟のための、その学校は全寮制で、スイスのアルプス山中にある。まず初めに、在学中の生徒らを15ヵ月にわたって観察し、インタビューをした。話を聞いたのは、それぞれの生い立ちや背景、学校の環境、将来の計画などだ。 それから5年後に同じ生徒たちに再び質問し、卒業後に起
中絶の禁止や同性愛者への差別など、「キリスト教的」とされる性の価値観が、世界の分断を助長している。だがこうした教えのなかには、聖書に明確な記述が見当たらないものもあるという。英誌「エコノミスト」がキリスト教史研究の権威の主張を紹介しながら、現在のような性的価値観が生まれた経緯を考察した。 聖母マリアは聖霊によって処女のまま妊娠したとされているが、初期のキリスト教徒は「処女」と「懐胎」という2つの相反する状態がなぜ同時に成り立つのか、不思議だった。 いったいどのようにして、神はマリアのなかに入ったのだろう? 神学者たちはこの謎を解明すべく、生物学を無視した壮大な議論を繰り広げた。「神は、マリアの体のあらゆる穴から彼女のなかに入ることができたのだ」と彼らは考えた。
この記事は、ベストセラーとなった『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者で、ニューヨーク大学スターン経営大学院の経営学者であるスコット・ギャロウェイによる連載「デジタル経済の先にあるもの」です。月に2回お届けしています。 先週、わたしは50歳の誕生日を祝った(そう思ってくれ)。これは一つのマイルストーンであり、振り返りの機会でもある。わたしはそれを……やりすぎるくらいやる。過去50年間、おそらく過去500年間よりも多くの技術革新と破壊が起きたのではないか。 両親が離婚した年、わたしは夏をシカゴの父と過ごした。週末には、父の都心のオフィスに行き、WATSライン(注:Wide Area Telephone Serviceの略で、1960年代から1980年代にかけて企業が利用していた定額制の長距離電話サービス)を使って母に電話をかけたものだ。長距離電話は1分4ドルだった。母親
国民の43%が貧困に苦しんでいるとされる赤道ギニア。だが、同国の大統領のご子息はそんな状況をもお構いなし。湯水のように金を使い、自分の靴の色に合わせてその日に乗るロールス・ロイスを決めたり、「ガールフレンド」の買い物に8万ドル(約1150万円)を費やしたりするなど、常軌を逸した生活を送っているという。 テオドロ・オビアン・ンゲマ・マングには好きなものが2つある。それは「派手な豪遊」と「自分」である。だから2018年、自分の49歳の誕生日を祝うにあたって、出し惜しみはまったくしなかった。 友人からはテオドラン、一般の人からは「閣下」や「王子さま」と呼ばれるこの人物。自分の誕生日を全世界に知らしめるため、大富豪だけが催せる盛大な祝宴を開いてみせた。 祝宴の会場は、赤道ギニアの首都マラボにある大きなホテルにした。これは、彼の父親がこのアフリカ中西部に位置する小さな国の大統領の座に1979年からず
驚きの閉店率 9月、『ミシュランガイドニューヨーク』に12の新しいレストランが追加された。「高級フランス料理」から「エコシック」にいたるまで、さまざまなジャンルの料理を提供するこれらの店は、今回の成功を祝うことだろう。 タイヤメーカーでありながらレストランの評論も手がける同社のガイドブックに掲載されることは、高級レストランで最も切望される「ミシュランの星」獲得への第一歩となる。 しかし、学術誌「ストラテジック・マネジメント・ジャーナル」に最近掲載された研究によると、レストランは「星ナシ」でいるほうが良いのかもしれない。 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの経営学部助教ダニエル・サンズは、2000年から2014年の間にニューヨークにオープンし、米紙「ニューヨーク・タイムズ」のレストランレビューで星を獲得したレストランのその後を追跡した。 その結果、これらの前途有望なレストランのうち、ミシュラ
地域の夏祭りが突如、急転して、ただならぬ事態に陥った。1998年7月25日、和歌山市で住民67人がヒ素入りのカレーライスを食べて中毒を発症し、そのうちの4人が死亡した。 疑いのまなざしは、ほどなくしてこの近所の嫌われ者だった林家に向けられることになった。一家の母親である林眞須美には、保険金詐欺の疑いがあった。事件当日、林眞須美は調理されたカレーの見張りをする当番のひとりでもあった。 「マスコミは最初から犯人は地元の誰かだと決めつけていました」とフリージャーナリストの片岡健は言う。 悲惨な事件の1ヵ月後、「朝日新聞」がスクープを飛ばした。同紙の一面に「事件前にもヒ素中毒」の見出しが躍った。毒物混入事件が起こる以前に、同地区の民家で飲食した2人がヒ素中毒になっていたという記事だ。 すっぱ抜いた内容に間違いはなかった。林の家で、眞須美の夫である健治と知人の男が保険金の詐取を目的として少量のヒ素を
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『クーリエ・ジャポン | 海外メディアから記事を厳選!』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く