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料理はタイミングがすべて。フレンチシェフの小林圭(46)は、それを忠実に再現する。一品を出すところで食事客がトイレに向かおうとすれば、引き止めることも辞さない。生理的欲求は待てる場合があるが、彼が提供する料理には最高の味を堪能すべきタイミングがある。 食事客にそこまで要求する厚かましさと頑ななまでの姿勢は、フランス修行時代の師匠のひとりから学んだ言葉、「シェフは王さま」そのものだ。小林がオーナーシェフを務めるパリの店「レストランKEI」は日本人シェフとして初めて、フランス版「ミシュランガイド」で三ッ星を獲得した。 東京で取材に応じた小林は、「それくらいの世界観がなければ、シェフを名乗る資格はありません」と言い切る。 2020年、レストランKEIでミシュラン最高峰の三ッ星を獲得した小林はこの2年弱、故国の日本で新たにレストランを4店開き、自らの野心を次々と実現させてきた。 小林は、「ひとかど
スマホやソーシャルメディアが子供たちに害を与えているという懸念が高まっている。スクリーンを見つめつづける生徒たちに、米国の学校も困惑しているが、そんななかで、生徒のスマホ使用の制限に成功した副校長がいた。 米国の中学校副校長の挑戦 2年前、レイモンド・ドルフィンがコネチカット州のあるイリング中学校の副校長になったとき、生徒たちの様子がおかしいのは明らかだった。 問題はスマホだった。校則で禁止されているにもかかわらず、生徒たちは授業中に携帯電話を使っていたのだ。ソーシャルメディアによって、生徒間の対立はほとんどすべて悪化していた。廊下やカフェテリアを見ると、スクリーンにかじりつく生徒がほぼ必ず目についた。 そこで2023年12月、ドルフィンは思い切った決断をした。携帯電話の使用を禁止したのだ。生徒や保護者の一部からは反発を受けた。しかし、この実験はすでに予想以上に大きな成果を生んでいる。
【レシピ】Chopped Salad With Chickpeas, Feta and Avocado タンパク質もしっかりとれる「ひよこ豆とフェタチーズ、アボカド入りチョップドサラダ」
5月20日、ICCの主任検察官カリム・カーンが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相ならびにヨアヴ・ガラント国防相に対する逮捕状を請求した。これは逆説的にも、ネタニヤフにとって利益になるかもしれないという。いずれにしても、複数のメディアの分析が示唆するところによると、この前例のない決定は、ネタニヤフを窮地に追い込むどころか、イスラエル社会、そして政府の結束を強めることになりそうだ。 「イスラエルの脆弱な戦時内閣は、崩壊の危機に瀕していた」。ジャーナリストのジェイミー・デットマーは米メディア「ポリティコ」でそう指摘する。「ベニー・ガンツ前国防相は、ネタニヤフが戦後の行動計画を策定しない限り、内閣から離脱すると脅していた」。だが、「その発言はICCの発表を受けて保留されたようだ」という。 この逮捕状請求は、反ネタニヤフ派や、左翼系メディアを含めた、イスラエルのあらゆる方面からの反発を招いてい
その旅行代理店は、「不可能なことでも提供する」という。フランス誌「フィガロ・マガジン」の記者がその実力を目の当たりにした。彼らが訪れた場所、それは墨田区の「聖域」相撲部屋や、浅草の地下にある占い館だけではない。 隈研吾の美学を知る 「東京にカオスをもたらしたい」──完璧な英語でそう話す男の顔には、長年のキャリアを感じさせる皺が刻まれていた。世界的スター建築家、隈研吾(69)は穏やかに語る。パリにある故高田賢三の自邸の改装を手がけたのも彼、東京の国立競技場も、大成建設、梓設計と組んだ彼の仕事である。 青山にある隈の事務所は、いたるところに図面台が置かれ、構想の過程を示す殴り書きのクロッキーが散乱している。この創造的無秩序にほっとさせられる。もっとも偉大な建築家であっても、消しゴムと鉛筆を使うのだ。 「江戸時代、日本の建物はすべて木造建築で、高さは3m以内、狭い道は徒歩にちょうどよく、人々が交
座りっぱなしでいるよりも立っているほうが、なんとなく健康にいい気がする。だが立ちっぱなしでいるのも、それはそれでしんどい。そもそも、「健康にいい」とはどういうことなのか。具体的にどれくらいの時間、座っているまたは立っていると、どう健康にいいのか。 もっといえば、1日24時間をどんな活動にどれくらい費やすのが、われわれの健康にとって最適なのか。 オーストラリアの研究チームが、こうした問いに答える研究論文を発表し、一般向けの解説メディア「カンバセーション」でそのエッセンスを紹介している。 健康にいい活動の時間配分とは この研究チームは「健康にいい」を定義するために、心臓疾患、脳卒中、糖尿病の危険因子に着目し、さまざまな活動時間の組み合わせがそうした因子とどう関連するのかを調べた。 研究対象は2000人以上の成人で、参加者はまず胴囲、血糖値、インスリン感受性(低下すると血糖値が下がりにくくなる)
3人で構成されるイスラエル戦時内閣のメンバー2人が相次いで、「ハマス掃討後のガザ地区の統治計画を作るべきだ」と述べて、軍事侵攻のみに終始するベンヤミン・ネタニヤフ首相の対応を批判した。 ネタニヤフは「ハマスの敗北までは戦後についての議論は無意味だ」などと反論し、方針を変えるつもりはないようだ。 2023年10月7日のハマスによる攻撃以来、国家の危機を乗り切るべく挙国一致を掲げてガザ侵攻を続けるネタニヤフ政権だが、いまや完全に内部分裂している。 ネタニヤフを公然と批判したのは、首相と同じ与党「リクード」に所属するヨアブ・ガラント国防相と、野党第一党の「国民統一党」党首で首相の政敵でもあるベニー・ガンツ前国防相だ。 ガラントは5月15日のテレビ演説で、イスラエル軍によるガザ支配を否定し、ハマスに属さないパレスチナ組織と国際組織による統治がイスラエルの利益にもなると主張した。 そのうえで、「ガザ
英国人監督ジョナサン・グレイザー(59)の最新作『関心領域』(2024年5月24日より公開)は、アウシュビッツで起きた残虐な行為を映像ではなく、音で表現した驚くべき作品だ。 映画『関心領域』の予告。米アカデミー賞で国際長編映画賞・音響賞の2部門を受賞した他、カンヌ国際映画祭でグランプリ、英アカデミー賞で英国作品賞などを受賞している グレイザーが取材の場所に選んだのは、ロンドン北部のカムデンにある昔ながらのイタリアンレストランだった。温かい人柄のグレイザーは、魅力的な人物だ。彼はつつましい人でもあるようで、着ている黒のチノパンにはしわが寄り、茶色のレザーブーツは履き古され、青のジャンパーは肘が擦り切れて穴があいている。まるで往年のグランジロッカーのようないで立ちで、実年齢よりずっと若く見えた。 「私はこの辺りの学校に通っていました。ユダヤ・フリー・スクールという学校で、17歳のときにはカムデ
「ナチスの家のビッグ・ブラザー」という手法 ジョナサン・グレイザーが『関心領域』(2024年5月24日から公開)の制作において困難だと感じたのは、自分自身が恐怖を感じる主題を映画にするための適切なアプローチを見つけることだった。 「ホロコーストの映画を撮ろうとする人たちに、私はかなり懐疑的です。自分自身に対しても例外ではありませんでした」と彼は言う。 結局、グレイザーは無駄を削ぎ落とした表現に落ち着く。これはユダヤ系ドイツ人哲学者テオドール・アドルノの、「アウシュビッツの後で詩を書くことは野蛮である」という言葉を思い出させる。『関心領域』には詩的な味付けはなく、救いになるような感傷もない。グレイザーは本作に「ドラマを入れたくなかった」と語る。 「ある男が、自分の愛する仕事から転属させられそうになる。この映画で起こるのは、ただそれだけのことです。男はそれに腹を立て、妻も家を離れたがりません」
ドキュメンタリーを撮ったマジッド・ハミド監督に「二人の少女は拉致されたとき何歳でしたか」と問われると、アシュワクはこう答えた。 「リハムは9歳、ラハは12歳でした」 そこから怒りが抑えきれなくなって、アシュワクは続ける。「当たり前といえば当たり前ですけれど、アル=バグダディの妻は、私たちが召使いのように使われ、暴力を振るわれていたことを話していません。落ち着きはらってしゃべり、まるで自分は何も悪いことをしておらず、ヤジディ教の女性たちの運命と関係がないと言っているかのようです。でも、そんなわけがありません」 「アル=バグダディは、すべての女性、すべての少女をレイプし、それから高値で別の人に売っていたんです。アル=バグダディにレイプされずに、その家を出られた人はいません。ヤジディ教徒が好きだったというあの女の言葉が本当なら、なぜ私たちを解放するための努力を、あの女は何一つしなかったのでしょう
行方知れずの子供たち 生還者たちはいまもフラッシュバックに悩まされ、その意味において、過去に閉じ込められたままだ。若いシリン・カレフが顔を隠して証言するのは、いつの日か、ISが別の形で復活するのを恐れてのことだ。 彼女の話は、2014年8月4日の恐怖の夜に、ヤジディ教徒たちが暮らす土地がISの手に落ちるところなど、ほかの女性の話と重なる部分が多い。話の脈絡が追えなくなるときもあったが、話の核となる部分は、子供と引き離されたときのトラウマがいまも頭を離れないことだ。 「いちばんつらかったのは、二人の子供と引き離されたときでした。子供たちはイラクへ、私はシリアへ連れていかれました。シリアにはハーレムがあり、女性が売買される市場がありました」 シリンはシンジャール近郊のドメスという場所で、二人の子供とともにISに捕まった。妊娠中だった彼女は、ランブシ村に連れていかれ、そこで3日過ごした後、イラク
進む「大企業化」 先進国で加速する少子高齢化は需要と市場の縮小をもたらすと、政財界は警鐘を鳴らす。それはヨーロッパでも例外ではない。しかし、少子高齢化が好機とみなされ、多額の投資を集めている業界がある。それは、葬儀業界だ。 米メディア「ブルームバーグ」によると、英国のプライベートエクイティ投資会社チャーターハウス・キャピタル・パートナーズやフランスのラトゥール・キャピタルが投資するフューンキャップは、ヨーロッパの300以上の火葬場をおよそ約1700億円を費やして買収した。 また、同社はオランダにある世界有数の火葬設備メーカーを2022年に買収したり、ドイツ最大のライン・タウヌス火葬場と業務提携をしたりと、攻勢を強めている。
法、その一。「いかなる女も、配偶者あるいは所有物、召使いでないなら、性交は合法でない」 法、その二。「女が召使いや奴隷になるのは戦争を通じてである」 法、その三。「ジハードで戦った男が女性捕虜を手に入れるのは、司令官から与えられたときか、買ったときである」 いまから10世紀前の征服活動のときに書かれたこの中世の文章には、戦利品として獲得した性奴隷の正しい取り扱い方について、もっと具体的な記述もある。たとえば性奴隷の「利用」開始時期は、月経を1回見送ってからだとされている。獲得した性奴隷が妊娠している場合は、出産後だ。いまから見れば鬼畜の所業だが、これがかつてのイスラム帝国における「宗教的な立場から出された見解」だった。 IS(いわゆる「イスラム国」)がイラクとシリアに支配領域を持っていた2014年から2019年までの時期、その支配領域では性奴隷の拉致と酷使が横行したが、それを正当化する拠り
日本のみならず、海外でも孤独の問題が深刻化している。地域コミュニティが減少し、交流の多くが対面からオンラインへと移行した現代では、高齢者にみられるレベルの孤独感を訴える若者が増えているのだ。 最新の研究では、孤独感は年齢に合わせて「Uの字カーブ」を描くことが明らかになっている。“最も注意すべき年齢”と、その対策とは……? 社交力も筋力のように衰える 2024年5月、学術誌「サイコロジカル・サイエンス」に掲載された研究では、孤独感はU字型の曲線を描くと報告されている。 自己評価による孤独感は、若年期から中年期に近づくにつれて減少する傾向にある。だが、60歳を過ぎると孤独を感じる割合がふたたび上昇し、80歳になるころには特に顕著になることがわかったのだ。 中年期の人々は、同僚や配偶者、子供や地域コミュニティの人たちと交流する機会が多いため、ほかの年齢層よりも社会的なつながりを感じやすく、人間関
「寿司ください」 ニューヨーク出身のティックトッカー、デビン・ハルバル(26)はこの4年間、やたらと長いセルフィースティックを片手にヨーロッパの国々を周遊しながら、トランスジェンダー女子をインスパイアするコンテンツをSNSにアップしてきた。自身もトランスジェンダーである彼女は、「はーい、お人形さんたち(ドールズ)」と呼びかけて登場する「ドール・チェックイン」でもお馴染みだ。 ファンを「お人形さんたち(ドールズ)」と呼ぶハルバル そんな親しみやすいキャラクターで多くのファンの心を掴んできた彼女は、2022年に「Wマガジン」誌と「ローリング・ストーン」誌に登場。さらに、スペインの高級ブランド「ロエベ」からイビサ島へ招待されたことで、一躍有名人に。しかし、ハルバルはヨーロッパ旅行を終えニューヨークへ戻ると、ファッションやトランスジェンダーの啓蒙活動以上のものを発信したいと思うようになった。そこで
クーリエ・ジャポンのプレミアム会員になると、「ウォール・ストリート・ジャーナル」のサイトの記事(日・英・中 3言語)もご覧いただけます。詳しくはこちら。 ありふれた朝の一杯のコーヒーが、社会や環境に災難をもたらす。だが近い将来、あなたは害の少ないものを選択できるだろう。それは人工コーヒーだ。 世界中で1日に20億杯のコーヒーが消費される。アラビカ種の樹木1本から採れるコーヒー豆の年間生産量が平均1~2ポンド(約453~907グラム)であることを考えると、コーヒーを1日2杯飲む人のために約20本の樹木から継続的にコーヒー豆を生産することが必要になる。 旺盛なコーヒー需要を背景に、大規模な森林伐採が進み、コーヒー豆の価格上昇とほぼ無縁の農家は低賃金にあえぎ、生産とサプライチェーン(供給網)の移動の両面で相当な量の二酸化炭素(CO2)が排出される。調査によると、コーヒー栽培に適した土地の約半分が
世界の目がイスラエルとハマス、そしてロシアとウクライナの戦争へ向いているなか、2023年4月から続いているスーダンの内戦は状況が悪化し続けている。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は同国で「大量虐殺がおこなわれている可能性が高い」と警告し、支援の必要性を訴えた。 誰が戦っているの? スーダン政府軍(SAF)と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」の間で衝突が起きている。首都ハルツームで戦いが勃発し、国中へ広がった。 米メディア「ヴォックス」によれば、なかでも西部のダルフールでは「アラブ人が多数派であるRSF戦闘員が、地域の少数民族を標的にした殺人と性的暴力をおこなったとして告発されている」という。
【レシピ】Blistered Broccoli Pasta With Walnuts, Pecorino and Mint 爽やかグリーンが目にも鮮やか「焼きブロッコリーとくるみ、ミントのパスタ」 Photo: Andrew Purcell for The New York Times, Food Stylist: Carrie Purcell
米国でも買えるようになった日本の最高級フルーツ 120ドル(約1万8000円)もするメロンの味はどんなものなのか。それを知るには、かつては日本まで行かなければならなかった。しかし、米国人はいまや自宅でそれを味わえる。多くの人が世界最高の果物のひとつだと評するものだ。 日本産の高級イチゴやメロンなどの農産物が「イキガイフルーツ」というオンラインショップを通じて、初めて米国の消費者に直接販売されるようになった。日本各地で小規模農家が生産した果物が売られている。 この試みが示すのは、日本国外に消費者層を拡大し、最終的には国内で農業従事者を増やそうという日本の試みだ。日本の農業は、若い世代の農業離れや廃業によって、衰退し続けている。三菱総合研究所の2023年の報告書では、2020年には農業生産額は8兆9000億円だったが、2050年にはその半分以下になると予想されている。
あなたはとてつもなく忙しい。ビジネスチャットのスラックでやり取りして、メールを書き、ズーム会議も次から次に入っている。これらを同時にこなすこともある。しかし重要な仕事はできているだろうか。 カル・ニューポート氏の答えはノーだ。 「ちょっと待てよ、どれも重要じゃなかった、といったところだ」。ジョージタウン大学でコンピューターサイエンスを教え、注意力散漫の時代における集中力の重要性を訴えるニューポート氏はそう話す。 ニューポート氏によると、私たちは重すぎる負担を減らすことでより多くを達成できるという。同氏が提案する解決策「スローな生産性」──同名の本も出版している──は優れた成果を上げる人々が引き受ける仕事を減らして、仕事の質を上げ、ときどき戦略的に手を抜く一つの方法だ。最高の質こそ目指すところであり、がむしゃらに働くことは敵である。 これこそが、人工知能(AI)や人員削減から私たちの仕事を救
電池最大手CATLの創業者が電池を超えた野望を語った 中国の電池王が語る「トヨタが開発する全固体電池はまだ現実的ではない」 中国の電池王CATLのゼンCEOが開発を急ぐ電池とは? Photo by Paul Zinken / picture alliance / Getty Images
急速に円安が進むなか、国内外で日本の国力低下を懸念する声が高まっている。だが英紙「フィナンシャル・タイムズ」は、これから日本経済が好転する可能性は充分にあるとみているようだ。 4月は日本にとって厳しい1ヵ月だった。 円は対ドルで約34年ぶりの安値を更新し、政府と日本銀行が5兆円を超える円買い介入に踏み切ったとみられている。 民間の有識者グループである人口戦略会議は、「日本の4割の地方自治体が消滅の危機にある」と指摘し、経済産業省の審議会は国の繁栄を阻害する慢性的な脅威に警鐘を鳴らした。 「日本は歴史的転換点にある」と言われはじめてから、すでに1年以上が経過した。日本経済はデフレから脱却しつつあるが、その一方で、金融政策は世界の先進各国の方針や国民の実生活からは乖離しているように見える。4月の一連の動向、とくに円相場の動きをみていると、日本の行く末はかなり不透明だと感じられる。 中期的に、日
伝説の投資家ジム・ロジャーズが「読者の質問」に答えます 北朝鮮には「潜在的な可能性」があるのでしょうか?
大事な人を失うのは突然なことも多く、いつが「最後」になるかはわからない。実家に帰ってきた娘は、母である筆者と一緒にアートブックを読み、一緒に写真に写ると、それきり永遠に去ってしまった──。 この記事は、愛をテーマにした米紙「ニューヨーク・タイムズ」の人気コラム「モダン・ラブ」の全訳です。読者が寄稿した物語を、毎週日曜日に独占翻訳でお届けしています。 蘇る明るい思い出が苦しい 2023年12月、クリスマスの数週間前、ジムに水筒を忘れた。家に帰る途中、運転していた夫が「戻ろうか?」と言った。 「ううん。明日取りに行く」 そう言ったけれど、戻らないエリックに私は腹を立てていた。そして1分後、私は泣いていた。 「戻るよ」と言う彼に、「いい!」と答えた。なぜなら、私に不安をもたらしていたのは水筒ではない。それをもたらしたのは娘が亡くなったという事実であり、この喪失感にもう耐えられないと思う日があるの
犬猿の仲であるイスラエルとイランの緊張が、ガザ情勢をめぐり高まっている。だが市民レベルでは、多くのイラン人が同胞のパレスチナよりも、仇敵イスラエルに共感しているのが実情だという。新著 『イランの地下世界』が、周辺の中東諸国に対するイラン人の本音に光を当てる。 先を越された!──中東諸国への屈折した思い イランと歴史的、文化的に近しい関係にある中東諸国との関係も、イスラム革命を境に大きく変容した。 革命後のイランは、イスラムをイデオロギーに中東地域での影響力拡大を図ってきた。とくに、パレスチナや、アサド政権のシリア、レバノンおよびイラクのシーア派組織、そしてイエメンのフーシ派などが、イランの支援を受けていることはよく知られている。 しかし、当のイラン国民はといえば、こうした国々に対して、ほとんど何のシンパシーも感じていない。反体制デモのたびに必ず叫ばれるスローガンのひとつ、「わが命、捧げたい
スラヴォイ・ジジェク(75)にインタビューするのは、筆舌に尽くしがたい体験である。哲学者、精神分析家、文化理論家、政治活動家、ロンドン大学バークベック人文学研究所インターナショナル・ディレクター、そしてスロベニア共和国の元大統領候補である彼との会話では、一つのテーマから別のテーマへ次々と飛んでいく。だから、対談者はなんとかして置いてけぼりにされないようにしなければならない。ジジェクは、ユニークで予想がつかないのだ。 「剰余享楽」とは ──あなたは『為すところを知らざればなり』(※原題副題は「政治的要因としての享楽」)、そして『快楽の転移』をすでに書いています。そして今回、『剰余享楽』を発表しました。なぜ、このテーマに関心があるのですか? 戦争や人種差別、そのほかの多くの恐怖をめぐって何が起きているかを理解するためには、まさに享楽に注意を払わなければなりません。私は、享楽を「喜び」としてのみ
男女雇用機会均等法の施行から約30年。他の先進国に遅れを取りつつも、日本の政府組織や民間企業では、男性優位の職場文化に変化が見られるようになった一方、まだまだ多くの課題が残されてもいる。外務省や大手企業で働く女性たちの現状を、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が取材した。 男女雇用機会均等法が施行された翌年の1987年、のちに日本の皇后となる女性が外務省に入省した。彼女は3人しかいない女性の新人外交官のひとりだった。当時は小和田雅子という名前だったこの女性は深夜まで働き、日米貿易摩擦の対応などにあたった北米二課で、華々しいキャリアを築いていた。 だが、彼女はそれから6年も経たないうちに退職し、当時は皇太子だった現在の天皇、徳仁と結婚した。 その後の30年で、外務省の状況は大きく変わった──そして、女性たちの置かれた状況も。2020年以降、新人外交官の半数近くを女性が占めるようになり、多くの女性
若くして自分を生んだ母 スティーブ・エドセルが子供の頃、彼の養父母は寝室のクローゼットに新聞の切り抜きを集めたスクラップブックを置いていた。彼はときどきそれを取り出して、自分の出生に関する見出しに目を通した。たとえば、次のようなものだ。 「母親が息子を見捨て、病院から逃走」 1973年12月30日、米紙「ウィンストン・セーラム・ジャーナル」 その母親とは、「身長167cm、髪の色は赤みがかった茶色」の14歳の少女だ。朝早くに自分の両親と一緒に病院に来て、出産から数時間後の夜8時にはいなくなっていた。申告されていた名前はすべて偽名だったことが後からわかった。看護婦の回想に基づく白黒の絵では、その母親は丸眼鏡をかけ、前髪を横に流しており、口元は険しい。 捨てられた赤ちゃんは、その地域に住むエドセル夫妻によって養育されることとなった。
5月15日にスロバキアのロベルト・フィツォ首相が銃撃された事件は、世界に衝撃を与えた。スロバキア当局によると、フィツォの容態は「安定している」が、回復は「困難な」状態だという。 殺人未遂で逮捕された71歳の年金受給者の名前や詳しい素性は明かされていないが、閣僚は政治的な動機があったと述べている。 「いつ起こってもおかしくなかった」 今回の事件は許されるものではないが、スロバキアの状況を鑑みるに、ある意味では起こるべくして起こったものかもしれない。ある市民は、米紙「ニューヨーク・タイムズ」に対し、「もっと早くにこのようなことが起こってもおかしくなかった」と述べている。 というのも、歴史的に激しいスロバキアの社会や政治の分断は、近年ますます深まっていたからだ。 元政府職員で偽情報対策の責任者を務めていたダニエル・ミロは、ニューヨーク・タイムズに対して、「スロバキアでは前代未聞のレベルの二極化が
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