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パリ五輪
econ101.jp
(第一次?)トランプ政権が中盤にさしかかった頃、私はちょっとした啓示を受けた。それまでは、共和党の大統領が賛成できないようなことを言うたびに、私はそうした大統領を選んだ共和党支持者に責任を負わせていた。しかしある時点から、民主党支持者からあらゆる言い訳を聞き続けるのにうんざりするようになった。我々(ここでの「我々」というのは「アメリカ以外の世界の人」という意味だ)はアメリカのリベラル派にもっと多くの責任を負わせるべきだ、と思い始めるようになった。アメリカのリベラル派は、信じられないほど政治が下手で、その無能さが我々にトランプを押し付けたのだ。 これに気づいたのは、アメリカのリベラル派の学者を話を聴いていたときだった。その学者は、余談としてトランプがいかに酷いかについて話し、最後に「アメリカ国民を代表して」謝罪した。その学者はトランプの当選に個人的な責任を感じているように感じなかったことから
ここ数日、金融市場での目を見張るような動きが世界中で(アメリカ、日本、新興国市場の間で跳ね回って)波及している。 一連の劇的な動きはすでに先週から始まっている。これは、広大な世界金融の強固な基盤とされているアメリカの国債市場が動いたことだ。アメリカの恐怖指数(VIX)は、コロナショックの2020年と〔リーマンショックの〕2008年の水準まで急上昇した! 恐怖指数(VIX)は現時点で65で、金曜日の終値の23から上昇している。この数値が維持されれば、1日の上昇率としては史上最大となり、終値としては過去最高の部類の一つとなる。インプライド・ボラティリティ [1]訳注:オプション取引での将来ボラティリティの予測値 が今回と同水準になったのは、2008年10月・11月と、2020年3月だ。 これは大げさに見えるかもしれないが、潜んでいる不確実性の水準を如実に示している。そして、月曜の日本市場の衝撃
3週間前の記事で,デンバーで行われたベーシックインカム・プロジェクトから得られた少々がっかりな研究結果に注目しておいた〔日本語版〕.さて,今度は,イリノイ北部とテキサス中部で実施されたはるかに巨大で長期的なベーシックインカムの無作為化対照実験の研究結果が出てきた.Vivalt et al. の論文から,主な研究結果の要旨を引用しておこう: 本研究では,所得の変化が原因となって人々の雇用に関わる多種多様な項目に生じた影響を検討する.そのための実験として,低所得の個人から無作為に対象者を1,000名選出し,無条件に1ヶ月あたり 1,000ドルの現金給付を3年間続けた.また,対照群として,2,000名の参加者を選出し,1ヶ月に 50ドルの給付を続けた.本研究では,詳細な調査データ・行政記録・専用スマホアプリからのデータを収集した.現金給付によって,対照群に比べて給付を除外した個人所得の総額は 1
2010年代屈指の新アイディアのひとつは,こういうものだった――「無条件の現金給付は,福祉のすぐれた形態だ.」 基本的に,みんなに小切手を送って,本人にそのお金でなにをするか決めてもらう方が,アメリカで通例となっているいろんな就労要件やら対象を限定した補助金のややこしい方式よりも好ましい. このアイディアのとびきり極端なかたちが,《最低所得保障》(Universal Basic Income) だ.略して UBI と呼ぶ.本式の UBI は政治的に実現する見込みがない. とてつもない 政府支出が必要になるからだ.それでも,多くの人たちがこのアイディアのもっと穏当なバージョンに興味を抱いている――たとえば,1ヶ月あたり1000ドルを全員に渡すといったアイディアがそれだ.なかには,これを現実世界で検証している人たちもいる――その一例が,「デンバー最低所得保障プロジェクト」だ.同プロジェクトでは
「エアコンの温度に対する性差」について取り上げている記事がまたもや目に留まった。 北アメリカのオフィスでは、冷房の設定温度が女性からすると低すぎるというのだ。女性社員はデスクで震えているが、男性社員はへっちゃらだというのだ。 環境へも深刻な影響を及ぼしている。冷房の設定温度が低すぎて耐えられないほど寒いので、7月だというのに小型ヒーターをつけている女性社員がいるのだ。エネルギーが無駄遣いされているのだ。 エアコンが使用されている室内の温度に対して性差(男女で感じ方に違い)が生まれるのは、なぜなのか? 服装――女性は、夏場にライトコットンのワンピースを着がち――だったり、女性の基礎代謝の低さ――女性は、男性と比べると、エネルギーの燃焼速度が遅いため、同じ温度でも寒く感じる――だったりに原因が求められがちだ。ビルの空調システムの設計も一因になっている――設定温度を高くすると、効率が悪くなる仕組
我々X世代が、MTV世代から古き良き共和党(GOP)世代になった真相は、身売りしたのではなく、ノスタルジアの容赦のない力だ。 〔訳注:「X世代」は、「ジェネレーションX」とも呼ばれ、1965年から1970年代生まれの世代を指す言葉(現在2024年で40代後半から50代後半に当たる)。ベビーブーマー(団塊の世代)の次の世代であり、先進国の戦後復興的な基礎価値観から逸脱したような思想を示した世代と一般的に見なされている。イーロン・マスクやフロリダ州知事ロン・デサンティスが世代を代表する人物として語られることもある。日本での「新人類」と呼ばれた世代と並べて語られることもある。〕 ドナルド・トランプが次のアメリカ大統領になる可能性は極めて高い。同様に、カナダ保守党の党首であるピエール・ポワリエーヴルが次の首相になる可能性も高い。これらが実現すれば、X世代はついに念願の反動保守政府を手にしたことにな
第二次世界大戦後の日本で起きた「成長の奇跡」はよく知られているが、あれは実は二回目の奇跡だった。一回目の奇跡は、さらに輪をかけて奇跡的な出来事だった。時は、明治維新で揺れていた19世紀の終わり。日本は、農業国から工業大国へとほぼ一夜のうちに変貌したのだ。 経済面・社会面での変化に対する抵抗が何世紀にもわたって続いた後に、日本経済は15年足らずのうちに大きく変貌した。未加工の一次産品の輸出に特化した比較的貧しくて農業主体の経済から、工業製品の輸出に特化した経済へと。 日本経済の変貌を支えた要因は何だったのか? ユハース(Réka Juhász)&坂部(Shogo Sakabe)&ワインスタイン(David Weinstein)の三人の注目すべき共著論文によると、技術知識を日本語に翻訳して体系化する(文書にまとめる)ための並々ならぬ努力が鍵となる役割を果たしたという。国家主導の翻訳事業のおかげ
どうみてもトランプ有利に潮目は変わってる。バイデンのヘマと、トランプの暗殺未遂で加速して、公となった。でもその前から進んでいたんだ。これについてのはっきりした兆候を一つだけ上げるなら、MSNBCが朝の政治番組モーニング・ジョーで〔トランプ暗殺未遂事件の直後に出演者が〕トランプについて悪しざまなことを言うかもしれないことを恐れて、番組の放映を中止したことだろう。 別の言い方をするなら、トランプはすごいヨロヨロだったんだ。選挙に負けた大統領で、いろいろ起訴されていて、マジで有罪評決まで受けてる。ところがどっこい、今や選挙でどうみても本命になってる。ざっぱに言うなら、なぜこうなっちゃったのさ? 「潮目が変わったのはなんでだと思う?」と聞いて、その回答を知性、洞察力、知的誠実さで採点するのは良いリトマス試験紙だと僕は思っている。 「トランプが人気なのは、人種差別主義者だから」みたいに言ってる人をよ
ドル紙幣について誰もが知っておくべき基本的な事実がいくつかある。 市中に流通しているドル紙幣の大半は、100ドル紙幣。 市中に流通するドル紙幣のうちで100ドル紙幣が占める割合は、上昇傾向にある。 大半のドル紙幣――とりわけ、100ドル紙幣――は、海外で流通している。 ジョー・クラヴァン・マッギンティー(Jo Craven McGinty)がウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事(2018年7月6日付)で報じているところによると、そうらしいのだ。記事の一部を引用しておこう。 連銀(Fed)が公表している情報によると、昨年(2017年)の終わりの時点で市中に流通していたドル紙幣の総額は1兆6000億ドルで、そのうちの1兆3000億ドル――全体の80%――が100ドル紙幣だったという [1] … Continue reading。1997年の終わりの時点ではどうだったかというと、市中に流通し
ポール・クルーグマンによると、サンベルトが発展したのはエアコンのおかげらしい。 (アメリカ南部および南西部の温暖な気候の)サンベルトの発展は、エアコンの登場が契機になっていると概ね(おおむね)理解することができる。エアコンのおかげで、湿気が多くて蒸し暑い夏もしのげるようになり、冬場でも暖かいこの地域の魅力が増したのだ。とは言え、ゆっくりとした緩慢な変化だった。立地の決定には、慣性がかなり働くからだ。 こちらの記事でも同様の考えが述べられている。 1960年頃に人口動態の面で転換点が訪れている。南部の人口が総人口に占める割合は一貫して下落し続けていたが、1960年頃から一貫して上昇する方向に転じているのだ。・・・(略)・・・この転換点は、エアコンが登場したタイミングと合致している。サンベルトにある州の方が北東部にある州よりも成長率が高かった理由を誰かに尋ねられたら、アーサー・ラッファーのおか
1セント硬貨だとか5セント硬貨だとかの額面の小さい小銭の発行をやめてしまうべきなんだろうか? 「何とも言えない」というのが私の答えだが、「やめるべきじゃない」というのがジェイ・ザゴースキー(Jay L. Zagorsky)の答えだ。 真っ先に指摘しておくべきことがある。造幣局は、需要に応じて硬貨を発行しているに過ぎないのだ。額面の小さい小銭に対する需要は、急速な勢いで増えている。過去10年の間に、1セント硬貨(ペニー)と5セント硬貨(ニッケル)の発行枚数は、ほぼ倍増しているのだ。世論調査でも、1セント硬貨や5セント硬貨への人気は高い。 1セント硬貨にしても、5セント硬貨にしても、製造コストが額面を上回っているのは確かだ。2017年のデータ(pdf)によると、1枚の1セント硬貨を製造するのに1.8セントの費用がかかる一方で、1枚の5セント硬貨を製造するのに6.6セントの費用がかかる。しかしな
マネーロンダリング(資金洗浄)対策は、コストが嵩む(かさむ)わりに、効果に乏しいようだ。 大まかな推計になるのは致し方ないが、年間3兆ドルに及ぶと見込まれている不正資金のうち、当局が差し押さえるのに成功しているのは約30億ドル。成功率は0.1%だ。その一方で、マネーロンダリング関連の法令を遵守するために、銀行をはじめとした民間の合法な企業が負担している費用は、年間で3000億ドルを上回っている。当局が犯罪組織から差し押さえている額(30億ドル)の100倍以上だ。 ・・・(略)・・・犯罪組織は、年間で30億ドルを差し押さえられている。その一方で、銀行をはじめとした民間の合法な企業は、法令を遵守するために年間で3000億ドルの費用を負担しているだけでなく、80億ドルの罰金を科されている。マネーロンダリング対策の真の標的は、非合法の犯罪組織ではなく、合法の組織なのではないかと疑いたくなるのも無理
近年のアメリカの政策関係者間での懸念材料の一つに、外国貿易と産業政策がアメリカ国内の製造業の健全性と強靭さにどのような長期的な影響を与えるかというものがある。トランプ政権とバイデンバイデン政権は、弱点となっているアメリカの製造業に対処しようとしている。トランプ政権は2018年と2019年に中国からの輸入品に数千億ドルの関税を課し、バイデン政権も今年の5月になって追加の関税対象を発表した。11月の大統領選で誰が勝っても、アメリカの政策立案者の間でこうした貿易への関心は続くことは明らかであり、実際こうした関心は世界中に広がっている。 しかし、アメリカが世界の最後の消費者としての役割を果たし続ける限り、つまりアメリカ以外の世界の貿易黒字の半分を吸収するだけの貿易赤字を抱え続ける限り、アメリカの製造業が全体的に復活する可能性は低いだろう。なぜなら、貿易不均衡と製造業の強さに関しては、世界規模でのパ
トロント市長ロブ・フォードが、選挙キャンペーン(と自身の仕事)を一旦やめてリハビリに専念することに決めた [1] … Continue reading 。トロント市民の多くは、このニュースを聞いて間違いなく安堵したことだろう。現実の問題について議論できるようになるかもしれないと考えると、ほとんど胸が躍るような気持ちになる(また私としては、オリヴィア・チャウ [2]訳注:トロント市長選での左派の候補者。ヒースは、再分配に傾倒しすぎているとしてチャウに批判的な態度をとっている。このエントリを参照。 に投票しなければならない義務感を抱かずに済むという開放感もある)。 本題に入る前に、フォードに少しだけだがお別れの言葉を述べておきたい。みんなと同じく、そうする誘惑に抗しきれないからだ(これは本当のお別れではない。フォードはまず間違いなく30日以内に戻ってくるだろう。「願わくばお別れにしたい」という
[Noah Smith, “Acemoglu and the macroeconomics of AI,” Noahpinion, July 1, 2024] ダロン・アセモグルといえば,いままさに最盛期にある経済学者で,おそらくもっとも名声が高くて業績がすぐれている人だ.そのアセモグルは,AI がお好きじゃない.彼はまるまる一冊を費やして,AI みたいなテクノロジーの発展が大量失業や格差拡大をいかにしてもたらすかを論じ,それを防ぐために規制が必要だと主張している.ぼくは,この本をちっともよく思わなかった(日本語記事). ただ,興味を引く点はあって,それは,AI による経済成長の加速はゼロではないまでもほんのわずかでしかない一方で人間の労働者たちは困窮させられるとアセモグルが考えている点だ.たいてい,こういう主張は「成長 vs. 格差」の構図で論じられる.でも,アセモグルの考えでは,AI
(規範的)民主主義理論に目を向けると、こうした現象を理解する上で役に立つような議論はどこにも見当たらない。社会がこの現象にどう対応すべきかについて考えたい場合はなおさらだ。 このエントリは前の投稿〔翻訳はここで読める〕への付記である。今朝、朝食を食べながらエコノミスト誌を読んでいて(そう、私はそういうことをしているのだ)、次の一節に出くわした(実際にはアメリカの上院議員テッド・クルーズに関する記事である)。 アイオワ州の共和党上位2人のうちの片方は、どの国にも見られるタイプだ。政策に乏しく、自惚れと誇張が激しく、自分が蔑んでいる国を、自分の意志の力で取り戻すと約束する。自分を強い男に見せるドナルド・トランプの仕草は、ブエノスアイレスからローマに至るまでおなじみのものだ。リアリティ番組と不動産ビジネスという要素が事態にひねりを加えているが。 トランプは「どの国にも見られる」タイプの人物で、ア
民主主義社会における政治システムの最上層(つまり、テレビが最も重要な情報伝達媒体となっている領域)は、なぜ俳優に乗っ取られていないのだろう? ケヴィン・オレアリー〔カナダの有名な実業家で、テレビ番組のパーソナリティもつとめていた人物〕がカナダ保守党の党首選への立候補を検討しているらしい。このニュースは床屋政談好きの人々(chattering class)に、ここ数カ月渇望していた話の種を与えてくれた。 もちろん、オレアリーが当選する見込みはない。オレアリーはフランス語を話せないからだ。自分はモントリオール生まれで、理屈抜きで「ケベックを理解している」から、フランス語を話せなくても問題はない、というのがオレアリー自身の主張だ。言うまでもないが、本当にケベックを理解している人なら、ケベックのフランス語話者が何よりも嫌っているのは、ケベック出身でフランス語を話せない人だと知っている。サスカチュワ
マンキューがめちゃくちゃ鋭い指摘をしている。 Greg Mankiw’s Blog: “Why Economists Like Immigration”: 移民制度改革に向けた議論が上下両院で進められている最中だが、移民に友好的な上院案に大半の経済学者が賛同している理由をまとめておいてもよさそうだ。 経済学を学ぶと、次の二つの強烈な衝動が体内に埋め込まれることになる。 「リバタリアン」の衝動:大人同士がお互いに得になると考えて行うやりとりには、そのやりとりに伴って外部性が生じない限りは、干渉すべきではない。自由な市場経済圏で暮らす人々が豊かになれるのは、自発的なやりとりが認められるおかげである。政府が自発的な交換(やりとり)を邪魔すると、市場の「見えざる手」が魔力を発揮できなくなってしまう。 「エガリタリアン」(平等主義)の衝動:市場経済圏では、一人ひとりの報酬(稼ぎ)は、その人に内在する
19世紀、世界の一部の地域(「グローバル・ノース」)が豊かになり始めた。成長はゆっくりと始まったが、19世紀終盤には急加速し始めた。科学、技術、生産能力の拡大は想像を絶するもので、当時の人々の一部はさらにその先を想像し始めた。この物質的成長のトンネルの先に人々が見たのは、人間の持ち得るあらゆる欲求が充足され、余暇の時間もたっぷりと残された、真のユートピアであった。 それから1世紀半経ったが、ケインズの想像した余暇の有り余る社会にも、ましてマルクスの無階級社会、あるいはヴィクトリア期に生まれ育ったユートピア主義者たちの思い描いた地上の楽園にも、私たちは到達できていない。ユートピアに到達しようとする人類の試みの中で成功の見込みがあったのは、1914年から1991年までの「短い20世紀」、すなわちソ連が勃興し失墜するまでの期間だけであった、と歴史家のエリック・ホブズボームは論じている。これに直接
2021年9月、岸田文雄は「新しい資本主義」という野心的な綱領を掲げて首相に選出された。岸田は、自民党の党首として、経済成長と所得分配の好循環をもたらす新規で、より良い経済システムの実現を約束してみせた。日本政府はこの「新しい資本主義」を推進するための計画をいくつか提示したが、日本国民は依然として現在の実体経済に不満を抱いている。日本の株式市場は急騰し、日経平均は一時的に約34年前のバブル期の水準を超えたが、2023年半ば以降の経済成長は停滞している。岸田政権の支持率は着実に低下しており、2022年当初には50%を超えていたが、2024年2月には25%にまで低下した。 革新的な経済運営を約束したのは、岸田政権が初めてではない。2013年、安倍晋三は、拡張的な金融政策によって日本経済を復活させることを約束した。しかし、アベノミクスや、現在の岸田プランにも関わらず、賃金の伸びは停滞したままだ。
Stephen Harper versus the intellectuals, part 2 Posted by Joseph Heath on August 25, 2015 | political philosophy, politics トム・フラナガン事件 〔訳注:トム・フラナガン事件とは、カナダで非常に著名な保守系法学者であるトム・フラナガンの「児童ポルノ」に関する発言を巡って起こった炎上騒ぎである。フラナガンは、2006年まではハーパーの法律顧問を努め、超保守の地域政党ワイルドローズ党の立ち上げに参加する等、非常に保守色が強い法学者である。フラナガンはカナダ先住民の法的権利の撤廃を主張していることもあり、左派の活動家からは非常に憎まれてる人物でもある。 2013年、フラナガンは大学で講演を行い、講演後の質疑応答で児童ポルノに関する法的規制について問われた際に、カナダの児童ポル
この数年、哲学の同業者たちが、オンライン上での流行りに飛びついて、様々な事柄について自身の考えを述べた学者を罰したり、脅そうとしているのを見て、私は驚き、失望してきた。少し上から目線に聞こえるかもしれないが、哲学者がこうした行動をとっているのに驚いていることを認めざるを得ない。ソクラテスの裁判と死を描いたプラトンの対話篇を最初に読んだとき、私は自然と、アテネの市民裁判官たちではなく、ソクラテスの側に感情移入した。哲学研究者のほとんども同じように感じるか、似たような原体験を持っているものだと思い込んでいた。だから、同業者の多くが、自身の考えを語ったことで糾弾されている哲学者(当初は男性が多かったが、最近は女性もいる)の側ではなく、市民裁判官の方をこぞって真似ようとしているのを見て驚いたのだ。 こうした行動の多くは、所属機関からの解雇を要求するのではなく、その人の1日を台無しにしたいだけなら、
経済学には,「シュタッケルベルグ競争ゲーム」っていう古い理論がある.あらゆる企業が同時に自分たちの商品・サービスの価格を設定するんじゃなくて,ひとつの重要な企業が価格を設定して,残りの企業のペースを定めてしまうんだ.最初に動く先行者とその追随者がいる状況では,基本的にこのゲームが現実を単純化した表現になっている(先行者も追随者も,それぞれ単数かもしれないし複数かもしれない).シュタッケルベルグ・タイプのモデルを使って,国際貿易政策を分析している人たちもいるし,ごくわずかだけど,アメリカ-中国間の競争にこの考えを応用している人たちもいる. いずれ,いま世界中で起こりつつある貿易戦争についてシュタッケルベルグ・タイプの論文を書く人もそのうち現れるんじゃないかとぼくは見てる.一般に,中国がこのゲームでの「先行者」だ.なにしろ,中国の送り出してる洪水のような輸出製品によって他の国々は保護主義的な対
By Hunini – Own work, CC BY-SA 4.0 アメリカは,海軍の艦艇建造に大問題を抱えている.それに,商船の造船産業も大したことがない.いま,多くの人たちが,正当にもこの件で頭を抱えている.というのも,この船舶建造能力の問題で,アメリカは中国との大規模な戦争に負けるという差し迫った危機に瀕してしまうからだ. 「じゃあ,どこが船舶をつくれるの?」 日本と韓国だ.どちらもいかにも小さそうなアジアの同盟国だけど,両者を合わせると,その造船産業は中国のそれとほぼ互角だ.さらに,商船の造船規模こそ韓国の方が大きいけれど,日本は複雑なハイテク海軍艦艇もつくれる.先だって,第二次世界大戦いらい初の空母を建造したばかりだ. すると,単純な解決案が浮上してくる:アメリカ海軍の艦艇を日本で建造すればいい.そうすれば,短期的にアメリカの艦艇調達問題を解決する助けになる.それに,日本製品の
移民受け入れを支持する人間として,ぼくは懐疑的な人や批判的な人に耳を貸すようにつとめてる.どんな国にも,自らがのぞむならどんな人間でも招き入れる権利がある――あるいは,入国を拒否する権利がある.移民の流入で自分たちの文化が変わってしまうのを人々が心配しているなら,それは完璧に許容されるべき態度だ. ただ,それと同時に,移民流入制限派の人たちは移民受け入れにともなう経済的な害悪をあれこれとたくさん主張している――賃金低下,政府財政への負担,などなど.それでいて,そういう主張はずっと証拠と矛盾しつづけている. たとえば,多くの証拠から,移民流入は――低技能移民の流入ですら――現地生まれの人たちの賃金や雇用の見通しに悪影響を及ぼしていないことが明らかになっている〔日本語版記事〕.最近出た Michael Clemens & Ethan Lewis の論文を見てみると,この研究はとても「きれい」な
パレスチナ抗議運動が Z世代に活動家の情熱の火をともしていないのがあらわになっている.それどころか,たいていの若者は,これがまるごと終わってくれるのをただ静かに待っている. 我ながら,パレスチナ抗議運動について書くのにはだいぶ飽きてる.2週間前の記事で言いたいことはだいたい言い尽くしていて,この運動全体がちょっとつまらないというのがぼくの中心的な論点だった.ただ,最近出たこの世論調査の結果は掲載した方がよさそうだ.というのも,ぼくが言ってたことはだいたいこれで裏付けられるからだ. Generation Lab は1250名の大学生を対象に調査を実施して,自分がとくに重要だと思う3つの問題を彼らに選んでもらった.パレスチナに言及したのは,たった 13% だけだった: Source: Axios この世論調査について,Axios がもうちょっと詳しいことを言っている: 抗議運動のいずれかの側に
社会科学研究ネットワーク(SSRN)の”the Handbook of New Institutional Economics”『新制度派経済学ハンドブック』に収録される、制度変化について扱った章を、ディシリー・ディシエルト(Desiree Desierto)との共著で書き上げた。 制度分析は個人を強調しない傾向にある。14世紀終盤から15世紀序盤にかけてのイングランドにおける農奴制の終焉といった展開は、農奴や貴族など一個人の行為や思想に左右されたものではなかった。産業革命は、ジェームズ・ワットやリチャード・アークライトを歴史から取り除いても生じただろう。制度分析の根底には、一個人よりもはるかに重要な、深層的・構造的要因が存在する、という前提がある。 重要な個人を無視するのは、経済史研究だけではない。英雄史観(Great Man Theory of History)は、学術の世界ではとっく
過去10年というもの,アメリカの多くの大企業は純粋な収益に傾注することから離れて,社会的・政治的な活動に力を入れるようになった――たいていは,進歩派〔左派的〕な方向での活動だ.この減少は,しだいに「ウォーク資本」(woke capital) として知られるようになった〔woke は,差別や不公正に敏感な態度を示す傾向を意味する〕.Fan (2019) は,この傾向をこんな具合にまとめている: Apple, BlackRock, Delta, Google(現Alphabet),Lyft, Salfesforce, Starbucks といった名だたる企業が,近年,さまざまな社会問題について非常に公の態度をとっている.かつて,企業はもっぱら社会問題を前に沈黙していた.いまや,その逆になっている――企業は,社会運動で顕著に人目につく役割を果たしており,ときに,企業が議論を先導している場合もある
さて,今回の小ネタ選集は,ちょっと憂鬱なマクロ経済ニュースで締めくくろう:どうやらインフレ率が再加速しつつあるようだ. 個人消費支出 (PCE) インフレ率(パーセンテージ変化,年率) / Source: Jason Furman もっとデータを見たい人は,ジェイソン・ファーマンの更新スレッドを覗いてみるといい.インフレ率の数字は,おおよそ全体的に上がってきている. なにが起きてるんだろう? フーシ派民兵による紅海航行の混乱も,ひとつの要因かもしれない.ただ,サンフランシスコ連銀の分析によると,3月のインフレの多くは需要側の要因に起因しているそうだ: 青が需要側要因のインフレ率,緑が供給側要因のインフレ率,黄色はどちらとも判別できない部分 / Source: SF Fed 利上げがあって,しかもパンデミック期の給付による貯金がおおよそ使い切られた状況で〔参考〕,需要側に起因するインフレの原
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