エリック・ギル(Arthur Eric Rowton Gill, 1882-1940)は、石彫100点、碑文750点、木版画1,000点におよぶ膨大な作品と、美術工芸や社会改革に関わる約300点の著述を残した、20世紀英国を誇る芸術家です。 女性の豊かな裸体を表現した彫刻、私家版の書物を飾った神々の挿絵、古代ローマのアルファベットを蘇らせた石碑文は、いずれもギルの手によって描かれた神秘的な曲線美をもっています。敬虔なカトリック信者である一方でタブーをこえる奔放な感情を貫き、手工芸思想を追い求めながらも産業化の波にのまれてゆく宿命は、矛盾に満ちた20世紀における表現者の喜びと苦悩を体現する姿そのものです。アーツ&クラフツ運動の精神を継承した芸術家のなかでも、ひときわ異彩を放っているといえるでしょう。 そのようなギルの創作活動のなかで際立つのが、文字の造形を芸術の域にまで高めたレタリングとタイ