そんな時高には悩みがあった。 それは子がないことであった。 がんばっていないわけではなかった。あちこちで手を変え品を変え血のにじむような努力を重ねていた。 「ダメだこりゃ」 時高はあきらめた。 主家筋の関東管領家・扇谷上杉家の上杉高救(たかひら)の子を養子に迎えた。 これが三浦義同(よしあつ。後の道寸)である。 義同は偉丈夫で勇敢な武将に成長した。 時高は満足した。 ところが、信じられないことが起こった。 時高に実子が生まれちまったのである。 これが三浦高教(たかのり)である。 「もっと早く生まれてくれよ~」 時高は嘆いた。 高教はかわいかった。 愛想のない義同の顔を見た後は、特にいとおしく感じられた。 (別に早く生まれなくてもいいじゃないか) 時高は高教に跡を継がせたいと思うようになった。 (何か問題でも?) その思いは、日を重ねるごとに増していった。 ある日、時高は義同を狩りに誘った。