サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
大谷翔平
akihitosuzuki.hatenadiary.jp
www.economist.com 民主主義と移民の問題は、世界中で強い不安を持つ人々が多いだろう。移民が先進国のさまざまな水準を将来的に上げる可能性は高いが、現在の段階で落としている国が多いことも事実である。貧困率や犯罪率も高い。そのせいでイギリスの Brexit が勝利したり、アメリカでトランプが大統領選に勝つという、現在の先進国にとって「ありえないこと」、私にとっては「あってはいけないこと」が起きている。これが民主制の結果であるとしたら、民主主義の時代が終わりつつあるのだろうかなどと思う。 その問題を正面から取り上げた総選挙がスウェーデンで行われたとのこと。基本は移民を受け入れてこれまでの良い意味で教科書的な政策をとる与党の Social Democrats と、移民を拒んで保守反動的な政策をとる Sweden Democrats の対立であった。後者の「スウェーデン民主党」が近年好
www.economist.com エコノミストの記事が、深い問題をついた非常に面白いものである。話としては孤独と新しい公衆衛生の話である。孤独 loneliness が、その個人がただ寂しいだけではなく、公衆衛生の問題であり、それを新しいサービスの発展や、新しい技術の利用で解決しようとしているという点である。 孤独 loneliness が世界の先進国の各地で鮮明に問題になっている。高齢化に必然的に伴う片方が残るという問題もそうであるし、世代間の別居も強い問題である。日本では若い世代の「ひきこもり」現象もそのように語られている。そして、これは個人が寂しいだけではなく、孤独であると感じる人々は鮮明に早死にする傾向を持つ。このあたりのことは記事に書いてあるし、末尾にあるレポートにも書いてあるのだろう。 深い部分は、この公衆衛生を保守的な発想が導けるのか、新しい資本主義や科学技術が導けるのかと
勝田至編『日本葬制史』(2012) を眺めて、色々と面白い記録をメモ。中江兆民が1901年にガンで没したときに、無神無霊を唱え宗教色を薄くし、火葬を行い、医学発展のために解剖させたという。火葬は1925年には43.2%は火葬であった。しかし、法定伝染病で死んだものの死体を火葬することをさだめた伝染病予防法があり、火葬がある種のネガティヴなイメージを持ったとのこと。 もう一つ人口動態から死亡場所を組み込んでいるデータがあったので、私もネットでデータをみつけてエクセル表をつくっておいた。病院での死亡の増加と自宅での死亡の減少がとってもよくわかる(笑)
www.nytimes.com New York Times にハーヴァードの遺伝学の教授が、人種概念をどのように遺伝学から理解するのかという古い問題に貢献している記事。人種というのは社会的な現象であるということを認めたうえで、しかし、さまざまな<人種>間の違いが、単なる社会的な現象ではなく遺伝子も考慮に入れた正解が存在するだろうという議論のようである。今年度は歴史学が疾病の歴史になるので、特定の疾病にかかりやすい<人種>と呼ばれる集団などについて話すことが何回かある。それに対応するため、新しい本を買っておこう。1,600円くらいで Kindle で読むことができる。 自然科学や医学の論争的な主題について私が原則にしていることを書いておく。比較的複雑な構造を明晰に理解し、そして的確に説明できるというのが原則である。遺伝の役割もそうだし、精神医療についてもそうだし、精神病院でもそうだが、理系
www.sweeteningthepill.com 日曜の朝にVogue UK 版をのんびり読んでいて、少し気になった記事があったから読んでみた。予想したよりも大きな内容で、学者として、それから教育者として、まじめに考えなければならない主題である。内容は女性が避妊のために服用するホルモン剤、いわゆる「ピル」である。20世紀後半の避妊を教えるときに、日本の避妊と出生のコントロールは、優生保護法の堕胎手術とコンドームを使うという男性の協力に依存してきたのに対し、ヨーロッパの避妊は1970年前後に入手できるようになったピルに依存してきたという教え方を私はしている。欧米のピルが、当時の女性解放と女性の自立の思想とも共鳴したものであり、女性の自己決定であることも強調してきた。日本の方法が特別悪い解決だとは教えていないけれども、国家の政策と家族主義の産物であることには必ず言及している。欧米の女性の自立
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20170813 NHKスペシャルの731部隊の特集「731部隊の真実 ーエリート医学者と人体実験ー」がYouTube 上に落ちていたので、喜んでそれを観た。ツィッターやFBで高い評価を聴いていたが、その通りの素晴らしい番組だと思う。NHKがこの水準の番組を作れるまでには、1980年代からの地道で着実な学術的な研究の蓄積があり、常石敬一先生、松村高夫先生、解学詩先生などの業績のたまものである。また、1980年代の小説家の森村誠一や2000年代のジャーナリストの青木冨貴子などの著作も大いに貢献していると思う。また、実際の音声を聴いたり、実際の文書を観たりするのは、大いによかった。 主たる主張は、国内の大学が果たした役割と重要性を主張するものである。これまで731部隊の隊長であった石井四郎の
Quinn, Josephine. "Goose Girl." Review of Theodora: Actress, Empress, Saint, by David Potter. London Review of Books 39 no. 9 (2017): 38-39, https://www.lrb.co.uk/v39/n09/josephine-quinn/goose-girl. Procopius, G. A. Williamson, and Peter Sarris. The Secret History. Penguin Classics. Vol. . Penguin literature/History: Penguin, 2007. Procopius, History of the Wars. http://akihitosuzuki.hatenadiary.j
Heartfelt images: learning cardiac science artistically | Medical Humanities イギリスのBMJ の医療人文学系の主題の論文を集めた雑誌 Medical Humanities に面白い論考。これは芸術系の論考で、医学生と歯科学性に心臓に関連するアート作品を制作させて、その作品を論じ、教育的な効果を論じたものである。学生の作品制作の主題に応じて、解剖系、生理・病理系、運動系などに分けてみたという。歯科学の学生は、手仕事とコレオグラフィーを重視したとか、面白いことが要約に書いてあった。(本文はまだ読んでいません) これは、イギリスとアメリカで医学教育の一つの新しい柱になった医療人文学 medical humanities の仕事である。これは、幾つかの新しい学問が複合して一つの制度的な教育の形になったものである。その新し
www.timeshighereducation.com THE (Times Higher Education Supplement) からの配信。主にイギリスとオーストラリアの大学教員などを調査して出された議論。大学と学術のコアにおける深く根本的な浸蝕について。私自身、これを読みながら深く反省する部分や、反省という生易しい言葉では表現できない何か暗いものを感じていた。ぜひご一読を。
ウェルカム・コレクションの記事。20世紀中葉のコミックや映画などから非常に面白いイラストが使われている、必読水準の面白い記事。あと少し予習を入れて、一般教養の授業で使おうかとすら思っている。 『ワンダー・ウーマン』は1941年に連載が始まったアメリカのコミック。作者の筆名は チャールズ・モウルトン Charles Moulton で、実名は ウィリアム・モウルトン・マーステン William Moulton Marsten, 1893-1946 という。職業は心理学者で、学術的には、収縮期の血圧測定機を考えたことで有名である。これはウソ発見器に応用された。これは、彼の妻で心理学者であったエリザベス・ホロウェイ・マーステンが、興奮すると血が騒ぐというようなことを言ったことが出発点になっている。 作品の背景は社会と個人の二種類があり、マーステンが接した女性に関する社会運動と、マーステンの個人
19世紀後半から20世紀初頭のオーストリア・ハンガリー帝国における精神病院の建築に関する新しい研究書です。 19世紀後半に西欧社会では、個人の自由という理想が確立した。それに思いを馳せた精神病医や官吏たちは、精神病院の外では不可能なほどの高い水準で、自由と規律の双方が守られている精神病院を作ることを目指した。すなわち「収容所の中の自由」である。この理想は新しい型の精神病院の建築を要求し、そのための新しいモデルの精神病院の建築を検討する。時期は1890年から第一次世界大戦まで、地域はハプスブルク帝国の最後の20年間のオーストリア・ハンガリー帝国である。そこでは、それまでの「廊下型」の病院建築から、都市性と自由を志向した当時の進歩的な建築スタイルである。これを通じて、社会的・空間的な隔離と管理を実施しつつ、人々に自由と規律を与える建築の空間が作られていた。 訳語の問題「廊下型」というのは、co
OECDの調査で、今年はOECD各国に限らず、世界の様々な国にも協力を要請したとのこと。高校生を対象にして、「クラスで一番になりたいか」「試験で十分な準備をしてきても不安か」という二つの質問をして、その割合をグラフ上で表現したもの。心理学的な原理や議論は何も知らないが、面白い発想だなと思う。このあたりの議論は、この本を読むと分かりますよという本をご存じの方は教えてください。 日本に関していうと、非常に野心が低く、わりと不安が多い国である。野心的ではなく、不安が多いというジャンルの世界チャンピョンである。野心でいうと、日本よりも野心が低いのはオランダだけである。オランダと日本の二つの国が野心が低いという理由は、全くわからない。日本人の高校生がクラスで一番になりたいと強く思っていないというのは、そう言われてみたら、まあわかる。 不安でいうと、日本はわりと高いほうというだけで、病的に不安な国とい
生活と文化に機会が大規模に関連してくることと関係があるのだろうが、欧米では1800年付近から機械に支配されているという内容の妄想が出版され、精神医学によって議論されるようになった。最も著名な例は、19世紀の初頭にイギリスはロンドンのべスレム王立病院の薬剤師であった John Haslam が刊行した Illustrations of Madness (1810)である。この書物の中で、当時ベスレム病院に収容されていた患者である James Tilly Matthews が持っていた 「空気織機」(air loom) という機械から送られる波と、それを操る数名のギャングによって自分の精神は支配されているという妄想が紹介された。20世紀の初頭には、ドイツはドレスデンの元裁判官であるDaniel Paul Schreber (1842-1911) が、自らの精神異常の内容の発展を詳密に描いたMe
「医学史は何の役に立つのか」 9月15日の夕刻に開催された「科学技術政策懇談会」で、「医学史は何の役に立つのか」という話題提供を致しました。10名から20名ほどの、文部科学省の科学政策に関連する皆さまが聴き手でした。皆さまがくつろいだ雰囲気を作ってくださったため、私の講演もつつがなく進み、それに続く1時間あまりのディスカッションも、和やかながら本質的な問題が議論されるものでした。この講演と議論は私にとって、日本の医学史の方向性について本気で考える初めての機会であり、また生まれて初めて官僚の皆様と真面目な話をする機会でした。本当に失礼なことですが、「官僚的」というと、形式主義、ことなかれ主義、責任のがれなどの態度を含意することもあり、どうなるのかなという不安は多少あったのですが、現実の状況を、プラスの面もマイナスの面も正直に伝えたことがよかったのか、学者たちと議論するのと同じような、あるいは
村松英雄『戦争と精神病』日本精神衛生協会刊・精神衛生パンフレット7号、脳研究所、(1938). 村松は東大精神科を出て、ロックフェラーの研究員としてハーヴァードに留学したのち、ドイツにも留学した。東大と松沢病院で活躍したのち、1950年に名古屋大学の精神科の教授となる。 出征軍隊にとどまらず、息子・夫・父を戦場に送った家族の精神状態、国家存亡の時期における国民の健康も重要だが、ここでは直接戦闘行為に関連する精神病を取り上げる。 素因と誘因:素因は教育、習慣、鍛練によって改善し補強しうる。しかし、誘因が明らかな例が多いわけではなく、早発性痴呆では70%が誘因不明である(東大松沢)。また、梅毒患者中麻痺性痴呆になるものは1-2%しかいない。(この数字を知りたかった!) 年齢:30歳以下が多い疾病:早発性痴呆は30歳未満が75%、躁鬱は50%、癲癇は80%、それに対して中年が多い疾病もあり、麻痺
先日アップした記事、「アメリカの母体死亡率はなぜ発展途上国より高いのか」について、もとのエコノミストの記事の誤訳に基づいているという指摘を受けました。直接私の目につく形で指摘してくださったのは、ツイッター上の くまさん@bibliobibi でした。お礼申し上げます。他にも気がついた方が多くいらっしゃったと思います。 間違いを端的に言いますと、グラフ上のdeveloped countries を developing countries と勘違いして、あとはずるずるとその間違いを引きずりながら全体にどんどんおかしなトーンになっていくというものでした。みっともない間違いです。お詫び申し上げると同時に、猛省いたします。以下に、とりいそぎ手直しした記事を残しておきます。 エコノミストの記事より。アメリカの母体死亡率maternal mortalityが、過去25年間にわたって上昇しているという異
精神医療と患者の<作品>との関係について書いてみました。 まず第一に、精神医療は、文学や芸術をその中に含みこむ言説であり営みであったことを示す。これは、特定の精神科医や特定の作家の問題ではなく、精神医療が基本的な枠組みにおいて文学や芸術にいたる<作品>と不可分であったことを、20世紀前半の日本の精神医学の主要な教科書と精神病院の症例誌を通じて示す。教科書は具体的には呉秀三『精神病学集要』(1894, 2nd ed., 1916-1925)、石田昇『新撰精神病学』(1906; 6th ed. 1915)、下田光造・杉田直樹『最新精神病学』(1922, 5th ed., 1932)、三宅鑛一『精神病学提要』(1932, 7th ed., 1950) である。特に、石田、下田・杉田、三宅の教科書は改訂を重ね、日本の医学教育が拡大する中で精神病学の基本的な教科書として用いられた。精神病院は1901
Eghigian, G. (2015). "A Drifting Concept for an Unruly Menace: A History of Psychopathy in Germany." Isis 106(2): 283-309. 今年度は感染症の歴史の本を読んで講義ノートを作ったり、あるいは医学史の他の領域の本や論文を読んだりする機会が多かったが、久しぶりに専門の領域である精神医療の歴史の文献を読むことができるモードに入った。楽しく心躍らせながら読んだ論文が素晴らしかった。 「精神病質」という診断カテゴリーは、曖昧なものとして精神科医たちが警戒しているものである。精神科医が権限を拡張するために作り上げた概念であるとか、性犯罪をおかしたものに厳しい対応をするための道具であるといった議論がされてきた。日本では1960年代から70年代に、これが精神疾患として実在するのか、それとも
高林陽展先生が、「ニューロ・ヒストリー」についてのご報告を行います。6月21日14時より一橋大学にて。 第235回「歴史と人間」研究会のお知らせ 日時: 2015年6月21日(日)14時より 場所: 一橋大学西キャンパス本館特別応接室 (キャンパス地図9番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/campus/campus/index.html) 報告: 高林 陽展氏 タイトル: 「ニューロ・ヒストリーとは何か?―「神経学的転回」と歴史叙述の現在―」 要旨:2009年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のサーバーに「ニューロ・ヒストリー」なるウェブサイトが登場した。このホームページの設置者(ないし賛同者)として挙げられた5人の歴史家たちのなかには、フランス革命や文化史の研究で日本でもよく知られたリン・ハントの名前があった。このホームページの内容に従えば、ニューロ・ヒストリー
Timothy S. Miller and John W. Nesbitt, Walking Corpses: Leprosy in Byzantium and the Medieval West (Ithaca: Cornell University Press, 2014). 中世ヨーロッパのハンセン病の歴史は、医学史の定番メニューの一つ。今年はハンセン病を2回講義して、「聖アントニウスの火」を講義にできそうならそれで一回講義して、それから14世紀のぺスト(黒死病)を3回講義しようと思っている。ハンセン病の歴史については、今から30年ほど前の歴史学の世界で、中世社会に対して非常に批判的な史観が登場して、私もそれを熱心に学んだ。中世社会はハンセン病に対して苛烈な取り扱いをしたこと、患者とされるとさまざまな権利を奪われて共同体での居住を禁じられ街や村の外に追放されて患者たちだけで暮らすこと
アイデアのメモ。ベースは以下の二つの文献。 Tomes, Nancy, The Gospel of Germs: Men, Women, and the Microbe in American Life (Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 1998), pp.157-182. 黒柳徹子・飯沢匡『いわさきちひろ―知られざる愛の生涯』(東京:講談社、1999). 近代の医学の中でも、衛生学は人々の生活と密接にかかわる度合いが高かった。そのかかわりは、公共の領域と私的な領域の双方にわたるものであった。前者においては、外国との貿易における検疫、感染症患者の隔離検疫、上水道や下水道の整備などの、国内と国際の政治と経済の問題であった。こちらが19世紀末から20世紀の初頭においては主として男性の領域であったのに対し、私的な領域における衛生学は、女性の
“Pathography” について http://www.oed.com/view/Entry/138798 数日前のOED英単語は "pathography". この単語は全体としては「疾病を記述すること」という意味を持つが、各国語でかなり意味が違う厄介な単語である。ドイツ語の Pathographieと、おそらくそれを訳した「病跡学」という日本語は、精神医学の一分野をさす。芸術や思想の天才の生涯と作品を精神医学の立場から分析して理解するものである。ドイツでは19世紀末の精神医学者のメービウスが天才についての精神医学的な分析をしており、クレッチマーなども同じ方向の作品を書いている。日本におけるその学問の起源については、私は正確な知識を持たないが、いま市川市で展覧会が行われている式場隆三郎は、新潟医学校の博士論文でゴッホの分析を書き、後には「裸の大将」として有名な画家の山下清を後援してい
Appendix 2 -- 英語で学術的な文章を書くために 大学生・大学院生を念頭に、英語の能力を上昇させるための方法を、学者としての個人的な経験をもとに書いてみました。 英語教育のプロの視点ではありませんので、その点に注意して参考にしてください。 日本語と英語の二か国語を高い水準で使いこなせることは、大学・大学院を卒業した後にどのような業種に入るにせよ、そこでいい仕事をするために必須の能力になっています。皆さんは、日本語は母国語としての力を持っており、英語については、高校までの教育と受験英語が作った確実な土台を持っているので、高等教育を受けた人間にふさわしい日本語・英語の力を身に付けることは、さほど難しいことではありません。必要なのは、大学・大学院に在学中に、適切な訓練を続けることです。 言語の能力は、聞く・話す・読む・書くの四つにわけることができますが、このうち、聞く・話す能力について
Flannery, Michael A., “Alfred Russel Wallace’s medical Libertarinism: State Medicine, Human Progess, and Evolutionary Purpose”, Journal of the History of Medicine and Allied Sciences, vol.70, no.1, 2015: 74-104. ダーウィンと同時に進化論を構想したことで知られるアルフレッド・ウォレスの医学政策に対する態度を分析した優れた医学思想と社会思想の重なりを論じた優れた論文。ウォレスは、進化論者としてだけでなく、優れた博物誌と旅行記の著者としても有名である。(『マレー諸島』は翻訳もされていて、オランウタンの捕獲を描く筆はさすがだなあと感心する) 後年は心霊主義を信じたこともあって、興味深い自然
オクスフォードの新しい辞書が到着して、眺めて使い方を考えたこと。 Oxford Learner's Dictionary of Academic English. 簡単に言うと、学術論文や学術書など、学術系の文章を英語で書くための辞書である。世界中の大学教師、研究者、 院生たちがターゲットということになる。見出語は22,000で、学術論文などで良く用いられる語が選ばれている。それぞれの語を引くと、語義があり、学術的な文章からの用例が続く。用例の数が多く質が高い。類義語、関連語、反対語、語用などの説明がついている見出語も多い。学術的な文章を書くときに有益なヒントになるコラムや表現集などが、見出語との関連で随所に掲げられている。それぞれの見出語の記述を読むと、その語の概念や使い方がよくわかり、半年間一年間くらい使うと、学術論文を書くのがとても上手になることは間違いない。私は断固として使う(笑)
Conis, Elena, A Mother's Responsibility: Women, Medicine, and the Rise of Contemporary Vaccine Skepticism in the United States, Bulletin of the History of Medicine87.3 (Fall 2013): 407-35. 子供にワクチンを接種するか否かという問いは、日本も含めて現在の世界各地で大きな問題になっていて、この問題についての歴史研究を読みたいと思っていたところなので、とても役にたった。この論文は、1970年代から80年代のアメリカに焦点を当てて、特にフェミニズムと女性の運動の両者との関連で、ワクチン接種に反対する、あるいは警戒する立場の形成の複雑性を少なくとも部分的に明らかにした必読の論文である。 1982年にアメリカの放送局
ジョゼフ・ニーダム『ニーダム・コレクション』牛山輝代編訳、山田慶兒・竹内廸也・内藤陽哉訳(東京:ちくま書房、2009) 生理学を学んだ後に中国科学史の研究者となり、『中国の科学と文明』という翻訳で全11巻の大著をものした偉大な科学史家、ジョセフ・ニーダムの論文集である。オリジナルは1970年に刊行、翻訳は1970年代半ばに『東と西の学者と工匠』というタイトルで二巻本として翻訳されたが、その中から9つの論文を選択してちくまの文庫となったもの。 私は中国医学史については謙遜でも何でもなく、全く何も知らないに等しい。しかし、このグローバル化のもと、西欧の医学と中国の医学を対照させて考えたほうがいい。特に学部生向けの授業の時には、授業で丁寧に説明する内容はある地域や国に限定するにしても、「世界の他の部分ではどうだったのか」ということに言及して射程を広げたほうがいい。もちろんもちろん自分が学問的にカ
Reiss, Benjamin, Theatres of Madness: Insane Asylums and Nineteenth-Century American Culture (Chicago: The University of Chicago Press, 2008). 医療の社会史の中にも、社会科学の方法を取って患者の人口動態などを明らかにする手法もあるし、文化や文学など媒介にした社会史も存在する。この著作は、後者の部類に入る傑作の一つであり、必要があっていくつかの章を読み直す。 19世紀の中葉から後半のアメリカの精神医学者たちが、劇作家のシェイクスピアを非常に持ち上げて、シェイクスピアの作品から精神医学の優れた洞察を読み取るべきだと主張した理由について。同様のことはイギリスでも起きていて、その理由は医者たちのディレタンティズムや、医師たちが階層としての差異化を図ったためと
飛行機の映画で『アナと雪の女王』を観た。ディスニーのアニメらしい良い映画で普通に楽しんだ。原作はアンデルセンの『雪の女王』で、そこからかなりの改変があるが、雪の女王をどう描くかという違いが特に面白く、また重要である。アンデルセンの作品では、冷たい心を持った雪の女王がいて、彼女が厳しい冬を起こして、本当は優しい男の子を捕まえて心を凍らせて冷たい心の持ち主にしてしまう。一方『アナと雪の女王』では、二人姉妹のお姫様のうちのお姉さんのエルサが、彼女に特有の能力として触れるものをすべて凍らせる能力を持っていたが、そのような反社会的な能力が自分にあることを周囲の人はもちろん家族に対しても隠し、人目を避けてお城に閉じこもって生活してきた。しかし、そのような特有の魔力を持っていることが戴冠式の日に明らかになり、人々は彼女を恐れ忌避するようになり、彼女は一人で北の山に向かう。この逃避は、差別する人々から逃げ
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『akihitosuzuki's diary』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く