よく行く居酒屋のお手洗いに、そのポスターはデカデカと貼られていた。 1998年、天皇賞(秋)。若き日の武豊騎手が跨る馬の顔には緑のメンコ。 SILENCE SUZUKA 1994.5.1~1998.11.1 先頭を、どこまでも先頭を 手洗いから出た私は、たまらず大将に尋ねた。 「大将、あのポスターって。1枠1番…」 串打ちの手を止め、大将は顔を上げて答える。 「貴方みたいな若い人もご存知なんですね。一番大好きな馬なんです。 1枠1番。サイレンスズカ。」 私はそんなに競馬に詳しい訳ではない。飲む、打つ、買うの3つにしたって「飲む」しか嗜まない人生を送ってきた。そんな私でも知っている「伝説」の一つがサイレンススズカだ。1990年代の事を「伝説」というのは大げさに聞こえるだろうが、私にとっては20年前の馬も、40年前のチャリティーコンサートも、400年前の戦国武将も等しく「伝説」である。 だから