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画力アップ
mhotta.hatenablog.com
教科書の第3章に関連したコメントがあったので、補足をします。この教科書は、既存の実験結果、もしくは未知の対象系に対して実験で将来検証可能な形の仮説を与え、それを用いて沢山存在する理論の可能性の中から、量子力学という1つの定式化を作っていくというスタイルです。第3章では、第2章の2準位系の量子力学の定式化を多準位系に拡張することが書いてあります。 そのコメントとは、「多準位系で純粋状態が複素列ベクトルで表せることや、そのボルン則を示すことなどを演繹的に示すのは、強引な前提を導入しない限り難しいのではないか」「なぜ多準位系で複素ベクトル空間を考える必要があるのかを論理的に説明することは困難だろう」という趣旨の内容でした。指摘されたこのコメント自体は、後で説明をするように、実はこの教科書の論理の流れには当たらないのですが、教科書には厳しいページ数制限があったために、十分な説明が足りていなかったよ
講談社サイエンティフィクから拙書『入門 現代の量子力学 -量子情報・量子測定を中心として-』が出版されました。目次は下記のようになっております。 【目次】 第1章 隠れた変数の理論と量子力学 第2章 二準位系の量子力学 第3章 多準位系の量子力学 第4章 合成系の量子状態 第5章 物理量の相関と量子もつれ 第6章 量子操作および時間発展 第7章 量子測定 第8章 一次元空間の粒子の量子力学 第9章 量子調和振動子 第10章 磁場中の荷電粒子 第11章 粒子の量子的挙動 第12章 空間回転と角運動量演算子 第13章 三次元球対称ポテンシャル問題 第14章 量子情報物理学 第15章 なぜ自然は「量子力学」を選んだのだろうか 付録 大変ご好評を頂いているようで、著者としては有難いかぎりです。なおいくつか誤植や脱字が見つかりました。以下に2021年7月31日現在の正誤表を張らせて頂きます。(ご報告
いまイギリスに来ている。9日間という短い期間に、ロンドン、ケンブリッジ、ノッティンガムを回る強行軍の出張だ。 最初のロンドンでは、ここの学術査読雑誌のEditorial Boardをしている関係で英国王立協会を訪問。ここはイギリスの科学の長い歴史が詰まっている場所でもある。 アイザック・ニュートンもかつてここの協会長をしていた。1703年から1727年の間勤めていたらしい。いろいろある貴重な資料の中から選ばせて頂いて、まずはニュートンの有名な『プリンキピア』の手書き原稿を見せてもらうことにした。 保存のために1枚1枚綺麗に現代の用紙に貼られてファイルされていた。 揮発性洗剤を含んだ備え付けのテイッシュで念入りに手を拭いた後、さっそく1枚1枚めくっていくと、推敲の跡が見てとれた。 次にはマクスウェルの『電気磁気論』初版本(1873年)を見せてもらうことにした。彼は現代物理学の基礎の1つである
最近、オランダのエリック・フェアリンデさんが提案したエントロピック重力理論が世間で注目を集めている。これはオランダの観測グループが銀河による弱い重力レンズの効果を使って彼の理論の検証を行い、データと整合したという論文を出したからだ。 フェアリンデさんは、長距離では重力の強さが変化して、みかけ上暗黒物質(ダークマター)があるように振る舞うという主張をしていたため、観測と矛盾しないという観測結果からダークマターは実は不要だったとか、エントロピック重力理論は正しかったとかと、断定的に受け止めた方も多いようだ。 しかしこの彼の"理論"は、完成した理論ではない。根拠の確立していない多数の仮説を沢山組み合わせて、観測と比べられる量を同定しているだけで、精密な定式化がなされているわけではないのだ。論理的にダークマターが存在しないことを示したものでもない。 論文では、量子もつれやエンタングルメントエントロ
コペンハーゲン解釈では、測定者と測定対象の量子系を「合理的に」分離できたときに初めて、量子力学は使える形で定式化されていると、これまで説明してきた。 (下記まとめを参照。http://togetter.com/li/758266) 例えば図1は1つの量子的なスピン系を外部観測者が測定をする設定であるが、これは合理的分離が実現している典型例である。 しかし自分の脳を、いろいろな機器を用いて「自分自身で」モニターする場合は、この合理的分離に当てはまるのかという質問も出ることがある。 例えば、自分の脳の量子的状態重ね合わせを、脳からの信号を取り出しながら、自分自身で観測できるのかという問題だ。 答えから言うと、自分の脳の量子的重ね合わせ状態は自分では観測できない。 もし可能であれば、時々刻々1つの体験だけを感じている自分の意識と、量子的重ね合わせに含まれている他の体験との間で辻褄が合わなくなるた
量子テレポーテーションは、一般の方から見てやはり不思議な現象だろう。 この世の中の全てのモノの本性である、量子情報。そしてその集まりとしての量子状態|ψ〉(または波動関数ψ(x))を、ランダムに吐き出された測定結果を遠隔地に伝えるだけで転送することが可能だ。 以前書いたブログ「量子テレポーテーションは、本当はテレポーテーションではないのか。 」でも、その概要は触れた。 そこでも説明したように、送り手のアリスとっては、量子情報が瞬間的に移動したように見える。 (ただその量子情報を受け手のボブが使えるようになるには、光速度以下で届く測定結果を知る必要があるが。だから因果律は破れない。) ボブにとっても、テレポーテーションが終わってから自分のスピンの過去の状態を推定すると、測定結果が届く前から、未知の状態|ψ〉に依存したある純粋状態だったように見える。 更にアリスが測定する前からその純粋状態だっ
デイビッド・ドイッチュがあちこちで「量子コンピュータが圧倒的に速いことは多世界解釈が正しい証拠」と宣伝しており、またそれを扇動的に扱う科学記事も人気を集めているため、世間では多世界解釈は完成された量子論解釈と誤解している人がこの10年くらいで増えてしまったように思う。 多世界解釈では宇宙全体を記述するただ1つの波動関数が実在しており、図1のように時間とともに様々な宇宙の量子的線形重ね合わせに進化する。 ここに出てくる各宇宙に異なる計算作業を分担させて巨大な並列計算を量子コンピュータは行うために古典コンピュータに比べて指数関数的に速いのだとドイッチュは説明するのだ。 また他にも、コペンハーゲン解釈で出てくる波動関数の収縮はシュレーディンガー方程式では記述できない"謎"の過程であり、それはコペンハーゲン解釈を超えて説明されるべきだという主張を繰り返す人もいる。 多世界解釈では宇宙全体を記述する
前野さん(@irobutsu)にツイッターでタキオンについていろいろ教えてもらっているうちに、意外なことが分かって面白かった。 タキオンは光速度より速く運動する粒子であり、因果律を破るため存在しないと考えられている。 しかしSF業界では多大なインスピレーションを与える源泉でもあり、多くの人に愛されている存在でもある。 問題は、2つのタキオンの間に働く重力は引力か、斥力かというところから始まった。 タキオンは超光速で運動するため、慣性質量の2乗が負になると通常言われている。 素朴に考えれば、これは純虚数の慣性質量をもつ存在だ。 これをまた素朴にニュートンの公式F=-G(m^2)/(r^2)に代入すると、タキオン間の重力は斥力になるようにも思える。 ところが前野さんと議論していくと、そう簡単な問題ではないことが分かってきた。 タキオンは静止させることができないため、それを重力源とする静的なブラ
量子テレポーテーション。 最近よく聞くバズワードかと思う。 物理学の世界においてこのテレポーテーションは実験もなされ、応用が試みられる段階だ。 しかし一般の方々の中には、本当に人類が瞬間移動の術を手に入れたと勘違いされている人もいらっしゃるようだ。 それに対して物理の専門家は、量子テレポーテーションでSF的な瞬間移動装置を作るのはできないことも説明してきた。 この事実を強調することはとても意義があることだと思う。 このプロトコルではある古典的な情報を相手に伝える必要があるため、情報通信の最大速度である光速を超えてテレポーテーションを起こすことはできないのだ。 そのため物理学でいう「因果律」も破ることはない。 ただ認識論的な量子論解釈である現代的なコペンハーゲン解釈では、テレポーテーションの送り手側にとっては確かに瞬間移動のように見える現象ではある。 ただし受け手にとっては瞬間移動ではなく、
「量子的」と思われているいくつかの現象の本質が「古典的」であることは、案外知られていないようだ。 弱測定における増幅効果もそうだし、量子消しゴム(量子消去)をレーザーポインター等の日常の道具を使って確かめようとする実験も、実はそのような例になっている。 本質的に量子効果でしか起き得ない「量子的な場合」と、古典力学でむしろ馴染みのある現象を量子的環境にも適用している「量子的な場合」の区別は重要かもしれない。 今回はこのことについて述べてみよう。 まずは弱測定の増幅効果(amplification effect)の話からいこう。 (弱値、弱測定についての基礎的な話は http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/22/123604 http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/152110 http://mh
量子エンタングルメントは、量子情報科学における量子テレポーテーションや量子コンピューティング用の資源として知られている。 今回は様々な物理学分野における精密測定の資源としても使える可能性がある、量子エンタングルメントの側面を紹介しておこう。 現時点でこの技術を使っているのは量子光学系の実験が主だが、これからは半導体を含む様々な物性系や素粒子・原子核系の実験、そして宇宙観測の技術にも入り込んでいく可能性もある。 物理学の多くの実験では、未知の相互作用プロセスの解明を目的にしている。 例えばヒッグス粒子の発見も、この粒子が関わる反応を精密に測定して達成されたものだ。 特に微小な結合定数等のパラメータの大きさの推定が重要な場合も多い。 そこで簡単な例を挙げて、パラメータ推定における量子エンタングルメントの有用性を説明したい。 図1のような外から中が見えない箱がある。 中には、箱の正面と直交したあ
ツイッター(@hottaqu)で、次の問題を出してみた。 例えば1次元空間で図1のようなポテンシャルの中の粒子を考えよう。 基底状態のエネルギーEは、原点付近のポテンシャルVoより小さい。 しかし、エネルギーが足らないため古典的には粒子の侵入を許さない領域にも、基底状態の波動関数は浸み込んでいる。 「トンネル効果」である。 従って粒子が原点周辺に見つかる確率は、零ではない。 しかし原点付近に粒子が見つかるとすると、その足らなかったエネルギーはどこから来たのか? それが「問題」である。 測定の結果、例えば図2のように粒子がある点x=ξの周辺に局在した波動関数u(x-ξ)になる。 この状態では明らかにポテンシャルエネルギーの期待値は基底状態のエネルギーより高い。 また粒子がより局在するため、運動エネルギーの期待値も基底状態の時より高くなる。 従って確かに粒子はエネルギーの高い状態に見つかったこ
時間とエネルギーの不確定性関係は、世間で誤解されている側面が強い。 測定時間とエネルギーの測定誤差には不確定性関係があると信じられてたり、そのため短い時間ではエネルギー保存則は破れてもいいと考えられたりしている。 これらは以下の記事でも言及されているように、全くの間違いだ。 http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/26/061840 http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/155744 量子力学において時間はエルミート演算子で書ける物理量ではなく、4次元時空の中の空間的(spacelike)な3次元超平面を指定する外部パラメータに過ぎない。 従って測定時間とエネルギーの測定誤差の不確定性関係は、教科書で習う位置と運動量の間のケナード不等式(ΔxΔp≥ℏ/2)や最近知られるようになった小澤不等式
「存在とは何か?」という問題は、本来実に根が深い。 例えば、相対論的量子場の真空状態|0〉を考えよう。 普通の慣性系での量子化では、真空は粒子数が零の状態だ。 またエネルギー密度の期待値もどこでも零だ。 そして図1のように慣性運動している測定機Aで測っても、粒子は観測されない。 空っぽの「無」の状態そのもののように思える。 しかしFulling-Davies-Unruh効果、通称「ウンルー効果」という面白い現象が知られている。 図1のBのように真空中を一様加速度運動をしている測定機は、あたかもその加速度に比例する温度の熱浴の中にいるように振る舞うのだ。 またこの一定の加速度κで運動している測定機を記述するのに便利な図2のリンドラー座標系(τ,u,y,z)に移ると、この座標系での粒子数も零ではなくなり、多数の粒子が有限温度の分布をしているように見える。(cは光速度で、図1ではu=0の軌跡を測
セス・ロイドさんは、量子メカニックを名乗る、猛烈に頭の回転が速いMITの教授である。 量子情報分野では多くの良いお仕事をされており、また「宇宙をプログラムする宇宙」(早川書房)等のポピュラーサイエンスの本の著者としても有名である。 1988年の彼の博士論文での研究[1]が記事[2]に取り上げられていた。 今回このセスさんが考えていた周辺のことに触れてみたい。 量子エンタングルメントと時間の矢の問題である。 但し理解のための準備も必要なため、少し違う情報理論の入口から入っていこう。 まずアリスが1ビットの古典情報が書き込まれている電子スピンを持っているとしよう。 例えばz軸方向のダウン状態を0に、そしてアップ状態を1に対応させればこれは実現できる。 アリスはできるだけ安全にこの情報を秘匿しておきたいと願っているとしよう。 古典情報は簡単にコピーできるのが特徴であり、本来は最大の利点でもある。
量子論で有限の時間ではエネルギー保存則が破れるという間違った説明が様々な大学の授業で教えられているようだ。 特に素粒子や場の量子論の講義の中で、重い粒子が媒介して力を伝達するという部分においてこのような説明がなされているらしい。 この誤解は、有限時間ではエネルギーは正確に測れないという、時間とエネルギーの不確定性関係の間違った理解から出ているようだ。 もちろん時間変動を測り続けてフーリエ変換をするような、時間をかけないとエネルギーが測れない悪い測定も存在する。 しかしエネルギーを測る誤差は、本来測定時間と全く無関係である。 今回はそれを説明しておこう。 そのためにまず「理想測定」とは何かということを、スピンを例にして復習しておこう。 図1、図2にスピン1/2をもつ中性原子のz軸成分を理想測定する測定機の概念図を書いてみた。 理想測定の満たすべき性質の1つとして、「正確に」測る物理量を読みと
コペンハーゲン解釈を学ぶ時、一番最初にひっかかるのは「波動関数の収縮」という概念ではないだろうか。 ある量子系を測定して結果を得た途端、その状態は瞬間に別な状態へと変化するという、あの話だ。 古い教科書で学んだ先生方からは、「そんなことは気にするな。まずは計算ができるようになれればいい。(Shut up and Calculate!)」と親切なアドバイスを受けた人もいるだろう。 それでも何か気持ち悪い感じが残っている人も多いらしい。 従来の教科書ではコペンハーゲン解釈の本質的パーツの説明が抜けているから、こういう消化不良を起こすのだと思われる。 「コペンハーゲン解釈では波動関数(量子状態)は物理的実在ではなく、認識論的情報概念である。」としっかり理解すれば何も問題は起こらないのだ。 観測者が持っている系の情報量に応じて、1つの量子系に対する波動関数は人によって異なってもいい。 実在論的解釈
3月にあった研究会QMKEK(http://www-conf.kek.jp/QMKEK/)で弱値の講演をされたホフマンさん、細谷さん、筒井さんへ私がさせて頂いた質問の中に、量子チェシャ猫の話がある。 (註:弱値については http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/11/152110 http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/20/233839 http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/03/22/123604 を参考にして欲しい。) チェシャ猫(Cheshire cat)とは、ルイス・キャロルが書いた「不思議の国のアリス」に出てくる変な猫のことだ。 薄ら笑いをする変な猫だが、もっと変なことに、その猫はしっぽから見えなくなり、最後に薄ら笑いだけ残して完全に消え去るのだ
20世紀初頭の量子力学黎明期の混乱の中で、間違った形のまま固まってしまい、最近まで伝承されてきてしまったものの1つに、"時間とエネルギーの不確定性関係"の話がある。 発端はソルヴェイ会議におけるアインシュタインとボーアの論争から。 アインシュタインは光子箱の思考実験を持ちだして、時間とエネルギーの間には不確定性関係はないと主張したが、ボーアは彼の一般相対論を持ち出して論破したのだと言われている、あの例の話だ。 しかし現代において量子測定理論を少しかじった研究者ならば、ボーアの言い分は全くのこじ付けで的外れであることを知っている。 一方、湯川中間子論でも論じられた、摂動論的議論に現れる別な"時間とエネルギーの不確定性関係"は多くの人に誤解されたままのようだ。 この問題の内容はこうだ。 相互作用をしている2体系を考えよう。保存量である全ハミルトニアンHを、それぞれの部分系の一体エネルギーを記述
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