#21 わたしではないわたしのこと 都心から川を渡ったところにある街に、十二年ほど暮らしている。なので、ほとんど毎日電車で川をまたぐことになる。 線路は架橋を通っていて、日が暮れてから電車に乗ると、向こうに街明かりが見える。それを、十二年のあいだいつもすこしずつ、平熱を超えない程度に好きでいつづけてきた。川の上を通る時だけは、iPhoneや、ガラケーや、iPod、文庫本、そのときどきに見ていたものから、いっとき、目をあげる。そのくらい。 その日は終電が近かったのか電車が空いていて、席に座って見るともなく川を見ていたら、隣に座ってきたのは高校生のときのわたしだった。よれた制服に、左右で視力が大きく違うせいで目の大きさがちがって見えるめがね、穴のあいたローファー、てきとうな風体のやつだ。 「そっちはどう?」と声をかけると、「さんざんですよ」という。 「なんで敬語なの?」と聞いたら、「心を許せ