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パリ五輪
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NBER Reporter(NBERに所属する研究者が自分の最近の研究の内容をテクニカルになり過ぎないように説明している刊行物)でLoukas KarabarbounisとBrent Neimanが、労働分配率の低下について書いていた(リンク)のでメモしておく。 労働分配率というのはGDPのうちどの割合が労働者に(主に賃金として)分配されているかを示している。普通は2/3くらいと考えられている。この割合が安定しているというのは、マクロ経済における重要な事実のひとつと考えられてきた。モデルで言えば、代表的企業の生産関数にコブ・ダグラス型の生産関数を使う根拠となっている。 しかし、最近の研究では、この割合が低下してきていることが示されている。GDPにおける労働者の「取り分」が低下しているというのは、所得不平等の度合いが拡大しているという事実とも関連している。労働分配率が低下するということは、直
あまり考えずに書いた、ちょっと軽い話を書く。 時々誰かがこういうことをTwitterでつぶやいているのを目にするけど、研究者というのはスポーツ選手と比べることもできる。スポーツといってもいろいろあるんだけれども、研究、特に経済学は、個人スポーツの色が濃く、国際化が進んでいるので、ゴルフやテニスとよく似ているなぁと思うことがある。 ゴルフで考えてみると、どの国の出身でも世界のトップはアメリカやヨーロッパのツアーを一人で転戦している。まぁ、自分のチーム(研究者の場合家族)で回ることも多い。日本にもれっきとしたツアーが存在し、アジアのツアーやオーストラリアのツアーも存在する。どこを回って賞金を稼ぐかは自分しだいだ。アメリカのツアーに比べると日本のツアーの賞金は少ないけれども、日本の居心地の良さは捨てがたいというプロもいるのではないだろうか。家族のことを考えて海外ツアー転戦を止める人もいるだろう。
もう少し関連文献をじっくり読んでから書きかたったけれども、そういう時間がないので、かなり大雑把に書いてみる。 賃金が上がるときには失業率が低下するという関係が見られることが多い。フィリップスカーブといわれるものである。賃金(上昇率)と一般的な物価(上昇率)はだいたい一緒に動くことが多いので、失業率と物価の上昇率(インフレ率)の負の関係としてフィリップス曲線を理解している人も多いかもしれない。 ただ、流行の言葉を使うと、この関係は「相関関係」であり、「因果関係」はここからは読み取れない。言い方を変えると、どうしてこのような賃金上昇率と失業率の負の相関関係が見られるかを理解するためには、何かしらの仮説を立てる(モデルを作る)必要がある。この相関関係は比較的簡単な仮説で理解されてきている。何らかの理由(財政・金融政策による刺激も含む)で経済が好調になって、企業がもっと多くの労働者を雇いたいという
今回は、日本の(個人)所得税についてちょっと見ていくことにする。きっかけとなったのは、twitterで見かけた、以下のグラフである。 出典を探すのに手間取ってしまったが、このグラフは「月刊誌『KOKKO』編集者・井上伸のブログ」というブログの著者が作ったものであるようだ。この手の、金持ちが優遇されている!みたいなキャッチーなメッセージのデータはしばしばtwitterで見かけるが、多くは信頼性にかけるので、あまり真剣に見ないのだけれども、日本の税制およびデータの基礎的なところについてちょっと学んでみるきっかけにしようと思い、ちょっとデータを見てみた。僕自身、ぜんぜん日本の税制なんて素人なので、間違えも多くあるかもしれない。間違えに気づいたら教えてくれるとうれしい。 このグラフは、所得が1億円を超えると、総税負担(所得税+社会保険料+住民税)が所得に占める割合(総税負担率)が低下するというのが
今回は、現代のマクロ経済学者が、最適な政策・採るべき政策を考える時にどのような手法を使うのかを紹介してみようと思う。「マクロ」経済学者と書いたのは、おそらくは、このような考え方を受け入れられない、経済学者もいるはずだからだ(後で少し触れる)。ちゃんとした(マクロ)経済学者が、政府が取るべき政策について議論するときにどのように考えているのか、あるいは、ちゃんとしてない人は何がまずい(と少なくとも僕が思っているのか)がわかってもらえれば幸いである。今回はちょっと抽象的に議論して、気が向いたら、次回は、ちょっとしたモデルを組んで具体的な例を示すことをやるかもしれない(こういうことを書いても大体やらずに終わるんだけれども…)。 マクロ経済学者が望ましい政策について考えるときには、モデルをもとに、上のようなグラフを頭に描いている。x軸(Policy variable=政策変数)は政府が選べる政策であ
今回は、AcemogluとRestrepoによる最新のNBER Working Paper("Secular Stagnation? The Effect of Aging on Economic Growth in the Age of Automation")に触れる。とても短い論文だし、2017年のAEA年次総会で発表したと書いてあるので、おそらくはAER PPに載る論文なんだろう。 まずは、簡単にバックグラウンドから紹介しよう。普通の景気循環であれば、不況期にはGDP(生産活動)の成長率が急に落ち込むものの、その後の回復期にはGDPの成長率が急激に回復するのが常である。しかし、ほぼ全部の先進国では、2000年代後半の不況期以降、GDP成長率の急速な回復が見られない。下のグラフは、Summersが2016年2月に書いた記事と同じように、先進諸国の実質GDPの年間成長率の10年間の平均
Tony Atkinsonは、各国の所得・資産に関する不平等に関するデータを集めて見やすい形に整理したChartbook on Economic Inequality(リンクはここ)を整備した。それぞれの国について、みやすいグラフと、グラフからどういう傾向が読み取れるかが簡潔に整理されている。主にデータのそろっている先進国しか含まれていない。日本のデータも含まれているのは国際比較を容易にするという意味で喜ばしい。 例として、アメリカと日本のグラフを見てみよう。まずはアメリカから。 労働所得のばらつきの程度はここ数十年で拡大したか? → Yes。上位10%の所得の中央値に対する比率は1950年の150%から2012年には244%まで上昇した。 所得の不平等は最近上昇したか? → Yes。所得に関するジニ係数は1980年から7パーセンテージポイント上昇した。 所得の不平等が低下した時期はあった
Tony Atkinsonが2017年の1月1日に亡くなった。Atkinsonといえば、今Piketty-Saezがやっていて大流行していることー各国の不平等の歴史的な変化についてのデータの整備、および最適課税理論ーをずっと前に始めた人である。Pikettyブームというか不平等ブームで彼の仕事にも以前にもまして注目度が高まった矢先だったので、残念である。 今回は、2015年に出版されたAtkinsonのベストセラー"Inequality - What can be done?"で提示された15の提言が彼のホームページにあるので、それを和訳して書いておく。かなりの政府介入を許容しているのに驚きである。次回は彼のもうひとつの最近の仕事ー各国の不平等に関するデータの整備ーについて触れる。 1. 技術革新の方向性は政策決定者にとって直接的な関心事であるべきである。労働者が雇用されやすく、サービスに
Economist誌の年末合併号(クリスマスと年末の2週間分を1冊でカバーする号)では、ニュースだけでなくさまざまな分野の一般的な話についての長めの記事が掲載される。もちろん、経済学についてのコラムのような記事もいくつか掲載されることが多く、楽しめる。今年は、ケンブリッジ経済学部の変遷と経済学自体の変遷をパラレルに捉えた記事(記事へのリンクはここ)があり、楽しめた。ここでは、その記事で面白かったところだけ、箇条書きで意訳していく。 1885年にマーシャルが教授に就任する前のケンブリッジ経済学部では、経済学は、心理学、論理学、道徳学と同じく、「道徳科学(moral sciences)」の一部であった。「経済学」というものは独立した学問としての地位を確立していなかったといってよい。「政治経済学が倫理学から学ぶものの方が多いか、その逆か」といった問いかけがなされていた。 マーシャルは1903年に
東京財団というところが、将来の消費税の税率を変えることによって、国の財政状況がどのように変わるかシミュレートできるモデルを公開していることを知った。簡単ながらいくつか感想を… 1. アメリカだとこういうことはよくCBO (Congressional Budget Office)がやっている印象がある。CBOは政府機関ではあるが、政府(の意向)とは独立して(ありえそうないくつかのシナリオに基づいて)このような試算をよく行っている。日本では政府の中に、このようなことを独立して実施する機関はないようなので、すばらしい試みだと思う。 2. Rで書かれているスタンドアローンのバージョンと、ブラウザ上で走らせることのできるバージョンがあるみたいだ。Rなんて使う気はしないし、複雑な計算をしているは思えないので、Excelで書いてくれるとうれしい。IMFだって複雑なシミュレーションをExcelでやっている
為替レートが変化すると、インフレ率や輸出、輸入にどういう影響を与えるだろう、という国際経済学における永遠のテーマの一つについて、最近読んだことをメモしておく。 標準的な考え方はこのようなものだ。例えば日本に比べてアメリカの金利が上がる(FRBは現在利上げを進めている一方、日銀が近々利上げをするとは考えにくい)と、ドルの方が円に比べて魅力的になるので、ドルの相対的な需要が高まって、ドルが円に対して強くなる。すると、日本がドル建てで買って輸入するものは円建てでは価格が高くなる(ドルが高いからである)ので、輸入品も含めて日本人が消費する物の平均的な値段が上昇する。いわゆる「輸入インフレ」というやつである。 その一方、 輸入するものがドル建てで価格が設定されているとすると、円建てでの値段が高くなるので、輸入するものの競争力が落ち、輸入数量が減少する。日本が輸出するものは、円建ての価格(原価)が変わ
AuclertとRognileの、最近MITから生み出されたマクロのスターが、不平等の拡大が経済停滞を生み出すメカニズムについて分析している("Inequality and Aggregate Demand"、論文自体は公表されていない)。このメカニズムはいろいろな人が言っている(例えば、この記事(日刊ゲンダイなんて引用したくないんだけど)によるとスティグリッツは「格差が拡大していることにより、持てるものは消費を拡大せず、持たないものは消費を控えることにより、『需要』が冷えていることが問題である」と言っているそうである)。 メカニズムは単純である。収入や貯蓄が低い人の消費性向は高く、収入や貯蓄が高い人の消費性向は低いことは知られている。このような状況下で、収入が高い人の収入が更に増え、収入が低い人の収入が更に減ったとしよう。もちろん、この場合、所得の不平等は拡大することになる。総消費はどう
最初に断っておくと、僕は理論に詳しいわけではないので、今回のエントリは理解が不十分なところがあるので、間違っていたら教えてもらえるとうれしい。 では、いってみる。先進国の多くがゼロ金利制約に引っかかって以来、様々な非伝統的金融政策が試されてているが、次の言葉を初めて聞いた時に面白いと思ったことを覚えている。 「QE(Quantitative Easing)は理論上効かないはずなのに、現実では効果がある。Forward Guidance(以下FGと書く)は理論上とても効果的なはずなのに、現実では効果がないみたいだ。」 理論上~、現実では~、というのは経済学者がよく使うフレーズなんだけれども、このコントラストは面白い思ったことを覚えている。前半のQEのくだりはバーナンキが使ったことで有名になったフレーズであり、後半のFGは、最初に誰が言ったか知らないけれども最近ではセントルイス連銀のブラード総
Economist誌の最新号で、GDPの問題について特集が組まれていた。 昔から言われていることとして、GDPは厚生(幸福度)の指標としてそもそも問題がある。例えば、選択肢が広がることによる厚生の向上はGDPには反映されない。また、市場で取引されないもの(家庭で行う子育て)の価値はGDPには含まれない。サミュエルソンは、誰かがその人が雇っていたお手伝いさんと結婚するとGDPは減少するという(多分ちょっと不適切な)例を彼の教科書の古いバージョンで挙げていた。 それに加え、GDPにはそういう限界があるということは受け入れたとしても、そのGDPが把握しようとしているものすらきちんと把握できているかについても問題が大きくなってきている。その問題の源泉は、サービス産業の比率が高まっていることだ。GDPはもともとどのくらいモノの生産が可能かを図るために開発され、整備されてきたものであり、サービスの生産
舞田さん(@tmaita77)という方が、twitterに、2001年と2013年で、「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が大きく増加しているというグラフを示していた。以下のグラフはそれを再現したものである。元になっているデータセットは厚労省が作成している国民生活基礎調査というデータセットである。3年に一回、貯蓄に関する質問が行われているので、3年おきのデータがある。以下のグラフでは、2001年と2013年の間の全ての年について示している。 ちょっと前にtwitterで投稿したバージョンでは、分母に、回答=「不詳」という人たちも入れていたのだが、片山さん(@mnchk)のアドバイスにしたがって、「不詳」の人たちを除いてみた。「不詳」の人は少ないので、どちらにしても、メッセージは同じで、2013年だけ、「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が大幅に上昇している。この上昇は、もともと高い29歳以下の家計
消費税の効果について、あいかわらず間違ったことがたくさん言われている気がするので、思うところをラフに書いておく。 政府の予算の構造というのは複雑で、僕には良くわからないのだけれども、簡単に言うと、消費税率を上げなければならないのは、既に支出の大きな部分を占めていて今後も増えていく公的年金を将来なるべく減らさないようにするためだと思う。 だから、消費税率を上げなければ将来の年金はこれだけ下がってしまうけれども、消費税率を今上げる代わりに将来の年金の金額はこれだけ増えますよ、という説明の仕方ができれば、比較的若い世代の反対は多少和らぐと思うのだけれども、日本の政府にこんな複雑な計算をする能力もそういう簡単でない議論を展開する能力も意思もなんだろうなという気がする。 では、なぜ消費税じゃなきゃダメなのか?議論を単純にするため、所得格差のようなものを捨象する。消費税率の代わりに所得税率を上げるとす
今回もあまり深く考えていないポストを。 日本の実質GDP成長率と実質個人消費支出(PCE)の成長率を見てみただけだけれども、いちおうポストしておく。きっかけとなったのは、消費税を3%引き上げた場合の「成長率」への影響は、PCEから成長率へのフィードバックの無いシンプルなモデルで考えると一回限り3%(消費税の増税幅)*70%(PCEがGDPに占める大体の割合)=2%だけGDP成長率が下がるだけのはずだけれども、データでは実際どうなっているか確認したかったということである。何はともあれ、データをグラフにして見たのが以下である。成長率は各四半期の前四半期からの成長率を年率換算(4乗しただけ)したものである。 目立つのは地震のあった2011年と消費税増税(5%→8%)がなされた2014年の初めである。GDP成長率の落ち込み幅が2011年の第1四半期と2014年の第2四半期でほぼ同じであり、PCEの
自分の本業であまりこういうことはやらないのが残念なんだけど、国際比較というのは楽しい。OECD(いわゆる「先進国クラブ」とEconomist誌はいつも注釈を付けている)が、いろいろな面でOECD各国を比較したデータや印刷物を出しているのだけれども、公的年金についてのものがあったのでいくつか取り出してみた。全部の国を見ると大変なので、日本、アメリカ(小さい政府の代表)、イギリス(大体の面においてアメリカからちょっと大陸ヨーロッパにシフトしたような感じになる)、スウェーデン(大きな政府の大陸ヨーロッパの代表)、とOECD平均を比較してみた。 それぞれのデータがどのように作られているかなどをぜんぜん気にせず見ているので、専門家は突っ込みたくなるかもしれないけれど、そのときは突っ込んで欲しい。 最初の列(Median)は働いていたときの所得がちょうど真ん中あたりだった人が、働いていたときの平均的な
日本銀行が実施しているいわゆる「異次元緩和」というものが、何で効果がないか、あるいは無駄なことか、考えられる理由を箇条書きにしてみる。もちろん、以下の一つ一つは慎重に吟味されるべきであるが、そういったことがなされていないこと自体が不満なので、とりあえず問題提起の形で書いてみる。とりあえずさっと書いたので、おいおい修正していく。 何もをもって、効果があると考えるかだが、とりあえず、「2%のインフレを達成する」ことが目下の目標として挙げられている。おそらく、そのためには、まずは何らかの効果によって、総需要を刺激しすることで、物価上昇につなげると考えるのが自然だと思うので、そういうチャンネルを基に考えていく。もちろん、この考え方自体もチャレンジされてもよい。 1. マイナス金利といっても0.1%位金利を動かしたくらいでは何も大きくは変わらない。昔は不況になったときには3-4%くらいは平気で落とす
最近のNBER Working Paperで信用(あるいは負債)と景気循環についてのペーパーが2つ見られたのでちょっとまとめておく。ナイーブな理論であれば、信用(あるいは負債)の拡大というのは、金融部門がより有効に機能していることととらえることとできるので、(現在の)経済成長に良い影響を与えると考えることができる。しかし、日本の1980年代後半以降の経験や、アメリカの1980年代後半の経験、及び2000年代後半の経験は、信用・負債の拡大は経済に悪い影響を及ぼしているのではないかという考えを人々の頭に植え付けている。 Mian, Sufi, Verner (2015)による最新のNBER Working Paper("Household Debt and Business Cycles Worldwide")では、30カ国(主にOECD加盟の「先進国」)の1960年から2012年にわたるデー
Daron Acemogluのプレゼンを見た。彼のプレゼンを見るのは久しぶりだったが、相変わらず、エネルギッシュで、かつ一般向けだけれども面白いプレゼンだった。彼のプレゼンは技術革新について一般に信じられている3つの説に異議を申し立てるという内容だった。うろ覚えであるが、彼のプレゼンの内容をメモしておく。確か、3つの説は以下のようなものだったと記憶している。 技術革新は常に、スキルの高い人に有利になるようなものである(Skill-biased)という説。 技術革新によって高スキルの人々の賃金だけが伸びていくという説。 レオンチェフが予測したよう(ケインズもこのような予測をしていたらしい)に、技術革新は(低スキルの)人間を、馬がそういう運命をたどったように、役に立たないものにするという説。 1つ目については、 昔は、大量生産技術の発達によって、(高スキルの)職人の職がなくなったように、技術革
最近、消費税の軽減税率(主に「生活必需品」と思われるものに通常より低い税率を適用すること)の話題が盛り上がっている。「経済学者のほぼ全てが反対している」というから、実施する政府は何考えているのかわからないといった感想が聞かれるが、日本の政府は僕からすると何考えているのかわからない政策をたくさん実施しているので、軽減税率が導入されても特に驚かない。僕は逆に導入されなかったら驚くと思う。この手の、あまり考えなければよさそうに見える政策は常に実施されてきている。皮肉っぽく言うと、この手の政策を好む国民の代表が政府なのだから、実施されないほうが驚きだ。 では、なぜ、経済学者のほぼ全てが皆反対しているにも関わらず、実施されようとしているのか。それは、導入しないことの負の効果がわかりにくいからだと思う。軽減税率を実施した結果追加的に発生する財政負担が、他の増税、あるいは何らかの財政支出の削減という目に
所得の不平等が拡大するにつれ、高額所得者の所得にどの位課税すべきかという問題がアカデミアの内外で議論されてるようになってきた。このポストでは、Diamond-Saezが静的なモデルを使って導出した結果を紹介した。彼らのモデルによると、アメリカにとって最適な、高額所得者に適用する最高税率は現行の43%よりずっと高い73%ということだった。 但し、彼らがその結果を導くにあたって使用されたモデルはかなりシンプルなものであった。もちろん、シンプルだから結果がシャープでわかりやすいというメリットは大きい。彼らのような、最適な政策などを観察できるいくつかの統計量の関数として表現することで、それらの統計量と最適な政策とのリンクを明示化するアプローチは「Sufficient Statistics Approach」とよばれて、最近流行りまくっている。 但し、その一方、彼らの結果を導出するのに使われた仮定を
財政乗数(fiscal multiplier)についてはたびたび書いてきた。財政乗数というのは、政府が支出を1ドル(1円)増やしたらGDPがどのくらい増えるかということを表している。例えば、財政乗数が1であれば、政府が1円多く支出したらGDPは1円増えるだけであり、政府が多く支出した分を後で増税として(1円多く)取り返さなければならないことを考えると、財政政策には景気を浮揚させる能力は特にないということになる。言い換えると、財政乗数というのは、政府による景気対策がどのくらい効果低下を表す指標であるゆえに、重要であるのだ。一般的に、財政乗数が0と1の間であれば、景気対策なんてしないほうが良いし、財政乗数が1より上、たとえば2とかであれば、政府による景気下支えは非常に効果的だということになる 以前のポストでもふれたが、AuerbachとGoerdonichenkoは、最近の研究("Measur
ここ最近、Romerが、最近の成長理論について、特にLucas-Mollの論文を題材に激しく攻撃していることが話題になっている。これとかがわかりやすく纏められている。そのうちhimaginaryさんが書くのではと思うので放っておくが、もしかしたら僕も何か書くかもしれない。 上でリンクを張ったブログで"Math is not science"というフレーズが使われている。日本でも、(特に最近の)経済学についての誤解はMathとEconomicsの関係についての誤解が生まれているように見える。 しばしば目にする素人さんの批判として、「経済学は高度な数学ばかりに注意を払って現実を見ていない」というものがある。この批判が的外れなのは、「高度な数学」を「難しい英語」に代えてみるとわかりやすい。「経済学は高度な難しい英語ばかりに注意を払って現実を見ていない」といっているのと同じである。数学は、モデルを
ちょっと前に、twitter上で、江口さんという方と荒戸さんという方が、消費税を引き上げたときにマクロ経済にどのような影響を与えるかをRBCモデルで分析していた。これに触発されて、OLG (Overlapping-Generations) Modelで同じような分析を試みようという気になった。半日くらいでできると思ったら週末をつぶしてしまい、いろいろな結果が得られているので、数回に分けて書くことにする。今回は基本的なモデルの仮定とカリブレーション、それに基本的なモデルを走らせた結果だけ書くことにする。 予定としては: Part-1:基本モデルの セットアップ Part-2:定常状態で消費税率を変えたとき何が起こるか Part-3:消費税率が段階的に引き上げられたときのダイナミクス Part-4:消費税率引き上げがアナウンスされた後で2回目の引き上げが延期されたときのダイナミクス という順序
最新のAEJ Macroは、「金融危機の金融政策に対する教訓」という2013年10月に開催された学会で発表されたペーパーを元にした特集号であった。自分の専門分野ではないのでぜんぜん詳しくはフォローしていないのだけれども、ここに載っているペーパーのうち半分くらいはいい学会で発表を聞いたことがあるので、すごい力の入った特集号だなぁ、と感心した。今やAEJ MacroはマクロのジャーナルのNo. 1をJMEと争っていると言えるのでは。それぞれをゆっくり読む時間はないので、それぞれのペーパーについて簡単にメモしておく。 Araujo, Schommer, and Woodford, "Conventional and Unconventional Monetary Policy with Endogenous Collateral Constraints" DSGEモデルに、非伝統的金融政策(様々
1.Thomas Pikettyが日本に来ているらしい。最近まではそこいらへんの学会で見かけていた人がいきなりスターになった感じで、すごいなぁと言う感じだ。とても不思議なのは、翻訳した人がやたらでしゃばっていることだ。経済学のトレーニングを積んだ人には思えない。虎の威を借る狐とはまさにこのことだ。アメリカで英語訳した人はPh.D.だがその人がでしゃばっているなんて言う話は聞いたことがないので、日本独特の現象に思える。サッカーの日本代表監督の通訳をした人が後で、ぶっちゃけ話を出版するという、プロの通訳とは思えない行動がまかりとおるのを不思議に感じていたが、経済学の世界でも同じなんだなぁと思った。一般的に、日本は、翻訳しただけでかなり大きな顔ができるようである。出版社も、変な人に頼まないで(きちんとした)大学院生とかに頼むと、安くつくし、変にでしゃばらないからいいのではないか? 2.日本銀行の
アメリカ経済はSecular Stagnation(長期停滞)に陥っているか、そしてその答えがYesならその原因は何か、という質問が、不平等に関する質問とともに最近最も注目を浴びている。アメリカ経済が大不況(Great Recession)から脱して以来、これまでの多くの景気回復期に見られた景気の急回復が見られず、経済成長率が低く安定していることから、アメリカ経済は長期的な低成長の時代に入ったのではないかと考えるのはある意味自然なことだろう。但し、このような議論は、経済がちょっと低成長を続けると必ず出てくるものなので、過剰反応するのもよくない。今回ちょっと触れるのは、経済史学者のBarry Eichengreenが、今年のAEAで開催されたSecular Stagnationに関するセッションで行ったプレゼンである(スピーチの内容はNBER Working Paper "Secular S
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