サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
大谷翔平
www.newsweekjapan.jp/ishido
<過激に、強く、味方からみれば批判的な言葉を使って、相手の主張を小気味よくぶった斬っていく――こんなに分かりやすい「敵」がいると名指しされれば、何が悪いのかもよく見えてくる。だが、それだけだ。かくして複雑なはずの問題は単純化され、次から次にニュースは消費されていく> 今回のダメ本 『主権者のいない国』 白井聡[著] 講談社 (2021年3月29日) 当コラムは最終回となる。約2年間続けてきて見えたことは極論の功罪だ。過激で、強く、敵を見つけて、味方からみれば批判的な言葉を使って、相手の主張を小気味よくぶった斬っていく。なるほど、こうした本を読むとスッキリして、喝采を上げたくなる気持ちもわかる。こんなに分かりやすい「敵」がいると名指しされれば、何が悪いのかもよく見えてくる。だが、それだけだ。 本書が話題になる理由にも通じるものがある。本書は極めてよくできたアジテーション演説集のような1冊だ。
<元外務省キャリア官僚、元駐ウクライナ大使が陰謀論を語る......日本の安全保障、外交について一抹どころではない不安を覚えた> 今回のダメ本 『「反グローバリズム」の 逆襲が始まった』 馬渕睦夫[著] 悟空出版 (2018 年6月14日) 当コラムの毎回のイラストは「頭を抱えた人」である。実のところ、当コラムで取り上げてきた本の中でも、本当の意味で頭を抱えたものはそう多くはない。どの本も読めばどこかしら「なるほど」と思わされる点があるからだ。 本書は私の予想以上に頭を抱えさせてくれた1冊である。同時に、私も大いに大切だと思っている日本の安全保障、外交について一抹どころではない不安を覚えた。 著者の経歴はこうだ。1968年外務省入省、71年にケンブリッジ大学経済学部を卒業。代表的な肩書は駐ウクライナ大使で、外務省退官後、2011年まで防衛大学校の教授を務めている。ロシアによるウクライナ侵攻
<楽観的な専門家に対比して未曽有の危機に立ち向かい、リスクを取ってメディアで発言する岡田晴恵氏の姿がヒロイックに描かれるばかり――そこにサイエンスはあるのか?> 今回のダメ本 『『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』 岡田晴恵[著] 新潮社 (2021年12月20日) テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』が、新型コロナ報道で一つの立場を代表して牽引してきた番組であることは間違いない。著者は名物コメンテーター・玉川徹氏と共に連日のように出演し、「徹底的なPCR検査と隔離」を強く訴え、国の姿勢や今も分科会に名を連ねる専門家を徹底的に批判してきた。付いた異名は「コロナの女王」。「いつでも、どこでも、何度でも検査を受けられるモデル」を目指す世田谷区のように、その主張に歩み寄るような自治体も出てきた。彼らは現実にも一定の影響力を持ったのだ。 本書で描かれるのは、あくまで岡田氏というフィルターを通して描
<日本でコロナワクチン接種は順調に進んだが、反ワクチン本ビジネスもそれなりに盛り上がった。その代表作の1つ『コロナワクチンの恐ろしさ』の驚くべきいい加減さが今、白日の下に> 今回のダメ本 『コロナワクチンの恐ろしさ』 高橋 徳、中村篤史、船瀬俊介[著] 成甲書房 (2021年7月30日) 日本の新型コロナワクチン接種状況を見る限り、科学者、医療従事者、政治の呼び掛けの圧倒的勝利と言っていいだろう。大手メディアも含めて、ワクチンに対して疑義を呈するような報道はほとんどなく、11月に入った時点で少なくとも1回目の接種を終えた人は人口全体の8割弱、ハイリスクと言われる65歳以上の高齢者に限れば90%が2回目の接種を終えた。医療者の中には「日本はワクチンへの信頼性が低い国」という論調が出ていたが、ふたを開けてみれば大多数の人々はなんの問題もなくワクチン接種を希望し、あっさりと打ち終えた。 得られた
<「千人計画」だけを批判する論調には決定的な視点が欠けている。日本はとっくに科学技術大国の座から転げ落ちつつあるのだ> 今回のダメ本 『中国「見えない侵略」を可視化する』 読売新聞取材班[著] 新潮新書 (2021年8月20日) 本書のベースになった読売新聞取材班による一連の「スクープ」は、少なくない在中国の日本人科学者を震撼させた。理由は、事の本質が全く理解されていないような記事が連発されたことだ。確かに取材だけはしているのだが......。 本書も含めて読売報道の基本的なロジックは、中国の軍事研究、もしくは軍事研究につながりかねない研究である「千人計画」に、日本人の優秀な科学者が参加しており、日本人科学者は結果的に中国の軍事研究に加担しているというものだった。果たして、どの程度妥当なのか。 私も渦中の在中科学者などに取材して調べた範囲では、そのような事実は一切なかった。一見すると仰々し
<「意識が高い」ビジネスパーソンの間でトレンドになっている教養。しかし「1日1ページ」うんちく・トリビアを読むだけでは、当たり前だが真の教養は永遠に得られない> 今回のダメ本 『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』 デイヴィッド・S・キダー 、ノア・D・オッペンハイム[著] 文響社 (2018年5月2日) 少し前からビジネスパーソンたちの間で、大きなトレンドになっているのが「教養」である。ビジネス本の棚を眺めていると、ありとあらゆる「教養」が目に留まる。彼らにとって、芸術、哲学、音楽、読書等々、あらゆることを知っていることが重要らしい。 新しい教養主義の特徴は、取りあえずこの1冊を読めば大丈夫だと思わせるような書き方になっていることだ。本書はある意味では、「教養」を求めるマーケットを切り開いた1冊であり、部数的な成功を収めた1冊だ。やはりというべきか、分かりやす過ぎるくらい分
<来たる衆院選の前哨戦とも位置づけられる東京都議選が始まった。総選挙前にはいわゆる「政治家本」が多数出版されるが、立憲民主党の枝野幸男代表が上梓した『枝野ビジョン 支え合う日本』にはある大事な要素が欠けている> 今回のダメ本 『支え合う日本』 枝野幸男[著] 文春新書 (2021年5月20日) 衆議院議員選挙が近づいている。選挙の直前になれば、政治家による本も数多く出版されてくる。本書もその1冊、といっていいだろう。 枝野幸男氏本人には何度かインタビューをしたこともあるのだが、印象は悪くはなかった。時に横柄な態度の政治家とも出会うが、そうしたことはなく、立憲民主党にとって都合の悪いことであっても誠実に受け答えしよう、という意思は伝わってきた。 本書にも誠実さは一定程度感じられる。特に基調となっている「自己責任論」批判は、昨今の政治状況を鑑みれば、必要なものである。では、どのような政策で転換
<「朝日新聞記者による朝日新聞批判本」に漂う甘え。「朝日新聞記者なのに、ここまで書くことができた」ことを誇る前に、社に「さよなら」と決別し、筆者自身が自分の足で新しい一歩を踏み出すべきだ。本当にできれば、だが> 今回のダメ本 『さよなら朝日』 石川智也[著] 柏書房 (2021年4月10日) 朝日新聞の記者(退職した元朝日のライター・ジャーナリストも含めて)は朝日新聞を語ることが好きで、物差しを「朝日新聞」に置きたがる傾向が強い。 私も新聞業界には10 年ほどいて、前職では朝日新聞出身者とも仕事を競ってきた。そこでしばしば目にしたのは、厄介な愛社精神とでも言えばいいのだろうか。往々にして彼らの関心は、新しいものを生み出そうとするよりも「朝日を正したい」とか、「朝日ではここまでできないぞ」といったことに向かう。 この本が連なるのは著者の言う「朝日関係者の朝日関連本」ではなく、私が目にしてきた
<上野千鶴子氏の新著『在宅ひとり死のススメ』を読んで思う。この誰もが知る社会学者、そして「炎上上等」の論客に決定的に欠けているのは、自分には推し量ることができないもの、当人にしか分からない他人の事情に対する想像力なのではないか> 今回のダメ本 『在宅ひとり死のススメ』 上野千鶴子[著] 文春新書 (2021年1月) 上野千鶴子さんは、言わずと知れた超有名社会学者である。日本におけるフェミニズム研究を分野ごとつくり上げたと言っても過言ではなく、その功績の大きさは誰もが認めるところでもあるし、私も学生時代から著作を読んできた。だからこそ思う。今の時代、声を上げること、異議申し立てをすることでムーブメントが起こるようになったのは、上野さんが切り開いてきた、フェミニズム研究の蓄積によるものだ。 一方で、上野さんはネット上の炎上を全く意に介さない論客でもある。2017年の中日新聞のインタビュー記事「
<ワクチンへの警戒が不要だとは言わない。だが今の時代、ワクチン以上に警戒すべきは、論拠が不足したまま流される極端なワクチン危険論だ> 今回のダメ本 『新型コロナ』 上久保靖彦・小川榮太郎[著] WAC (2020年10月) 最近、非常勤講師を勤めている大学で、学生相手にこの時代のメディアリテラシーとは何かという話をしてきた。詳細な議論を省いて、ざっくりと要点をまとめると、京都大学の佐藤卓己教授(メディア史)の論を基に「曖昧な情報に耐える力」だと語っている。今回の新型コロナ禍は、われこそが真に有効な解決策を知っていると語る人たちの見本市となった。本書も例外ではない。 人間は曖昧さに耐えられず、すぐに分かりやすい解決策に飛び付く。「現場を知っている私の主張が正しい」「PCR検査を増やせば万事解決」といった話は山ほど出てくる。現実の社会はモデルよりも複雑であり、コロナ禍の「現場」は人の数だけ存在
<「自分で考えることが大事だ」と説き、読者や書店員、出版業界関係者からの賛辞に事欠かない本書だが、社会の複雑さを実感するために不可欠なはずの取材という行為はない> 今回のダメ本 『わかりやすさの罪』 武田砂鉄[著] 朝日新聞出版(2020年7月) ライターとは何か。私のライター観はこの本を読みながら、随分と揺さぶられた。タイトルとは真逆に著者の主張はとてもわかりやすい。政治的なスタンスはわかりやすく反安倍晋三政権で、わかりやすく右派の主張に疑義を唱え、わかりやすく「自分で考えることが大事だ」と書く。時事的な事象に対して、自分の頭で思考し、そのプロセスごと掲載するという姿勢は、今の何かにつけわかりやすい二項対立で選択を迫られるメディア環境ではとても大事だし、その点について私も同意することが多い。本書が世の中に出ていく意義は十分にある。 何より本書は読者や書店員、出版業界関係者からの賛辞に事欠
<あまりに凡庸な資本主義批判、文明批判には大いにずっこけることに> 今週のダメ本 『コロナの時代の僕ら』 パオロ・ジョルダーノ著 早川書房 途中までの印象は決して悪くなかった。なるほどイタリアでも、日本と同じように専門家が侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論をし、ある人は危機を強調し、ある人はただの風邪程度だと言い、ある人は全国で外出禁止にせよと強調した。 「専門家同士が口角泡を飛ばす姿を、僕らは両親の喧嘩を眺める子どもたちのように下から仰ぎ見る。それから自分たちも喧嘩を始める」 著者のパオロ・ジョルダーノはコロナ対策を「戦争」に例えて説明する政治家、ジャーナリストらを「恣意的な言葉選びを利用した詐欺」だと批判する。これにも異論はない。私たちが直面しているのは、公衆衛生上の緊急事態であり、それ以上でもそれ以下でもない。だが、最後の最後で彼が披露する「忘れたくない物事のリスト」で、大いにずっこ
<左派・リベラル批判に終始するお決まりのパターンだが、内輪の論理を振りかざし、安直なストーリーで世界を理解しようとするのは右派だけに限らない> 今回のダメ本 『プロパガンダの見破り方』 ケント・ギルバート 著 清談社Publico ついに来た。ここ数年の右派論壇のトレンドは、リベラル派の言いそうな言葉の換骨奪胎にある。この本にある「プロパガンダ」もしかり。ケント・ギルバートという右派のポップアイコンを目立つよう帯に載せ、NHKや朝日新聞というメディアは単なるプロパガンダ機関であり、彼らの情報はしっかりチェックしようと呼び掛ける。表面的に読めば、メディアリテラシーを高めようという主張とも親和性は高い。 では、どのようなものがプロパガンダだと著者であるギルバートは考えているのか。問うべきはその論理と、立ち位置である。 冒頭で紹介されるのは、右派本ではおなじみの、しかし歴史学的には全く実証されて
<ベストセラー『反日種族主義』が批判しているのはあくまでも韓国国内の「進歩派」であり、「反日」政策──とされるもの──ではない。> 今回のダメ本 『ネットは社会を分断しない』 李栄薫 編著 文藝春秋 売れている。都内の地下鉄に大々的に掲げられていた車内広告によると、既に40万部を超えたという。ベストセラーになった理由は、ちまたで指摘されるような「日本人の嫌韓感情の高まり」も大きな要因だろうが、それだけではないだろう。 「韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権はとてもおかしな政権であり、わが日本に対してけしからんことばかり言っている。まともな韓国人が『反日』を批判しているそうだから、読んで留飲を下げよう」という政治的志向の読者層は既に取り込んでいるだろう。 数字を押し上げているのはおそらく、かつて私が本誌の特集「百田尚樹現象」でいくつかのデータから指摘したように、「売れているから買ってみよう」と
<30万部超えの『1分で話せ』は、「伝える技術」の鍵として「根拠」を提示することの重要性を説く。だが、同書が伝授する「左脳」と「右脳」に働きかけるプレゼン技術には、脳科学の知見など「根拠」が示されていない> 今回のダメ本 『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』 伊藤羊一 著 SBクリエイティブ 衝撃を受けている。昨年の発売以来30万部超えのベストセラーとなり、かの孫正義が大絶賛したというプレゼン技術を伝授するこの本に、「右脳」「左脳」という言葉が無邪気に出てくることに。それがロジック=左脳、感情=右脳という時代遅れの俗説に基づいていることに、である。 著者はのっけから「人は左脳で理解し、右脳で感じて、それでやっと動ける」とか「人を動かすには、『左脳』と『右脳』の両方に働きかけなければなりません」と述べる。帯には「結論+根拠+たとえばで=相手の右脳と左脳を動
<本誌11月5日号からスタートした、石戸諭氏による月1回の書評コラム。今回取り上げる「ダメ本」は、下村博文元文科相がリーダー論を説く新著だ。正しいことを書いているのに説得力はゼロ。その中身とは......?> 今回のダメ本 『日本の未来を創る「啓育立国」』 下村博文 著 アチーブメント出版 この本、最大のツッコミどころは、部分的に正し過ぎるくらい正しいことが書かれていることにある。 いわく人工知能(AI)が発達していくであろう、これからの世の中にとって、大事なのは「教え育てる」=教育ではなく、「啓(ひら)き育てる」=啓育である。いわく世界において異なった価値観と共生することが求められており、多様性を認め合うダイバーシティーの概念を社会が取り入れるべきである、と。 私は著者名を見返して、頭を抱えてしまった。「これは何かのギャグなのだろうか......」 著者の下村博文は元文部科学大臣にして、
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『www.newsweekjapan.jp』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く