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<2000年に起きたロシアの原子力潜水艦クルスクの沈没事故。現在のロシアにつながる分岐点、あるいはテレビによるプロパガンダのはじまりを見ることができる......> 2000年8月12日に起きたロシアの原子力潜水艦クルスクの沈没事故を題材にした『潜水艦クルスクの生存者たち』は、トマス・ヴィンターベア監督の新作ではなく、昨年公開されて話題になった『アナザーラウンド』の前作になる。本来なら2019年頃に公開されていたはずだが、ウクライナ侵攻で世界が混迷を極めるいま公開されることで、事故を振り返るだけではなく、もっと深い意味を持つ作品になったといえる。 原子力潜水艦クルスクの沈没事故 ロシア海軍の北方艦隊に所属する潜水艦クルスクは、軍事演習のため乗組員118名を乗せて8月10日に出航。ところが演習中に、発射の準備をしていた魚雷が突然爆発し、数分後に他の魚雷への連鎖爆発が起こり、艦体はバレンツ海の
<トルコのイスタンブールで暮らす野良犬たちの世界が、野良犬たちの目線で描き出される> アメリカで活動する香港出身の女性監督エリザベス・ローにとって長編デビュー作となるドキュメンタリー『ストレイ 犬が見た世界』では、トルコのイスタンブールで暮らす野良犬たちの世界が、野良犬たちの目線で描き出される。 舞台となるトルコでは、20世紀初頭に大規模な野犬駆除が行われたが、それに反対する抗議活動が広がり、今では安楽死や野良犬の捕獲が違法とされる国のひとつになっているという。自身も愛犬家であるロー監督は、2017年にそんなトルコを旅し、街を自由にうろつく野良犬のゼイティンと偶然に出会い、彼女を追いかけたことが作品の出発点になった。 動物は周縁へと追いやられていく このように書くと単純なきっかけのように見えるが、本作におけるロー監督のアプローチについては、以下のふたつのことを知っておいてもよいだろう。 ま
<実際にフランスで起こった未解決の「ヴィギエ事件」に基づく新人離れした完成度の法廷劇> フランスの新鋭アントワーヌ・ランボー監督の長編デビュー作『私は確信する』は、実際にフランスで起こった未解決の「ヴィギエ事件」に基づく新人離れした完成度の法廷劇だ。 2000年2月、フランス南西部で38歳の女性スザンヌ・ヴィギエが3人の子供を残して忽然と姿を消した。大学の法学部教授の夫ジャックに殺人容疑がかけられるが、彼には明確な動機がなく、決め手となる証拠もスザンヌの遺体も見つからない。その9年後、ジャックの殺人罪を問う裁判が行われる。この物語は、その第一審で無罪となったジャックを検察が控訴する状況から始まる。 物語の主人公になるのは、ジャックの娘と親しく、ジャックの無実を確信するシングルマザーのノラと、ノラが二審の弁護を懇願し、一審の内容をまとめた記録まで持参するその熱意に動かされて引き受ける敏腕弁護
<少年院を仮退院したばかりの青年が、立ち寄った村で司祭になりすましていた...... 。ポーランドで起きた実話もとに描くヒューマンミステリー> ポーランド出身のヤン・コマサ監督にとって3作目の長編になる『聖なる犯罪者』は、ポーランドで19歳ぐらいの若者が3か月間神父になりすましていた実話にインスパイアされた作品だ。 暴力やいじめが横行する少年院で、ミサのためにそこを訪れるトマシュ神父の信頼を得たダニエルは、神父になる夢を抱くが、前科者は神父になれないと諭される。 仮退院したダニエルは、遠く離れた田舎の村にある製材所で働くはずだったが、村の教会に立ち寄ったときに新しく来た神父と間違われる。しかも、その教会の司祭が療養のために村を離れることになり、代理を任されてしまう。村の住人たちは最初は戸惑うが、彼の飾らない人柄に好感を持ち、教会に活気が生まれる。 ダニエルは、住人たちが一年前に起こった交通
<ロシア系移民の監督が、自分よりも上の世代の移民の複雑な心理をよく理解し、ソ連時代の呪縛から解き放たれていく夫婦の姿を実に鮮やかに描き出す...... > ロシア系移民であるエフゲニー・ルーマン監督が手がけたイスラエル映画『声優夫婦の甘くない生活』では、イスラエル社会を変えるほど大きな影響を及ぼしたロシア系移民の体験と心理が、ひねりの効いた巧みな話術で掘り下げられていく。 物語は1990 年9月、"鉄のカーテン"が崩壊し、ソ連を離れた大勢の移民に交じってヴィクトルとラヤがイスラエルの空港に降り立つところから始まる。ふたりは、長年にわたってソ連で公開される欧米映画の吹き替えで活躍してきた声優夫婦だった。だが、希望を抱いてやって来た新天地には、声優の需要がなく、いきなり職探しに奔走することになる。ヴィクトルが慣れないビラ貼りで苦労するのを見かねたラヤは、夫には香水の販売と偽ってテレフォンセック
<SF? 西部劇? ホラー?......ブラジルの俊英が、血と暴力に彩られた独自の世界を切り開く......> ブラジルの俊英クレベール・メンドンサ・フィリオ監督の新作『バクラウ 地図から消された村』では、謎めいていて狂気をはらみ、血と暴力に彩られた世界が切り拓かれる。 その舞台になるのは、ブラジルのペルナンブコ州西部にある村バクラウ。村の長老だった老婆カルメリータが亡くなり、葬儀を行うために遠方からも家族や村人が故郷に戻ってくるが、時を同じくして不可解なことが次々と起こり始める。 突然、村はインターネットの地図上から姿を消し、上空には正体不明の飛行物体が現れる。村に貴重な水を運ぶ給水車のタンクに銃弾が撃ち込まれ、村外れの牧場では住人たちが血まみれの死体となって発見される。地図から消えた村をよそ者の男女のバイカーが訪れ、やがて謎の殺人部隊が村を襲撃しようとしていることがわかってくる。 SF
現代美術界の巨匠ゲルハルト・リヒターの人生とともにドイツの戦後史に新たな光をあてる...... (c)2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG <現代美術界の巨匠ゲルハルト・リヒターの人生と作品にインスパイアされた3時間を超える長編> デビュー作『善き人のためのソナタ』が多くの賞に輝いたフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の新作『ある画家の数奇な運命』は、現代美術界の巨匠ゲルハルト・リヒターの人生と作品にインスパイアされた3時間を超える長編だ。 本作でまず確認しておきたいのは、映画化に至る過程だ。ドナースマルクは、リヒターの作品だけでなく、人生にも興味を抱くようになったきっかけを以下のように語っている。 「リヒターの妻の父親が筋金入りのナチで、親衛隊中佐であり、安楽死政策の加害者
<ラストベルトにある街で、もがきながら成長する3人の若者を描いた『行き止まりの世界に生まれて』は、ドキュメンタリーの枠を超えたドキュメンタリー> アメリカの新鋭ビン・リューが、産業が衰退したラストベルトにある街で、もがきながら成長する3人の若者を描いた『行き止まりの世界に生まれて』は、ドキュメンタリーの枠を超えたドキュメンタリーといえる。 主人公は、暴力犯罪が多発し、人口の流出がつづくイリノイ州ロックフォードに暮らすザック、キアー、そして本作の監督であるビンの3人。子供の頃から父親や継父から暴力を振るわれてきた彼らは、スケートボードにのめり込むようになり、スケート仲間が家族になっていた。 そんな彼らは、成長とともにそれぞれに現実を受け入れなければならなくなる。キアーはレストランの皿洗いの仕事につく。父親になったザックは、パートナーであるニナとの関係が悪化し、彼女に暴力を振るうようになる。ス
『シチリアーノ 裏切りの美学』(C)IBC MOVIE/KAVAC FILM/GULLANE ENTRETENIMIENTO/MATCH FACTORY PRODUCTIONS/ADVITAM (C)LiaPasqualino <コーザ・ノストラに忠誠を誓った男は、なぜ「血の掟」を破り、政府に寝返ったのか?...... > 実話に基づくイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオの新作『シチリアーノ 裏切りの美学』では、イタリアのパレルモを主な舞台に、1980年から90年代半ばに至るシチリア・マフィア、コーザ・ノストラの激動の時代が描き出される。 80年代初頭、新興マフィアのコルレオーネ派と伝統的マフィアのパレルモ派の間で、麻薬取引をめぐる対立が深まり、冷酷なコルレオーネ派は逆らう者たちを次々に抹殺していく。抗争を避けてブラジルに暮らすパレルモ派の大物トンマーゾ・ブシェッタは、兄を殺され、国に残してき
インストでありながら放送禁止になったリンク・レイ Photo by Bruce Steinberg, Courtesy of linkwray.com <アメリカ音楽は、黒人と白人の図式で語られがちになるが、実はそこにインディアンが深く絡み、影響を及ぼしていることを描くドキュメンタリー> キャサリン・ベインブリッジ監督の『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』は、弾圧されてきたインディアンの文化がアメリカのポピュラー音楽にどのような影響を及ぼしてきたのかを、証言や記録映像で掘り下げていく興味深いドキュメンタリーだ。 本作のタイトルは、ショーニー族の血を引くギタリスト/シンガーソングライターのリンク・レイが1958年に発表した曲「ランブル」からとられている。歪んだギターの攻撃的なサウンドのインパクトは大きく、インストでありながら放送禁止になった。ピート・タウンゼントやジミー・ペイジ、
「神の恩恵によりほぼすべて時効です」......『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(C)Jean-Claude Moireau <カトリック教会の神父による児童への性的虐待事件。実話に基づく物語で「フランスのスポットライト」とも言われる映画......> その独自の感性でフランス映画界で異彩を放ってきたフランソワ・オゾン監督は、新作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』で初めて実話に基づく物語に挑んだ。彼が選んだ題材は、カトリック教会の神父による児童への性的虐待事件。この題材から、以前取り上げたトム・マッカーシー監督の『スポットライト 世紀のスクープ』を思い出す人も少なくないだろう。オゾンが取り上げた事件でも、組織的な隠蔽が問題となり、「フランスのスポットライト」という表現も目にした。 長い沈黙を破って告発に踏み切る被害者たちの苦悩を掘り下げる だが、オゾンのアプローチはまったく違う。『ス
公共図書館は単なる舞台ではない...... 『パブリック 図書館の奇跡』(C)EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED. <エミリオ・エステベスの新作、『パブリック 図書館の奇跡』は、彼の関心と感性が噛み合い、現在のアメリカに対する風刺も効いた小気味よいヒューマンドラマにまとめあげられている> 80年代に青春映画の若手俳優集団"ブラット・パック"のひとりとして注目を集めたエミリオ・エステベスは、『ウィズダム/夢のかけら』(86)以降、監督、脚本家としてもキャリアを積み重ね、独自の地位を築いている。そんなエステベスが製作・監督・脚本・主演を兼ねた新作『パブリック 図書館の奇跡』は、彼の関心と感性が噛み合い、現在のアメリカに対する風刺も効いた小気味よいヒューマンドラマにまとめあげられている。 大寒波、行き場がないホームレスの集団が図書館を占拠...... 物語の舞台
<舞台となったジョージアでの公開時には、極右グループや反LGBT活動家が抗議。保守的なジョージア社会の知られざる一面が明らかにされる......> スウェーデンの新鋭レヴァン・アキン監督が、自身のルーツでもあるジョージア(グルジア)で撮った『ダンサー そして私たちは踊った』では、ひとりの若者の恋とアイデンティティの目覚めが描き出されると同時に、ジョージア社会の知られざる一面が明らかにされる。 ジョージアの首都トビリシ。主人公の若者メラブは、国立舞踊団で幼なじみのマリとパートナーを組み、練習に打ち込んでいる。彼の家は貧しく、練習後はレストランでアルバイトをし、家計を支えている。そんなある日、メラブのライバルになるような才能豊かな青年イラクリが入団し、同時にメイン団員の欠員1名を補充するためのオーディションの開催が決まる。 メラブはイラクリとふたりだけの朝練を重ねるうちに彼に惹かれるようになり
イギリス社会の底辺の現実が掘り下げる.....『家族を想うとき』 photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019 <『わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチ監督が、前作と同じニューカッスルを舞台に、異なる視点からイギリス社会の底辺の現実を掘り下げる......> 以前コラムで取り上げた『わたしは、ダニエル・ブレイク』につづくケン・ローチ監督の新作『家族を想うとき』では、前作と同じニューカッスルを舞台に、異なる視点からイギリス社会の底辺の現実が掘り下げられる。 個人事業の宅配ドライバーとパートタイム訪問介護士の妻 その物語は、宅配ドライバーとして独立することを決意したリッキーが、本部の責任者マロニーからオーナー制度の説明を受け、フランチャイズ契約を結ぶところから始まる。彼は、本部の車を借りるより買った方が得だと判断するが、借金を抱えているため、パートタイ
あれから何が変わって何が変わっていないのか...... 『国家が破産する日』(C) 2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED <1997年、韓国の通貨危機が起きるまでの7日間。現在から通貨危機を見直すことによって、その後の韓国社会にとっての意味を浮かび上がらせる......> 1997年に起きた韓国の通貨危機を題材にしたチェ・グクヒ監督の『国家が破産する日』では、冒頭から一刻を争う緊迫感に満ちたドラマが繰り広げられていく。 物語が始まるのは1997年11月15日。韓国銀行の通貨対策チームの報告からわかるように、大手企業が続けて不渡りを出したことから国際的な信用力が低下し、外国資本が撤退を始める。政府は外貨準備金を投入してウォンの下落を防いでいるが、外貨準備高は危機的な水準にあり、試算ではデフォルト(債務不履行)まで一週
<韓国の異才ユン・ジョンビン監督が、90年代に実在した対北工作員をもとにしたフィクションであり、韓国社会を深く掘り下げた......> 韓国の異才ユン・ジョンビンの新作『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』は、90年代に実在した対北工作員をもとにしたフィクションであり、韓国社会を深く掘り下げながらも、社会性と娯楽性を両立させてしまうこの監督ならではの巧みな話術が際立っている。 その導入部では、陸軍の少佐だったパク・ソギョンが、安企部(国家安全企画部)のチェ・ハクソン室長にスカウトされ、北朝鮮の核兵器開発の実態を探るために、工作員"黒金星(ブラック・ヴィーナス)"へと変貌を遂げていく。軍を辞めた彼は、韓国に潜入している北の工作員の目を欺くために、酒を飲み歩き、借金を重ね、自己破産し、事業家に生まれ変わる。 やがて北京に現れた黒金星は、やり手の事業家を演じつづけ、北京に駐在する北
<世界で最も有名な図書館をつぶさに観察し、その舞台裏に迫るフレデリック・ワイズマンの新作> 以前取り上げた『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』(15)につづくフレデリック・ワイズマンの新作『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』は、世界で最も有名な図書館をつぶさに観察し、その舞台裏に迫るドキュメンタリーだ。そのニューヨーク公共図書館は、観光スポットとしても名高い本館を含む4つの研究図書館と88の分館からなる。 地域と密接に関わり、多様な役割を果たす図書館 アメリカの公共図書館は、地域と密接に関わり、社会のなかで多様な役割を果たしている。『シビックスペース・サイバースペース──情報化社会を活性化するアメリカ公共図書館──』では、その公共図書館の特徴が以下のようにまとめられている。 「地域社会が生み出し、地域社会の全体、すなわちすべての年齢層、あらゆる境遇の人々に対してサービスを提
若者とその親たちが過去と向き合う『僕たちは希望という名の列車に乗った』(c)Studiocanal GmbH Julia Terjung <戦後の西ドイツでナチスという負の遺産と正面から向き合った実在の検事フリッツ・バウアーに光をあてた『アイヒマンを追え!』の監督が、今度は東ドイツの「過去の克服」を描く> 以前コラムで取り上げたラース・クラウメ監督のドイツ映画『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(16)は、戦後の西ドイツでナチスという負の遺産と正面から向き合った実在の検事フリッツ・バウアーに光をあてた作品だった。「Der Staat gegen Fr itz Bauer(国家対フリッツ・バウアー)」という原題が示唆するように、そこでは国家とバウアーという個人の戦いが描き出された。 やはり実話に基づくクラウメの新作『僕たちは希望という名の列車に乗った』からも、戦後の東ドイツを舞台
<旧東ドイツ人は、ベルリンの壁崩壊後の時代をどのように生きてきたのか。一見どこにでもある小さな世界を描いているように見えるが、深く心を揺さぶられる> 1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、翌年の10月、東ドイツはドイツ連邦共和国に統合された。共産主義から資本主義への移行という大変革に直面した旧東ドイツ人は、その後の時代をどのように生きてきたのか。 ドイツの新鋭トーマス・ステューバー監督の『希望の灯り』では、ライプツィヒ郊外にある巨大スーパーマーケットを舞台に、そこで働く旧東ドイツ人たちの姿が描き出される。 原作は、クレメンス・マイヤーが2008年に発表した短編集『夜と灯りと』に収められた「通路にて」。1981年生まれのステューバーと1977年生まれのマイヤーは、ともに旧東ドイツ出身で、以前からタッグを組み、共同で脚本を手がけてきた。本作では、そんなコンビの経験や洞察、想像力が、スーパーマ
<70年代、白人至上主義団体KKKに入会し、潜入捜査を行った黒人刑事の実話をスパイク・リーが映画化> 本年度のアカデミー賞で脚色賞を受賞したスパイク・リーの新作『ブラック・クランズマン』は、にわかには信じがたい実話に基づいている。映画の原作であるロン・ストールワースの回想録には、70年代にコロラド州のコロラドスプリングス警察署で初の黒人刑事になったロンが、白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)に入会し、潜入捜査を行った体験が綴られている。 黒人であるロンは、どのようにしてKKKに入会するのか...... では、黒人であるロンは、どのようにしてKKKに入会するのか。新聞でKKKの広告を目にした彼は、原作では私書箱の宛て先に入会を希望する手紙を送るが、この映画ではいきなり電話での接触を試みる。電話口で白人以外の人種を嫌悪する過激な言葉を並べ立てた彼は、コロラドスプリングス支部の担当
南部を旅する間にふたりの距離が縮まっていく『グリーンブック』 (C)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved. <天才黒人ピアニストと無学な白人ドライバーの二人の南部への旅は、空間を旅するだけでなく、時間も旅し、大きな感動をもたらす> 本年度アカデミー賞で作品賞を含む3冠に輝く話題作 実話に基づくピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』は、本年度アカデミー賞で作品賞を含む3冠に輝いたばかりなので、概要についてはあまり説明の必要もないだろう。 時代は1962年、ブロンクス育ちのイタリア系で、ニューヨークの高級クラブ、コパカバーナの用心棒を務めるトニー・リップは、腕っぷしとハッタリで家族や隣人から頼りにされていた。ところが、そのコパカバーナが改装のためにしばらく閉店する
<リチャード・ギアが、ユダヤ人の上流社会に食い込もうとするしがないフィクサー(仲介者)を演じている『嘘はフィクサーのはじまり』は、ただの悲喜劇ではない> イスラエルのヨセフ・シダー監督にとって初の英語作品になる『嘘はフィクサーのはじまり』では、リチャード・ギアがあの手この手でユダヤ人の上流社会に食い込もうとするしがないフィクサー(仲介者)を演じている。その主人公ノーマン・オッペンハイマーの生き様は滑稽であると同時に悲哀を滲ませるが、これはただの悲喜劇ではない。 典型的な"宮廷ユダヤ人"の物語が土台になっている 「最初の一歩」、「賭けるべき馬」、「名もなき支援者」、「平和の代償」という四幕で構成されたドラマは、典型的な"宮廷ユダヤ人"の物語が土台になっている。宮廷ユダヤ人とは、中世ヨーロッパで君主や貴族のために資金調達や運用を行ったユダヤ人の銀行家や金融業者のことを意味する。 第一幕では、ノ
実録ドラマと生存者のインタビューで構成する衝撃の史実 (c)2016 LOOK! Filmproduktion / CINE PLUS Filmproduktion <戦時下ベルリン、ゲッベルスはユダヤ人を一掃したと宣言するが、約1500人が終戦まで生き延びた。そのうちの4人を描く衝撃の史実> 1943年2月、強制労働のために戦時下のベルリンに残されたすべてのユダヤ人を追放する決定が下され、同年6月、ヒトラーの右腕であるナチス宣伝相ゲッベルスは、首都からユダヤ人を一掃したと宣言する。しかし実際には約7000人のユダヤ人が潜伏し、約1500人が終戦まで生き延びた。 戦時下のベルリンに潜伏した4人の物語 クラウス・レーフレ監督の『ヒトラーを欺いた黄色い星』では、そのうちの4人の男女、潜伏開始時に16歳から20歳の若者だったツィオマ・シェーンハウス、ルート・アルント、オイゲン・フリーデ、ハンニ・
トム・ハンク×スメリル・ストリープ 『ペンタゴン・ペーパーズ』(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC. <ベトナム戦争の経過を詳細に調査・分析した極秘文書「ペンタゴン・ペーパーズ」をめぐる新聞社の決断> 実話に基づくスティーヴン・スピルバーグ監督の新作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、導入部から意外な展開を見せる。ペンタゴン・ペーパーズとは、1967年に当時の国防長官ロバート・マクナマラの指示で、ベトナム戦争の経過を詳細に調査・分析した極秘扱いの膨大な文書だ。 この映画は、後に内部告発者となる軍事アナリストのダニエル・エルズバーグが、政府の監視官としてベトナムの戦場の現実を目の当たりにするところから始まる。やがて帰国した彼は、政府が期待していることと戦争の実態が
<アメリカの片田舎で娘を殺された主婦が巨大な広告看板を設置する...。アメリカの縮図という泥沼のなかで、それぞれにもがきながら思わぬかたちで触れ合い、抜け出そうとしていく人びとの物語> イギリス演劇界で活躍し、映画界でも注目を集めるマーティン・マクドナー監督の第3作『スリー・ビルボード』の舞台は、ミズーリ州にある架空の田舎町エビング。物語は、主人公のひとりであるミルドレッドが、閑散とした道路の脇に立ち並ぶ朽ちかけた3枚の広告看板に目をつけるところから始まる。しばらくして看板にはこんなメッセージが現れる。「レイプされて殺された」「犯人逮捕はまだ?」「なぜ? ウィロビー署長」。 7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッドは、事件の捜査が進展しないことに痺れを切らし、解決のきっかけをつかむために強攻策に出た。挑発的な広告はコミュニティに軋轢を生み、次々に事件が起こる。 物語は3人の人物を中心に展
『わたしは、幸福(フェリシテ)』 (C)ANDOLFI – GRANIT FILMS – CINEKAP – NEED PRODUCTIONS - KATUH STUDIO - SCHORTCUT FILMS / 2017 <フランス映画界でもっとも注目されるセネガル系フランス人による、リアルなアフリカ。2017年ベルリン国際映画祭では銀熊賞に輝いた> セネガル系フランス人のアラン・ゴミス監督は、長編第4作となる新作『わたしは、幸福(フェリシテ)』で、アフリカ最大の映画祭FESPACOの最高賞を前作『Tey』(12)につづいて史上初めて2度受賞する快挙を成し遂げ、さらにベルリン国際映画祭では銀熊賞に輝いた。 一気にリアルなキンシャサの世界に引き込まれる この新作では、コンゴ民主共和国の首都キンシャサを舞台に、幸福を意味する名前を持つ歌手フェリシテの物語が描かれる。彼女はバーで歌い、一人息子
<ユダヤ人の女性歴史学者とホロコースト否定論者が2000年ロンドン法廷で対決した実話。真実を守ることがますます難しくなってきている現在について考えるヒントも与えてくれる> ミック・ジャクソン監督の『否定と肯定』の物語は、ホロコーストの真実を探求するユダヤ人の女性歴史学者デボラ・E・リップシュタットと、イギリスの歴史作家で、ホロコーストはなかったとする否定論者のデイヴィッド・アーヴィングが、法廷で対決した実話に基づいている。 この裁判の発端になったのは、リップシュタットが93年に発表した『ホロコーストの真実――大量虐殺否定者たちの嘘ともくろみ』だ。ホロコースト否定論者たちが歴史を歪曲する手口やその動機を掘り下げた本書には、アーヴィングも取り上げられていた。これに対してアーヴィングはリップシュタットと出版社を名誉毀損で訴え、数年の準備期間を経て2000年にイギリスの王立裁判所で裁判が始まった。
トランプ政権下で国家機密の漏洩事件を引き起こした女性の実像、映画『リアリティ』 <ティナ・サッター監督の映画『リアリティ』は、2017年にNSA文書をリークしたリアリティ・ウィナーの実話を描いている。彼女の逮捕と尋問の詳
『ブルーム・オブ・イエスタディ』(C)2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH <ホロコーストの加害者と犠牲者の孫である男女の恋愛が、コメディタッチで描かれながら、ドイツの戦後やナチズムの記憶について考えるヒントが埋め込まれている> かつて『4分間のピアニスト』(06)が日本でもヒットしたドイツのクリス・クラウス監督の新作『ブルーム・オブ・イエスタディ』では、ナチズムの記憶がこれまでにないアプローチで掘り下げられる。 この映画には、立場は正反対でありながら、同じように家族の過去を通してナチズムの記憶に深くとらわれた男女が登場する。ホロコースト研究所に勤めるトトは、ナチス親衛隊の大佐だった祖父を告発した著書によって研究者
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