横山宏章『中国の異民族支配』を読んでいたとき、少し驚いたのは、中華民国の発足時(1912年)に孫文が「五族共和」のスローガンを唱えていたということ。ここでいう「五族」とは、漢民族、満洲民族、モンゴル民族、回民族、チベット民族のことである。 私は一瞬勘違いしていたのだが、満洲国の建国時に唱えられたのは「五族協和」という理念で、この「五族」とは、漢・満・蒙・日・朝の五民族のことを指す。山室信一『キメラ――満洲国の肖像』(中公新書、1993年)によると、これはもともと満洲青年連盟(1928年結成)が訴えた「民族協和」というスローガンに由来しているらしい。この「民族協和」という主張は、中国側の「排日攻勢に対して防禦・拮抗していくための理論ないしスローガン」として打ち出されたものであり、当初は「在満三千万人口のうち一%にも達せず、しかも排撃にさらされていた弱小民族日本人が満蒙における生存権と平等な取