北から南へと歩いてゆく人がいる。 南から北へと歩いてゆく人がいる。 同じ道をそれぞれ歩いていくと、ある場所でぶつかる。 北から来た人は「南へ行きたいから下がれ」と言う。南から来た人も「北へ行きたいから下がれ」と言う。 そこで対立が始まる。自分が南へ、北へ行く正当性を主張する。相手が北へ、南へ進むことが間違っていることを説得しようとする。自分の行きたい方向がどんなに素晴らしいか演説する。 穏やかな旅人もいる。「私は南(北)へ行くが、あなたが逆方向へ行くことは否定しない。できるだけ横に退くからうまく通りすぎていってください」と言う。 そんな穏やかな人にまで「そちらへ行くのは間違ってるから、私と一緒に戻りなさい」と無理やり腕を引こうとする人もいる。 「私も南(北)へたどりつけないとしても、あなたが北(南)へ行くことを阻止することのほうが重要だ」と両腕を拡げて立ちはだかる人もいる。 ぶつかった同士