(晶文社・2860円) 「多様性」の言葉、その裏には何が 多様性の時代と言われて久しい。「当事者」という言葉を多くの人が使うようになり、その立場から日々経験しているさまざまな「生きづらさ」を訴え、マジョリティの鈍感さを批判しながら社会の不正義を暴くようになった。結果として、これまで声を奪われてきた人々の苦労が知られるようになったのは大きな前進だ。しかしその一方で、望まない分断が進んでいるのも事実である。悪意のない発言が切り取られて差別的だと非難の的となったり、異性愛男性は特権を持っているとみなされてその苦しみが軽視されたり……これは本当に目指していた「多様性が尊重される社会」なのだろうか? 本書の議論は、見方によってはかなり保守的だ。真正面から「規範」を扱っているからだ。規範は、個々の立場すなわち当事者性をいったん離れ、「私たちの社会はどうあるべきか」という公共的な次元を問う。多様性の旗印