「何の前触れもなく、木造2階建ての店舗兼自宅が更地になってしまった。商売道具を取り出すこともできず、何もかも失ってしまった」 自営業の男性=石川県輪島市=は7月下旬、店舗兼自宅跡地を前にそう嘆いた。寝耳に水だったという。何が起きていたのか。 男性は、市内で約40年間はんこの製造や販売をしてきた本郷明夫さん(69)。象牙などの高級印材も手がけていた。 全壊で市に解体を申請 だが、今年元日の能登半島地震で市内は震度7の揺れに見舞われ、本郷さんの店舗兼自宅は1階部分が完全に潰れてしまった。市からは「全壊」と認定された。 このため、本郷さんは春ごろ、損壊した家屋を自治体が解体処分する「公費解体」を市に申請した。 解体に当たっては、事前に解体業者と費用を見積もるコンサルタント業者と面談することになっている。本郷さんは6月末に面談し、こう伝えていた。 「はんこの材料や道具が1階にあるので取り出したい。