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※『世界』2022年12月号収録の記事を特別公開します リベラルな国家はリベラルな国際秩序の担い手か リベラルな国際秩序の危機と世界的な民主主義の危機は、しばしば混同されている。現在の世界は、リベラルな国際秩序に従う民主主義諸国と、国内体制・対外政策のいずれもリベラルでない諸国や国内諸勢力のあいだの対立として描かれることが多い。 国際関係論におけるデモクラティック・ピース論も、民主主義国が増えるほど、国際秩序もリベラルになることを想定してきた。その理屈はリベラル以外の立場でも共有され、2000年代のアフガン戦争やイラク戦争に際し、ジョージ・ブッシュ米大統領は、軍事力を用いてでも国内体制を強制的にリベラルにすることを正当化した。 だが現実においては、国内体制はリベラルでありながら、リベラルな国際秩序の遵守度が非常に低い場合がある。その代表がイスラエルである。 対象をユダヤ人に限った場合、イス
※『世界』2023年7月号収録の記事を特別公開します 何が革新的なのか 川添 OpenAI(オープンAI)が開発したChatGPT(チャットGPT)がたいへん話題になっています。この対話型AIの何が革新的なのか。私が考えるに、次の三つが挙げられます。 一つはきわめて自然な文章を生成できること。機械に自然な言葉を生成させようとする試みは以前からありましたが、文法的にも文章の流れ的にも、ここまで成功した例はないと思います。 それから、あたかも人間の質問の意図を理解しているかのように見えること。私自身は過去の著作の中で、AIが人間の言葉の意図を理解するのはすごく難しいだろうと言ってきましたが、チャットGPTはかなりうまくいっているように見えます。 そして三つ目が、様々な要求に対応できることです。単におしゃべりの相手になるだけではなく、「翻訳して」と言ったら翻訳してくれるし、数学の問題を解かせたり
※『世界』2023年3月号収録の記事を、増補改訂のうえ特別公開します はじめに ネット上の匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」(現在は「5ちゃんねる」)の創設者、ひろゆき、こと西村博之が人気を博している。 1999年5月にスタートした2ちゃんねるのほか、2007年1月にスタートしたニコニコ動画など、ネットの普及期にいくつかのサービスの立ち上げに関わり、起業家として成功した彼は、2010年代後半からユーチューバーとして活動し、視聴者からの相談に答えるライブ配信番組を通じて人気を博した。さらにその間、ビジネス書や自己啓発書を次々と出版し、ベストセラーライターとして名を馳せるかたわら、テレビ番組にコメンテーターとして出演するなど、マスメディアでも広く活躍するようになる。 その人気はとくに若い世代に顕著で、若者や青少年を対象とする調査では、憧れる人物などとして頻繁にその名が挙げられるほどだ。その配信番
はじめに マルチェロ・ムスト 2022.7 ウクライナでの戦争が始まって4カ月。国連人権高等弁務官事務所によると、すでに4,500人以上の市民が死亡し、約500万人が家から追い立てられて難民となることを強いられている。この数字には軍人の死者数は含まれていないが、ウクライナ側で少なくとも1万人、ロシア側ではおそらくそれ以上が亡くなっている。さらには、ウクライナ国内でも避難生活を送る人々が数百万人いる。ウクライナ侵攻によって、都市や民生インフラが大規模に破壊されており、その再建には数世代もかかる見込みだ。またそれと同時に、マリウポリ包囲の際にロシア軍が犯した犯罪を筆頭に、重大な戦争犯罪が引き起こされている。 そこで私は、この戦争の開始以来なにが起きているのかを概観したうえで、NATOの役割についての考察を深め、これから起こりうるシナリオを考えていくことを目的として、座談会を開催した。参加者
ツイッターでフェミニズム関連の議論を眺めることを習慣にしていると、次々に女性表象をめぐる「炎上」事件が目に飛び込んでくる。二〇一九年は新年早々、パイを投げつけられた女性の写真に「女の時代、なんていらない?」というコピーをつけた西武・そごうの広告に批判が集まったかと思えば、一月末には「一見仲が良さそうだけれど裏では足を引っ張りあっている女の子たち」を描いたロフトのバレンタイン広告が批判によって取り下げられることになった。昨年はNHKのノーベル賞解説サイトにおけるキズナアイ起用の仕方、一昨年は母親のワンオペ育児を描いたムーニーのCMなどに批判が集まった。自治体のPRや企業広告における、いわゆる「萌え絵」起用も定期的に問題になる。 もちろん表象を作成する側も、望んで「炎上」しているわけではないだろう。にもかかわらず、似たようなことが何度も繰り返されているということは、特定の女性表象を「悪い」と感
2020年度からの大学入試で、これまでの「センター試験」に替わって、「大学入学共通テスト」が始まる予定です。この大学入学共通テストの実施が大きな社会問題となっています。 大学入学共通テストは、英語民間試験の実施、そして国語と数学の記述式問題の導入などを主な特徴としています。これらの「改革」については、多くの専門家から疑問や批判が出されてきました。しかし、この時点になってもほとんどの疑問点が解消されていません。
話題の映画『新聞記者』を封切り日6月28日に劇場に見に行きました。2019年7月22日までに累計で観客動員数33万人、興行収入4億円を突破し、絶好調だとか。 この映画は、東京新聞記者・望月衣塑子さんの著書『新聞記者』に着想を得てつくられたとの触れ込みで、宣伝には「「権力とメディア」「組織と個人」のせめぎ合いを真正面から描く衝撃のエンタテインメント」とあります。ネットの予告編を開けば、ページのど真ん中に、田原総一郎さんの「面白い!!よくぞ作った!」という言葉が流れるし、朝日新聞も「日本映画の変化の第一歩」、毎日新聞は「果敢な挑戦」など、リベラル側では政治映画として殿堂入り間違いなしの絶賛モードが続いています。 さあ、困った。というのも、リベラルを応援する私ではありますが、この映画にはぜんぜんノレなかった。むしろ、怒りさえ覚えました。しかし、私の意見はどうやら多数派ではないようで、実はこの点に
人件費の驚くべき低さ 2018年3月号でフォーカスした株式会社立の認可保育所について、もう少し振り返ろう。保育者の人件費比率の低い順から、テンプスタッフ・ウィッシュの「大井町のぞみ保育園」(17.3%)、ポピンズの「ポピンズナーサリースクール市ヶ谷」(17.8%)、ブロッサム(現在は株式会社さくらさくみらい)の「つきのみさきさくらさくほいくえん」(20.6%)などの調査結果を掲載した。 株式会社立では、低い順から1~10番目の保育者人件費比率が17.3%~25.5%しかなく、社会福祉法人の同24.5%~31.4%と比べ大きな差があった。同比率4割未満でみると、社会福祉法人は39施設だったが、株式会社は207施設にも上り、全体の半数近くを占めた。 人件費比率の低いなかには、「アスク」保育園を展開する日本保育サービス、「にじいろ」保育園のサクセスアカデミー(現ライクアカデミー)、グローバルキッ
「郷に入っては郷に従え」と言うが、ドイツに来てからの一年間、多くの友人知人がドイツ社会のさまざまなルールを教えてくれた。 その一つに、「ニンニクを食べて人前に出てはいけない」という暗黙の掟がある。ドイツ人は昼食にニンニクは食べないとか、いわゆる公的な空間ではニンニクの臭いをさせないのがマナーであると。
デュッセルドルフ中央駅からケルン方面に向かう電車に乗ってしばらくすると、色とりどりの窓枠の建物が見えてくる。 これは、公的に運営されている性的サービスの建物だ。この手の法律問題には詳しくないが、ドイツでは、個人がいわゆる「売春」をすることは合法なのだという。各部屋の女性は個人経営のオーナーで、家賃を払って店を開いている。
歴史修正主義批判はなぜ相手に刺さらないのか 「新しい歴史教科書をつくる会」が設立記者会見を行った1996年12月から22年が経とうとしている。2018年現在の大学生のほとんどは、生まれたときから「自虐史観」非難の中で育ったことになる。 この20年で歴史修正主義的言説が言論の市場に占める割合は拡大し、書店では民族的差別主義と一体となった歴史修正主義本が跋扈した。その種の言説のビリーバー/ユーザーもまた増大している。そもそも歴史修正主義に非常に親和的な政治エリートが政権に居座っている中で、大規模な公文書の改竄が行われていたことも明らかになり、すでにごく近い過去さえも政治的利害によって「修正」されてしまうほど社会は劣化した。 もちろんこの過程は同時に、かつての「つくる会」教科書などの歴史修正主義を批判する言説や運動も、それなりの規模と質で展開された時期でもあった。けれども、そんな批判を意に介する
映画の後半にこんなシーンがある。韓国の公営放送MBCの社屋で、昼休みに大きな声を上げている職員がいた。「金・張・謙キム・ジャン・ギョム」(MBC社長)はここから出ていけ!」朗々と叫ぶ自身の姿をスマホで生中継していたのは、MBCのドラマプロデューサーの金敏植キムミンシク氏だった。 金氏は、大胆な行動に出たいきさつを語りながらも、本当は消されてしまうのではないかという恐怖があったと語り涙ぐむ。しかし心配は無用だった。たったひとりで始めた叫びは、玄関ホールで何十人もの社員たちが一斉に自撮りのライブを行うまで広がった。お祭りのような「金・張・謙は出ていけ!」の大合唱が延々と続く。 立教大学で開かれた上映会でのこと。夢のように美しい場面にわたしは涙をこらえることができなかった。ふと横を見たら、同じようにハンカチで目頭を押さえているひとがいる。菅官房長官の記者会見で、毅然と質問を続ける東京新聞のM記者
事件から半世紀近くの歳月を経て、4年前に静岡地裁が再審の扉を開いた袴田事件について、この6月11日、東京高裁が再審開始決定を取り消した衝撃は、まだ私の心の中で、鉛のような重みとともにある。 多くの司法関係者やメディアが、再審開始を取り消した高裁決定を批判した。しかしその一方で、今回の新証拠であるDNA鑑定(本田鑑定)を「凡そ科学的鑑定と評価できない杜撰なものであり、それを根拠に再審開始を決定した静岡地裁の判断も、全く合理性を欠いており、再審開始決定が取り消されるのは当然としか言いようがない」と、高裁決定が本田鑑定の信用性を否定したことを当然視するものや、「その証拠が刑事裁判の事実認定を手助けする科学知識と言えるのかどうかという視点で、その科学知識が他人の審査を経たかどうか等の基準を示した(中略)今回の決定は法的に重要で、かつ正しいことを述べていると感じる」と、高裁決定が示した科学的証拠につ
だが、4月にはフィリピンのマニラで「慰安婦」の像が突然撤去されるという事態も起き、8月にはドイツ・ボンの博物館に、欧州で2つ目となる「慰安婦」少女像が設置される予定となっているが、これらいずれの場合も、日本政府による設置計画への抗議や撤去要求があったと報道されている。
「私たちは秘密を知ってしまった」 昨年4月、アフリカ・モザンビーク北部の11名の住民(主に農民)が、JICA(独立行政法人 国際協力機構)に異議申し立てを行なった。 JICAは、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関で、その活動は税金で支えられている。本来、善意によるはずの援助で、いったい何があったのだろうか? 実は、その5カ月前の2016年11月、日本を訪れていたモザンビーク農民のリーダーは、参議院議員会館で開催された集会で、次のようなメッセージをJICAと日本社会に投げかけていた。 「JICAによる介入により、肉と骨にまで刻み込まれるような傷を毎日感じています」 「JICAに伝えます。私たちは、もう(JICAの事業の)秘密を知ってしまいました」 JICAの行なっている「国際協力」の現場で一体何が起きているのだろう? 農民のいう「傷」、「秘密」とは? 本連載では、JICAと日
■市議会での攻防 サンフランシスコ市の「慰安婦」像に関する審議が同市議会で始まったのは2015年7月だった。この運動に最初から関わる「『慰安婦』正義連盟(CWJC)」共同代表のジュリー・タン氏によれば、当初は決議案が楽に通るものだと思っていたという。 だが、サンフランシスコでの日本総領事館や大阪市の活動は、他都市での日本政府の活動に比べても巧みで狡猾だった。 共著『海を渡る「慰安婦」問題』(岩波書店)の中で小山エミ氏が報告したように、在サンフランシスコ日本総領事館が「慰安婦」問題に関して日本の右派が主張するデマを日系アメリカ人に流し、日系人団体への日系企業からの援助引きあげを匂わせるなど暗躍していた。 さらに、大阪市も日系人を中心とした姉妹都市関係者に強力な働きかけを行なった。 また、なでしこアクションなどの右派団体は現地の在米日本人に抗議するよう働きかけ、「歴史の真実を求める世界連合会(
次に来るのは何か? 2016年11月9日午前8時30分、ミハル・コシンスキは、チューリッヒのスンネフス・ホテルの一室で目を覚ました。コシンスキは34歳の研究者で、ビッグデータの危険性及びデジタル革命についてスイス連邦工科大学で講演するために同地に来ていたものだ。 コシンスキは、このテーマで世界中で講演を行なっている。心理学の一分野でデータ駆使という特徴をもつ「計量心理学(psychometrics)」では、超一流の専門家だ。 その朝、テレビをつけた時、コシンスキは大事件が勃発したことを理解した。一流の統計学専門家によるすべての予想を覆し、ドナルド・J・トランプがアメリカ合州国の大統領に当選したのだった。 コシンスキは、トランプの勝利祝いと各州の投票結果のニュースをひたすら見続けた。この選挙結果にはひょっとしたら自分の研究の影響があるのではないかと虫が知らせたのだ。そして長い時間がたった後、
>>定期購読のご案内 【特集1】トランプふたたび 2016年大統領選によるトランプ大統領の誕生は熱狂と分断の時代の幕開けを告げた。国内のみならずアジア、中東、ヨーロッパなど、世界中を振り回したトランプのアメリカは幻滅と妥協、不信と極端化の渦を増大させながら、自壊していった。だが、そこでもたらされた「遺産」はバイデンのアメリカにも色濃く息づいている。 米中対立やふたつの戦争という危機のもと、2024年の今、ふたたび吹き荒れるトランプ旋風。その風はどこから吹いているのか。何をもたらそうとしているのか。アメリカ内外の軋みを直視し、私たちに突きつけられた問いと向き合う。 【特集2】人権を取り戻す ジャニーズ性加害問題などを国際社会から批判され、「あったのに、なかったこと」にされてきた問題の深刻さを日本社会は受け止めることとなった。認識のギャップはどこから生まれたのだろう。 女性・性的少数者・外国人
公有地での「慰安婦」像設置に抗議して、大阪市長がサンフランシスコ市との姉妹都市解消を宣言した。自国の戦争犯罪を反省せず女性の人権を顧みない日本のイメージが、海外でますます強まっている。 ■反発で強化される「反省しない国・日本」のイメージ 2017年9月22日、よく晴れたサンフランシスコ市で、中華街のセントメアリー公園に新たに設置された「慰安婦」像の除幕式が行なわれた。 朝鮮半島、中国、フィリピン出身の「慰安婦」少女三人が手をつなぐ様子を、最初に元「慰安婦」として名乗り出た金学順(キムハクスン)氏が見守るという作品。計画当初はデザインが未定で、「碑」や「メモリアル」と呼ばれてきたが、デザイン公募の結果、地元彫刻家スティーヴン・ホワイト氏による像に決まった(本稿では「像」と表記する)。 除幕式の段階では地元の市民団体「『慰安婦』正義連盟(CWJC)」所有の像と碑文を私有地に設置するという形だっ
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