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ノーベル賞
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★★★★★ Selected Short Stories Vol.2 / William Trevor 栩木伸明 訳 / 国書刊行会 / 2010.8 ISBN 978-4336052889 【Amazon】 日本オリジナル編集の短編集。「女洋裁師の子供」、「キャスリーンの牧草地」、「第三者」、「ミス・スミス」、「トラモアへ新婚旅行」、「アトラクタ」、「秋の日射し」、「哀悼」、「パラダイスラウンジ」、「音楽」、「見込み薄」、「聖人たち」の12編。 主な舞台はアイルランド。子供から老人まで、ご当地の人たちの心の揺らぎが焦点になっている。これはアイルランドを体験するのにぴったりの本ではなかろうか。どんな人間も何らかの価値観を内面化しており、それに蜘蛛の巣のように絡め取られているわけだけど、特にアイルランドは複雑な歴史を抱えているから、それに応じた渋めのドラマが出来上がっている。こういうのって地
★★★★ Everything Ravagesd, Everything Buined / Wells Tower 藤井光 訳 / 新潮クレスト・ブックス / 2010.7 ISBN 978-4105900847 【Amazon】 短編集。「茶色い海岸」、「保養地」、「大事な能力を発揮する人々」、「下り坂」、「ヒョウ」、「目に映るドア」、「野生のアメリカ」、「遊園地営業中」、「奪い尽くされ、焼き尽くされ」の9編。 ほとんどはアメリカの郊外が舞台(表題作のみ中世の北欧が舞台)。主に「負け組」と隣り合わせにいる冴えない人たちを扱っている。といっても、いつもの辛気くさい下流文学とはひと味違う。希望にも絶望にも振れない独特の物語に仕上がっていて、乾いた状況ながらも陰鬱とした雰囲気はまったくない。出てくる人たちはやけに図太く、ねじくれたユーモアが織りなす細部の煌めきによって、妙な居心地の良さが生まれ
★★★★ Agatha Christie: Poirot デビッド・スーシェ / ヒュー・フレイザー / フィリップ・ジャクソン / ポーリン・モラン / ナイアム・キューザック / アラン・ハワード ハピネット・ピクチャーズ DVD-SET2 【Amazon】 / 全巻DVD-SET(32枚組) 【Amazon】 「クラブのキング」、「夢」の2編。 Vol.4の続き。 第9話「クラブのキング」"The King of Clubs" 悪辣な映画プロデューサーが自宅で何者かに殺された。第一発見者は彼の映画に出演している女優で、死体を発見後、驚きのあまり隣家に駆け込んでいる。女優はプロデューサーからセクハラを受けていた。 現場のちょっとした食い違いから、関係者の心理を引き出していく。クリスティはこういうのが上手いねえ。作為的な小技を経由しているからこそ、とってつけたような背景もあまり気にならな
★★★★★ O Brother, Where Art Thou? ジョージ・クルーニー / ジョン・タトゥーロ / ティム・ブレイク・ネルソン / ホリー・ハンター / ジョン・グッドマン / チャールズ・ダーニング / クリス・トーマス・キング 東北新社 【Amazon】 1930年代のミシシッピー州。刑務所で服役中の3人(エヴェレット=ジョージ・クルーニー、ピート=ジョン・タトゥーロ、デルマー=ティム・ブレイク・ネルソン)が、屋外労働の最中に脱走する。彼らは追っ手をかわしつつ、宝の在処に向かって旅をするのだった。 カントリー・ミュージックをふんだんに盛り込んだロードムービー。これは完璧な映画と言っていいんじゃなかろうか。セピア色の映像とおらが国の音楽、そして漫画のような癖のあるキャラたちが、トールテール的な筋書き(『オデュッセイア』【Amazon】がクレジットされている)のもとでがっち
★★★★ The Adventure of Sherlock Holmes ジェレミー・ブレット / デビッド・バーク / ゲイル・ハニカット / テニエル・エバンズ ハピネット・ピクチャーズ 単品 【Amazon】 / BOX(24枚組) 【Amazon】 「ボヘミアの醜聞」、「踊る人形」の2編。 NHKで放送していたドラマの完全版(日本語吹き替えも収録)。これはすごかった。あの端正な小説世界を忠実に再現していて、風格ある映像にぐぐっと引き込まれる。ホームズ役のジェレミー・ブレットは大はまりだし、馬車が闊歩するロンドンや緑に覆われた郊外など、異国情緒あふれる風景も素晴らしい。紅茶を飲みながらのんびり浸っていたい世界観だ。 第1話「ボヘミアの醜聞」"A Scandal In Bohemia" ボヘミア国王がお忍びでホームズの部屋を訪問。結婚を間近に控えた王は、昔の恋人であるアイリーン・アド
★★★★ 岩波新書 / 2007.10 ISBN 978-4004310952 【Amazon】 著者が様々な本から収拾した文章についての書き抜き。それらの引用をもとに、文章を書くための手立てを探っていく。基本から文章修業まで全38章。 著者は1930年生まれの元新聞記者。本書は『文章の書き方』【Amazon】の姉妹編で、技術論よりも精神論に重きを置いている。 感性を磨く・毎日書く・とにかく削るなど、多種多様な方策が載っているけれど、結局は序文にある「文は心なり」に尽きるのだろう。著者は文章の核心について次のように述べている。 (……)いい文章のいちばんの条件は、これをこそ伝えたいという書き手の心の、静かな炎のようなものだということです。大切なのは、書きたいこと、伝えたいことをはっきりと心でつかむことです。そのとき、静かな炎は、必要な言葉を次々にあなたに贈ってくれるでしょう。(p.ii)
★★★★ 河出書房新社 / 2009.3 ISBN 978-4047916081 【Amazon】 ISBN 978-4309412153 【Amazon】(文庫) 柴田元幸と高橋源一郎の対談。2人が小説の読み方・書き方・訳し方について語っている。また、海外・国内小説のブックリストもあり。 刺激的な知見があちこちにあって面白かった。私は高橋源一郎にはあまり興味がないのだけど、この対談では柴田元幸の良きパートナーとして、絶妙な調和を生んでいたと思う。高橋は柴田が翻訳したブコウスキーを絶賛し、柴田は高橋の小説にバーセルミを見出している。どちらも英文学に傾倒しているから話が合うのだ。読み書きから翻訳まで、海外から国内まで、それぞれの個性を活かした読み応えのある対談だった。 以下、柴田元幸の発言。 (……)翻訳文学を読む時の楽しみのひとつは、日本語でできることが微妙に内側から広がっているような感じ
Peter Boxallの"1001 Books"【Amazon】が凄い。英文学を中心に、古今東西1001冊ものフィクションを紹介している。こういうのは得てして「名作」ばかりになりがちだけど、本書はかなりバランスを重視しており、古典から現文まで幅広く揃えている。なかなか目新しいリストなので、外国文学が好きな人は要チェックだろう。 日本からは、村上春樹・大江健三郎・三島由紀夫・芥川龍之介・夏目漱石が名を連ねている。このなかで意外なのが夏目漱石で、なぜか『こころ』が入っているんだな。どちらかというと内向きの小説というイメージだったので、まさか外国人受けするとは思わなかった。川端ではなく、漱石なところがまた渋い。 以下、1001冊のリスト。年代の新しい順にソートした(上が新しく下が古い)。 2000年代 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』 イアン・マキューアン『土曜日』 ゼイディー・スミス『
★★★★ Princess Bari / Hwang Sok-yong 青柳優子 訳 / 岩波書店 / 2008.12 ISBN 978-4000244442 【Amazon】 北朝鮮の大家族に生まれたパリは、死者や動物と交信する特殊能力を持っていた。餓えに苦しむ一家はバラバラになり、パリはひとりロンドンにたどり着く。ロンドンは不法移民の坩堝だった。 タイトルの「パリデギ」は「パリ姫」という意味で、これは朝鮮の民話に出てくる少女のこと。民話の内容は、少女が生命水を求めて神話的な冒険をするというものである。本書の主人公は「パリデギ」にちなんで名付けられた特別な子供であり、彼女の遍歴が民話と重ねられている。 これはなかなかのストーリー巧者で、現実と超現実を交錯させる筋立てが面白かった。北朝鮮の惨状を描きながらも、雰囲気はあまり重くない。死者との交信が道標となって、生きることへの“希望”が沸き上
★★★★ ちくま文庫 / 2004.1 ISBN 978-4480039224 【Amazon】 「日刊ゲンダイ」に連載された書評をまとめた本。期間は1999年5月から2003年7月まで。漫画・翻訳小説・国内小説・ノンフィクションなど、全202本を収録している。 書評は800字あれば十分だよなあ。本の紹介が目的なら、エッセンスと評価さえ示せばいい。だいたい世の中の書評は長すぎるんだよ。だらだらとあらすじを連ねたり、必要のない蘊蓄を交えたり、その多くが文字数かせぎの賜物。もっとてきぱきと、要領よく、スマートに書けないものかと思ってしまう。スパッと核心に切り込むのが職人技ってものだよね。書評の勘所は批評眼と語り口にあるのだから、余計な情報はどんどん削ぎ落とすべきだと思う。 狐の書評がすごいのは、前述の理想を満たしながらも、800字という制約をまったく感じさせないところだ。語るべき内容がきちんと
★★★★★ Lo specchio che fugge / Giovanni Papini 河島英昭 訳 / 国書刊行会 / 1992.12 ISBN 978-4336030504 【Amazon】 ボルヘス編纂の短編集。「泉水のなかの二つの顔」、「完全に馬鹿げた物語」、「精神の死」、「<病める紳士>の最後の訪問」、「もはやいまのままのわたしではいたくない」、「きみは誰なのか?」、「魂を乞う者」、「身代わりの自殺」、「逃げてゆく鏡」、「返済されなかった一日」の10編。 <バベルの図書館>の30巻目。いかにもディレッタントが好みそうな幻想小説集だった。19世紀風の耽美な価値観が魅力的で、常識を越えた歪な状況にくらくらする。一読して癖になる作風だった。 以下、各短編について。 「泉水のなかの二つの顔」"Due immagini in una vasca" 久方ぶりに廃園を訪れた男。泉を覗くと、
今年出版された本が対象。例によって翻訳ものが多い。 ドリス・レッシング『老首長の国』(作品社) キラン・デサイ『喪失の響き』(早川書房) ポール・オースター『幻影の書』(新潮社) ロラン・ゴデ『スコルタの太陽』(河出書房新社) コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』(早川書房) エンリーケ・ビラ=マタス『バートルビーと仲間たち』(新潮社) スティーヴン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』(白水社) ウィリアム・トレヴァー『密会』(新潮社) P・G・ウッドハウス『ジーヴスと封建精神』(国書刊行会) M・ジョン・ハリスン『ライト』(国書刊行会) 『老首長の国』はヘビー級の貫禄を見せつけた傑作短編集。黒人と白人が共生するアフリカを舞台に、現実の厳しさ、相互理解の困難さを描いている。とにかく人間への洞察が凄まじく、1編1編がズシリと重い。本格的な小説が読みたいという人にお勧めできる。 『喪失の響き』はイ
★★★ The Fortress of Solitude / Jonathan Lethem 佐々田雅子 訳 / 早川書房 / 2008.7 ISBN 978-4152089380 【Amazon】 70年代のブルックリン。白人の少年ディランは、ディーン・ストリートで様々な出自の子供たちと遊んでいた。ニクソン辞任の年、隣に引っ越してきた黒人ミンガスと親友になる。ディランは浮浪者から空飛ぶ指輪を譲り受け、ミンガスと共に「エアロマン」になるのだった。 ソフトカバー800ページ。分厚かった……。 ポップカルチャーをふんだんに織り交ぜて、ストリートの生態を活写している。これは子供時代を支点にした一種の青春小説だろうか。漫画や音楽にどっぷり浸かりつつ、落書きアートやドラッグにも興じる。道を歩ければポケットを探られ、店に立ち寄ったらホールドアップに出くわす。超常ネタが少し入っているものの、『銃、ときど
The 100 best reads from 1983 to 2008 "Entertainment Weekly"による選出。1位が『ザ・ロード』というのは妥当なような意外なような。もっと凄い傑作たくさんありそうだけどねえ。同じ作者なら『すべての美しい馬』とか。2位が「ハリー・ポッター」なのはさもありなんかな。特に『炎のゴブレット』はシリーズ最高傑作として名高い。 10位に『ねじまき鳥クロニクル』が入っている。さすが世界のムラカミ。この調子でノーベル賞もゲットしてほしいところだ。 コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』(2006)【Amazon】 J・K・ローリング『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2000)【Amazon】 トニ・モリスン『ビラヴド』(1987)【Amazon】 Mary Karr "The Liars' Club"(1995)【Amazon】 Philip Ro
★★★ Eggs, Beans and Crumpets / Pelham Grenville Wodehouse 森村たまき 訳 / 国書刊行会 / 2008.4 ISBN 978-4336049513 【Amazon】 短編集。「ユークリッジとママママ伯父さん」、「バターカップ・デー」、「メイベルの小さな幸運」、「ユークリッジのホーム・フロム・ホーム」、「ドロイトゲート鉱泉のロマンス」、「アンセルム、チャンスをつかむ」、「すべてビンゴはこともなし」、「ビンゴとペケ犬危機」、「編集長の後悔」、「サニーボーイ」、「元気ハツラツ、ブラムレイ・オン・シー」、「タズレイの災難」の12編。 『ブランディングズ城の夏の稲妻』に続くウッドハウス・スペシャルの第2弾。ユークリッジやビンゴ、マリナー氏など、Bクラスのシリーズキャラクターが集まっている。キャラ立ちではジーヴスものに遠く及ばないし、ストーリー
The 100 Best Characters in Fiction Since 1900 今は無き『ブック・マガジン』が2002年に集計したリスト。作家、エージェント、編集者など、合わせて55人が審査している。 審査員が業界の人間であることを考えると、わりと穏当な結果と言えそう。1位のギャツビーなんかいかにも玄人受けしそうだし、2位のホールデンくんも鉄板だろう。以降、3位にH・H氏、4位にレオポルド・ブルームと、錚々たるキャラが続いている。 ジェイ・ギャツビー / スコット・フィツジェラルド『グレート・ギャツビー』(1925) ホールデン・コールフィールド / J・D・サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(1951) ハンバート・ハンバート / ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』(1955) レオポルド・ブルーム / ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』(1922) ラビット・オン
海外現代文学リストの姉妹編。とりあえず、100冊挙げてみた(1作家につき1作)。今回もラノベに飽きた人向けなので、あまりマニアックなものは入れず、広く浅くを心がけたつもり。学生のみんなは夏休みを利用して読むといいよ。全部読めば読書の幅が広がっているはず! アームストロング『毒薬の小壜』(早川書房) アルレー『目には目を』(東京創元社) イシグロ『わたしたちが孤児だったころ』(早川書房) ヴァクス『フラッド』(早川書房) ウィングフィールド『夜のフロスト』(東京創元社) ウィンズロウ『ストリート・キッズ』(東京創元社) ウエストレイク『殺しあい』(早川書房) ウェルシュ『フィルス』(アーティストハウス) ウォー『失踪当時の服装は』(東京創元社) ウォルヴン『北東の大地、逃亡の西』(早川書房) ウッズ『警察署長』(早川書房) ウッドハウス『ウースター家の掟』(国書刊行会) エーコ『薔薇の名前』
経歴 * 日本 1949~。京都府伏見区生まれ、兵庫県芦屋市育ち。早稲田大学文学部演劇科を卒業後、ジャズ喫茶を経営する。1979年、『風の歌を聴け』で群像新人賞、82年、『羊をめぐる冒険』で野間文芸新人賞、85年、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で谷崎潤一郎賞を受賞する。 作品リスト タイトルにリンクのついている作品は、クリックするとレビューのページに移動します。 フィクション 『風の歌を聴け』(1979) 大学生の「僕」が海辺の町に帰省している1970年8月の出来事が中心。友人の「鼠」とバーでビールを飲みつつ、介抱した左手4本指の女の子と仲良くなる。★★★★。 『1973年のピンボール』(1980) 『風の歌を聴け』の続編。ある日、目が覚めたら「僕」の両脇に双子の女の子が寝ていた。翻訳の仕事をしている「僕」は、彼女たちと奇妙な同棲生活を始める。その後は思い出のピンボール台を
★★★ 東洋経済新報社 / 2008.3 ISBN 978-4492222805 【Amazon】 大人向けの解説本。学校裏サイトやプロフ、モバゲータウンなど、思春期メディアの諸相をコンパクトにまとめている。 著者は情報学部の教授。2004年から子供の掲示板遊びに注目し、近年は積極的に啓蒙活動を行っている。 学校裏サイトは生徒たちの「秘密基地」だそうで、場所によっては個人への中傷や卑猥な書き込みなどが横行しているという。詳しい実態はWikipediaを参照してもらうとして、ここで明かされた内容にはジェネレーションギャップを感じた。思えば、ケータイが普及したのって大学に入ってからだったし……。誰もが気軽に情報を送受信できる魔法の小物。ケータイは人類の革新であり、平成生まれをニュータイプとすれば、昭和生まれはオールドタイプになるだろう。地球の重力に魂を引かれた我々にとって、電子の世界に秘密基地
Wikipediaの英語版に面白い項目があったのでメモ。 List of best-selling fiction authors - Wikipedia シェイクスピア(20億部)を筆頭に、クリスティ(1億〜20億部)、シムノン(3億〜7億部)、トルストイ(4億1300万部)といった見慣れた名前が並んでいる。ソースによって見積もりの値がまちまちのようで、最大と最小にはけっこうな幅が。特にクリスティは19億も差があって、集計の意義が怪しくなっている。 以下、日本でお馴染みの海外作家。独断と偏見でピックアップしてみた。 ウィリアム・シェイクスピア/英語/戯曲&詩/20億部 アガサ・クリスティ/英語/探偵、マープル、ポアロ/1億〜20億部 ハロルド・ロビンス/英語/冒険/6億〜7億5000万部 ジョルジュ・シムノン/フランス語/探偵、メグレ/3億〜7億部 レフ・トルストイ/ロシア語/4億130
★★★ G. / John Berger 栗原行雄 訳 / 新潮社 / 1975.7 / ブッカー賞 ISBN 978-4105061012 【Amazon】 ISBN 978-0747529088 【Amazon】(原書) 1886年。物語の主人公Gは、イタリア人の父とイギリス人の母の私生児として生まれた。長じてからは女を口説くことに情熱を捧げ、政治の混乱を後目に浮き名を流していく。 一九二〇年以後トリエステがイタリア領となり、ファシスト党が公用語としてスロヴェニア語の使用をいっさい禁止した時、あるイタリア人の医師はこう尋ねられた──でも百姓たちは症状をどうやって説明したらいいんです、イタリア語が話せない連中は? 医師は答えた──牛は獣医に自分の病状を説明する必要なんてないでしょうが。(p.232) これはけっこう厄介だったかな。まるでフランスの小説みたいだった。たとえば、デュラスとかロ
★★★ In a Free State / V.S. Naipaul 安引宏 訳 / 草思社 / 2007.12 / ブッカー賞 ISBN 978-4794216632 【Amazon】 5つの中短編を1つの作品としたコレクティヴ・ノベル。「ピレウスの老ヒッピー」、「大勢の中で一人は」、「教えてくれ、誰を殺るのか」、「自由の国で」、「ルクソールの中国雑技団」の5編。 複数の中短編を連ねることによって、ポスト・コロニアルな状況を俯瞰しようという試み。いずれも故国から遠く離れた人々にスポットを当てている。鋭い観察力の賜物なのだろう、異境でのとまどいに臨場感があって、著者の紀行作家としての力量が垣間見える。これは旅行記も読まねばなるまいなと思った。 以下、各中短編について。 「ピレウスの老ヒッピー」 プロローグ。アテネの外港ピレウスから、カイロの外港アレキサンドリアへの船旅。イギリス系の老ヒッピ
★★★★★ The Virgin's Gift / William Trevor 栩木伸明 訳 / 国書刊行会 / 2007.2 ISBN 978-4336048165 【Amazon】 日本オリジナル編集の短編集。「トリッジ」、「こわれた家庭」、「イエスタデイの恋人たち」、「ミス・エルヴィラ・トレムレット、享年十八歳」、「アイルランド便り」、「エルサレムに死す」、「マティルダのイングランド」(「テニスコート」、「サマーハウス」、「客間」)、「丘を耕す独り身の男たち」、「聖母の贈り物」、「雨上がり」の12編。 著者はイングランド系アイルランド人。同じ5つ星でも、『観光』は技巧が透けて見えるような軽薄さがあったけれど、こちらは腰の据わった堅実な短編集といった感じで隙がない。久々に熟練の手による高品質な短編を堪能した。 以下、各短編について。 「トリッジ」"Torridge" カトリック系の寄
2020年 エルヴェ・ル・テリエ『異常』(早川書房) 2021年6月。パリ発ニューヨーク行きのエールフランス006便が乱気流に巻き込まれる。アメリカ国内に着陸すると、3ヶ月前に同じ飛行機が着陸していることが判明した。乗員・乗客もまったく同じで、3ヶ月前に来た人たちは普通に暮らしている。後から来た人たちはいわゆる分身だった。この現象について科学と宗教の見地から考察する。★★★。 2019年 ジャン=ポール・デュボワ "Tous les hommes n'habitent pas le monde de la même façon" 未訳 2018年 ニコラ・マチュー "Leurs enfants après eux" 未訳 2017年 エリク・ヴュイヤール『その日の予定 - 事実にもとづく物語』【Amazon】 2016年 レイラ・スリマニ『ヌヌ 完璧なベビーシッター』【Amazon】 20
2020年 Charles Yu "Interior Chinatown"【Amazon】 未訳 2019年 Susan Choi "Trust Exercise"【Amazon】 未訳 2018年 シーグリッド・ヌーネス『友だち』(新潮クレスト・ブックス) ニューヨーク。女性作家の「わたし」には一時期肉体関係になりかけたほど懇意にしていた先輩作家がいたが、その彼が自殺してしまう。「わたし」は彼が飼っていた巨大な老犬を引き取ることになった。「わたし」は精神科医のセラピーを受けつつ、様々な断想を巡らす。★★★★。 2017年 ジェスミン・ウォード『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』(作品社) ミシシッピ州。13歳になったばかりの少年ジョジョは、祖父のことを「父さん」と呼び、祖母のことを「母さん」と呼んでいた。ジョジョは白人と黒人の混血で、下には妹ケイラがいる。今回、実父のマイケルが刑務所から出所
ブッカー賞とは? イギリスの文学賞。1969年にブッカー・マコンネル社が設立。イギリスで英語で出版された長編小説が対象。 2021年 The Promise by Damon Galgut【Amazon】 未訳 最終候補作 The Fortune Men by Nadifa Mohamed【Amazon】 Bewilderment by Richard Powers【Amazon】 Great Circle by Maggie Shipstead【Amazon】 A Passage North by Anuk Arudpragasam【Amazon】 No One Is Talking About This by Patricia Lockwood【Amazon】 2020年 ダグラス・スチュアート『シャギー・ベイン』(早川書房) 1980年代のグラスゴー。少年シャギーにはアグネスという美
Last Updated: 2019.10.10 (Thu) 2018年のノーベル文学賞は、オルガ・トカルチュク(ポーランド)、2019年はペーター・ハントケ(オーストリア)が受賞。 ノーベル文学賞とは? アルフレッド・ノーベル(1833〜96)の遺言によって設立。「理想主義的傾向をもつ、最も優れた作品を創作した者」に与えられる。
Pulp Literature Last Updated: 2022.2.15 (Tue) 今日のひとこと: 海外文学読書録で更新中。
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